国際政治

2024年7月21日 (日)

政治家の信念

 政治家の信念などは,あまり当てになりません。実際,特定の思想や価値観に凝り固まっている人は選挙には通りにくいかもしれません。ではTrumpはどうでしょうか。日本経済新聞7月20日(電子版)の西村博之氏の「流転のトランプ党どこへ」とう記事のなかにあった,Trump現象について,「信号がある周波数にダイヤルを合わせるように,党員や社会の不満を探り当て,増幅して声にした。これに多くの人々が共感し支持が広がった。」と書かれていて,なるほどと思いました。日本の政治家も,社会の不満の声を探り,それを増幅して政策に反映させるということを,大なり小なりやってきたのでしょう。そこでの不満の取り上げ方に,本人や所属政党の価値観や思想が影響することはあるのでしょうが,基本的にはそういうことに関係なく,いま目の前に社会の不満があり,それを増幅して票がとれそうなら,政治家はとびつくのでしょう。
 この記事では,アメリカの共和党と民主党の政策がいかに変遷してきたかを説明しています。党是など,あってないようなものです。西村氏は,「政党に揺るぎない価値観の軸があるとの幻想は捨てるべきだろう。」と述べています。
 では,党がそうであったとして,国民はどうでしょうか。記事では,Trump支持層の根っこにある価値観として,「セキュリタリアン」というものがあるということが,アメリカの政治学者の言葉として紹介されています。「Security」をその他の価値よりも優先するという意味であり,記事のなかでも,「『安全を最優先する』との意味で,自らの家族や文化集団を,移民や外国人,異教徒,非白人,性的少数者ら『よそ者』から守るとの使命感を指す」と定義されています。MAGAの根底にあるのは,「よそ者」への恐怖なのでしょう。安全には,物理的安全だけでなく,経済的安全,文化的安全なども含まれているはずです。誰でも安全は大切です。政府の使命は,国民の安全を守ることです。とはいえ,安全を守るための戦略は,排外主義ではないというのが,歴史の教訓です。そうした教訓にどれだけ学ぶかにより,民主党支持かTrump支持かに分かれるのかもしれません。
 Trump支持者がsecuritarian であっても,Trumpがそうであるかはわかりません。彼は大統領になるために,「周波数」を探していたのであり,どんなものでも,増幅可能であれば採り入れるのです。そして,いまMAGAがこれだけの勢力になると,今度は支持者層が減らないようにするために必要なのは,彼ら,彼女らが,過去の教訓などを冷静に考えて,排外主義的なsecuritarian に疑問をもつことにならないよう,徹底した洗脳を繰り返すことなのでしょう。熱狂的な集会(参加者の異常な高揚感),絶え間ないSNSでの発信,そして対立候補の悪魔化(demonization)など理性を鈍麻させる攻撃がそれです。
 これは民主主義の怖さです。日本でも,同じようなことが起こらないとは限りません。Trumpが,ロックではなく,クラシック音楽がBGMとして流れる小さな部屋で,少人数の支持者に対して,民主党の政策の批判ではなく,自身の政策の利点を語るというようなことをすれば,どれだけの人が支持するでしょうか。
  そう考えると,投票はオンラインでやるべきだと思っていますが,本人の政治的心情は,むしろ対面型の少人数集会でやってくれたほうがよく理解できるかもしれません。私は日本の政治家が地元の支持者周りをすることを否定的にみていましたが,少し考え直す必要があるのかも,という気持ちになってきました(もちろん冠婚葬祭に顔を出すだけの地元周りなどに意義を認めることはまったくできませんが)。

2024年7月14日 (日)

王がいない国で王になる?

