デジタルトランスフォーメーション

2024年5月 5日 (日)

低投票率を嘆く前にやるべきこと

 1週間前の日本経済新聞の記事「衆議院3補欠選挙,投票率過去最低を記録」によると,そのタイトルどおり,「衆院3補欠選挙の投票率は,東京1540.70%,島根154.62%,長崎335.45%となり,いずれも過去最低を記録した」そうです。選挙区がなくなることになっていて,野党どうしの対決となった長崎3区はさておき,自民と立憲の一騎打ちとなった島根1区でさえも55%程度で,全国の注目を集めた江東区の東京15区は40%そこらというのは,この選挙の結果の民主的正統性が疑われそうな数字です。島根1区は県庁所在地の松江市を中心とする選挙区で,島根県民の関心の低さが嘆かわしいですし,東京都の江東区は,自民不在の乱打戦という感じで,激しい選挙妨害があったことも含め,情けない選挙であったと思います。
 ただ投票率が低いことについては,有権者の意識の低さを指摘するだけでは不十分です。今回の選挙はわかりませんが,直近の選挙で私が経験したことでいえば,投票所に行くと,紙と鉛筆を渡され,候補者の名前を手書きし,自分で投票箱に入れ,それを投票立会人がみつめているというものです。タイパ重視の若者は,よほどのことがなければ,こういうスタイルにはなじめないのではないでしょうか。わざわざ投票所にでかけたあと,紙と鉛筆を渡されるというのは,レトロな感じがするでしょう。私は選挙とはこういうものだと,何も疑問をもたずにしがってきましたが,はじめて選挙に行く若者たちにとっては,「なんでスマホを使って投票できないのか」と思うことでしょう。それに投票締め切りになった途端に,候補者の当確が出たりするのも興ざめです。仕方ないのかもしれませんが,なんとなく選挙をやる前から結果がわかっているような感じで,これだと選挙に行く気がなくなるでしょう。
 これは低投票率の原因が有権者の意識の低さではなく,選挙のやり方がまちがっていることに起因している可能性を示しています。区割りをどうするかとか,小選挙区制や比例代表制をどうするかとか,そういう問題もあるのですが,まずは投票方法から変えてみたらどうでしょうか。電子投票にはいろいろ課題があるのでしょうが,前にも書いたように,株主の議決権行使などでも,スマホでできる時代であり,工夫をして技術的に乗り越えてほしいです。選挙は大事なことだから人間のアナログ的な手法でという考え方もあるのでしょうが,もしそうならDXを推進している政府の立場と矛盾します。デジタル技術を活用できるものは原則として,デジタル技術でやるという意味の「デジタルファースト」をここでも適用して,投票方法を変えなければなりません。よく言われるデジタル化は高年齢者に不利であるという話は,少なくとも組織票をもっている政党には影響しないでしょう。自民を支持する高齢者だけでなく,公明を支持する創価学会員,立憲民主や国民民主を支持する労働組合員,共産党員にも高齢者はたくさんいるでしょうが,彼ら,彼女らは,どんな投票方法であっても投票するでしょう。むしろ遅れている日本社会のデジタル化に活を入れるためにも,これまでデジタルになじんでいなかった人にデジタル技術を浸透させるきっかけとなりそうな投票のデジタル化は効果的だと思いますが,いかがでしょうか。

2024年1月 6日 (土)

事故回避のためにすべきこと

 JALの事故について,管制官の確認ミスという話も出てきました。あまりにも人間の手に依存しすぎではないのかという素朴な疑問も出てきます。人間にしかできないことだと思っていても,人間のミスは避けられません。それを常に責めることができるわけではありません。もちろん,機械にさせてもミスはあります。ただ不幸な結果が発生したときに,責任追及できる相手となる人が必要だという議論があるようですが,そうではなく,不幸な結果を起きないようにするためには,どうすれば確率が高い方法がとれるかということが大切だと思います。こう考えると,人間に責任を負わせて,事故回避に向けたインセンティブを与えるよりも,機械の活用による事故回避のほうが優先的な選択肢となると思われます。
 高齢者施設で,夜中に異常な行動がないかチェックするために,人が巡回するよりも,監視カメラをつけてAIにチェックさせるほうが,はるかに効率的です。これは数年前から実用化されています。この種のことができるのであれば,もっといろんなところで活用できないのでしょうか。おそらく技術的には可能であり,それを受け入れるかどうかは,経営者の判断なのでしょう。国家公務員の管制官であれば,政府の判断でしょう。コストの問題は言い訳にすぎません。人命のリスク回避こそ最優先であり,多くの無駄遣いをやめることが大切です。
 AIの活用は,それが進むと,人間の仕事を奪う可能性があると言われています。しかし,それは人間側の無策に起因するところもあり,人間とAIの協働がうまくできれば,人間の仕事は新たな形で残ります。いずれにせよ,経営者には,AIを導入できることなのに,それを怠って損害を発生させたら,過失があるというような判断がなされる状況が来るかもしれません。かりに法的責任がないとしても,経営者には真剣に事故回避のためのデジタル技術の活用を検討してもらえればと思います。

