テレワーク

2023年9月18日 (月)

リアル回帰に警戒を

 915日の日本経済新聞の夕刊の「十字路」の欄で,東京都立大学大学院の松田千恵子教授が,「会計監査の現場離れ」というコラムを書かれていました。「リモートワークに異を唱えるつもりもない。むしろ,適宜活用して生産性を上げることは大事だ。会計など情報を扱う分野はリモートワークとの親和性も高い。ただ率直に言えば,実地棚卸しなどを含む会計監査については,当然ながら現場をしっかり見てほしいというのが本音だ。」というのは,よく理解できることではあります。ただ,そのあとに,ある監査法人の調査として,「今後は不正リスクが高まる」と感じている企業の割合が,2020年に59%だったものが,2022年には64%へと上昇したということが紹介されていて,これを現場主義の論拠とされているようですが,この5%の上昇は軽視できないものの,むしろこの程度であれば,違った方法で不正リスクに対処するという議論をすべきではないかというのが,DXとリモートの推進派の発想だと思います。
 労働者の数は今後どんどん減っていくというのは,少し前までは数字上のことのようでしたが,いまは実感が高まってきています。今回の休暇先でも,ホテルの裏方はほとんどアジア系の若者でした。外国人の活用がなければ,観光業界などはもたないようになってきているのでしょう。飲食店も同様であり,人手不足は深刻なようです。こちらは,このままでは飲食店の倒産か,価格の引上げになっていくでしょう。おそらく,今後は,接客能力の高い人間を配置して高級店に転換していくか,ロボットを導入していくか,そういうことをしないかぎり,この業界の未来は暗いでしょう。タクシーについても,前に書いたとおり,人手不足が深刻で,ライドシェア(ride share)の導入は不可避となりつつあります。
 リアルで人間の手を借りて仕事の水準を維持することは当面は必要でも,それに頼ってしまうと,人手不足に対応できません。これは観光業から会計監査の仕事まで,広くあてあまることではないでしょうか。そのためにも,コロナ禍でのリモート化は,緊急避難であったと位置づけるのではなく,来るべき社会の到来が早まったにすぎないという認識をもって,事態に臨まなければならないのです。
 ホテルで働いてくれる外国人が,いつまで日本に来てもらえるかわかりません。政府の雇用政策といえば,人間を対象としたものでした。AI問題も,AI代替による(人間の)雇用喪失が懸念されています。しかし,より深刻な問題は,人間の不足により,社会が回らなくなることです。いくら賃金を引き上げても,人が集まらない社会というのは,おそろしいです。早く機械でできるものは機械で,という意味のデジタルファーストに取り組まなければなりません。
 コロナ禍のころは,こういう議論をする機会がよくあったのですが,最近はあまりしなくなりました。デジアナバランス(digital-analog balance[造語])を追求するのではなく,アナログ時代のノスタルジー(nostalgia)から,うずうずしていた人の声が大きくなりつつあるような気もしています。ウィズ・コロナの定着により,人間のリアルでの仕事の再評価という誤った方向に動き出さないように注意が必要でしょう(なお,上記の松田氏の意見は,むしろリモートワークを評価したうえでの,デジアナバランスの追求をめざした意見とみるべきでしょう)。

2023年5月16日 (火)

