国際政治

2024年4月 4日 (木)

パンダと政治

 神戸市立王子動物園のパンダのタンタンが亡くなりました。人間でいえば100歳くらいの高齢でした。私はそれほどパンダに関心はありませんが,パンダ好きな人は周りに多いので,その悲しみには共感しています。王子動物園は繁殖に失敗しており,神戸にはもうパンダが来ないかもしれません。

 和歌山のアドベンチャーワールドにはパンダは4頭もいて,やっぱり和歌山は中国と縁の深い政治家がいるからかと邪推したくもなりますが,そう考えると神戸にパンダがいなくなるのが癪に障ることは事実です。でも政治力という点では,引退したとはいえ,隠然たる力を発揮しそうな二階俊博氏のいる和歌山には勝てそうにありませんね。
 神戸近辺から選出の自民党議員というと,盛山氏(兵庫県第1区)か西村氏(兵庫県第9区)となるのですが,前回比例復活の盛山氏は,これだけ叩かれてしまったので,次の選挙は危ないでしょう。西村氏は1年以内に選挙があって自民党の公認がもらえなくても,選挙は盤石かもしれません(前明石市長の泉房穂氏が出馬すればわかりませんが)が,当選しても政治的な影響力は発揮できないかもしれません。ちなみに県内でも播州勢は頑張っていて,渡海紀三朗氏(兵庫県第10区)は自民党の要職(政務調査会長),松本剛明氏(兵庫県第11区)は現役の総務大臣,山口壮氏(兵庫県第12区)は前環境大臣ですが,党内で政治力が強いという感じはしません。
 ところで,二階俊博氏の先日の引退(?)会見をみると,彼はあまりにも偉いから,細々としたことは,手下の林幹雄氏に話をさせるということなのか,それとも答弁させると怪しいから,保佐人として林氏がついているのか,よくわかりませんが,いずれにしても二階氏が党内でも屈指の権力者であることに変わりはないでしょう。二階氏は,もとはといえば田中角栄の派閥にいて,その田中角栄が中国と国交正常化をすると,パンダが送られてきました(当初は無償であったようです)。二階氏は媚中派と呼ばれることもあるくらい,中国との関係はよいと言われています。田中の地位を引き継いだというところでしょうか。

 もちろん政治力をつかってパンダを神戸につれてきてほしいと言いたいわけでありません。むしろ日本人がパンダにこだわることが,中国依存につながりかねないという懸念のほうがあります。お金の面でも,パンダのレンタル料は小さくないようなので,一神戸市民としては, 集客のためのパンダという安易な方法は捨ててもらいたいです。ましてや,中国や親中派の議員に頭を下げたりしてまで,パンダに来てほしいとは思いません。白浜にまで行って,温泉のついでに,パンダをみれば十分でしょう。

 

2024年2月27日 (火)

ロシアのこと

 Putinは,ナバリヌイ(Navalny)を殺したのでしょうか。大統領戦に勝つことは疑いの余地がなく,圧勝の形をつくることも,Putinの力からすれば簡単なはずなので,わざわざ殺す必要はないように思います。日本人の感覚では,弔い合戦のようなことになると,かえって反対票が増えそうではないかと思ってしまいます。それにしても,ロシアは遠い国です。隣国ではありますが,何を考えているのか,よくわからないところがあります。Putinは,1721年に帝政ロシアを建国したピョートル大帝(英語では,Peter the Great)を意識しているという話を聞いたことがあります。ロシアを近代国家に押し上げた,あの皇帝を目指しているということでしょうか。