2023年12月 5日 (火)

選ばれる企業

 昨日書いた「プロの力」というのは,最近,政府が力を入れている「人への投資」にもつながる話です。日本では企業の「人への投資」が遅れていると言われてきましたが,たとえば企業に入るまでの基礎能力の平均は,日本人の労働者は外国人より高いので,企業が基礎的な能力に投資する必要性は小さかったという理由は考えられないでしょうか。一方で,職業スキルについては,専門学校などを除くと,学校では教えていないので,OJTで鍛えるというのが日本的なやり方です。これも本来は「人への投資」にカウントできるとすると,おそらく日本企業の「人への投資」は過小評価されていた可能性もあるように思えます。日本では,こうした人的資本投資が,正社員と非正社員との間で格差があるから,法律は教育訓練の均等や均衡ということを求めてきたのです(現在の短時間有期雇用労働法11条。もっとも,同条でいう教育訓練にOJTまで含まれるのかは,よくわかりません)。
 とはいえ,今日求められている教育訓練は,デジタル対応のためのリスキリングです。これは企業内のOJTでは難しいので,これからはOff-JTがいっそう重要となるでしょう。企業が社員のデジタル教育に投資するのは,事業のDXを進めるうえで不可欠のように思いますが,外部人材の活用とどちらが効率的かということの比較はされるでしょう。大企業では,転職可能性が低いと考えれば,思い切って教育費用を投入しても,回収できるという判断ができるかもしれません。長期雇用を保障する人材である以上,長期的な活用のためのメンテナンス費用という見方もできるかもしれません。しかし,労働者には退職の自由があり,今後転職を推進する政策が進められていくと(たとえば退職所得課税の変更),大企業の正社員の間でも転職が広がっていき,そうなると,どこまで企業がデジタル教育に費用を投入できるかは,はっきりしなくなります。とはいえ,働く側からすると,教育に力を入れてくれる企業は魅力的です。そうすると,企業は転職されることは覚悟のうえで,良い人材を集めるために教育に力を入れるかもしれません。教育をして,そこから次々と巣立っていく優秀な社員が多いという評判が立つこと自体が,優秀な人材を集めることにつながり,企業の成長を支えることになります。こういう形の流動化が,労働市場の理想的な状況だとも思えます。
 状況は全然違うのですが,法学者の世界でも,すごろくの「あがり」のような大学があり,そこに行くまでのステップになる大学もあります。後者のタイプの大学は,「あがり」やそれに近い大学に移籍することを折り込みずみで,受け入れるのです。結果として,よい研究者を集めることができ,大学間での競争力を高めることができます。
 一般の労働者にとっては,なにが「あがり」の職場かは個人の判断によりますが,自分のキャリア計画において,ステップアップしていくために,よい教育や経験をつませてくれる企業を選び,次につながるようにすることが大切です。そういう教育を施してくれて,自社に縛らないという意味の流動性とを兼ね備えている企業が,これから選択されることになると考えています。 

2023年9月22日 (金)