テレワーク実施努力義務

 今朝の日本経済新聞で,厚生労働省が,3歳までの子どもがいる社員がオンラインで在宅勤務できる仕組みの導入を,省令で企業の努力義務とする,という記事が出ていました。テレワークを申請すればそれを認める努力義務を導入するということでしょう。ワーク・ライフ・バランスの実現のためにテレワークが最も良いということは繰り返し述べてきましたし,少子化対策にも効果的だと言ってきたので,政府のこの方針には賛成です。テレワークをできない理由をいろいろ挙げる企業はありますが,DXにさえ取り組めばテレワークが導入できるところはたくさんあると思います。中小企業がコスト面でためらっているとすれば,助成金は,そういうときにこそ使うべきです。記事の最後に,「在宅勤務や育児休業の取得は個人の判断だが,制度の導入が遅れる企業は柔軟な働き方を希望する人から選ばれなくなるおそれがある」とありますが,そのとおりであり,企業は助成金があろうがなかろうが,経営上の最優先課題として取り組むべきものです(DXによる企業の革新については,拙著『労働法で企業に革新を』(商事法務)も参照)。
 今後,人手不足倒産がどんどん起こるのではないかと心配しています。いくら良いアイデアのビジネスを考えても,働いてくれる人がいなければ,事業展開は難しいでしょう。賃金をどんなに上げても人が集まらない時代です。こうしたことからも,企業は,DXによりロボットの導入による省力化やテレワークによる人材確保に取り組まざるをえないのです。
 業種によってはテレワークは無理という声もあります。ただ接客業はテレワークは無理と考えられていましたが,いまではリモート接客サービスもあります。どんな業種でもDXやテレワークの可能性を徹底的に追求することこそ,企業の生き残りの重要な戦略となるでしょう。今回の厚生労働省の取り組みは,こうした動きを努力義務という形で誘導していくものであり,非常に良い政策的介入だと思います。

2023年5月10日 (水)

出社圧力は一時的か

 本日の日本経済新聞の朝刊において,「〈ポストコロナの働き方〉原則出社 圧力にため息 会社選び,『在宅可』が左右」というタイトルの記事が出ていました。「スキルを磨くには対面で仕事をする方が合理的」という,ある会社の20代社長のコメントが出ていた一方で,「ネット環境さえあれば仕事しやすい技術職はコロナ禍で在宅勤務が一般化した。在宅を好む傾向にあり『テレワーク可』で人材を募る企業は多い。対面主義では人材を獲得できない現実がある」と書かれていました。
 テレワークは,技術職に向いていることは当然でしょうが,その他の職種においては,対面型に戻ろうとする動きもあるようです。ただ,そういうことをしていると,若い人材を集めにくくなるでしょう。
 教育の現場でみても,コロナ前からいた学生は,コロナによりリモート講義の導入であったり,対面でもマスク着用を義務付けられたりすることに,当初はかなり抵抗があったようですが,コロナ後に入学してきた学生は,最初からリモートは想定していますし,対面になってもマスクを着用するのに慣れているので,あまり抵抗がないようです(むしろマスクを外すのをいやがる)。対面やマスクなしでやってきた期間が長い人ほど抵抗があるのは当然であり,逆に,短い人ほどリモートやマスクにそれほど抵抗はなくなるでしょう。最初からリモートとなっていれば,覚悟ができているので,むしろ通学や通勤で時間がとられることがないメリットを大きく感じるのは当然と思われます。問題は,こうした労働者側のとらえ方とは別に,(技術職を除き)ほんとうに対面型のほうが,生産性が上がるのかです。これは結局,経営判断にゆだねられるべきことであり,もちろん法律でどちらかに誘導するようなものではありません。ただ傾向としては,今後はテレワークが増えると予想でき,しかもDX時代を支える人材の間に思った以上にテレワークへの支持があるとすると,法制度においても,できるだけ早く対応をしていかなければならないでしょう。テレワークは別に法律で規制されているわけではないので,対応は不要という意見もありえますが,労働法は物理的な「場」で働くことを想定しているので,オンライン中心で働くデジタル時代になると,対応すべき問題や対応方法も変わり,労働法の根本的な構造を変える必要が出てくるのです。私がいう「デジタル労働法」はそういうものです。関心のある人は,拙著『人事労働法』(弘文堂)の第10章をご覧ください。

2023年3月18日 (土)

