雇用保険の拡大は誰のためのものか
岸田首相が長男を首相秘書官につけるという公私混同をしているなか,その長男の行動が問題となっています。5月26日の日本経済新聞によると,首相は「国民の皆さんの不信を買うようなことなら誠に遺憾だ」と発言したそうです。見出しでは,「公邸私的利用で首相が長男注意,報道『誠に遺憾』」となっていましたが,首相は「国民の皆さんの不信を買うようなことなら」という条件付きの遺憾表明なので,まだ正式には表明していないことになります。したがって,「国民の皆さんの不信を買うようなこと」が確認されれば,新ためて遺憾表明すべきものでしょう。でも「国民の皆さんの不信を買う」かどうかの判断は難しいでしょうから,結局は遺憾表明はしないでしょう。とはいえ,そもそも判断が難しいような「国民の皆さんの不信を買うようなこと」を条件とするのがズルいのです。結局,首相は,この問題に真摯に向き合っていないことになります。そもそも「遺憾」というのは謝ったことにならないというのは,前に谷沢永一氏の本を紹介したときにも書いたことです。
ところで,今日の本題はここではありません。同日の記事で,パート・アルバイトにも雇用保険の拡大という記事が出ていました。「政府は2028年度までにパートやアルバイトの人らへ雇用保険を拡大する。非正規の立場で働く人にも失業給付や育児休業給付を受け取れるようにし,安心して出産や子育てができる環境を整える。企業側は人件費が増え,人員配置の見直しなども迫られる。」というものです。
雇用保険は労働者も保険料を拠出するので,同じ時給であれば手取りが減ることになります。非正社員のなかには,家計を支えているわけではないので,雇用保険の受給ができることよりも,保険料の負担のほうが困るという人もいるでしょう。この改正は,非正社員のためではなく,雇用保険の財源を広げるためとみるべきかもしれません。正社員にとっては雇用保険の財源が安定するのはよいことなので,有り難い話かもしれません。つまり,非正社員への雇用保険の拡大は,給付をもらえる人が増えるというより,保険料を払う人が増えるということがポイントなのかもしれないのです。また,企業にとっては,事業主負担が増えるので,時給に転嫁できないとなると,非正社員の雇用を減らす方向に進むかもしれません。これは社会保険料の対象の拡大と同じ話です。ということで,非正社員への雇用保険の拡大というのは,いったい誰のためのものかを明確にした議論をしなければ,世論を誤誘導することになるのではないかと思います。そのあたりは労政審できちんと議論されると思いますので,そう簡単には話が進まないと予想しています。