 アメリカの連邦最高裁判所は,アメリカの大統領の職務上の公的行為について免責されるとする判例に基づき,Trump氏に対して起訴された犯罪について,免責特権が適用されないとした控訴審判決を,6対3で覆して,Trump氏の行為が公的行為であったかどうかを審査するよう差し戻したそうです。連邦最高裁は,Trumpが大統領時代に保守系の裁判官を3名任命したこともあり9人中6人が保守系となっています。リベラル派の支柱であったGinsburg判事の死去により,リベラル派の判事が保守派の判事に入れ替わった影響は大きいでしょう。
 Trumpの訴追可能性については,アメリカ法に詳しい人に教えてもらいたいのですが,それはともかく,大統領が免責特権をもつことは,大統領を司法よりも,民主主義の統制に服せしめることを重視するという観点からは理解できないことではありません。しかし,Bidenが言ったとされるように,今回の判決が,大統領が国王のような権力をもつことになりかねないとする指摘は気になるところです。今回の銃撃事件の背景的事情と言えるかもしれません。
  民主的な選挙で選ばれたとしても,暴走の危険があります。かつての王政は,その暴走があったことから革命が起きて,共和政に移行した経緯があります。共和政では,民主的なプロセスで選ばれた大統領や首相が執行権を握りますが,王政の反省から,三権分立が導入されます。司法や立法により,どの程度,大統領の権限を抑制するかは,歴史的な経緯もあって国それぞれの特徴がありますが,核保有国の大統領が,敗北を受け入れず,選挙結果を覆そうとしたという嫌疑についても免責特権が適用されるというのは,権力分立のバランスが危なくなっていないでしょうか。 
 イギリスのように国王がいる国では,国王に政治的な権力がなかったとしても,首相がどんなに力を得ても,暴走する権力者となるおそれは小さいでしょう。日本は,天皇がいますが,安倍政権時代は,その権力志向からか天皇を比較的軽く扱っているように思えたこともありました。日本の権力者にとっては,天皇の政治利用は禁じられていても,やりたい誘惑にかられるところでしょうし,同時に,天皇や皇族がスキャンダルで弱体化することは,政治家にとって悪いことではないかもしれません。ただ政治家がいくら頑張っても,王や天皇がいる国では,最高権力者になることは難しいでしょう。ところが,アメリカやフランスなどの国では,民主的なプロセスだけで最高権力者になれるのです。ここが恐ろしいところです。王や天皇のような非民主的な存在は,民主主義の観点からは,たとえ彼ら・彼女らが政治的権力がなくても,原理的におさまりが悪いものとなるのですが,アメリカにみられるような民主主義の実質が大きく揺らぎつつあるところでは,かえって王がいる国のほうが歯止めになってよいような気がします。民主的なプロセスで王の権力を得るということがないようにすることが,重要です。だからと言って暴力でそれを阻止してはいけないのですが。

2024年6月15日 (土)