子育てとテレワーク

 岸田首相は,子育て政策を中心に据えて支持率の回復に向けて活路を見いだそうとしているようです。子どもを大事にする政策は,昨日も書いたのですが,バラマキやイメージ戦略だけにとどまるのであれば困るのですが,そうでない本当に役立つものであれば大歓迎です。神戸市と隣の明石市とを比較して,育児世代においては,明石市の取組みが魅力的で(https://www.city.akashi.lg.jp/shise/koho/citysales/index.html ),ちょっと田舎というイメージの明石市(明石市民の方,スミマセン)にでも住みたいという人が多いように思います。収入的にまだ十分に高くない若い世代において,子どもが一人生まれたときに,急に負担が重くなるのは辛く,そこで自治体からの助成があれば助かるのは当然です。泉房穂・明石市長に対しては毀誉褒貶が激しいようですが,私は応援したいですね。財源と給付を明確にして,そのうえである程度のリーダーシップをとって実績を上げるというのは,当然やるべきことですが,簡単なことではありません。もちろん,明石市も,どこかに負担がかかっていて,その問題点がいつかは顕在化するかもしれませんので,最終的な評価がどうなるかわかりませんが,何かやってくれそうな市長という点で,私は明石市民ではありませんが,関心をもってみています。加古川市長とやりやっているようですが,それも含めて,良い意味での競争をしてもらえればと思います。泉さんは,政治家を辞めるそうですが,このままあっさり引っ込むとは思えませんね。彼のような人を必要としているところは,多いでしょう。
 ところで,今朝の日本経済新聞で「女性の力が生きる地方議会に」というタイトルの社説がありましたが,問題意識は私も共有しています。子育ての問題も含めて,女性の視点を政治や行政の場でもっと反映させたほうが,大きな改善を期待できます。そして,子育ても,女性の地方議会進出も,テレワークが重要なポイントになると考えています。
 テレワークをうまくできれば,賃金を減らさず,キャリアを中断せず,仕事を継続できます。収入不安の問題がなくなるのです。現状では,テレワークができない企業や業種や職種も多いのでしょうが,ここにもっと力を入れるべきなのです。これが子育て問題への対処として最も効果的なものだと思っています。地方議会についてもテレワークの効果は大です。テレワークにより,地方政治に関心をもつ人が増えると思われるからです。自分の家にいる時間が長くなれば,住む地域の問題への関心が高まり,そうしたところから,地方政治の活性化が生まれるのだと思います。そして,女性はもともと男性よりも家にいる時間が長かったとすれば(それが良かったかどうかはさておき),そうした女性が地方政治に参加しやすくするようにすることもまたとても大切です。女性やテレワークにより居住地に戻ってきた男性・女性が増えることが,自分たちの住んでいる地域を良くするためにも必要なことなのです。かりに女性が家事に忙しいとしても,やはりテレワークができれば,議員活動をしやすくなるでしょう。
 ということで,子育て問題の解決についても,地方議会の問題についても,テレワークの推進をぜひ政策課題に入れるべきです。しかし,政権中枢にいる人は,誰もテレワークをしていないでしょうから,そういう問題意識は出てこないかもしれませんね。

 

2023年1月31日 (火)

季刊ひょうご経済に寄稿

 一般財団法人ひょうご経済研究所から刊行されている季刊雑誌の「ひょうご経済」(157号)に寄稿しました。タイトルは,「デジタル変革後の働き方の変化」です。
 読者が中小企業の経営者向けということでしたので,それを意識して書きました。この研究所は,みなと銀行グループのシンクタンクだそうで,このような地元の研究所の雑誌に執筆させてもらえるのは光栄なことです。みなと銀行は,神戸に住んでいると,みずほ銀行よりも店舗やATMの数では存在感があります。
 ところで,昨年はずいぶんと一般向けの論考を書きました。コロナ禍やDXなどで,これからの働き方への不安が高まっているなかで,私への依頼があったのでしょう。今回の論考でも扱いましたが,テレワークがどうなるのかも経営者の関心事のようです。
 今朝のニュースで,東京が2022年は転出超過から転入超過に変わったと報道されていました。テレワークができるようになったことによる郊外移転が一段落し,やむを得ずテレワークをしていたり,させていたりした従業員や企業の東京回帰が強まっているとの見方もできそうです。しかし,トレンドとしては,こうした東京回帰は一時的なものではないかと思っています。急激に転出が起きたので,揺り戻しがあるのは当然でしょう。
 これからの若者は,なぜ対面型なのかを問うようになるでしょう。対面型のメリットがあると考えている経営者が,そのことを若者にしっかり説得できるところでは,対面型でも若者は集まるでしょう。しかし,そうした説得ができる企業がどれほどあるでしょうか。日常生活のアナログ要素は残してよいのは当然ですが,仕事の分野でのアナログ要素は,かなりの部分が無駄だと考えている人が増えているように思えます。対面での人間関係の良さは,仕事以外のところでこそ発揮されるのです。そうだとすると,長い目でみれば,テレワークは減ることはなく,東京の転入超過もいつかは転出超過に戻ることになるでしょう。

