国際政治

2024年11月 6日 (水)

悪夢?

 4年前には,まさかTrumpが復活するとは思いませんでした。共和党の候補は彼しかいなかったということでしょう。人種差別発言を繰り返し,それでも大統領になれてしまうということで,アメリカはおぞましい国になりました。Trumpは高齢ですが,なにかあったときはVanceであり,どうしようもありません。いったい世界にどんな影響が生じるのか,想像もできません。「猛獣使い」であった安倍元首相がいない現在,アメリカの言いなりにならないようにするために,どういう手があるのか,外務省にはよく考えてもらいたいです。木村太郎氏は,BSフジのプライムニュースで,Trumpときちんと向き合えるのは茂木敏充氏しかいないと言っていました。まさかの茂木氏の復活もあるかもしれませんね。
 日本にとっては,民主党政権だからよいというわけではありません。むしろ共和党政権のほうが,親日的であることが多かったように思います。とはいえTrumpが共和党にいるのは,あくまで自己の野心の手段にすぎず,王国を作るつもりなのかもしれません。上院は共和党が多数となり,下院も優勢です。大統領と合わせて,トリプルレッド(triple red)となりそうです。議会が大統領の暴走を止めなければ困るのですが(暴走すると決めつけてはいけないのでしょうが),共和党のなかの良心的な人たちが,うまくTrumpを操縦してくれなければ困ります。連邦最高裁判事も,すでに前政権時に Trump 色になっています。アメリカに,ロシアとも,中国とも違う,新種の独裁国家が生まれることにならないか心配です。三権分立がほんとうに機能するのか,注視していきたいと思います。

2024年8月 8日 (木)

Minnesota

  民主党の次期副大統領候補にミネソタ(Minnesota)州の知事のTim Walz氏が指名されました。Harris次期大統領候補にはない属性(白人,男性,北部州の政治家など)をもつ人が選ばれたのでしょう。Minnesotaというと,最近,たまたまFargoという映画(1996年。監督は,Joel Coen, Ethan Coen)を観たところだったので,びっくりしました。偶然です。Fargoというのは,土地の名前で,North Dakota州の都市ですが,Minnesotaとの州境にあります。ただ,映画のなかで登場する事件(テロップでは実話に基づいていると出ていましたが,フィクションだそうです)は,ほとんどMinnesotaで置きています。
 義父の経営する自動車販売会社の営業部長をしているJerryは借金に苦しんでおり,妻Jeanを偽装誘拐して,金持ちの義父に身代金を払わせて,借金の返済をしようと考えます(妻の承諾はなし)。Jerryは,会社で働く一人の修理工にチンピラの紹介を頼み,彼らに誘拐をさせるのですが,いろいろな手違いが重なり,人々が次々と死んでいくという話です。Frances McDormanが演じる妊婦の警察署長のMarge Gunderson 役がとても良かったです。残虐な事件が次々と起こるのです(最後のほうで,チンピラが仲間割れして,殺されたほうがwoodchipperで粉砕されていくところは吐き気がしました)が,Jerryの間抜けぶりがひどくて,どこか喜劇的な要素のあるブラック・コメディという感じです。映画のなかの風景は雪景色が多く,寒そうな田舎の州というのが,Minnesotaにもったイメージでした。
 Walz氏の名は今回はじめて知りましたが,田舎者で,人の良さそうなおじさんという印象です(60歳にはみえないですが)。この面でも,検事上がりのHarrisとは好対照です。共和党の副大統領候補のVanceとは正反対の印象です。Walz氏は,どこまでrust belt の白人労働者の心をつかめるでしょうかね。

2024年7月27日 (土)

二大政党制は限界あり?

