プロの力
OpenAIのAltman氏が,CEOを解任され,同社に多額の出資をしていたMicrosoftに入社すると決まったと報道され,4日後に電撃的にOpenAIに復帰するという報に接して,多くの人は驚いたでしょう。私もそうです。展開が速すぎます。復帰劇の背景には,Altmanがいなければ,社員の大多数がMicrosoftに移籍すると言い出したことがあったようです。いったい,この会社のガバナンスはどうなっているのかという疑問も提起されていますが,いずれにせよ社員の力が重要ということがよくわかる出来事でした。生成AIなどのように,知的独創性が求められている最先端の企業を支えているのはプロ人材であり,彼ら・彼女らは自分の働きやすい環境を求めて企業を移っていくのです。AltmanのいないOpenAIは,彼ら・彼女らから選択されず,Microsoftを選択するという意思表明をしたことで,OpenAIは譲歩せざるを得なかったようです(経営陣は刷新されました)。
プロの時代とは,キャリアに対する自己決定権を取り戻す時代でもあります。自分の能力を最大限に発揮できる企業を,自分で選ぶ時代です。そこでは,雇用という選択肢以外のものも視野に入っているのであり,自営で取引する発注者を選択するというフリーワーカーとしての働き方もあるのです。今後は後者の働き方が増えていくでしょう。
今回のOpenAIの騒動をみて,経営者が,プロ人材を引き留めることがいかに大切かがよくわかったと思います。働く側は,プロ人材になることができれば,自分のキャリアの自己決定ができるということです。みんなが高いレベルのプロ人材になれるわけではありませんが,経営者との関係を逆転させるには,どうすればよいかということを考えるためのヒントをくれそうな出来事であったと思います。
なお,私は,今年の4月13日の経済教室(日本経済教室)で,「個人がその能力や適性にあったスキルを磨き,多様なジョブや複数の企業にまたがり,職業キャリア(雇用労働だけでなくフリーランスなども含む)を自律的に実現することこそが優先的な価値となる。諏訪康雄・法政大名誉教授が提唱したキャリア権の保障は,こうした価値を実現する政策の基本理念となる。」と書いていますが,その論考も参考にしてください。