 ところで,このBlogで前に何度か,兵庫県淡路島出身の江戸時代の商人である高田屋嘉兵衛のことを描いた司馬遼太郎『菜の花の沖』のことに言及したことがあります。文庫で6巻本なのですが,その途中の巻で,延々とロシアの歴史のことに触れている場面があります。高田屋嘉兵衛の話のはずが,それはすっ飛ばされて,ロシアの歴史のことを書いているのです。なかでもピョートル大帝のことは詳しいです。高田屋嘉兵衛がなぜロシアに連行されたかを知るためには,ピョートル大帝から,エカテリーナ大帝(英語では,Catherine the Great)のことまでを語っておかなければならないということでしょうが,型破りの小説です。でも勉強になります。
 それはさておき,ピョートル大帝は男子に恵まれず,数少ない息子のアレクセイ(英語表記の一つが,Alexey)も,その無能ぶりもあり殺してしまいます(謀反の疑いで捕まり獄死となっていますが,大帝が撲殺したとの噂もあります)。そして男の後継者がいないなか,ピョートル大帝は急死し,なんと皇后のエカテリーナ1世(英語表記はCatherine Ⅰ)が即位します。売春婦の噂もあった人です。ここからロシアにはエカテリーナ大帝まで4人の女帝が誕生します。エカテリーナ1世のあとは,アレクセイの息子のピョートル2世(Peter Ⅱ)が即位しますが早世し,その後,ピョートル大帝の異母兄であるイヴァン(Ivan5世の娘のアンナ(Anna)が皇位につきます。しかし,ピョートル大帝直系のエカテリーナ1世の娘エリザベータ(英語表記は,Elisabeth)は,これに不満です。イバン5世の系統とピョートル大帝系統の間で,皇位継承についての女(および,そのバックにいる宮廷勢力) の戦いになりました。アンナは,エリザベータの野望を打ち砕くために,イヴァン5世のひ孫で,自分の姉の孫のイヴァン6世を誕生後にすぐに即位させるという無茶なことをしましたが,エリザベータの反乱でイヴァン6世は廃位され,その後,可哀想なことに,彼はずっと幽閉されてしまいます。そして,最後は看守に殺されてしまうのです。これでイバン5世の系統はとだえ,その後即位したエリザベータの後を継いだのは,エリザベータの姉の子のピョートル3世でした。しかし,敵国プロイセン王を崇拝しているドイツびいきの皇帝は国内では不評で,ドイツ人出身ですが,ロシア化に尽力していた皇后を支持する勢力が,ピョートル3世を廃位します(その後,殺害されます)。こうして,この皇后が即位するのですが,それがエカテリーナ大帝であったわけです。彼女の治世で,ロシアは大きく飛躍するのですが,この4人の女帝が登場するゴタゴタ騒動をみたとき,もとはいえばピョートル大帝が後継者問題をきっちりさせていなかったことが原因であったように思います。そして結局は,血筋がまったく関係していない外国人出身の女帝に皇位をゆだねることになったのです(外国の教養がある啓蒙専制君主であったことが,ロシアには良かったのでしょうが)。

 日本の皇位継承問題と結びつけるつもりはありませんが,いろいろ考えておかなければならないという教訓になるでしょう。Putinの話から,思わぬ方向に脱線してしまいました。

 

 

2024年1月26日 (金)