 アメリカの民主党はリベラル(liberal)で労働者の味方であり,共和党は富裕層の味方であるというイメージがあります。実際,多くの労働組合は民主党を支持していますし,共和党の大統領候補Trumpは大富豪(のよう)です(ただ,Trumpを大統領候補に指名した先日の共和党大会では,運輸労組のTeamsters の会長が演説しています)。しかし現実には,Trumpを支持しているのは,rust belt の白人男性であり,多くは外国との競争に負けた産業などで働く生活が苦しい人たちです。Trumpの排外主義は,移民を追い出したり,外国製品の輸入を関税で制限したりして,アメリカ人の雇用を守るというものであり,それがかつてアメリカを支えてきたが外国人のために没落してしまったという気持ちのある白人アメリカ労働者の心に刺さっているのでしょう。MAGAの根底には,そういう考えがあるのだと思います。Trumpが副大統領候補に指名したVance氏は,rust belt 地帯のOhio州の労働者階級の出身で,共和党は,この地区の票を狙いに行っていることなのでしょう。Rust Beltには,Wisconsin,Michigan,そしてPennsylvaniaという激戦州(swing state:選挙のごとに結果が揺れ動くくらい民主党支持者と共和党支持者が拮抗している州)があり,とくに選挙人19Pennsylvaniaは,ぜひおさえたいところでしょう。Pennsylvaniaの州知事は民主党のJosh Shapiro氏であり(民主党の副大統領候補に名前があがっています),Trumpは,これに対抗するために,MAGAの強力な推進者のVanceを登用したのでしょう。
 ここにみられるのは,労働者の味方のようにみえるTrumpVanceは,排外主義・差別主義者であり,実は労働者のなかの白人・男性だけがターゲットで,女性差別や非白人差別は平気であるというバランスの悪さです。これでは労働者の味方といっても,リベラルな思想とはとても言えません。これは「働き方改革」をかかげて,労働者保護政策を進めている自民党が,保守的な政策をとっていることとのバランスの悪さと似たものがあります。
 ただ,このバランスの悪さは,私のもっている先入観からくるものかもしれず,実際過去の歴史をみても,排外主義にしろ,ファシズムにしろ,雇用を守るかぎりは労働者に支持されるという面があったのです。ただ,これも歴史の教訓ですが,労働者の支持は近視眼的なものであることがあり,長い目でみると,グローバルに開かれた国際協調主義や自由貿易,また差別を排する平等主義といったもののほうが,経済は持続的に成長し,労働者の雇用確保にもつながるのだと思います。
 ではアメリカの民主党は,こういう政策なのかというと,必ずしもそうではなく,移民政策では,Trump政権のときBiden・Harris政権はあまり差がないという評価もあるようです。また民主党は,たしかに人工妊娠中絶に対する立場では,女性票を集められるでしょうし,Harrisの出自から非白人層の支持も得られるでしょうが,逆に白人男性の票を集めることは難航するでしょうし,エリート検事・上院議員出身という経歴は,既得権層の仲間とみられて,2016年の大統領選挙のときにBernie Sandersを支持したような若者からの支持は難しいという面もありそうです(ただし,現在,Harrisのイメージ戦略が成功しつつあり,若者の支持も増えているということが,今朝の日本経済新聞でも書かれていました)。
 こうみると,日本人からいえば,民主党と共和党という選択肢しかないアメリカは窮屈に思えますね。第3の立場として,Kennedy大統領の甥であるRobert Kennedy Jr.が無所属で立候補しそうですが,大統領になることは無理としても,やはりこういう動きが出てくるのだなと思います。日本の国政選挙では多くの政党があり,いろんな人が立候補します(しすぎます)が,民主主義という点では,こっちのほうが健全なのかもしれませんね。

2024年7月25日 (木)