クリニックの待ち時間

 久しぶりに耳鼻科に行きました。近所の耳鼻科が休みだったので,電車に乗って隣の駅の耳鼻科に行きました。耳の内側に痛みがあったからで,診察結果は,つめでひっかいたようなあとがあって,炎症を起こしているということでした。耳の触りすぎということですね。子どものやるようなことで恥ずかしいのですが,自分自身も自覚していて,耳を触りすぎる癖があり,でもなかなか直りません。 
 そこは初診でもオンライン予約ができて,何人待ちかはオンラインで確認できます(きちんと更新されています)。それはよいのですが,一人あたりの治療時間がわからないのと,予約していてもキャンセルがありうることから,結局,あと何人くらいのところで家を出ようかという判断ができないのです。自分の番号に,どんどん近づいたかと思うと,全然動かなくなったりもします。このオンラインシステムは,ないよりはましくらいで,待ち時間問題の根本的な解決にはならないような気がしました。
 今日の医師は,テキパキと患者をさばいていく感じです。それと老人と長話をしない医師のようです(これはとても大切です)。だから,あまり待ち時間の心配のないクリニックでした。こことは違って,老人のお話をしっかり聴いてくれる優しい医師のいるクリニックもありますが,これは困りものです。こういうところになると,オンラインシステムで,あと何人とわかっても,待ち時間の想定ができません。
 待ち時間を少なくするためには,どういう方法があるか。たとえば,患者一人ひとりが,事前にネット上で自分の症状を入力することにより(質問に答える形で入力),AIで何分かかるか予測できるようになると,自分の番号まであと何時間かわかり,待ち時間を減らすことができます。なんとなく医療業界はDXと縁遠い感じがするのですが,私がもう少し年をとって,日常的に医療のお世話になるときまで,DXが進んでいてほしいですね。それほど時間はないのですが。

2023年9月18日 (月)

リアル回帰に警戒を

 915日の日本経済新聞の夕刊の「十字路」の欄で,東京都立大学大学院の松田千恵子教授が,「会計監査の現場離れ」というコラムを書かれていました。「リモートワークに異を唱えるつもりもない。むしろ,適宜活用して生産性を上げることは大事だ。会計など情報を扱う分野はリモートワークとの親和性も高い。ただ率直に言えば,実地棚卸しなどを含む会計監査については,当然ながら現場をしっかり見てほしいというのが本音だ。」というのは,よく理解できることではあります。ただ,そのあとに,ある監査法人の調査として,「今後は不正リスクが高まる」と感じている企業の割合が,2020年に59%だったものが,2022年には64%へと上昇したということが紹介されていて,これを現場主義の論拠とされているようですが,この5%の上昇は軽視できないものの,むしろこの程度であれば,違った方法で不正リスクに対処するという議論をすべきではないかというのが,DXとリモートの推進派の発想だと思います。
 労働者の数は今後どんどん減っていくというのは,少し前までは数字上のことのようでしたが,いまは実感が高まってきています。今回の休暇先でも,ホテルの裏方はほとんどアジア系の若者でした。外国人の活用がなければ,観光業界などはもたないようになってきているのでしょう。飲食店も同様であり,人手不足は深刻なようです。こちらは,このままでは飲食店の倒産か,価格の引上げになっていくでしょう。おそらく,今後は,接客能力の高い人間を配置して高級店に転換していくか,ロボットを導入していくか,そういうことをしないかぎり,この業界の未来は暗いでしょう。タクシーについても,前に書いたとおり,人手不足が深刻で,ライドシェア(ride share)の導入は不可避となりつつあります。
 リアルで人間の手を借りて仕事の水準を維持することは当面は必要でも,それに頼ってしまうと,人手不足に対応できません。これは観光業から会計監査の仕事まで,広くあてあまることではないでしょうか。そのためにも,コロナ禍でのリモート化は,緊急避難であったと位置づけるのではなく,来るべき社会の到来が早まったにすぎないという認識をもって,事態に臨まなければならないのです。
 ホテルで働いてくれる外国人が,いつまで日本に来てもらえるかわかりません。政府の雇用政策といえば,人間を対象としたものでした。AI問題も,AI代替による(人間の)雇用喪失が懸念されています。しかし,より深刻な問題は,人間の不足により,社会が回らなくなることです。いくら賃金を引き上げても,人が集まらない社会というのは,おそろしいです。早く機械でできるものは機械で,という意味のデジタルファーストに取り組まなければなりません。
 コロナ禍のころは,こういう議論をする機会がよくあったのですが,最近はあまりしなくなりました。デジアナバランス(digital-analog balance[造語])を追求するのではなく,アナログ時代のノスタルジー(nostalgia)から,うずうずしていた人の声が大きくなりつつあるような気もしています。ウィズ・コロナの定着により,人間のリアルでの仕事の再評価という誤った方向に動き出さないように注意が必要でしょう(なお,上記の松田氏の意見は,むしろリモートワークを評価したうえでの,デジアナバランスの追求をめざした意見とみるべきでしょう)。

2023年5月 2日 (火)