PugliaサミットとMeloni首相

 日本では,今回のG7サミットは,プーリア・サミットと呼ばれています。プーリアはPugliaと書いて,「リ」は「li」でも「ri」でもない「gli」で,日本人には発音が難しい言葉です。
 ところで,イタリア国内はいろんな町に行ったつもりではありますが,Puglia州は,BariとLecceくらいで,その他のところには行っていません。今回サミットが開催されたホテルは,Borgo Egnaziaというホテルで,初めてその名前を知りました。アドリア海(Mar Adriatico)に面しているリゾート地のようですね。ホテルのあるPugliaは州(Regione)の名前で,県(provincia)の名前でいえばBrindisi,市町村(comune)の名前でいえばFasanoです。まあFasanoサミットと呼んでもよいかもしれません。場所は,Pugliaの州都のBariとBrindisiのちょうど中間にあります。
 Bariは,イタリア労働法の大物であったGino Gigni が教えていたこともあるBari大学があり,山口浩一郎先生の親友のBruno Veneziani 教授もいました。私も山口先生の紹介でBrunoに会いにBari大学に行ったことがありますし,Brunoには日本で講演をしてもらったこともあります。ということで,Bariには縁があります。Brindisiは降りたことはありませんが,移民が流れ着く港のある町として有名です。
 今回のサミットで,Giorgia Meloni イタリア首相は,開会挨拶(discorso d’apertura)で,サミットの場所をここにしたのは偶然ではないと言っています。南部(sud)の州を選んだのは,グローバルサウス(sud globale)の国々との対話をしたいというG7議長国としてのイタリアのメッセージが込められているとし,またこの場所は,西洋と東洋の架け橋となるところであり,大西洋とインド太平洋とを結ぶ中間にある地中海の中心場所という意味もあると述べています。排外的な主張をする極右政治家とはまったく違う,まさにG7の議長国にふさわしい世界情勢を視野に入れた政治家という姿を見せようとしていたと思います。
 ところで昨日の日本経済新聞で,「メローニ伊首相,欧州の「陰の権力者」に  保守束ねEUで発言力」というタイトルの記事が出ていました。たしかに,Meloniが率いる「イタリアの同胞(Fratelli d‘Italia)」はサミット直前にあった欧州議会選挙でイタリアに割り当てられている76議席のなかで最も多い24議席を獲得しました(得票率は28.8パーセント)。また,Meloniが率いる欧州議会内の欧州保守改革党(ECR)は,第4勢力に躍進しました(720議席のうち76議席)。このほかは,中道右派の最大グループで,EU委員長のvon der Leyenが率いる欧州人民党(EPP)が190議席のトップで,イタリアの同盟(Lega)やフランスのLe Penが属する国民連合(Rassemblement National)などが参加するID(アイデンティティと民主主義グループ)は58議席を獲得しています。Meloniは,経歴からすると,極右と呼ばれても仕方がないのですが,首相になってからは,欧州と歩調を合わせて,現実的な政策をとり,保守勢力をうまくとりこんでおり,日経の記事に書かれているように,今後,EU内でも影響力を高める可能性(ある立場からは危険性)があります。今回の堂々たる演説からもわかるように,欧州を率いるような大政治家に化けるかもしれません。最近のイタリアの政治情勢をきちんとフォローしていているわけではありませんが,少なくとも今回出席した首脳のなかで,彼女が今後最も長くサミットに参加しそうな人ではないかと思いました。

2024年4月 4日 (木)

パンダと政治

 神戸市立王子動物園のパンダのタンタンが亡くなりました。人間でいえば100歳くらいの高齢でした。私はそれほどパンダに関心はありませんが,パンダ好きな人は周りに多いので,その悲しみには共感しています。王子動物園は繁殖に失敗しており,神戸にはもうパンダが来ないかもしれません。

 和歌山のアドベンチャーワールドにはパンダは4頭もいて,やっぱり和歌山は中国と縁の深い政治家がいるからかと邪推したくもなりますが,そう考えると神戸にパンダがいなくなるのが癪に障ることは事実です。でも政治力という点では,引退したとはいえ,隠然たる力を発揮しそうな二階俊博氏のいる和歌山には勝てそうにありませんね。
 神戸近辺から選出の自民党議員というと,盛山氏(兵庫県第1区)か西村氏(兵庫県第9区)となるのですが,前回比例復活の盛山氏は,これだけ叩かれてしまったので,次の選挙は危ないでしょう。西村氏は1年以内に選挙があって自民党の公認がもらえなくても,選挙は盤石かもしれません(前明石市長の泉房穂氏が出馬すればわかりませんが)が,当選しても政治的な影響力は発揮できないかもしれません。ちなみに県内でも播州勢は頑張っていて,渡海紀三朗氏(兵庫県第10区)は自民党の要職(政務調査会長),松本剛明氏(兵庫県第11区)は現役の総務大臣,山口壮氏(兵庫県第12区)は前環境大臣ですが,党内で政治力が強いという感じはしません。
 ところで,二階俊博氏の先日の引退(?)会見をみると,彼はあまりにも偉いから,細々としたことは,手下の林幹雄氏に話をさせるということなのか,それとも答弁させると怪しいから,保佐人として林氏がついているのか,よくわかりませんが,いずれにしても二階氏が党内でも屈指の権力者であることに変わりはないでしょう。二階氏は,もとはといえば田中角栄の派閥にいて,その田中角栄が中国と国交正常化をすると,パンダが送られてきました(当初は無償であったようです)。二階氏は媚中派と呼ばれることもあるくらい,中国との関係はよいと言われています。田中の地位を引き継いだというところでしょうか。