アメリカの民主主義の劣化

 昨日の日本経済新聞の「グローバルオピニオン」で,米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー(Ian Bremmer)氏の「大統領戦で悪化する米民主主義」という記事は,「もしトラ」(もしもTrumpが大統領に再任されたら)のあとの悲観的シナリオが書かれていました。   「米国の軍事力と経済力は極めて強いままだが,米政治システムの機能不全は先進民主主義国の中で最もひどい。そして,今年はそれがさらに悪化するだろう。」
「米政治システムの正統性が低下している。議会,司法,メディアといった中核となる機関に対する国民の信頼は歴史的な低水準にあり,党派間の対立が非常に激しい。さらに,アルゴリズムによって増幅された偽情報が加わり,米国人はもはや国家と世界に関する共通の確定事実があるとは信じられなくなっている。」
 こうしたアメリカにおいて,共和党の候補となる可能性が高まっているのがTrump。さすがにTrump再選はもうないだろうと思っていましたが,アメリカもきわめて深刻な人材不足で,Haley氏に頑張ってもらうしかない状況です。
 民主党のほうも,超高齢者のBidenであり,かりに体力的に問題はなくても,認知機能の低下は避けられず,そうした人物が核ボタンをもつというのは,Trumpがそれをもつのとは違う意味で怖しいです(Trumpもまたかなりの高齢者です)。
 アメリカは,連邦レベルでは,あまりにも巨大な国になり,多様な人を抱え込みすぎて,これを統合して率いることができるような人材がいなくなってきているのかもしれません。
 軍事力と経済力は強くても,統治は国民の分断で機能不全となりつつあり,国際的な場では,国内基盤が脆弱で信用のおけない国として,そのステイタスは低下することになるでしょう。アメリカは,ロシアや中国とは違うという先進国の認識は改められることになるでしょう。
 Bremmer氏も,「米国はすでに世界の先進民主主義国家で最も分裂しており、機能不全に陥っている。11月の選挙は誰が勝っても、この問題を悪化させることは間違いない。」と述べています。
 日本では,Trumpが復活したときに備えなければなりませんが,「猛獣使い」の妙技を駆使した安倍元首相のような政治家は,なかなか現れないでしょう。岸田首相が「私がやる」としゃしゃり出て,いろんな要求を飲み込まされてしまうことは避けてもらいたいです。
 次の大統領が選ばれる前に,日本の政治体制も再建し,BidenTrumpのどちらが再選されてもしっかり対応できる陣営で臨んでもらいたいです。

2023年12月 3日 (日)

キッシンジャー

 キッシンジャー(Henry Alfred Kissinger)が100歳で亡くなりました。アメリカの最も有名な外交官といってよいでしょう。日本の頭越しで中国との国交正常化を樹立するなど,日本にも多大な影響をもたらしたアメリカ人です(Wikipediaによるとドイツ系ユダヤ人で,ナチスを嫌って渡米して帰化)。
 たまたま高橋和夫さんの『なるほどそうだったのか!? パレスチナとイスラエル』(幻冬舎)を読んでいたのですが,そこでも彼の名前が出てきました。戦後徐々にアメリカ人にとってお荷物となりかけていたイスラエル(Israel)の存在意義を認識させることにキッシンジャーは貢献したというのです。1970年のヨルダン内戦のとき,パレスチナ(Palestina)とシリア(Syria)連合に対して劣勢に立たされていたヨルダン(Jordan)側に,ヨルダン王制の存続を望んでいたアメリカが,ヴェトナム(Vietnam)戦争などの影響による国内情勢から,直接派兵しづらい状況のなかで,イスラエルに援助を頼み,結果としてシリアは撤退し,ヨルダン・イスラエル連合が勝ったということがありました。このときにイスラエルを参戦させるために尽力したのが,当時ニクソン(Nixon)政権の特別補佐官であったキッシンジャーだというのです。この人はほんとうに歴史の重要な局面で顔を出してくる感じがしますが,その評価は難しいところでしょう。なお,田原総一朗氏が語っている,キッシンジャーの原爆容認発言は,日本としてはとうてい承服できないものです(田原総一朗 × オリバー・ストーン & ピーター・カズニック「武力介入は失敗するという歴史をなぜアメリカは繰り返すのか」)。日本人でも元防衛大臣久間章生氏のように,同様の容認発言をする人もいるのですが……。
 前記の高橋さんの本は,なぜイスラエルはアメリカに影響力をもっているのか,なぜアメリカはイスラエルの肩をもつのかについて,とてもわかりやすく説明してくれています。この点だけでなく,パレスチナとイスラエルの紛争の根源はどこにあったのか,という点も説明してくれています。高橋さんは,宗教問題ではないと断言します。問題は19世紀末から起きたものなのです。背景にあるのは,民族主義,帝国主義,社会主義であるというのが高橋さんの主張です。ここはとても重要と思うので,ぜひ実際に読んでみてください。
 イギリスらがオスマントルコを滅ぼすまでは,エルサレム(Jerusalem)はいろんな民族が平和的に共存していました。ところが,欧州由来の民族主義,そして欧州のキリスト教徒によるユダヤ人の迫害(Holocaustがその頂点),さらにイギリスの三枚舌外交などが重なって,ユダヤ人のシオニズム(Zionism)に火をつけ,結果として,いわば母国といえるエルサレムへの帰還を促進することになり,そしてそこに長年住んでいたパレスチナ人に犠牲を強いることになったのです。欧州の責任は,あまりにも大きいでしょう。そのほかにも,エジプトの役割や,なぜノルウェー(Norway)が紛争調整に貢献できているのかということも,本書では説明されています。そして上記のアメリカとイスラエルの関係がでてきます。大統領選挙が近づく中,ユダヤ票を無視できない民主党のBidenがとるべき政策はわかりやすくなります。アメリカが,現在の中東問題にこれからどう関与するのかを,日本もよくみながら,アメリカ特有の事情に左右されず,独自の外交を貫いてもらいたいと思います。高橋さんはノルウェーが,イスラエルとの良好な関係を築きながら,ハマス(Hamas)とも人脈があるという強みがあり,日本もノルウェーを参考にすればどうかということを,最近でもTVなどで語っています。
 高橋さんの本は,2015年刊行ですが,いまの問題を考える際にも必読の書だと思います。