デジタル・デバイド解消と銀行への期待

 4月28日の日本経済新聞で,三菱UFJ銀行が,10月2日から店舗の窓口やATMの振込手数料を引き上げると発表したことが報じられていました。窓口などでの現金の取扱いに関する経費の上昇が収益を圧迫しているからのようです。「経済産業省の推計によると現金関連業務の窓口人件費にかかる経費は業界全体で4100億円にのぼる」とされる一方,「日本でも送金はネット移行が進むが,なお高齢者らへの対応で店頭手続きが一定の割合を占めてきた」のです。そして,日本の銀行は,「デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた投資にまわす余力に乏しい課題」があり,「収益性を改善して成長に向けた原資を確保できるかが重要になる」という結びになっています。
 ここには,DXをめぐる現在の問題がわかりやすく現れているように思えます。
 行政手続なども含め,いろいろな分野で人を介さないオンライン化が進み,それは経費節減をもたらします。省力化・省人化により人手を不要とし,潜在的には失業を増やすおそれがありますが,より高度なサービスに人材を配置することができ,金融業界だけでなく,多くの産業で同様の現象が進みつつあるのではないかと思います。その一方で,サービス業などでは,高齢者らにおけるデジタル・デバイド(digital divide)があるために,ある程度はアナログ的なサービスを残すことが必要となっており,これは企業にとっては非効率な部分となるので,その費用は消費者に負担をしてもらうことになるというのが,今回の手数料引上げなのかもしれません。デジタル化を遅らせることのつけは,結局,国民が払わざるを得なくなるのです。
 ただ,そういうことであれば,むしろ高齢者らのデジタル対応を促進して,こうした層にもデジタルの恩恵が及ぶようにし,企業もそれにより事業の効率化を進めて収益を向上させ,よりよいサービスができるようにするという循環を起こすほうがよいと思われます。いまのままでは,デジタル対応できない高齢者らは金のかかるどうしようもない消費者というレッテルが貼られることになりかねません。
 金融機関にとって,国民にお金を融通するのが最も重要なパーパス(purpose)であるということからすると,たとえもうからない高齢者であっても,できれば10月に手数料を引き上げる前に,オンライン口座の設置やパソコンやアプリでの操作などについて丁寧に教えてデジタル対応できるようにしてほしいですね。手数料を引き上げてオンラインでやらなければペナルティを課すぞという脅しではなく,オンラインにスムーズに移行できるように寄り添うことこそ,銀行に取り組んでもらいたいのです。銀行業務はほとんどの国民が利用する重要なサービスであるので,銀行にはそうした業務を担っているという自覚と矜持をもってもらい,率先して国民のデジタル・デバイドの解消に貢献してくれることを期待したいと思います。

2023年4月28日 (金)

さらば学歴?

 4月18日の日本経済新聞のインサイドアウトに,「さらば学歴  DX採用はスキルで 専門人材奪い合い 大学で学べぬ『最先端』」という記事が出ていました。これはデジタル人材では,学歴が通用しないという話ですが,もはやデジタル人材だけでなく,デジタル時代におけるすべての業種や職種において,学歴が通用しなくなる可能性があります。もちろん,学歴不問ということをいう企業はかなり前からあり,学歴はあてにならないということは言われ続けていることです。そこには,大学を出ているかどうかは問わないというものから,大学は出ている必要があるが,どの大学を出ているかは問わないというものまであります。 
 いずれにせよ,大学を出ていることや偏差値の高い大学を出ていることだけでは価値がなくなる時代が,ほんとうに来ようとしています。まだ学歴コンプレックスのある人が社会の中枢(政治家,大企業のトップなど)にいる間は,いくら学歴不要とは言っていても,学歴を意識しているという点で,学歴社会は変わらないでしょうが,しかしそれも徐々に消えていくことでしょう。ここでも技術主導でみていく必要があるのです。DXが進み,ジョブ型となっていくと,そのジョブをこなすスキルがあるかどうかが勝負となるので,学歴は主たる要素となりません。これは学歴がスキルと比例しないから生じることで,大学が社会の要請にマッチしていないことを意味しています。知り合いの大手美容店に,最近,大学卒業者が入社したそうです。本人は美容師になりたかったが,親の勧めで仕方なく大学に行ったあと,美容専門学校に入ったそうです。AI時代においても,機械に代替されにくい仕事として美容師を選択するのは良い選択だと思いますが,親世代はそこをよく理解できず,子どもに大学に行かせるという遠回りをさせてしまいました(でも親の気持ちもよくわかります)。ただ,この業界も今後はAIを活用する美容テックを駆使しなければ生き延びることができません。だからやっぱり勉強が必要ですし,とくにChatGPTの活用の仕方などを学ぶことこそ必要といえますが,その場は大学ではないでしょう。
 もちろん,職業的なスキルというのは別に,本当に優秀な人材というのは,技術革新の影響などとは関係なく優秀です。そうした人たちには,社会をリードするエリート層になってもらう必要があります。芦屋市では,キラキラの学歴の最年少市長が誕生しました。エリートの底力をみせてもらいたいところです。
 大学のほうも変わりつつあります。4月25日の日本経済新聞で,一橋大学が,この4月から「ソーシャル・データサイエンス学部」を新設したという記事が出ていました。これは,デジタル時代の文理融合型のエリート層を育成しようとするものではないかと思われます。これからの大学の方向性を示すものであり,どのような成果が出るか楽しみです。