2022年9月16日 (金)

テレワークは定着するか

 予告していましたように,昨日は,佐藤博樹さんとのランチタイムセミナーがありました。時間が限られていて,どうなるかと思いましたし,打ち合わせはごく簡単なもので,ほぼぶっつけ本番でしたが,なんとか終えることができました。視聴者も多く,私にとっては貴重な経験でした。やはりWebセミナーはすごいです。どこかに人が集まっているところで講演するのとは違い,こちらが移動しなくても,たくさんの人に話を聞いてもらえるのは,何度やってみても,不思議な感覚です。聴衆の顔が見えるわけではなく,佐藤さんの顔だけを見て話すので,二人だけだと思ってつい余計なことを話してしまうことがないように,気を付けていました。
 実は講演後に佐藤さんやスタッフの方と雑談をしたのですが,そこでは少し過激な話もしていました。経営者や上司がテレワーク導入に賛成してくれなくて困っているという意見について,話が盛り上がりました。これは実は,私がテレワーク関係の講演をしたときに,よく質問されるテーマです。上司層からはテレワークについての批判的な質問をよく受けるのと同時に,若手からは上司たちの無理解についての質問や嘆きが投げかけられるのです。拙著『誰のためのテレワーク?』(明石書店)でも,プロローグで,先輩たちの無理解に嘆く主人公Aくんの話を取り上げています。それへの解答は,まずはテレワークの価値を理解してもらうために拙著を読んでもらう,と言いたいところです。拙著のメッセージは,テレワークは,導入するかどうかの問題ではなく,どのように導入するかが問題だというものであり,それを受け止めてもらえればと思うのです。ところで,テレワークが実現する場所主権は,在宅勤務オンリーではなく,個人が場所を選んで生活や労働ができるというところがポイントであり,結果として就労場所はオフィスであってもいいし,はたまたリゾート地であってもよいのです。大事なのは,労働者が選択できるということです。佐藤さんも昨日,このことを繰り返し指摘してくださいました。こういう働き方を許容するのは,マネージする側には大変な負担となるのですが,それを乗り越えることこそが,プロのマネージャーの仕事なのです。一方,労働者側からすると,そういうマネージメントができない会社には,とっとと見切りをつけてしまうのも大切です。これは多くの聴衆の前では言えないことですが,個人的に相談されたら,そう答えます。テレワーク体制やデジタル体制を導入するのには手間も費用もかかるでしょうが,その方向に行っていない会社の将来は暗いでしょう。いまはピンピンしているような会社でも10年後はどうなっているかわかりません。これからは次々とデジタルネイティブ世代が出てくるので,テレワークなんて当たり前という感じになるでしょう。場所主権を享受できないような会社には,優秀な人材は集まらないでしょう。役所も同様です。いまだにファックスやフロッピーを使っている会社に誰が入所・入社するでしょうか。そう考えると,いますでに働いている人も,自分たちの会社がどこまで新しい流れに適応する能力をもっているかを,しっかり見極める必要があります。
 私がテレワークのことを書き始めてからかなり時間が経ちますし,それを上記の本にまとめた2021年はすでに遅すぎると思っていましたが,いまなおアクチュアルなテーマであり,拙著のメッセージを伝えなければならないという状況で,日本はこれでほんとうに大丈夫かと不安になります。

 

2022年9月 4日 (日)

オンライン会議の弱点?

