テレビ

2024年9月17日 (火)

日本人のルーツ

 NHKの番組「フロンティア」で採り上げられていた「日本人とは何者か」を観ました(昨年の番組の再放送のようです)。面白かったです。次世代シークエンサという技術が開発され古代DNAの調査ができるようになり,日本人の起源について驚くべき発見があったようです。近年の話題書であった篠田謙一『人類の起源』(中公新書)のなかでも,この解析手法が次々と新たな発見をもたらしていることが紹介されていました。同書でも日本人のルーツについて言及されていて,まず縄文人がいて,その後に弥生人が渡来して融合したという「二重構造説」が盤石ではないことが書かれてたと思います。NHKの番組は,これを発展させ,とくに金沢大学の覚張隆史氏らの「三重構造説」がメインで採り上げられていました。同氏の研究グループのプレスリリースのサイトが見つかったので,重要なところを引用しておきたいと思います。
 「まず,先史時代における文化の転換に伴うゲノム多様性の変遷を評価しました。その結果,縄文人・弥生人・古墳人と時代を追うごとに,大陸における古人骨集団との遺伝 的近縁性が強くなっていく傾向が示されました。つまり,弥生人や古墳人は大陸集団に由来する祖先を受け継いでいると考えられます。一方,縄文人は大陸集団とは 明確に異なる遺伝的特徴を有していることが示されました。さらに,縄文時代早期の上黒岩岩陰遺跡のゲノムデータを用いてシミュレーション解析を行った結果,おおよそ20,00015,000 年前に縄文人の祖先集団が大陸の基層集団から分かれ,その後,少なくとも縄文早期までは極めて小さな集団を維持してきたことが示されました。そして,渡来民による稲作文化がもたらされたとされている弥生時代には,北東アジアを祖先集団とする人々の流入が見られ,縄文人に由来する祖先に加え第 2 の祖先成分が弥生人には受け継がれていることが分かりました。しかし,古墳人には,これら 2 つの祖先 に加え東アジアに起源をもつ第 3 の成分が存在しており,弥生時代から古墳時代に見られた文化の転換において大陸からのヒトの移動及び混血が伴ったことがわかりました。これら 3 つの祖先は,現代日本人集団のゲノム配列にも受け継がれています。以上のことから,本研究は,パレオゲノミクスによって日本人ゲノムの『三重構造』を初めて実証しました。」
 三重構造説は,古墳時代に東アジアの多様な地域から人が渡来し,それが現代の日本人の多くの先祖となっていることを,遺伝子から明らかにしているのです。
 この番組でもう一つショッキングであったのは,縄文人の起源について,実はタイのマニ族との遺伝的な近縁性があるという点です。アフリカから出たホモ・サピエンスは,3手に分かれて移動していくのですが,その一つが東南アジアに到着してホアビニアン(Hoabinhian)となり,そこにあとからやってきた農耕民族に追われて,北海道に到着したのが縄文人だというのです。ホアビニアンの末裔であるマニ族との遺伝的な近さは,こうした歴史を示しているそうです(縄文人の遺伝子は,モンゴルや中国の人の遺伝子との共通性はないそうです)。縄文人とマニ族とは,顔はまったく違うし,外観からは,どこにも共通性を見いだせないのですが,遺伝子レベルでみると近い「親戚」なのです。皮膚の色や顔の形などで人間を区別することの無意味さがわかります。
 縄文人は,決死の覚悟で北上し日本列島にたどりついたのでしょう。私たちも,その遺伝子を一部は引き継いでいるのです。その上に二層にわたる遺伝子が上乗せされているのが現代日本人です。私は,日本人の特徴は,縄文人的な好奇心と冒険心,弥生人的な安定志向,そしてその後の雑多な背景をもつ渡来人が融合するなかでの文化的な弾力性や創造性というのが,私たちの特徴ではないかと勝手に解釈しました。
 日本人が漢字からひらがなやカタカナを創造したことも,あるいは,明治維新のように,和文化どっぶりの鎖国時代から,180度急転換して西欧文化を(ある意味では無節操に,しかし貪欲に)取り込み,その後,独自の日本的な文化をつくりあげたというのも(法文化も実はその一つです),まさに日本人の特性によるものかもしれません。三重構造説は,私たち日本人に,勇気と夢と誇りを与える研究成果だと思います。

2024年3月29日 (金)

「ブキウギ」最終回

 今日は初夏のような陽気でした。夕方,近くの公園で散歩していたら,桜が咲き始めていました。Spumante が美味しい季節になりましたね。

 ところで,NHKの朝ドラ「ブギウギ」は今日が最終回でした。全回観ました。1年前の「ちむどんどん」に次いで「完走した」という感じです。この作品をプロはどう評価するかわかりませんが,私はとても楽しめました。前向きな福来スズ子(笠置シヅ子)の生き方に共感する人も多かったことでしょう。福来スズ子の人生を追体験させてもらってよかったです。
 笠置シヅ子については,もちろん絶頂期のころは知らず,でも「東京ブギウギ」や「買物ブギ」などの歌は知っていましたし,コマーシャルや歌番組の審査委員としても,もちろん知っていました。鶴瓶が若い頃にネタで笠置シヅ子の息子だと言っていることなど,結構,歌手引退後も馴染みのある方でした。しかし,その人生がこんな劇的なものであったとは,今回始めて知りました。もちろん脚色は入っていますし,とくに美空ひばり(番組では,水城アユミ)との関係に関わる部分は,ほとんどフィクションでしょうが,そんなことはどうでもよいです。
 このドラマは,歌もまた主人公です。これだけ歌を使って展開されたドラマというのは珍しいのではないでしょうか。笠置シヅ子の代表曲がどのように生まれてきたのかがよくわかりました。そして服部良一(羽鳥善一)という作曲家の偉大さもよくわかりました。笠置シヅ子に作った曲のほとんどは,じっくりピアノやギターで弾けばわかるように,洒落たコード進行が使われています(今日の最終回でも,「東京ブギウギ」の前半の伴奏はピアノだけで,メロディーの良さを味わえました)。でも服部良一には「青い山脈」のようなシンプルな名曲もあります。自由自在で,才能あふれた人だということがよくわかりました。