2023年3月15日 (水)

日本企業の将来

 昨日の日本経済新聞の「Deep Insight」(梶原誠氏が担当)の『「世界の50社」,消える日本』は,興味深く読ませてもらいました。私は日頃から,日本の企業が創造的破壊をし,革新していくことができるかについては悲観的で,インタビューや講演で話すときには,日本の組織の硬直性とその前途の暗さを嘆いています。とくに創造的破壊のために不可欠の前提であるデジタル技術の活用ができているか,それに適した人材を育成し,活用できているか,という視点でみた場合に,日本はかなり厳しい状況にあるように思います。
 記事のなかで,花王がユニチャームを追い抜いたことについて,両者の逆転は「日本の国力に対する読みとスピード感の違い」に起因するというアナリストのコメントが紹介されていました。日本の国力は着実に低下し,それにスピード感をもって対応した企業とそうでない企業との差が現れているということでしょう。
 また,コンサルティング会社のドリームインキュベータがコロナ後の世界を予測した報告書の内容も紹介されていました。報告書は,コロナ後は元の社会に戻るという楽観論を否定し,「デジタル化を筆頭に,それまで先送りしてきた課題が露呈するので変化を10年前倒しすべきであること,社会の前提が変わるので業界の構造も一変すること,顧客の価値観の変化に合わせた世代交代が避けらず,若い人や新興企業はチャンスを迎えること」というメッセージを発していると紹介されていました。この報告書の言っていることは,基本的には賛成です。私からのメッセージは,コロナは,これまでのDXの到来を早めただけで,DXによる社会の変化はコロナ前から起きていたこと,この変化は今後,加速化し,産業構造やビジネスモデルは根本的に変わり,それに対応できない企業は退場せざるを得ないこと(行政,医療,教育などがDXに対応できなければ,日本は途上国並みになる可能性があり,すでにその兆候があること),人材面では新しい価値観(本物のSDGs)をもった人が登場し,営利追求を基本とする資本主義自体が見直されるであろうこと,というものです。
 梶原氏は,「世界の顔である卓越した50社から日本企業の姿が消えている光景を今こそ想像すべきだ。見たくない現実はそこまで来ている。」と結んでおられますが,まったく同感です。

2023年3月 8日 (水)