 今年の甲子園の高校野球は,それほど雨の影響を受けなかったのではないでしょうか。日本全国を見渡すと,大きな水害をもたらした豪雨が多かったようですが,神戸ではそれほどひどい雨がありませんでした(これからは,わかりませんが)。ひょっとすると気候変動の影響はこういうところにも及んでいるのかもしれません。各地域の気候の特徴というものが,今後,どんどん変化していくのでしょうかね。
 ところで話は変わり,産政研フォーラムの134号で,いつも楽しみにしている大竹文雄さんの連載エッセイ「社会を見る眼」の今回のテーマは「オンライン会議は創造的な発想を阻害する?」というものでした。海外の実験データなどに基づき,結論はイエスであり,ただ集中力が必要な会議は,オンライン会議のほうが優れているとされ,結びは「私たちは,オンライン会議と対面会議とをうまく組み合わせていく必要がある」というものでした。まあ,そういうところかなとは思うのですが,一人の人間単位で考えた場合には,ハイブリッド方式は生活のオーガナイズが難しくなり非効率な感じもしますので,会社内で,この部署や業務は対面会議中心,この部署や業務はオンライン会議中心というように切り分けたほうがよいように思います。
 みんなが集まって雑談できるような環境こそ創造性を生むということは,よく言われてきました。それはそのとおりなのだと思います。私たちのコミュニケーションとは,言語的な情報のやりとりだけでなく,非言語的な情報のやりとりをしており,これがテレワークでは難しいのです。五感をつかった感覚的な情報や体験情報はテレワークでは伝わにくいということです。創造性には,こうした非言語的な情報が役立っているということは,直感的にもよくわかるので,これはテレワークの弱点といえるのかもしれません。
 たとえば会社員ではなく自身の職場をもっている作家や芸術家のような人たちは,どうやって創造的な仕事をしているかというと,おそらく自分で進んで外の刺激を求めて動いているのだと思います。自宅にこもっていては行き詰まるのは当然でしょう。会社員の場合は,オフィスに出社することもそれに含まれますが,何か決まった時間に,どこかの場所に行くことを強制されるということにいなると,それは創造性に必ずしもプラスにならないような気もします。
 創造性を要する仕事で,期待どおりの創造性を発揮してもらうためには,仕事の時間や場所の決定権はできるだけ本人に与えたほうがよいのです。創造性のポイントは,オンラインか対面かということより,個人の選択肢がどれだけ広く認められるような働き方のスタイルを認めるかなのだと思っています。その意味でも,時間や場所の自己決定ができる時間主権や場所主権が大切なのです。

2022年8月23日 (火)