 

 

2024年1月 2日 (火)

紅白歌合戦の感想

 能登の地震の被害が,徐々に明らかになってきました。火災も怖いですが,家屋倒壊もおそろしいです。iPhoneの緊急SOSのチェックをあわててやりました。研究室でも自宅でも,大きな地震のときには,本棚の上段のほうからの本の落下が怖いですが,これはどうしようもないですね。網を張ってもよいのでしょうが,そうなると使いにくいです。本も電子化が進んでいますが,研究書などで,いろんなところにジャンプしながら読むようなときは,紙のほうがまだ便利なことがあります。そのうち電子書籍でも,ジャンプ機能がもっと高まることを期待しています。

 ところで,大晦日の夜は,ここ何年かはいつも紅白歌合戦をみており,一昨日も観ました。プロの歌手の出場が減っていますよね。司会の二人の女性タレントは,若くて綺麗でしたが,なぜ歌わせたのでしょうか。放送事故レベルの歌唱力です。あんな歌唱力の素人と,一緒の舞台で歌わされたら,プロの歌手はつらいでしょう。この二人は,明るい番組づくりには貢献していましたが,どちらか一人でもよかったような気がします。司会の有吉も緊張感が観ているほうにも伝わってきて,向いていない感じがしました。歌番組としてみた場合は,例年どおり,トリのMISIA頼みという感じです。サザンくらいが出てくれたら良かったのですが。懐かしい歌手がたくさんでてきました(個人的には,伊藤蘭のキャンディーズの歌をもっと聞いていたかったです)が,そのたびに,この人は何歳だったっけと言いながらスマホを手にとってWikipediaで年齢を調べていました。年齢は嘘をつかず,みんな声が出ていないなという印象を受けました。演歌歌手は,歌唱力はありますが,単独では難しいということで,芸人と組まされたり,ドミノやけん玉に主役が奪われたりで(おまけに,けん玉では,ギネス認定が取り消されるなど,後々語り継がれるような「事件」が起きてしまいました。失敗することは想定していなかったのでしょうかね),石川さゆりクラスにならなければ,きちんと歌わせてもらえない感じです。
 個人的にはヒゲダン(Official髭男dism)の「Chessboard」がMVPです。この曲は中学のNコンの課題曲だそうです。この難曲を合唱で歌いこなすのは,大変でしょう(合唱用に編曲するのが難しそうです)。途中はどことなく「ボヘミアン・ラプソディ(Bohemian Rhapsody)」を思わせるような構成のように思えました。クイーンという言葉も出てきましたし,クイーン(Queen)を意識した作品ではないでしょうか(音楽の専門家からすると,戯言かもしれませんが)。そのクイーン(Queen + Adam Lambert)も紅白に登場してくれて,これも良かったです。

2023年1月 2日 (月)

紅白歌合戦

 年末は,紅白歌合戦を,ダラダラと全部観てしまいました。それにしても,司会の一人の橋本環奈の圧倒的な存在感に驚きました。本人は歌も踊りもみせてくれて,歌手たちから完全に主役の地位を奪っていました。最初から最後まで彼女から目が離せなかったですね。すごいタレントがいたものです。一方,歌手のほうはどうかというと,演歌歌手がきちんと歌わせてもらっていないな,という印象をもちました。もっとも,さすがに石川さゆりは例外です。彼女の「天城越え」を聴かなければ年を越せないというくらいの国民的名曲ですからね(歌詞は,かなり強烈な内容なのですが)。一方で,女性陣は国籍不明で同じような歌を同じような踊りをしているグループが何組も出てきたのでびっくりしました。○○坂46は,これに比べると,少しおぼこい感じがしました。もちろん,おじさんが喜ぶような歌手も登場していて,鈴木雅之,安全地帯などはよかったし,ちむどんどんの主題歌の三浦大知の燦燦もよかったです。サプライズは,篠原涼子の曲のときに,ピアノ演奏をしながら控えめにハモっていた小室哲哉でしたね。小室メロディが久しぶりに紅白で聴けてよかったです。加山雄三もあの年齢であそこまで声がでるのはさすがでした。昨日も書いたユーミンが,若かりし頃の荒井由実とデュエットするのは,AI時代の紅白を先取りするもので,これも企画が素晴らしかったです。
 ただ,個人的に一番よかったのは,桑田佳祐らの「時代遅れのrock'n'roll band」でした。曲を初めて聴きましたが,歌詞がとても深い内容で共感できました。ほんとうは全然「時代遅れ」ではないし,本人たちも本音ではそう思っていないと思います。でも若い人たちをリスペクトして,ちょっと引いた感じで「時代遅れ」と言っておこうということなのでしょう。
 大切なのは,自分たちのことより,次の世代を担う,自分たちの子や孫のことです。戦争は,ほんとうに愚かなことです。戦争のために,私たちが次の世代に何も残せないのではないかという不安が広がっています。桑田さんらの世代は,戦争は知らないけれど,戦争の悲惨さは知っている世代でしょう。私も少し下の世代ですが,ほぼ同じです。彼らは,軍靴の音が聞こえ始めている現代に,自分たちは小さくても(彼らはほんとうは小さくないのですが),何かできる方法で平和と希望を訴えたいし,みんなも何か行動を起こすことが大切なのだ,ということを言いたかったのではないかと思っています。