仲介業のデジタル化

 今朝の日本経済新聞でFinancial Times の米国版のeditor-at-large のジリアン・テット(Gillian Tett)さんのAI,不動産業界に新秩序」という翻訳記事が掲載されていました。不動産仲介事業にはレントシーキング(rent seeking)が広がっているが,AIなどの先端技術が入ることにより,今後はそれが難しくなり,手数料も下がることになるのではないか,ということが書かれています。投資家は,この事業への投資について慎重であるべきかもしれないということです。
 日本でも,不動産仲介事業の手数料が高いという不満の声はネットをみるとかなり広がっているようです。これに対しては,プロの事業者を活用するメリットを説く投稿もあり(たぶん業界関係者からのもの),素人には悩ましいところがありますが,いずれにせよ,こういう不満があることは事実なのであり,先端技術の活用の余地は十分にあり,大きなビジネスチャンスがあることは間違いありません。
 株式市場でもネット証券を中心に手数料を思い切って引き下げると,個人も参加しやすくなるというのと同様,不動産市場の活性化は,限られた土地の有効活用のためにも必要なことで,そこではデジタル化にともなう手数料の引き下げは有力な方法となるように思います。社会課題の解決につながるというところに,このビジネスの大義があります。
 普通の人は,不動産売買にせよ,賃貸借にせよ,仲介事業者を通さなければ,売主と買い主,貸主と借主が個人で交渉をしなければならないことになるので大変そうだと考えているでしょう。私もそうです。しかし,これもうまいデジタルプラットフォーム(digital platform)をつくることができれば,克服できないことではないと思います。あとは,私たち自身が,これはプロに任すのは当然という意識を改めることかもしれません。
 少し状況は違いますが,相続手続は司法書士に任せるというのも常識のようにも思えますが,私は今回の相続は簡単なものであったこともあり,自分ですべてやりました。面倒くさいことでしたが,自分でできることは自分でやって出費をおさえたいという気持ちから,頑張りました。幸いなことに,法務省などのホームページにかなり情報があり,不明な点は電話で確認をしていけば,丁寧に対応してもらえました。さらに,実際の手続ではいろいろとミスをしましたが,これもまた丁寧にサポートしてもらえました。実は相続以外にも,社会保険関係の手続で,書類の不備などのミスをしましたが,これも役所の人が丁寧にサポートしてくれました。しかも,ほとんどすべてムーブレスでやることができたことも助かりました。一つだけ,法定相続情報一覧図については,申請書に印鑑を押し忘れていたので,法務局に行きました。ただ,印鑑を押して補正したあと,その場ですぐに一覧図を受け取ることができました。返信用封筒には,本人受取限定書留の高い切手代を貼っていたのですが,それが不要となり返却してもらえたので,結局,費用の節約となり助かりました。
 インターネットでの情報提供というデジタルな側面と,役所側の人の丁寧な対応というアナログ的な側面とが合わさって一人ででてきたのだという結論になりそうですが,もとはといえば印鑑にこだわるところに問題があったともいえます。戸籍の収集ももっと簡単にできるはずです。こういうところがもっと効率化すれば,役所の人の仕事も減り,国民の負担も減り,こうした手続はオンラインでもっと簡単にできることになるでしょう。それは同時に,司法書士の方に,こんな事務的な細かいことではなく,もっと大きな仕事に専念してもらえることにつながると思います。

2023年1月19日 (木)

女性優位の時代か

 まだまだ日本社会は,男性優位なのでしょう。しかし,着実に女性の時代は近づいていると思います。男性中心の組織には,女性がまだあまり進出していないので,なんとなく女性の社会進出は遅れているとみられがちですが,実は,男性中心の組織などには魅力がないので,優秀な女性はそこには集まらず,別のところで活躍している可能性が高いのです。フリーランスで活躍しているのは,女性のほうが多いでしょう。かりに男性に評価されて登用されている女性が増えても,真の女性の進出にならないと思います。デジタル時代に広がる新たな領域に,優秀な女性がなだれ込んで,社会を変えていく,そんな予感がしています。
 ところで,二人の男子学生とコミュニケーション能力について,雑談めいた話をしていたとき,二人とも塾アルバイトで小学生に教えているそうなのですが,コミュニケーション能力は圧倒的に女子が高いと言っていました。でも,コミュニケーション能力って,何をコミュニケーションするかが大切だよねと言うと,話している内容のほうも女子のほうがよいというのです。内容がよくて,伝える力もあれば鬼に金棒です。どうしてそうなるのかは,よくわかりません。塾に来るような小学生なので,サンプルが偏っているかもしれません。しかし,なんとなく一般的な傾向を示しているのではないかという気もします。ロボットが広がることにより,男性が体格や体力などの面での有利さを発揮しづらい時代が来るのであり,将来的には男性を差別するなという運動が起こる可能性も十分にあります(私がよく書いていることです)。
 父のいろいろな整理の手続で,多くのところ(役所やそれに近いところが多いのですが)に電話をする機会があるのですが,そういうときでも女性のほうが,ちょとした配慮をしてくれるケースが多いように思います。「気が利く」ということです。こういうのもコミュニケーション能力なのだろうと思います。私は,「気が利く」というところから最も遠いところに存在していると思うので,「気が利く」サービスができる人は尊敬してしまいます。男性でも「気が利く」人はいくらでもいるのでしょうが,女性は,小さいときから,男性よりも,周りの友だちとうまくいくことに神経を使い,そのためにコミュニケーション能力を磨いてきているかもしれず,そうだとすれば,これは訓練の蓄積が違うので,男性は簡単には追いつけないことになりそうです。
 コミュニケーション能力を活用した仕事は,AI時代においても残る可能性が大きいです。チャットボットではできない「気が利く」対応も,人間だからこそできることです。この仕事の領域を,女性に制覇されてしまうと,男性には厳しいことになるでしょうね。