Harrisでいくのか

 民主党の候補者はKamala Harris副大統領となりそうです。私はほぼ5年前にBiden大統領のことを書いたことがありました(「Bidenは大統領になれるか」)が,結局,彼は1期で辞めることになり,Harrisに禅譲(?)ということになりそうです。もしかしたら,任期途中での禅譲もありえます。もしBidenに,ほんとうに認知機能の問題があるなら(ありそうですが),核ボタンを押せる立場からは退いてもらったほうが世界は安心します。問題となったTrumpとの討論会は,当然,彼はきちんとできると思って登壇したのでしょうが,自己認識と客観的な能力との乖離は大きかったのでしょう。こういうことは,たとえば高齢者の運転事故の原因にもなっているのであり,これがアメリカ大統領となると,運転事故とは比べ物にならないくらい大きな危険をともなっています。認知機能に心配がある大統領の去就は家族で決めるような私的なことではありません。Bidenは大統領も辞任してこそ,責任をはたしたことになるでしょう。
 Harrisは,Trump から「sleepy Joe」と言われていた Bidenと比べると,エネルギッシュで,演説にもパワーがあり,現時点では良い評価を得ているようです。元検察官という立場から,犯罪の嫌疑がかけられているTrumpへの攻撃は勢いがありますし,人口妊娠中絶や銃規制などについての立場も明快で,移民問題を除くと,民主党をしっかりまとめることはできるでしょう(というか民主党執行部は必死になって彼女を担ぐでしょう)。もちろん女性票や非白人票も大いに期待できます。ただ若者票は微妙で,HarrisはTrumpよりは若いといっても59歳で,若者世代からすると,どっちもどっちという感じかもしれません(エリート臭が強いところも気になります)。それに,彼女の外交政策や経済政策などについては,私が不勉強なせいかもしれませんが,よくわかりません。Biden政権の政策を継承するということでしょうが,やはり本人の口からしっかり語ってもらいたいです。
 世論調査ではTrumpと良い勝負ができそうな数字が出ていますが,アメリカの大統領選挙は,各州の選挙人を選ぶ選挙であり,州によって選挙人が違います。そのため,とくに選挙人の多い激戦州(swing state)で勝てるかどうかがポイントで,それらの州での世論調査こそ重要です。Swing state とされているのは, Wisconsin(10), Nevada(6),  Arizona(11), Georgia(16), Michigan(15), North Carolina(16), Pennsylvania(19)です(カッコ内は,2024年選挙で割り当てられた選挙人の数)。538人のうち270人を取ったら勝ちとなりますが,激戦州以外では,民主党と共和党は,ほぼ互角なので,激戦州の結果に大きく左右されます。「確トラ」は揺らいできましたが,「もしトラ」は依然としてあります。11月までに,まだまだ多くの波乱がありそうです。オリンピックが終わると,世界中の視線は集中することになるでしょう。

2024年7月21日 (日)

政治家の信念

 政治家の信念などは,あまり当てになりません。実際,特定の思想や価値観に凝り固まっている人は選挙には通りにくいかもしれません。ではTrumpはどうでしょうか。日本経済新聞7月20日(電子版)の西村博之氏の「流転のトランプ党どこへ」とう記事のなかにあった,Trump現象について,「信号がある周波数にダイヤルを合わせるように,党員や社会の不満を探り当て,増幅して声にした。これに多くの人々が共感し支持が広がった。」と書かれていて,なるほどと思いました。日本の政治家も,社会の不満の声を探り,それを増幅して政策に反映させるということを,大なり小なりやってきたのでしょう。そこでの不満の取り上げ方に,本人や所属政党の価値観や思想が影響することはあるのでしょうが,基本的にはそういうことに関係なく,いま目の前に社会の不満があり,それを増幅して票がとれそうなら,政治家はとびつくのでしょう。
 この記事では,アメリカの共和党と民主党の政策がいかに変遷してきたかを説明しています。党是など,あってないようなものです。西村氏は,「政党に揺るぎない価値観の軸があるとの幻想は捨てるべきだろう。」と述べています。
 では,党がそうであったとして,国民はどうでしょうか。記事では,Trump支持層の根っこにある価値観として,「セキュリタリアン」というものがあるということが,アメリカの政治学者の言葉として紹介されています。「Security」をその他の価値よりも優先するという意味であり,記事のなかでも,「『安全を最優先する』との意味で,自らの家族や文化集団を,移民や外国人,異教徒,非白人,性的少数者ら『よそ者』から守るとの使命感を指す」と定義されています。MAGAの根底にあるのは,「よそ者」への恐怖なのでしょう。安全には,物理的安全だけでなく,経済的安全,文化的安全なども含まれているはずです。誰でも安全は大切です。政府の使命は,国民の安全を守ることです。とはいえ,安全を守るための戦略は,排外主義ではないというのが,歴史の教訓です。そうした教訓にどれだけ学ぶかにより,民主党支持かTrump支持かに分かれるのかもしれません。
 Trump支持者がsecuritarian であっても,Trumpがそうであるかはわかりません。彼は大統領になるために,「周波数」を探していたのであり,どんなものでも,増幅可能であれば採り入れるのです。そして,いまMAGAがこれだけの勢力になると,今度は支持者層が減らないようにするために必要なのは,彼ら,彼女らが,過去の教訓などを冷静に考えて,排外主義的なsecuritarian に疑問をもつことにならないよう,徹底した洗脳を繰り返すことなのでしょう。熱狂的な集会(参加者の異常な高揚感),絶え間ないSNSでの発信,そして対立候補の悪魔化(demonization)など理性を鈍麻させる攻撃がそれです。
 これは民主主義の怖さです。日本でも,同じようなことが起こらないとは限りません。Trumpが,ロックではなく,クラシック音楽がBGMとして流れる小さな部屋で,少人数の支持者に対して,民主党の政策の批判ではなく,自身の政策の利点を語るというようなことをすれば,どれだけの人が支持するでしょうか。
  そう考えると,投票はオンラインでやるべきだと思っていますが,本人の政治的心情は,むしろ対面型の少人数集会でやってくれたほうがよく理解できるかもしれません。私は日本の政治家が地元の支持者周りをすることを否定的にみていましたが,少し考え直す必要があるのかも,という気持ちになってきました(もちろん冠婚葬祭に顔を出すだけの地元周りなどに意義を認めることはまったくできませんが)。