 

2023年7月 9日 (日)

政治人材の枯渇

 ダイヤモンド・オンラインで,ジャーナリストの清水克彦氏の「米大統領選は『失言製造機vs暴言王』が濃厚,見るに堪えない“醜悪な戦い”に」という記事を読みました。確かに,Bidenの失言はひどく,このままだと,暴言王のTrumpと失言王のBidenという超高齢の候補者どうしの大統領戦ということになり,アメリカってそれほど人材がいなのかと言いたくなります。この記事では,「筆者も日頃,日本の政治を,『見るに堪えない。もっと生きのいい政治家はいないのか』と思いながら取材しているが,バイデン氏とトランプ氏の泥仕合を想像すると,『まだアメリカよりはマシか…』と思ってしまうのである」という文章で締められています。
 ただ,ふと思うのは失言とされている「私が説得し日本は防衛費を増やした」は,ほんとうに失言だったのでしょうかね。首相を大統領と呼んだり,意味不明の「女王陛下,万歳!」と言ったりするのは,前者は,そもそも外国の首脳の肩書など何とも思っていないということで(これはこれで外交儀礼上問題ではあるのですが),後者は,記憶の混戦によるもので,それ自体は困ったものではあるものの,高齢者にはありがちであるのに対して,防衛費問題は妙に具体的で,失言とは思えないのです。あえて自分の手柄とするために事実でないことを発言した可能性もありますが,それよりも実際にそうであったが,confidentialであったものを語ったという意味での失言であったかもしれません。日本の外交政策がアメリカ寄りすぎて,岸田首相はアメリカの「ポチ」だという指摘は前からあって,その真偽はわかりませんが,超高齢者Bidenのいつもの失言(事実ではないことを言ったという意味での失言)だということで片付けてよいでしょうか。
 岸田首相が一連の外交政策でやってきたのは,西側陣営の一員としてウクライナの徹底支援をすることや,ロシアと中国を敵視し,ロシアの日本侵攻や台湾有事の危険性をあおって防衛費を増強してアメリカに満足してもらうことのようにみえます。これだけの対米追従をしたおかげで,アメリカ訪問時には厚遇され,またサミットではBiden訪日を実現させることができ(債務上限問題で議会対応に追われていたにもかかわらず,他の予定はキャンセルしたが,広島サミットだけには参加した),岸田首相は大満足だったでしょうが,国益にかなっているのかは,よくわかりません。グローバルサウス(global south)がやっているような,したたかな外交を願うのは無理なのでしょうかね。
 たしかに日本の政治状況は,アメリカよりはマシのような気がしますが,岸田首相がもし暴走しているのだとすれば,よりおそろしいことが起こっていることになるかもしれません。そうでないことを祈るばかりです。
 

2023年5月23日 (火)

広島サミットは成果あり?