 もちろん政治力をつかってパンダを神戸につれてきてほしいと言いたいわけでありません。むしろ日本人がパンダにこだわることが,中国依存につながりかねないという懸念のほうがあります。お金の面でも,パンダのレンタル料は小さくないようなので,一神戸市民としては, 集客のためのパンダという安易な方法は捨ててもらいたいです。ましてや,中国や親中派の議員に頭を下げたりしてまで,パンダに来てほしいとは思いません。白浜にまで行って,温泉のついでに,パンダをみれば十分でしょう。

 

2024年2月27日 (火)

ロシアのこと

 Putinは,ナバリヌイ(Navalny)を殺したのでしょうか。大統領戦に勝つことは疑いの余地がなく,圧勝の形をつくることも,Putinの力からすれば簡単なはずなので,わざわざ殺す必要はないように思います。日本人の感覚では,弔い合戦のようなことになると,かえって反対票が増えそうではないかと思ってしまいます。それにしても,ロシアは遠い国です。隣国ではありますが,何を考えているのか,よくわからないところがあります。Putinは,1721年に帝政ロシアを建国したピョートル大帝(英語では,Peter the Great)を意識しているという話を聞いたことがあります。ロシアを近代国家に押し上げた,あの皇帝を目指しているということでしょうか。

 ところで,このBlogで前に何度か,兵庫県淡路島出身の江戸時代の商人である高田屋嘉兵衛のことを描いた司馬遼太郎『菜の花の沖』のことに言及したことがあります。文庫で6巻本なのですが,その途中の巻で,延々とロシアの歴史のことに触れている場面があります。高田屋嘉兵衛の話のはずが,それはすっ飛ばされて,ロシアの歴史のことを書いているのです。なかでもピョートル大帝のことは詳しいです。高田屋嘉兵衛がなぜロシアに連行されたかを知るためには,ピョートル大帝から,エカテリーナ大帝(英語では,Catherine the Great)のことまでを語っておかなければならないということでしょうが,型破りの小説です。でも勉強になります。
 それはさておき,ピョートル大帝は男子に恵まれず,数少ない息子のアレクセイ(英語表記の一つが,Alexey)も,その無能ぶりもあり殺してしまいます(謀反の疑いで捕まり獄死となっていますが,大帝が撲殺したとの噂もあります)。そして男の後継者がいないなか,ピョートル大帝は急死し,なんと皇后のエカテリーナ1世(英語表記はCatherine Ⅰ)が即位します。売春婦の噂もあった人です。ここからロシアにはエカテリーナ大帝まで4人の女帝が誕生します。エカテリーナ1世のあとは,アレクセイの息子のピョートル2世(Peter Ⅱ)が即位しますが早世し,その後,ピョートル大帝の異母兄であるイヴァン(Ivan5世の娘のアンナ(Anna)が皇位につきます。しかし,ピョートル大帝直系のエカテリーナ1世の娘エリザベータ(英語表記は,Elisabeth)は,これに不満です。イバン5世の系統とピョートル大帝系統の間で,皇位継承についての女(および,そのバックにいる宮廷勢力) の戦いになりました。アンナは,エリザベータの野望を打ち砕くために,イヴァン5世のひ孫で,自分の姉の孫のイヴァン6世を誕生後にすぐに即位させるという無茶なことをしましたが,エリザベータの反乱でイヴァン6世は廃位され,その後,可哀想なことに,彼はずっと幽閉されてしまいます。そして,最後は看守に殺されてしまうのです。これでイバン5世の系統はとだえ,その後即位したエリザベータの後を継いだのは,エリザベータの姉の子のピョートル3世でした。しかし,敵国プロイセン王を崇拝しているドイツびいきの皇帝は国内では不評で,ドイツ人出身ですが,ロシア化に尽力していた皇后を支持する勢力が,ピョートル3世を廃位します(その後,殺害されます)。こうして,この皇后が即位するのですが,それがエカテリーナ大帝であったわけです。彼女の治世で,ロシアは大きく飛躍するのですが,この4人の女帝が登場するゴタゴタ騒動をみたとき,もとはいえばピョートル大帝が後継者問題をきっちりさせていなかったことが原因であったように思います。そして結局は,血筋がまったく関係していない外国人出身の女帝に皇位をゆだねることになったのです(外国の教養がある啓蒙専制君主であったことが,ロシアには良かったのでしょうが)。