2024年7月14日 (日)

王がいない国で王になる?

 アメリカの連邦最高裁判所は,アメリカの大統領の職務上の公的行為について免責されるとする判例に基づき,Trump氏に対して起訴された犯罪について,免責特権が適用されないとした控訴審判決を,6対3で覆して,Trump氏の行為が公的行為であったかどうかを審査するよう差し戻したそうです。連邦最高裁は,Trumpが大統領時代に保守系の裁判官を3名任命したこともあり9人中6人が保守系となっています。リベラル派の支柱であったGinsburg判事の死去により,リベラル派の判事が保守派の判事に入れ替わった影響は大きいでしょう。
 Trumpの訴追可能性については,アメリカ法に詳しい人に教えてもらいたいのですが,それはともかく,大統領が免責特権をもつことは,大統領を司法よりも,民主主義の統制に服せしめることを重視するという観点からは理解できないことではありません。しかし,Bidenが言ったとされるように,今回の判決が,大統領が国王のような権力をもつことになりかねないとする指摘は気になるところです。今回の銃撃事件の背景的事情と言えるかもしれません。
  民主的な選挙で選ばれたとしても,暴走の危険があります。かつての王政は,その暴走があったことから革命が起きて,共和政に移行した経緯があります。共和政では,民主的なプロセスで選ばれた大統領や首相が執行権を握りますが,王政の反省から,三権分立が導入されます。司法や立法により,どの程度,大統領の権限を抑制するかは,歴史的な経緯もあって国それぞれの特徴がありますが,核保有国の大統領が,敗北を受け入れず,選挙結果を覆そうとしたという嫌疑についても免責特権が適用されるというのは,権力分立のバランスが危なくなっていないでしょうか。 
 イギリスのように国王がいる国では,国王に政治的な権力がなかったとしても,首相がどんなに力を得ても,暴走する権力者となるおそれは小さいでしょう。日本は,天皇がいますが,安倍政権時代は,その権力志向からか天皇を比較的軽く扱っているように思えたこともありました。日本の権力者にとっては,天皇の政治利用は禁じられていても,やりたい誘惑にかられるところでしょうし,同時に,天皇や皇族がスキャンダルで弱体化することは,政治家にとって悪いことではないかもしれません。ただ政治家がいくら頑張っても,王や天皇がいる国では,最高権力者になることは難しいでしょう。ところが,アメリカやフランスなどの国では,民主的なプロセスだけで最高権力者になれるのです。ここが恐ろしいところです。王や天皇のような非民主的な存在は,民主主義の観点からは,たとえ彼ら・彼女らが政治的権力がなくても,原理的におさまりが悪いものとなるのですが,アメリカにみられるような民主主義の実質が大きく揺らぎつつあるところでは,かえって王がいる国のほうが歯止めになってよいような気がします。民主的なプロセスで王の権力を得るということがないようにすることが,重要です。だからと言って暴力でそれを阻止してはいけないのですが。

2024年6月15日 (土)