 広島のG7サミットは,G7の結束を再確認し,グローバルサウス(Global south)の国々も招いて世界各国間の協調を示したという点では成果があったという評価もできそうです。ロシアと中国を仲間はずれにした(分断した)という点では,協調という点を強調するのはどうかという気もしますが,G7側の論理は,ロシアはウクライナ侵攻を引き起こした極悪国なので協調の対象に入れることはできないのは当然であり,中国もその味方だから同様ということなのでしょう。もっとも中国については,アメリカの覇権争いに気を遣っただけで,実際には,フランスなど欧州とアメリカとは対中政策に温度差があり,また地政学的な状況がかなり異なる日本もアメリカとまったく同一歩調をとることができるわけではありません。
 いずれにせよG7の主役はゼレンスキ(Zelensky)でした。後からやってきて主役の地位をかっさらっていきました。彼は,メディア戦略が上手であり,行動力もあり,また元俳優だけあって話術も巧みです。世界中を飛び回り,支持をとりつけて,あの大国ロシアと互角に戦っているのは見事としか言えません。世界にはウクライナ以外にも戦争で苦しんでいる国や人々もいるのですが,ウクライナだけに目を向けさせる腕はすごいです。そして,G7からの具体的な協力を引き出し,またインドやインドネシアなどのアジアの大国ともコネクションをつけるなど,その行動力と決定力もまたすごいです。ゼレンスキの来日は,警備問題などを考えれば,普通ならとても受け入れられないようなものです(日本国民を危機にさらすおそれもありました)が,もはや日本政府に拒否する手はなかったのでしょうね。ただ日本人としてはちょっと複雑な気持ちではあります。広島とハブムトと似ていると述べるなど,彼はそう思ったのかもしれませんが,広島をうまく利用されてしまったような気がしないわけではありません。サミットでは日本の外交力を示したと言われていますが,最も外交力を発揮したのはゼレンスキであったことは間違いないですね。
 ただ戦争中の国の大統領が必死になって,利用できるものは何でも利用するという行動に出るのは理解できないわけではありません。実は,日本の首相もまた,広島をうまく利用しただけではないかと思えるところがあります。G7首脳による平和記念資料館に訪問した際の記帳の文面が公開されています(https://www.mofa.go.jp/mofaj/ms/g7hs_s/page1_001692.html)。岸田首相の記帳文は,「歴史に残るG7サミットの機会に議長として各国首脳と共に『核兵器のない世界』をめざすためにここに集う」です。ここには世界の首脳を側において議長として仕切っている高揚感だけが表れているようです(意地悪な見方でしょうか?)。原爆で亡くなった人に対する思いは込められていないように思えます。他国の首脳は,言葉だけかもしれないものの,きちんとそうした思いを伝えてくれています。とくにカナダ,フランス,イギリスの首相は犠牲者にも明確に言及しています。なぜ日本の首相は,上記のようなことしか書けなかったのでしょうか。このサミットで,核兵器なき世界に向けた力強い一歩を踏み出せたといえるのでしょうか。ロシアを牽制しただけで十分というのであれば,広島の人の気持ちをふみにじることになるでしょう。
 首相の個人的な政治的野心に利用された広島サミット,ということにならないようにするためには,これから彼が核廃絶に向けてどのように具体的に行動していくかが問われることになります。

2023年1月14日 (土)

