宝塚歌劇団問題におもう
宝塚歌劇団の25歳の劇団員が死亡(おそらく自殺)した事件が,大きな社会問題となっています。現時点で原因として伝わってきているのは,過重業務とパワハラです。いつも言っているように,過重業務だけでは,なかなか人間は自殺まではしません(もちろん,個人の性格などもありますし,過重性の質や程度にもよります)が,パワハラが加わると,とても危険なことになります。閉鎖的な組織で上下関係に厳しいようなところでの「いじめ」問題は,組織がしっかり責任を負うべき問題だといえます。
NHKの朝ドラの「ブギウギ」でも,少女歌劇団のことがでてきますが,先輩の絶対性と修行時代の厳しさが(それほどではありませんが)描かれていました。そういう場で,少し行き過ぎた性格の人が出てくれば,パワハラが起きてしまうということもあるのでしょう。もっとも,かつてなら,世の中はそういうものだという程度の扱いで,そこを耐えなければいけないというような精神論がまかり通っていたのでしょう。しかし,いまはそういう時代ではありません。誰一人,いじめやパワハラで死ななくてもよい社会をつくらなければなりません。
今回の問題で,歌劇団側は,過重労働のことは認めましたが,パワハラの存在は認めていません。パワハラ該当性は判断は難しいので見解の相違ということが起こりがちですが,今後,徐々に真相が明らかになっていくでしょう。
ところで,宝塚歌劇団では,団員との関係は業務委託契約であったようです。労働法は契約形式に関係なく適用されるので,団員が労働者と認定される可能性もあり,もしそうなると,かなりの影響がでてきそうです。団員たちの間で労働組合の結成という話も出てくるかもしれません。また,劇団側のいう安全配慮義務は,労働契約であるかどうかに関係なく認められるものであり,もし劇団の実質的な指揮監督が強ければ,義務違反は認められやすいでしょう。さらにかりにパワハラが認められると,労働契約関係になくても,フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)により,特定業務委託事業者は,適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければなりません(14条1項3号)。つまり,業務委託契約であっても,委託者側には,一定の責任が課されているのです。
このように業務委託契約であっても,安全配慮義務はありますし,ハラスメントに関する責任も避けられませんが,問題はそこから先であり,労働基準法などの労働法や社会保険の適用まであるとなると,根本的にビジネスモデルが変わるかもしれませんね。
フリーランス新法が制定された今年,ジャニーズ問題や宝塚歌劇団の問題などがあったこともきっかけとなって,芸能人の働き方改革が進んでいくかもしれません。エンタメ業界の人も,フリーランスかどうかに関係なく,働く個人として同じなのです。従属労働かどうかで労働を分断しないほうがよいという視点が重要と指摘してきた私としても,今回の問題から,労働を提供している人は誰もが等しく(広義の)人格的利益が保護されるべきだという当然のことを,再認識できた気がしますし,こうした視点を社会にいっそう強く訴えかけていく必要があると思いました(拙著『デジタル変革後の「労働」と「法」』(2020年,日本法令)277頁では,「労働の分断」に対する疑問を述べています)。