PugliaサミットとMeloni首相

 日本では,今回のG7サミットは,プーリア・サミットと呼ばれています。プーリアはPugliaと書いて,「リ」は「li」でも「ri」でもない「gli」で,日本人には発音が難しい言葉です。
 ところで,イタリア国内はいろんな町に行ったつもりではありますが,Puglia州は,BariとLecceくらいで,その他のところには行っていません。今回サミットが開催されたホテルは,Borgo Egnaziaというホテルで,初めてその名前を知りました。アドリア海(Mar Adriatico)に面しているリゾート地のようですね。ホテルのあるPugliaは州(Regione)の名前で,県(provincia)の名前でいえばBrindisi,市町村(comune)の名前でいえばFasanoです。まあFasanoサミットと呼んでもよいかもしれません。場所は,Pugliaの州都のBariとBrindisiのちょうど中間にあります。
 Bariは,イタリア労働法の大物であったGino Gigni が教えていたこともあるBari大学があり,山口浩一郎先生の親友のBruno Veneziani 教授もいました。私も山口先生の紹介でBrunoに会いにBari大学に行ったことがありますし,Brunoには日本で講演をしてもらったこともあります。ということで,Bariには縁があります。Brindisiは降りたことはありませんが,移民が流れ着く港のある町として有名です。
 今回のサミットで,Giorgia Meloni イタリア首相は,開会挨拶(discorso d’apertura)で,サミットの場所をここにしたのは偶然ではないと言っています。南部(sud)の州を選んだのは,グローバルサウス(sud globale)の国々との対話をしたいというG7議長国としてのイタリアのメッセージが込められているとし,またこの場所は,西洋と東洋の架け橋となるところであり,大西洋とインド太平洋とを結ぶ中間にある地中海の中心場所という意味もあると述べています。排外的な主張をする極右政治家とはまったく違う,まさにG7の議長国にふさわしい世界情勢を視野に入れた政治家という姿を見せようとしていたと思います。
 ところで昨日の日本経済新聞で,「メローニ伊首相,欧州の「陰の権力者」に  保守束ねEUで発言力」というタイトルの記事が出ていました。たしかに,Meloniが率いる「イタリアの同胞(Fratelli d‘Italia)」はサミット直前にあった欧州議会選挙でイタリアに割り当てられている76議席のなかで最も多い24議席を獲得しました(得票率は28.8パーセント)。また,Meloniが率いる欧州議会内の欧州保守改革党(ECR)は,第4勢力に躍進しました(720議席のうち76議席)。このほかは,中道右派の最大グループで,EU委員長のvon der Leyenが率いる欧州人民党(EPP)が190議席のトップで,イタリアの同盟(Lega)やフランスのLe Penが属する国民連合(Rassemblement National)などが参加するID(アイデンティティと民主主義グループ)は58議席を獲得しています。Meloniは,経歴からすると,極右と呼ばれても仕方がないのですが,首相になってからは,欧州と歩調を合わせて,現実的な政策をとり,保守勢力をうまくとりこんでおり,日経の記事に書かれているように,今後,EU内でも影響力を高める可能性(ある立場からは危険性)があります。今回の堂々たる演説からもわかるように,欧州を率いるような大政治家に化けるかもしれません。最近のイタリアの政治情勢をきちんとフォローしていているわけではありませんが,少なくとも今回出席した首脳のなかで,彼女が今後最も長くサミットに参加しそうな人ではないかと思いました。

2024年4月 4日 (木)

パンダと政治

 神戸市立王子動物園のパンダのタンタンが亡くなりました。人間でいえば100歳くらいの高齢でした。私はそれほどパンダに関心はありませんが,パンダ好きな人は周りに多いので,その悲しみには共感しています。王子動物園は繁殖に失敗しており,神戸にはもうパンダが来ないかもしれません。