円滑化協定

 岸田首相は,今回の外遊中,イギリスとの間で,「円滑化協定」を締結しました。「円滑化」とはなんぞやと思い,調べてみると,これは「facilitation」の訳でした。何を「facilitation」するのかというと,この協定の略称は,「日英部隊間協力円滑化協定」であることからわかるように,「部隊間の協力」の円滑化です。「部隊」とは何かというと,これはこの協定の正式名称をみればわかります。正式名称は,「日本国の自衛隊とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の軍隊との間における相互のアクセス及び協力の円滑化に関する日本国とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国との間の協定」です。実質的には,軍事協定ということです(自衛隊を軍隊と呼ぶかは議論がありますが,他国からは軍隊とみられているでしょう)。同様の協定は,すでにオーストラリアとの間でも結ばれています。この協定はRAAと略称されることもありますが,それは「Reciprocal Access Agreement」の略称であり,「相互アクセス協定」という訳になるでしょう。「日英軍事相互アクセス協定」くらいの呼び方をすべきで,「円滑化協定」という「無色」な略称を使うのは,何らかの政治的意図を感じてしまいます。
 ウクライナ戦争や中国・台湾問題などから,日本の安全保障をめぐる状況は大きく変わりつつあるということですが,岸田政権の軍備増強への前のめりの姿勢には不安がないわけではありません。平和ボケと言われるかもしれませんが,日本がG7の一員でいることの意義は,アジアの国であることにあるのであり,西洋的な価値観にすり寄り,それに迎合するだけでは日本の存在意義はありません。たんにアメリカの対中国戦略の駒になりさがるだけです。日本の置かれている地政学上の位置を十分に踏まえ,日本ならではの戦略を提示していくべきだと思います。それは直ちに中国融和策や親中政策をとるべきということではないのですが,軍拡競争に乗ってしまうのには,どうしても抵抗があるのです。タモリの「新しい戦前」発言が話題になっています。彼の真意はよくわかりませんが,感覚的にはよくわかります。だから具体的にどうすべきかは,私もよくわからないのですが,ただ岸田政権が,どこまで深く考えて軍拡路線に走っているのかが,これまで他の分野で地に足のついた政策を展開してこなかっただけに気がかりなのです。安全保障問題を正面にかかげて総選挙をしたほうがよいかもしれませんね。

2022年11月12日 (土)

アメリカの中間選挙に思う

 共和党と民主党の二つの政党だけの戦いであれば,どちらが多数かはすぐにわかりそうなものですが,例えばGeorgia州では,第3の党であるリバタリアン党の候補者がたった2%ほどの票を得ただけで,民主・共和のどちらの政党の候補者も50%を超えることができず,約1ヶ月後における両党候補者の決選投票となりました。これが実は上院の多数派(民主党が50をとるかどうか)を決める意味をもっているのです。
 しかし,これだけ民意が分断され,まさに50%すれすれのところで争われ,そこを少しでも超えた政党が勝つというのでは,政治がとても不安定なものとなるでしょう。もちろん欧州のように多数の政党が分立して,どことどこが組むかによって政権が変わるというのも不安定です。どちらがよいのかはよくわかりません。しかし,何と言ってもアメリカは,世界の大国です。この国の政治の混迷は,憂うべきことです。
 他の先進国をみても,イギリスは,初のアジア系で,しかも若く,かつ超エリートの首相が誕生しましたが,保守党自体が次の選挙で労働党に負けそうです。フランスもMacron大統領の支持基盤は脆弱ですし,ドイツのScholz首相は,G7の外相会議を国内で開催している途中に,中国を訪問して経済面で頭を下げに言っている(?)という無節操な行動で,世界中にその弱腰ぶりさらしたように思います。もちろん日本の首相も,国内でのリーダーシップに問題があり,その能力に大きな疑問がでています。そのなかで中国の習近平の安定ぶりが際立ってしまいます。
 ちょうどエジプトでCOP27が開催されていましたが,環境問題は世界中の国が考えて取り組まなければならないことです。とくに環境汚染をしてきた先進国では,エゴを捨てて世界のこと,将来世代のことを考えるリーダーが出てこなければなりません。しかし,どの民主主義国もリーダー選びでは環境問題が主要な争点になっていません。民主主義は,各国の正統なリーダーを選びますが,地球規模でみると望ましいリーダーを選ぶことができないシステムなのかもしれません。だからといって,中国のようになればよいとも言えません。世界を良い方向に導く独裁者がいればよいのですが,そういうものを望むことがとても危険であるというのが歴史の教えなのでしょう。

