誰を信用すればよいのか
野村證券の社員が取引先の老夫婦に対する強盗殺人未遂,現住建造物等放火の罪で起訴されたという記事が出ていました。産経新聞の記事でみると,「元社員は広島支店に勤務しており,顧客だった広島市の80代の夫婦宅に放火し,現金を奪った。起訴状によると,7月28日午後5時35分~7時45分ごろ,夫婦宅で妻に睡眠作用のある薬物を服用させて昏睡状態にした上,2階寝室の押し入れにあった現金約1787万円を盗み,放火して殺害しようとしたとしている。」
もう無茶苦茶です。強盗殺人(強盗致死傷罪)は,刑法240条で,「強盗が,人を……死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する」となっていて,法定刑は死刑と無期懲役しかありません。現住建造物等放火罪は,刑法108条で,「放火して,現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物……を焼損した者は,死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する」となっていて,死刑,無期懲役または5年以上の有期懲役で,これは殺人罪(刑法199条)と同じです。強盗殺人が未遂であっても,放火のほうは既遂である可能性があり,こうなると強盗殺人が未遂でも死刑の可能性さえあるのではないでしょうか。
大学を出て,大企業に就職し,妻や子どももいるかもしれず,そうした人生を捨ててしまうほどの動機があったのでしょうか。お金はおそろしいです。闇バイトによる凶暴な強盗殺人犯とは違った意味で,ある面では,それ以上に恐ろしいところがあります。野村證券は,社員教育ができていたのかということを問われても仕方がないでしょう。社員教育というのは,信用が何よりも大切な会社では,たんに良き市民であるためのものにとどまらず,ビジネスに必須のものなのです。資産運用を考えている人の資産は,長年こつこつと貯めた貯金であったかもしれません。それを少しでも老後の資金を増やしたいということで,リスクも感じながらも投資などの運用をするのです。証券マンは,それをプロとしてサポートする仕事です。他人の人生に寄り添い,しかも他人の懐事情も知り尽くしたうえで,老後の資金を確保できるように行動することが求められているのです。信用ができない人には任せられません。
富裕層は,複雑でオーダーメイドの運用戦略を求めることが多いので,人間に頼る人が多かったと思いますが,一番大切な信頼関係が不安になってくると,やっぱりAIに任せたほうがよいと思うようになっていくかもしれません。高齢になると,「オレオレ詐欺」などもあるので,他人に騙されないように,慎重な行動がする人が多いはずです。現時点では,デジタル嫌いの人が多いので,AIに直ちに移行することはないかもしれませんが,これからの高齢層は,AIにも慣れていて,人間の関与なしに資産運用をしていくほうがよいと考える人が増えていくでしょう。ロボットアドバイザーの最大手のウェルスナビが伸びてきているのもそのためだと思われます(先日,三菱UFJの傘下に入ると発表されていましたが,これは一層の飛躍が期待されることを意味していそうです)。