 日本の皇位継承問題と結びつけるつもりはありませんが,いろいろ考えておかなければならないという教訓になるでしょう。Putinの話から,思わぬ方向に脱線してしまいました。

 

 

2024年1月26日 (金)

アメリカの民主主義の劣化

 昨日の日本経済新聞の「グローバルオピニオン」で,米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー(Ian Bremmer)氏の「大統領戦で悪化する米民主主義」という記事は,「もしトラ」(もしもTrumpが大統領に再任されたら)のあとの悲観的シナリオが書かれていました。   「米国の軍事力と経済力は極めて強いままだが,米政治システムの機能不全は先進民主主義国の中で最もひどい。そして,今年はそれがさらに悪化するだろう。」
「米政治システムの正統性が低下している。議会,司法,メディアといった中核となる機関に対する国民の信頼は歴史的な低水準にあり,党派間の対立が非常に激しい。さらに,アルゴリズムによって増幅された偽情報が加わり,米国人はもはや国家と世界に関する共通の確定事実があるとは信じられなくなっている。」
 こうしたアメリカにおいて,共和党の候補となる可能性が高まっているのがTrump。さすがにTrump再選はもうないだろうと思っていましたが,アメリカもきわめて深刻な人材不足で,Haley氏に頑張ってもらうしかない状況です。
 民主党のほうも,超高齢者のBidenであり,かりに体力的に問題はなくても,認知機能の低下は避けられず,そうした人物が核ボタンをもつというのは,Trumpがそれをもつのとは違う意味で怖しいです(Trumpもまたかなりの高齢者です)。
 アメリカは,連邦レベルでは,あまりにも巨大な国になり,多様な人を抱え込みすぎて,これを統合して率いることができるような人材がいなくなってきているのかもしれません。
 軍事力と経済力は強くても,統治は国民の分断で機能不全となりつつあり,国際的な場では,国内基盤が脆弱で信用のおけない国として,そのステイタスは低下することになるでしょう。アメリカは,ロシアや中国とは違うという先進国の認識は改められることになるでしょう。
 Bremmer氏も,「米国はすでに世界の先進民主主義国家で最も分裂しており、機能不全に陥っている。11月の選挙は誰が勝っても、この問題を悪化させることは間違いない。」と述べています。
 日本では,Trumpが復活したときに備えなければなりませんが,「猛獣使い」の妙技を駆使した安倍元首相のような政治家は,なかなか現れないでしょう。岸田首相が「私がやる」としゃしゃり出て,いろんな要求を飲み込まされてしまうことは避けてもらいたいです。
 次の大統領が選ばれる前に,日本の政治体制も再建し,BidenTrumpのどちらが再選されてもしっかり対応できる陣営で臨んでもらいたいです。

2023年12月 3日 (日)