2022年10月16日 (日)

イタリア政治は実験場

 1014日の日本経済新聞の経済教室において,Giuliano da Empoli氏の「イタリアにみる欧州政治の変遷」というタイトルの論考が掲載されていました。先般の国政選挙のFdI(イタリアの同胞)Meloniの勝利をどうとらえるかは,単にイタリアウォッチャーだけでなく,世界の政治の動きに関心のある人たちにとっても注目でしょう。この論考で書かれていたように,イタリアの政治というのは,欧州の政治思想の実験場のようなところがあるのです。
 そこで紹介されていた「テクノ型国家主権主義者」というのも興味深いです。このような勢力が誕生してきて,記事では,「FDIを率いるメローニ氏の総選挙での勝利は,その最初の表れだ。これは,EUのテクノクラート的な論理と北大西洋条約機構(NATO)の地政学的な枠組みを容認する一方で,ナショナリズム型ポピュリストである指導者たちが旗印とする極めて保守的な価値観や「伝統的かつキリスト教徒的な欧州」の保護を訴えるという新たな政治形態だ」と説明されています。国家主義者イコール反EUではないのは新しい現象なのでしょうね。
 イタリアにとってEUはこれまで少し鬱陶しい存在ではありましたが,EUの存在の恩恵も大きいのであり,純粋に国益を考えると,EUシンパでなくてはおかしいはずです。実際には多くのイタリア人は,EUあってのイタリアとわかっていると思います。私ぐらいの世代から上のイタリア人は, EUによる統合に複雑な思いをしている人も少なくないと思いますが,徐々にそういう人の割合は減少してきているでしょう。それに30年くらい前のイタリアでは,国家主義的な動きは,ファシズムを想起させ,インテリを中心に嫌悪の対象そのものでしたが,戦後80年近く経って,そのような感覚をもたない人が増えてきているはずです。
 そのようななかで,既存の政治に対する不満の受け皿として,MeloniFdIのような極右政党が支持を増やすことになるのは理解できないではありません。しかし前に(919日),同じ経済教室で網谷龍介さんが書いていたように,伝統的な政党の存在意義を軽視してはならないでしょう。網谷さんは「異論の出ない腐敗根絶などの争点や指導者の魅力のみを訴えるようになれば,自分の選好に近い政党の選択も難しくなる」と書いており,ポピュリズム政党の登場は,民主主義にとって有害であることを示唆しています。身近なテーマは,誰でも提示することができ, 弁舌さえ巧みにできればある程度の支持を得ることができます。しかしこうした新党が本格的な国の政策を体系的に展開できるかというと,それは期待薄です。やはり経験のある人材の豊富な旧来型の政党でなければ信用できないという面もあります。FdIがこれからどのようになっていくのか。イタリアはEUの主要国であるだけでなく,G7の一員でもあります。国際的な舞台に,イタリアの首相は出ていかなければなりません。狭量な国家主義ではなく,国際舞台にも通用する普遍的な政治信念や価値観をもつ必要があります(岸田首相にこれがあるかわかりませんが)。ただ,現在は新たな「テクノ型国家主権主義者」的な価値観が普遍性をもとうとしている可能性もあります。FdIの今後はイタリアや欧州の政治にとどまらず,日本の政治の今後を占ううえでも参考になることがあるでしょう。

2022年9月27日 (火)