 和歌山のアドベンチャーワールドにはパンダは4頭もいて,やっぱり和歌山は中国と縁の深い政治家がいるからかと邪推したくもなりますが,そう考えると神戸にパンダがいなくなるのが癪に障ることは事実です。でも政治力という点では,引退したとはいえ,隠然たる力を発揮しそうな二階俊博氏のいる和歌山には勝てそうにありませんね。
 神戸近辺から選出の自民党議員というと,盛山氏(兵庫県第1区)か西村氏(兵庫県第9区)となるのですが,前回比例復活の盛山氏は,これだけ叩かれてしまったので,次の選挙は危ないでしょう。西村氏は1年以内に選挙があって自民党の公認がもらえなくても,選挙は盤石かもしれません(前明石市長の泉房穂氏が出馬すればわかりませんが)が,当選しても政治的な影響力は発揮できないかもしれません。ちなみに県内でも播州勢は頑張っていて,渡海紀三朗氏(兵庫県第10区)は自民党の要職(政務調査会長),松本剛明氏(兵庫県第11区)は現役の総務大臣,山口壮氏(兵庫県第12区)は前環境大臣ですが,党内で政治力が強いという感じはしません。
 ところで,二階俊博氏の先日の引退(?)会見をみると,彼はあまりにも偉いから,細々としたことは,手下の林幹雄氏に話をさせるということなのか,それとも答弁させると怪しいから,保佐人として林氏がついているのか,よくわかりませんが,いずれにしても二階氏が党内でも屈指の権力者であることに変わりはないでしょう。二階氏は,もとはといえば田中角栄の派閥にいて,その田中角栄が中国と国交正常化をすると,パンダが送られてきました(当初は無償であったようです)。二階氏は媚中派と呼ばれることもあるくらい,中国との関係はよいと言われています。田中の地位を引き継いだというところでしょうか。

 もちろん政治力をつかってパンダを神戸につれてきてほしいと言いたいわけでありません。むしろ日本人がパンダにこだわることが,中国依存につながりかねないという懸念のほうがあります。お金の面でも,パンダのレンタル料は小さくないようなので,一神戸市民としては, 集客のためのパンダという安易な方法は捨ててもらいたいです。ましてや,中国や親中派の議員に頭を下げたりしてまで,パンダに来てほしいとは思いません。白浜にまで行って,温泉のついでに,パンダをみれば十分でしょう。

 

2024年2月27日 (火)

ロシアのこと

 Putinは,ナバリヌイ(Navalny)を殺したのでしょうか。大統領戦に勝つことは疑いの余地がなく,圧勝の形をつくることも,Putinの力からすれば簡単なはずなので,わざわざ殺す必要はないように思います。日本人の感覚では,弔い合戦のようなことになると,かえって反対票が増えそうではないかと思ってしまいます。それにしても,ロシアは遠い国です。隣国ではありますが,何を考えているのか,よくわからないところがあります。Putinは,1721年に帝政ロシアを建国したピョートル大帝(英語では,Peter the Great)を意識しているという話を聞いたことがあります。ロシアを近代国家に押し上げた,あの皇帝を目指しているということでしょうか。

 ところで,このBlogで前に何度か,兵庫県淡路島出身の江戸時代の商人である高田屋嘉兵衛のことを描いた司馬遼太郎『菜の花の沖』のことに言及したことがあります。文庫で6巻本なのですが,その途中の巻で,延々とロシアの歴史のことに触れている場面があります。高田屋嘉兵衛の話のはずが,それはすっ飛ばされて,ロシアの歴史のことを書いているのです。なかでもピョートル大帝のことは詳しいです。高田屋嘉兵衛がなぜロシアに連行されたかを知るためには,ピョートル大帝から,エカテリーナ大帝(英語では,Catherine the Great)のことまでを語っておかなければならないということでしょうが,型破りの小説です。でも勉強になります。
 それはさておき,ピョートル大帝は男子に恵まれず,数少ない息子のアレクセイ(英語表記の一つが,Alexey)も,その無能ぶりもあり殺してしまいます(謀反の疑いで捕まり獄死となっていますが,大帝が撲殺したとの噂もあります)。そして男の後継者がいないなか,ピョートル大帝は急死し,なんと皇后のエカテリーナ1世(英語表記はCatherine Ⅰ)が即位します。売春婦の噂もあった人です。ここからロシアにはエカテリーナ大帝まで4人の女帝が誕生します。エカテリーナ1世のあとは,アレクセイの息子のピョートル2世(Peter Ⅱ)が即位しますが早世し,その後,ピョートル大帝の異母兄であるイヴァン(Ivan5世の娘のアンナ(Anna)が皇位につきます。しかし,ピョートル大帝直系のエカテリーナ1世の娘エリザベータ(英語表記は,Elisabeth)は,これに不満です。イバン5世の系統とピョートル大帝系統の間で,皇位継承についての女(および,そのバックにいる宮廷勢力) の戦いになりました。アンナは,エリザベータの野望を打ち砕くために,イヴァン5世のひ孫で,自分の姉の孫のイヴァン6世を誕生後にすぐに即位させるという無茶なことをしましたが,エリザベータの反乱でイヴァン6世は廃位され,その後,可哀想なことに,彼はずっと幽閉されてしまいます。そして,最後は看守に殺されてしまうのです。これでイバン5世の系統はとだえ,その後即位したエリザベータの後を継いだのは,エリザベータの姉の子のピョートル3世でした。しかし,敵国プロイセン王を崇拝しているドイツびいきの皇帝は国内では不評で,ドイツ人出身ですが,ロシア化に尽力していた皇后を支持する勢力が,ピョートル3世を廃位します(その後,殺害されます)。こうして,この皇后が即位するのですが,それがエカテリーナ大帝であったわけです。彼女の治世で,ロシアは大きく飛躍するのですが,この4人の女帝が登場するゴタゴタ騒動をみたとき,もとはいえばピョートル大帝が後継者問題をきっちりさせていなかったことが原因であったように思います。そして結局は,血筋がまったく関係していない外国人出身の女帝に皇位をゆだねることになったのです(外国の教養がある啓蒙専制君主であったことが,ロシアには良かったのでしょうが)。