キッシンジャー

 キッシンジャー(Henry Alfred Kissinger)が100歳で亡くなりました。アメリカの最も有名な外交官といってよいでしょう。日本の頭越しで中国との国交正常化を樹立するなど,日本にも多大な影響をもたらしたアメリカ人です(Wikipediaによるとドイツ系ユダヤ人で,ナチスを嫌って渡米して帰化)。
 たまたま高橋和夫さんの『なるほどそうだったのか!? パレスチナとイスラエル』(幻冬舎)を読んでいたのですが,そこでも彼の名前が出てきました。戦後徐々にアメリカ人にとってお荷物となりかけていたイスラエル(Israel)の存在意義を認識させることにキッシンジャーは貢献したというのです。1970年のヨルダン内戦のとき,パレスチナ(Palestina)とシリア(Syria)連合に対して劣勢に立たされていたヨルダン(Jordan)側に,ヨルダン王制の存続を望んでいたアメリカが,ヴェトナム(Vietnam)戦争などの影響による国内情勢から,直接派兵しづらい状況のなかで,イスラエルに援助を頼み,結果としてシリアは撤退し,ヨルダン・イスラエル連合が勝ったということがありました。このときにイスラエルを参戦させるために尽力したのが,当時ニクソン(Nixon)政権の特別補佐官であったキッシンジャーだというのです。この人はほんとうに歴史の重要な局面で顔を出してくる感じがしますが,その評価は難しいところでしょう。なお,田原総一朗氏が語っている,キッシンジャーの原爆容認発言は,日本としてはとうてい承服できないものです(田原総一朗 × オリバー・ストーン & ピーター・カズニック「武力介入は失敗するという歴史をなぜアメリカは繰り返すのか」)。日本人でも元防衛大臣久間章生氏のように,同様の容認発言をする人もいるのですが……。
 前記の高橋さんの本は,なぜイスラエルはアメリカに影響力をもっているのか,なぜアメリカはイスラエルの肩をもつのかについて,とてもわかりやすく説明してくれています。この点だけでなく,パレスチナとイスラエルの紛争の根源はどこにあったのか,という点も説明してくれています。高橋さんは,宗教問題ではないと断言します。問題は19世紀末から起きたものなのです。背景にあるのは,民族主義,帝国主義,社会主義であるというのが高橋さんの主張です。ここはとても重要と思うので,ぜひ実際に読んでみてください。
 イギリスらがオスマントルコを滅ぼすまでは,エルサレム(Jerusalem)はいろんな民族が平和的に共存していました。ところが,欧州由来の民族主義,そして欧州のキリスト教徒によるユダヤ人の迫害(Holocaustがその頂点),さらにイギリスの三枚舌外交などが重なって,ユダヤ人のシオニズム(Zionism)に火をつけ,結果として,いわば母国といえるエルサレムへの帰還を促進することになり,そしてそこに長年住んでいたパレスチナ人に犠牲を強いることになったのです。欧州の責任は,あまりにも大きいでしょう。そのほかにも,エジプトの役割や,なぜノルウェー(Norway)が紛争調整に貢献できているのかということも,本書では説明されています。そして上記のアメリカとイスラエルの関係がでてきます。大統領選挙が近づく中,ユダヤ票を無視できない民主党のBidenがとるべき政策はわかりやすくなります。アメリカが,現在の中東問題にこれからどう関与するのかを,日本もよくみながら,アメリカ特有の事情に左右されず,独自の外交を貫いてもらいたいと思います。高橋さんはノルウェーが,イスラエルとの良好な関係を築きながら,ハマス(Hamas)とも人脈があるという強みがあり,日本もノルウェーを参考にすればどうかということを,最近でもTVなどで語っています。
 高橋さんの本は,2015年刊行ですが,いまの問題を考える際にも必読の書だと思います。

 

2023年7月 9日 (日)

