スカラ・モビレ
父は告別式までは,葬儀場の霊暗室にいるので,今日も顔を見に行ってきました。眠っているようでした。告別式の日は,雪の予報が出ていて心配です。
コロナ感染者がかなり増加しています。父は幸いコロナ感染はしていなかったので,その点で葬儀に不自由なことはありませんが,もしコロナ感染をしていたら,おそらくいろいろ制約があったことでしょう。葬儀場が混雑しているのは,コロナ死が増えているからなのかもしれません。
ところで話は変わり,インフレ手当を出す企業が増えているという記事を読みました。ヤマハは一律5万円などとなっており,気前がよいなと思いましたが,そういう企業が増えているのでしょう。インフレ手当というと,イタリアの物価調整手当(indennità di contingenza)を思い出します。従業員の臨時の必要に対応した手当というような意味ですが,戦後,インフレ期に定着化し,scala mobile(エスカレータの意味)と呼ばれて,賃金の重要な要素を占めるようになりました(『イタリアの労働と法』(2003年,日本労働研究機構)102頁)。これにより,インフレとなると,賃金も上がりますが,そのことがさらにインフレをもたらすという悪循環が起こりました。そういうこともあり,私がイタリアに留学していたとき,ちょうどこの制度の廃止にぶつかりました(1992年以降の廃止)。インフレにともなう賃金購買力低下は,自動的な上昇制度ではなく,団体交渉により行うべきということです。このころ同時に団体交渉システムも変わっていますが,詳しいことは,30年くらい前に書いた論文を参照してください(「イタリアにおける賃金決定機構の変容-その『弾力化』と『制度化』」日本労働研究雑誌413号25-32頁(1994年))。
日本のインフレ手当は,春闘前に決定されたものです。企業が積極的にこういう手当を出すのは,賃上げに対する政府や社会の圧力があることに加え,それが基本給の引上げにつながるのではなく,臨時の賞与的なものであるからでしょう。もちろん最初は任意恩恵的給付であっても,これが反復して支給されるようになれば,事実たる慣習として契約の内容となり,権利性がでてくる可能性が,理論的にはあります。労働者には有り難いですが,企業としては困るかもしれません。また,こうした手当は,労働組合にも危険な面があります。イタリアの教訓は,交渉を経ないで,インフレ率だけにより自動的に手当額が決まるような制度は,かりに当初は労働組合が求めたものとしても,かえって労働組合の交渉力を弱める可能性があるということです。