首相のテレワークに思う

 さすがにこれだけ連日,旧統一教会系のニュースが出てくると,自民党の支持率が下がるのはやむを得ないでしょうね。岸田首相としては,清和会の問題と言いたいところでしょうが,自分で選んだ閣僚にも教団と関係があった人がたくさんいるし,報道が確かであれば,前経産大臣で現在の自民党の政調会長は教団と濃密な関係があります。首相は得意の「検討する」とか「しっかり取り組む」という類いの言葉で逃げ切るのは容易ではないしょう。
 コロナ感染は気の毒ですが,タイミングとしては最悪で,同情よりも危機管理のなさが非難されています。テレワーク派としては,ここで首相も公務をテレワークでしっかりできるとアピールして,日本でのテレワークの定着に貢献してくれればよいなと思っていたのですが,テレビで映し出されていたのは,モニターの向こうで首相が話をしていて,手前にぶら下がり記者が並んで聞いているという異様な風景です。ここはZoomミーティング(役所だからWebEXか?)だろうと,多くの人がツッコミを入れたことでしょう。首相がリモートなのだから,ぶら下がるほうもリモートでということにならないのが情けないです。
 岸田首相が行く予定であったTICAD(アフリカ開発会議)では,最後のフロンティアと言われているアフリカをめぐる重要な話合いが予定されているようです。首相がリモートで参加するということで,これでうまくいくのなら,別にいちいち国際会議に行く必要はないことになり,こういうことが積み重なっていけば,テレワークの推進に追い風となるでしょう(航空会社は出張がなくなり困るでしょうが)。他方で,国際会議で大切なのは,公式のやりとりだけでなく,メディアでは扱われない「密約」のようなものなのだという話もあります。公式のやりとりは儀式にすぎないので,見栄えがどうかという問題を除けば,リモートでもやれてしまうのでしょうが,首脳どうしが腹を割った話をするのは対面型でなければできないのかもしれません。個人的には,そういう密約的なもので物事が決まっていくことに不信感があるので,やはりテレワークでやってもらいたいと思う反面,外交が現実には密約で決まるのであれば,リモートでしか参加できない今回の状況はデメリットになると思うところもあります。
 ところで,まったく次元が異なることですが,私は海外旅行のような大きな行事がある前には,風邪をひくなど体調を崩さないように注意をするようにしてきました。もう10年くらい前になるでしょうか,海外旅行の前に,ついうっかりと,ある焼き鳥屋(その頃は六甲にあった名店で,いまは芦屋にあり,巨人の選手が遠征時に食べにいく店です)で,店長の勧める生の鶏肉をつい食べてしまって,あとで深く後悔したことがありました。そのときは酒をけっこう飲んでいたので,勢いで食べてしまったのですが,カンピロバクターの恐怖にその後ずっと苛まれました。幸い発症はせず(店長は信頼のおける人で,たぶん心配のない鶏肉だったから出してくれたのでしょうが),事なきを得ましたが,そのときの経験から旅行前は食べ物も含め,いろいろと注意をする必要になりました。いまは海外旅行はしませんが,コロナ禍という状況なので,何か大きなイベントがある前には,他人にはできるだけ会わないようにするなど行動を自制しています(もともと自制をしていますが)。
 もちろん首相の今回のことは,久しぶりの休日で自身の休息や家族サービスをしていたのでしょうし,そのことを責めることはできません。休息や家族サービスはむしろ好ましいことであり,むしろ自身の健康や家族を犠牲にして政治一筋という人は,国民にも無理なことを求めてきそうで,かえって信用できません。とはいえ,このタイミングでの感染は,イメージとしてはよくないですね。

2022年7月27日 (水)

前期の授業終了

 今日で前期の授業が終わりました。あとは期末試験だけとなりました。今日やったのは明日の授業分のオンデマンド動画の収録ですが,とにかく終わってよかったです。今学期も,私の場合は完全リモートであり, LSではリアルタイム型,学部はオンデマンド型と異なるタイプのリモート授業をやりました。いろいろ失敗もあったのですが,一つひとつ乗り越えてきたと思っています。LSはソクラティックメソッドなので,私が何か話をするのではなく,事前に出している質問に対する答えを受けて授業を展開するというスタイルでした。そのため,リモートであることのデメリットは私にはあまり感じられず,むしろ教室でやっていたらマスク越しで話して聞きづらいとか,議論をしづらいということが起こりそうでした。それに,私はソクラティックメソッドといいながら,かなり話をしてしまうのですが,マスク越しだと,すぐに苦しくなるので,そうたくさん話をすることもできなくなり,授業の内容も変わっていたことでしょう。対面型でやるときはマスク着用というのであれば,私には今学期のようなオンライン授業でやるという選択肢もなければ困ります。
 学部のオンデマンド授業は,できるだけ学生が目の前にいるつもりで話をしました。最初は言い間違えたら,もう一回収録し直すなんてこともしていましたが,実際の授業では,言い間違えに気づいたら,その場で訂正して進んでいくので,オンデマンドであっても同じようにすることにしました。間違って喋った部分が残ってしまうのがイヤだという感じもあったのですが,そういう「潔癖主義」は捨てました。
 今週月曜日は,一般社団法人経営研究所の「人事部門責任者フォーラム」に呼んでいただき,講演をしました。「アフターコロナ後の働き方と法」というテーマですが,未来志向の私の労働法の世界をお話したつもりです。充実したコメントをいただき,私も勉強になりました。この講演は,私も参加者も全員リモートということで,最近は,この講演スタイルばかりです。この講演は夜開催でしたが,現在は,夜開催のものは体力に自信がないので,新たな依頼はお断りしています。
 8月には経済同友会の「規制・競争政策委員会」での講演を予定しており,さらに915日には,佐藤博樹さんがナビゲータをされるウェビナーで,テレワークのことを話す予定です(どちらもリモートです)。前者は会員限定ですが,後者は,参加は無料ですので,もし関心がある方は,こちらをみてください。
   こんな感じで,テレワークを実践しています。コロナの感染状況が急速に悪化するなかで,安心して仕事ができるので助かっています。

2022年7月11日 (月)

兵庫にも第7波?

