国際問題

2023年9月19日 (火)

中国との付き合い方

 「汚染水」大臣が辞めてよかったのですが,期待していた盛山文科大臣の就任会見での不安定な答弁をみて,失望しました。自分のことを「新米大臣」というのは,謙遜から出た言葉かもしれませんが,これから文部科学行政を担っていく大臣の最初の言葉としては,頼りないです。即戦力が求められる教育行政について,新米で責任をもったことが当面はできないというのなら,大臣就任を断るべきでしょう。教員のなり手不足についても,名案がないというのは,がっかりです。これだけ教育問題が言われているなかで,常日頃から,一個人として何か思うところがなかったのでしょうか。今日も,経済産業省の方とリモートで意見交換をしたのですが,重要なのは教育であるという話になりました。盛山大臣に期待していただけに残念です。
 ところで話は変わり,中国側は,処理水問題を口実にして不当な対応をとっていて,日本の水産業に大きな影響を与えているようです。私は中国の対応に腹立たしさを感じるものの,他方で,日本政府が,中国に対して「科学的根拠」を無視した対応をとっていると強く批判していることには,やや疑問もあります。日本政府は,トリチウムの濃度が薄くなり健康に問題がないということについて,考えられる様々な角度から説明されています。私も経産省のアップしている動画をみました。政府は,科学的根拠の説明としては,これ以上やれることはないかもしれません。一方で,科学者の言うことだから信用しろと言われても,そう簡単に信じてはならないということも,いろいろな教訓から学んでいます。国際原子力機関(IAEA)事務局長のGrossi氏が出てきても,これでIAEAのお墨付きがあるからよいといえるのでしょうが,彼個人は科学者ではなく,行政官であり,なんとなく政治家っぽい匂いがするので,印象がよくないです。そもそも排出されているトリチウムが健康に無害であるといっても,ないほうがよいのですから,国土が近い中国や韓国が反対するのは理解できるところです。たとえ彼らが政治的にこの問題を利用しているとしても,利用するネタを与えてしまっているのは日本です。遠い国である欧米が日本に賛成しているのは,日本政府の科学的根拠に賛同しているというよりも,自分たちには影響がないことだと思っているからかもしれません。
 処理水の放出はどうしても日本にとって必要である以上,科学的根拠だけで攻めるのではなく,もう少し丁寧な対応もあったのではないかと思います。自分が逆の立場であったら,そう思うかもしれません(もちろん,実際の私は,日本政府の説明に一応納得して,日本の魚介類を食べて応援したいと思っています)。中国の肩をもつわけではありませんが,実は政府の外交交渉のまずさが,日本の水産業に大打撃を与えているかもしれないのです。私たちは,韓国や中国が内政の問題があれば,すぐに日本たたきに走って,国民の目線を国外に向けさせるということに不快感をおぼえていましたが,同じようなことを日本政府がやっているかもしれないということに注意すべきでしょう。
 それとは別に,日本のビジネスの中国依存も,そろそろ見直すべきではないかと思います。中国相手のビジネスだと安定的にこれを展開することは難しいでしょう。台湾有事があるかもしれません。中国人が欲しくなければ結構です,と言えるくらいの状況をつくらなければ,リスクは残るでしょう。観光業も中国からの旅行客に頼るのは,もう辞めませんか。無責任なことを言うなと言われそうですが,中国があまりにも巨大な市場なので,冷静な判断ができなくなっているかもしれません。いきなり旅行客が来なくなったり,製品の輸出できなくなったり,輸入できなくなったり,というようなことが起こる危険性があり,しかも日本政府にはそういう状況を避けるだけの十分な外交力がないとなると,中国に依存しないビジネスに向けて,少しずつ努力せざるを得ないでしょう。製造業などでは,そういう動きはすでにあるようですが,その他の製品も同じようにしなければならないでしょう。
 別に敵対する必要はないのです。依存しすぎるとお互いよくないというのは,人間社会にはよくあることです。適度の距離感をもって,警戒しながらも,うまく付き合っていくということを,政治もビジネスもやっていってもらえればと思います。

2023年4月24日 (月)

人工ダイヤモンド

 人工ダイヤモンド(lab grown diamonds)が,天然ものよりかなり安い価格で販売されているというニュースをみました。ダイヤモンドは環境破壊や紛争の源になるので,工場で製造できるのなら,そのほうがよいでしょう。この話を聞き,Di Caprio主演の映画「Blood Diamond」を思い出しました。かなり前に観たので記憶はやや怪しいのですが……,シエラレオネ(Sierra Leone)の内戦のなかで,反政府軍に捕まった主人公の黒人が,ダイヤモンドの強制採掘場で働かされているとき,高価なピンクダイヤモンドを発見しましたが,政府軍から襲撃を受けるなか,それを奪われないように埋めて隠しました。その後,Di Caprioが演じるダイヤモンドの密売人(武器を調達して,その代金としてダイヤを受け取る)が,この情報を聞きつけて,彼に接近し,その場所を二人で探そうとします(最後はDi Caprioは力尽きてしまいます)。反政府軍に息子が捕まえられて兵士にさせられてしまう話や兵器を売りつけてボロ儲けする白人と白人に迎合する黒人が登場するなど,考えさせられることが多い映画でした。いまスーダン(Sudan)で内戦が繰り広げられています。民主化が実現するまでのやむを得ない犠牲なのかもしれませんが,膨大な天然資源(スーダンの場合は金)の利権がちらつく点は,映画の話と似ている面があるかもしれません。 遠い国のことのようにも思えますが,日本になにかできることがあるのでしょうか。