政治人材の枯渇

 ダイヤモンド・オンラインで,ジャーナリストの清水克彦氏の「米大統領選は『失言製造機vs暴言王』が濃厚,見るに堪えない“醜悪な戦い”に」という記事を読みました。確かに,Bidenの失言はひどく,このままだと,暴言王のTrumpと失言王のBidenという超高齢の候補者どうしの大統領戦ということになり,アメリカってそれほど人材がいなのかと言いたくなります。この記事では,「筆者も日頃,日本の政治を,『見るに堪えない。もっと生きのいい政治家はいないのか』と思いながら取材しているが,バイデン氏とトランプ氏の泥仕合を想像すると,『まだアメリカよりはマシか…』と思ってしまうのである」という文章で締められています。
 ただ,ふと思うのは失言とされている「私が説得し日本は防衛費を増やした」は,ほんとうに失言だったのでしょうかね。首相を大統領と呼んだり,意味不明の「女王陛下,万歳!」と言ったりするのは,前者は,そもそも外国の首脳の肩書など何とも思っていないということで(これはこれで外交儀礼上問題ではあるのですが),後者は,記憶の混戦によるもので,それ自体は困ったものではあるものの,高齢者にはありがちであるのに対して,防衛費問題は妙に具体的で,失言とは思えないのです。あえて自分の手柄とするために事実でないことを発言した可能性もありますが,それよりも実際にそうであったが,confidentialであったものを語ったという意味での失言であったかもしれません。日本の外交政策がアメリカ寄りすぎて,岸田首相はアメリカの「ポチ」だという指摘は前からあって,その真偽はわかりませんが,超高齢者Bidenのいつもの失言(事実ではないことを言ったという意味での失言)だということで片付けてよいでしょうか。
 岸田首相が一連の外交政策でやってきたのは,西側陣営の一員としてウクライナの徹底支援をすることや,ロシアと中国を敵視し,ロシアの日本侵攻や台湾有事の危険性をあおって防衛費を増強してアメリカに満足してもらうことのようにみえます。これだけの対米追従をしたおかげで,アメリカ訪問時には厚遇され,またサミットではBiden訪日を実現させることができ(債務上限問題で議会対応に追われていたにもかかわらず,他の予定はキャンセルしたが,広島サミットだけには参加した),岸田首相は大満足だったでしょうが,国益にかなっているのかは,よくわかりません。グローバルサウス(global south)がやっているような,したたかな外交を願うのは無理なのでしょうかね。
 たしかに日本の政治状況は,アメリカよりはマシのような気がしますが,岸田首相がもし暴走しているのだとすれば,よりおそろしいことが起こっていることになるかもしれません。そうでないことを祈るばかりです。
 

2023年5月23日 (火)

広島サミットは成果あり?

 広島のG7サミットは,G7の結束を再確認し,グローバルサウス(Global south)の国々も招いて世界各国間の協調を示したという点では成果があったという評価もできそうです。ロシアと中国を仲間はずれにした(分断した)という点では,協調という点を強調するのはどうかという気もしますが,G7側の論理は,ロシアはウクライナ侵攻を引き起こした極悪国なので協調の対象に入れることはできないのは当然であり,中国もその味方だから同様ということなのでしょう。もっとも中国については,アメリカの覇権争いに気を遣っただけで,実際には,フランスなど欧州とアメリカとは対中政策に温度差があり,また地政学的な状況がかなり異なる日本もアメリカとまったく同一歩調をとることができるわけではありません。
 いずれにせよG7の主役はゼレンスキ(Zelensky)でした。後からやってきて主役の地位をかっさらっていきました。彼は,メディア戦略が上手であり,行動力もあり,また元俳優だけあって話術も巧みです。世界中を飛び回り,支持をとりつけて,あの大国ロシアと互角に戦っているのは見事としか言えません。世界にはウクライナ以外にも戦争で苦しんでいる国や人々もいるのですが,ウクライナだけに目を向けさせる腕はすごいです。そして,G7からの具体的な協力を引き出し,またインドやインドネシアなどのアジアの大国ともコネクションをつけるなど,その行動力と決定力もまたすごいです。ゼレンスキの来日は,警備問題などを考えれば,普通ならとても受け入れられないようなものです(日本国民を危機にさらすおそれもありました)が,もはや日本政府に拒否する手はなかったのでしょうね。ただ日本人としてはちょっと複雑な気持ちではあります。広島とハブムトと似ていると述べるなど,彼はそう思ったのかもしれませんが,広島をうまく利用されてしまったような気がしないわけではありません。サミットでは日本の外交力を示したと言われていますが,最も外交力を発揮したのはゼレンスキであったことは間違いないですね。
 ただ戦争中の国の大統領が必死になって,利用できるものは何でも利用するという行動に出るのは理解できないわけではありません。実は,日本の首相もまた,広島をうまく利用しただけではないかと思えるところがあります。G7首脳による平和記念資料館に訪問した際の記帳の文面が公開されています(https://www.mofa.go.jp/mofaj/ms/g7hs_s/page1_001692.html)。岸田首相の記帳文は,「歴史に残るG7サミットの機会に議長として各国首脳と共に『核兵器のない世界』をめざすためにここに集う」です。ここには世界の首脳を側において議長として仕切っている高揚感だけが表れているようです(意地悪な見方でしょうか?)。原爆で亡くなった人に対する思いは込められていないように思えます。他国の首脳は,言葉だけかもしれないものの,きちんとそうした思いを伝えてくれています。とくにカナダ,フランス,イギリスの首相は犠牲者にも明確に言及しています。なぜ日本の首相は,上記のようなことしか書けなかったのでしょうか。このサミットで,核兵器なき世界に向けた力強い一歩を踏み出せたといえるのでしょうか。ロシアを牽制しただけで十分というのであれば,広島の人の気持ちをふみにじることになるでしょう。
 首相の個人的な政治的野心に利用された広島サミット,ということにならないようにするためには,これから彼が核廃絶に向けてどのように具体的に行動していくかが問われることになります。