 参議院選挙で自民党が大勝したことにより,今日の日経平均株価は大きく上がりました。景気対策への期待から,ということでしょうかね。岸田首相は,選挙がない黄金の3年間を手に入れたのであり,これには期待と不安が相半ばですが,これまでの実績からは,私には不安のほうがちょっと大きいです。参議院選挙後にやると先延ばしにしていたいろんな政策が,どのように実行されていくか注目です。
 当面は,コロナの第7波に向けた対策に全力で取り組んでもらいたいです。兵庫県も,斎藤知事は,第7派宣言はしていないようですが,危機感を示しています。町にでると,今月に入り,マスクをしない人が目立つにようになってきました。私も,外出時に,周りに誰もいなければマスクはしませんが,マスクをしている人が近づいてくれば,エチケットとして自分もつけますし,マスクをしていない人が近づいてくれば,予防のためにマスクをつけます。ということで,どっちにしても,あごにかけているマスクを,人が近づいてくれば鼻にまで引き上げています(マスクのおかげで,にんにくやニラを遠慮なく食べられるのは,よいことですね)。
 リモート会議に参加していると,現場にいる人はマスクをしていることが多いです。マスクをしていないリモート参加者どうしは,顔の表情がよくみえて,普通の会議となるのですが,現場の人はマスク越しで話し,表情もよくみえないので,なんとなく議論がしづらいです。私はマスクをして話すとすぐに苦しくなるので,マスクをずっとしていなければならない場には行かないようにしています。そのため,リモート会議しか参加していません。
 現在,企業も,テレワークを止めるところ,継続するところ,さらにこれに固定するところに分かれてきました。予想できたことではありますが,いつも述べているように,最後に残るのは,テレワークに対応したところでしょう。大半の会議はリモートでできるはずなのです。それでも,出勤を促すのは,対面のコミュニケーションは新しいアイデアを生みやすいというメリットがあるからだと,よく言われます。たしかに他人の話を聞くと,勉強になることは多いです。ただそれがリモートで,できないわけではないでしょう。むしろ,アイデアのわくところとは,「馬上・枕上・厠上」の「三上」であるという言葉もあります。現在では馬上はちょっと違うでしょうが,電車やバスに乗って外をみているとアイデアが湧くことがよくあります。「厠」はアイデアよりも,情報収集の場所ですね。アイデアという点では,むしろ個人のリラックスした環境が大事な気がします。コミュニケーションは情報収集の方法であり,それならリモートでもOKだと思います。
 まあ,対面とテレワークそれぞれのメリットがあるのでしょう。テレワークをするかどうか個人の選択に任せるという企業もあり,労働者としても,それが一番良いと思います。場所主権という考え方からも,在宅か出勤かの二者択一でないほうがよいです。とくに介護や育児などの家族的な負担のない人は,在宅やリモートを好きなように選択して働けたほうがよいのかもしれません。ただ,いったん家族的な負担がかかってくると,テレワークの有り難さが身にしみたものとなるでしょう。
 高校時代の3人の友人と定期的にやってきた飲み会は,20202月を最後にストップしています。少人数なのでやってもよいのかもしれませんが,でもいまのコロナの状況を考えれば,とても実施する気にはなれません。私は感染しても重篤化はしないでしょうが,他人に感染させないように行動制限がかかること自体が困ったことになります。一定の年齢になって,いろいろ社会的責任や家族的責任を担うようになると,窮屈ではありますが,できるかぎり自制せざるを得ないのです。コロナも早く治療薬が普及して,インフル並みになってほしいものです。

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