 日本の皇位継承問題と結びつけるつもりはありませんが,いろいろ考えておかなければならないという教訓になるでしょう。Putinの話から,思わぬ方向に脱線してしまいました。

 

 

2024年1月26日 (金)

アメリカの民主主義の劣化

 昨日の日本経済新聞の「グローバルオピニオン」で,米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー(Ian Bremmer)氏の「大統領戦で悪化する米民主主義」という記事は,「もしトラ」(もしもTrumpが大統領に再任されたら)のあとの悲観的シナリオが書かれていました。   「米国の軍事力と経済力は極めて強いままだが,米政治システムの機能不全は先進民主主義国の中で最もひどい。そして,今年はそれがさらに悪化するだろう。」
「米政治システムの正統性が低下している。議会,司法,メディアといった中核となる機関に対する国民の信頼は歴史的な低水準にあり,党派間の対立が非常に激しい。さらに,アルゴリズムによって増幅された偽情報が加わり,米国人はもはや国家と世界に関する共通の確定事実があるとは信じられなくなっている。」
 こうしたアメリカにおいて,共和党の候補となる可能性が高まっているのがTrump。さすがにTrump再選はもうないだろうと思っていましたが,アメリカもきわめて深刻な人材不足で,Haley氏に頑張ってもらうしかない状況です。
 民主党のほうも,超高齢者のBidenであり,かりに体力的に問題はなくても,認知機能の低下は避けられず,そうした人物が核ボタンをもつというのは,Trumpがそれをもつのとは違う意味で怖しいです(Trumpもまたかなりの高齢者です)。
 アメリカは,連邦レベルでは,あまりにも巨大な国になり,多様な人を抱え込みすぎて,これを統合して率いることができるような人材がいなくなってきているのかもしれません。
 軍事力と経済力は強くても,統治は国民の分断で機能不全となりつつあり,国際的な場では,国内基盤が脆弱で信用のおけない国として,そのステイタスは低下することになるでしょう。アメリカは,ロシアや中国とは違うという先進国の認識は改められることになるでしょう。
 Bremmer氏も,「米国はすでに世界の先進民主主義国家で最も分裂しており、機能不全に陥っている。11月の選挙は誰が勝っても、この問題を悪化させることは間違いない。」と述べています。
 日本では,Trumpが復活したときに備えなければなりませんが,「猛獣使い」の妙技を駆使した安倍元首相のような政治家は,なかなか現れないでしょう。岸田首相が「私がやる」としゃしゃり出て,いろんな要求を飲み込まされてしまうことは避けてもらいたいです。
 次の大統領が選ばれる前に,日本の政治体制も再建し,BidenTrumpのどちらが再選されてもしっかり対応できる陣営で臨んでもらいたいです。