イタリアで女性首相誕生へ

 イタリアでは925日に国政選挙(Elezioni politiche)が行われ, Giorgia Meloni率いるFdI(イタリアの同胞),Salvini率いるLega(同盟),Berlusconi率いるFiForza Italia)ら中道右派(Centrodestra)が地滑り的大勝利となりました。イタリアの国会議員は,定数削減で上下院あわせて,以前の950から600になっています。上院(Senato)は200議席,下院(Camera dei deputati)は400議席です。中道右派は上院で115議席,下院で237議席,中道左派は上院で44議席,下院で85議席でした。ここまで中道右派が大勝するとは予想外でした。政党別では,FdIが,上院で66議席,下院で119議席で,どちらも第一党。Legaが上院で29議席,下院で67議席,Fiが上院で18議席,下院で44議席です。中道左派(Centrosinistra)のPd(民主党)は,上院40議席,下院69議席です。どちらにも属さないM5SMovimento 5 Stelle:五つ星運動)は,上院28議席,下院58議席です。
 第1党のFdIMeloniが首相に指名される可能性が高そうです。Draghi政権は挙国一致内閣でしたが,そこに主要政党で唯一参加していなかったFdIは,Draghi政権への批判を受け止めたという感じです。批判というのは,基本的には物価高ということでしょう。親欧州はイタリアにとってよくないという主張も,人々にかなり浸透しました。もちろん,FdIは,4分の1の支持を得たにすぎませんが,もともとは5%くらいであったので,飛躍的な上昇です。Meloniは,わかりやすくイタリア・ファーストを唱えました。既存政党への批判も訴えました。イタリアでは,いまでも「左(sinistra)」という言葉が政治家の間で使われています。日本では,たとえば保守系の政治家が,あの政党は「左」だからダメだというような言い方はあまりしないと思いますが,イタリアでは「左」「右」という言葉がまだよく使われています。とはいえ,政策において,もはや右と左の区別はよくわからなくなってきています。右のMeloniですが,よくある財政バラマキ的な政策を訴えています。一方,欧州との関係をどうするかはわかりませんが,連立を組むことになるLegaFiの親ロシア的な立場は,欧州との関係を難しくするでしょう。その他の経済政策も未知数ですが,イタリア経済がメチャクチャになる可能性は十分にあります。それでも,現状に不満がある人たちは,新しい可能性に賭けたのでしょう。女性であり,スピーチはわかりやすく,人を引きつける魅力は十分にあります。Mussolini支持者である(あった)ことなど,若い層にはあまり関係ないのでしょう。もちろんインテリたちは頭を抱えているでしょう。それが目に浮かぶようです。それでもコロナにおいて多くの死者を出し,人口構成が変わるほどの深刻な打撃を受けたイタリアでは,国民は解体的な出直しを求めているのかもしれません。現在の経済的苦境を乗り越えるには,左であるPdには無理であるというのがイタリア国民の評価なのでしょう。イタリアでも,コアなは左派支持者はいますが,それは20%くらいで,そこからなかなか増えそうにありません。
 前回の選挙で第一党であったM5Sは,今回でも第3党の地位をキープしています。M5Sになお一定の支持が集まり,いまや古い政党になりつつあるLegaが大きく得票率を減らしたのも,新しいものを求めるイタリア国民の気持ちを示しているような気がします。
 もちろん今回のMeloni人気も,あっという間に冷めてしまう可能性はあります。イタリアの政治情勢は,不透明だと言うべきでしょう。いずれにせよ,Trumpのときのアメリカと同様,イタリアでも自国民ファーストという政治家が出てきて,移民に厳しい政策を唱え,反民主主義的な勢力とも,実利で手を組むようなことになりそうなので,当分はイタリアの政治も困った状況が続くかもしれません。ただ彼女は左派政党は批判しますが,国民には分断ではなく,団結を求めているところは,まだ救いがある気もします。ひょっとしたら,より危険なのは,彼女が頼りにするはずのBerlusconiやSalvini らが,何かしでかすのではないか,ということです(Berlusconiの手がMeloniの肩や腕をやたらと触っているようにみえるのは,私の気のせいでしょうか)。