2023年1月14日 (土)

円滑化協定

 岸田首相は,今回の外遊中,イギリスとの間で,「円滑化協定」を締結しました。「円滑化」とはなんぞやと思い,調べてみると,これは「facilitation」の訳でした。何を「facilitation」するのかというと,この協定の略称は,「日英部隊間協力円滑化協定」であることからわかるように,「部隊間の協力」の円滑化です。「部隊」とは何かというと,これはこの協定の正式名称をみればわかります。正式名称は,「日本国の自衛隊とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の軍隊との間における相互のアクセス及び協力の円滑化に関する日本国とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国との間の協定」です。実質的には,軍事協定ということです(自衛隊を軍隊と呼ぶかは議論がありますが,他国からは軍隊とみられているでしょう)。同様の協定は,すでにオーストラリアとの間でも結ばれています。この協定はRAAと略称されることもありますが,それは「Reciprocal Access Agreement」の略称であり,「相互アクセス協定」という訳になるでしょう。「日英軍事相互アクセス協定」くらいの呼び方をすべきで,「円滑化協定」という「無色」な略称を使うのは,何らかの政治的意図を感じてしまいます。
 ウクライナ戦争や中国・台湾問題などから,日本の安全保障をめぐる状況は大きく変わりつつあるということですが,岸田政権の軍備増強への前のめりの姿勢には不安がないわけではありません。平和ボケと言われるかもしれませんが,日本がG7の一員でいることの意義は,アジアの国であることにあるのであり,西洋的な価値観にすり寄り,それに迎合するだけでは日本の存在意義はありません。たんにアメリカの対中国戦略の駒になりさがるだけです。日本の置かれている地政学上の位置を十分に踏まえ,日本ならではの戦略を提示していくべきだと思います。それは直ちに中国融和策や親中政策をとるべきということではないのですが,軍拡競争に乗ってしまうのには,どうしても抵抗があるのです。タモリの「新しい戦前」発言が話題になっています。彼の真意はよくわかりませんが,感覚的にはよくわかります。だから具体的にどうすべきかは,私もよくわからないのですが,ただ岸田政権が,どこまで深く考えて軍拡路線に走っているのかが,これまで他の分野で地に足のついた政策を展開してこなかっただけに気がかりなのです。安全保障問題を正面にかかげて総選挙をしたほうがよいかもしれませんね。