2022年11月 1日 (火)

カミカゼ・ドローン

 少し前に,アメリカの「アジア系米国人ジャーナリスト協会」が,ウクライナ戦争でのロシアによる無人ドローン攻撃について「Kamikaze Drone」という言葉が使われていることについて,アジア系に対する差別を助長するとして抗議を申し込んでいるという記事が出ていました。Tsunami と同様,KamikazeHarakiriなどは,日本語がそのまま使われており,日本人としては複雑な気持ちです。Kamikazeという言葉は,自爆テロのときにも使われます。神風特攻は,外国人には衝撃を与える攻撃であり,日本人としては忘れたくても忘れてはならない黒歴史です。どうしてあんな愚かな作戦で若い人たちを無駄死にさせたのか,怒りを禁じ得ません。
 外国人からすると,日本人の精神性にカミカゼ的なものがあるのではないかと思いたくなるようです。私の知っている外国人は,親しくても,そういうことをあからさまには聞いてきませんが,おそらくは聞いてみたいと思っているでしょう。私としては正面から聞いてほしい気持ちもしますが,それならこちらから話題を切り出せばよいのですが,そこでうまく説明できるかというと,あまり自信はありません。どうして神風特攻隊がうまれたのか。実は,そういうことを,私たちはきちんと総括できておらず,それゆえ,外国人にもうまく説明できないため,彼ら,彼女らの疑問や疑念はいつまでもなくならないのでしょう。
 神風特攻は軍関係が対象で,民間施設や民間人を相手にはしていないので,無差別な自爆テロとは違うし,ましてやウクライナの無人ドローンは「無人」である点でまったく違うものです。しかし,そういうことを言っても,自爆=カミカゼは,外国人には定着してしまっているのです。ただ少なくとも現在の「無人ドローン」と「神風」はまったく無関係であるということは,やはり日本人としては,しっかり政府に海外向けに説明をしておいてもらいたいですね。
 日本人のなかには,神風特攻について,あの死を無駄にしないために,彼らを英雄視しなければいけないとする考え方もあるようですが,それは間違った考え方です。あの死を深く悼みながら,ああいうクレージーな命令を発した上層部への怒りを忘れてはならないのです。いろいろ批判もある百田尚樹ですが,彼の『永遠の0』(講談社新書)は,この問題についての良い教材です(かつて,この本は,このブログの前身でとりあげたことがあります)。理不尽な神風特攻に対して悲しみと怒りをかみしめ,そういうことが二度と起こらないようにするために,どうすればよいかをしっかり考えておく必要があります。そうしなければ,外国人の疑念を払拭できないどころか,私たちやその子孫が同じことを繰り返してしまわないか,心配になります。

2022年8月 4日 (木)

Pelosi訪台に思う

 アメリカのPelosi下院議長の訪台は,悪いタイミングでしたね。報道によると,このタイミングとなったのは,自分の都合のようです。もちろん台湾を応援する行動それ自体は良いのですが,タイミングをまちがえれば,かえって周辺国を危険に巻き込むということを,よく自覚してもらいたいです。こういう配慮をしないで独善的な行動をとるのは,いかにもアメリカ人的だと思いますが,これは偏見でしょうか。
 ウクライナ戦争も長期化し,対ロシアで結束していたアメリカは,今回のPelosiの訪台を阻止できなかったことで,Biden大統領のリーダーシップの欠如を露呈しました。対ロシア強硬派であったイギリスは首相が退陣しましたし,イタリアも首相退陣が決まりました。フランスの大統領は国内基盤が脆弱です。結局,政権交代がほとんど起こらない独裁国家のほうが強いということになりかねません。そういうときにこそ日本も含めた西側は結束しなければならないのに,議員たちが勝手な行動をとるようではうまくいかないでしょう。あげくに,中国に余計な挑発をした感じになりました。これはまさに中国が言うように「火遊び」のように思えます。
 中国の覇権主義的な行動を抑え,台湾が香港みたいにならないようにするのが大切なのは当然です。しかし,日本と中国との関係は,圧力一辺倒で対処すればよいというような単純なものではありません。幸い,いまは日韓関係は良いですが,これも大統領が代われば,どうなるかわかりません。中国,韓国,ロシア,北朝鮮と周辺国が敵や非友好国ばかりになったとき,遠くにいて,しかも様々な面で弱体化してきているアメリカだけが頼りというのは,とても不安です。

 それにしても残念なのは,香港に行ける日が私が生きている間には来そうにないことです(←これはちょっと言い過ぎでした)。台湾が,そういうことにならないように心より祈っています。台湾有事となると,沖縄だって危険になってきます。

 岸田首相は,平和のための新構想というのをぶちあげましたが,海上安全とか防衛増強とかが中心で,台湾問題(それはひいては沖縄や本土の安全の問題にもつながる)にどれだけ効果があるのか疑問です。ただお金を使うだけの平和構想では困ります。平和のための明確なビジョンとその実現のための戦略があり,一つひとつの政府の行動が,その戦略に基づいて進められていて,そのために必要だから税金を使うのだという説明を国民にわかりやすくすべきです(もちろん外交などでは,言えないこともあるでしょうが)。平和は遠のき,国家は窮乏する,というようなことになっては,私たちの子孫に申し訳ないことになります。重要な政治課題が次々とふりかかっている現在,岸田政権のやることを,しっかり関心をもってみていくことが必要です。