デジタルトランスフォーメーション

2023年5月 2日 (火)

デジタル・デバイド解消と銀行への期待

 4月28日の日本経済新聞で,三菱UFJ銀行が,10月2日から店舗の窓口やATMの振込手数料を引き上げると発表したことが報じられていました。窓口などでの現金の取扱いに関する経費の上昇が収益を圧迫しているからのようです。「経済産業省の推計によると現金関連業務の窓口人件費にかかる経費は業界全体で4100億円にのぼる」とされる一方,「日本でも送金はネット移行が進むが,なお高齢者らへの対応で店頭手続きが一定の割合を占めてきた」のです。そして,日本の銀行は,「デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた投資にまわす余力に乏しい課題」があり,「収益性を改善して成長に向けた原資を確保できるかが重要になる」という結びになっています。
 ここには,DXをめぐる現在の問題がわかりやすく現れているように思えます。
 行政手続なども含め,いろいろな分野で人を介さないオンライン化が進み,それは経費節減をもたらします。省力化・省人化により人手を不要とし,潜在的には失業を増やすおそれがありますが,より高度なサービスに人材を配置することができ,金融業界だけでなく,多くの産業で同様の現象が進みつつあるのではないかと思います。その一方で,サービス業などでは,高齢者らにおけるデジタル・デバイド(digital divide)があるために,ある程度はアナログ的なサービスを残すことが必要となっており,これは企業にとっては非効率な部分となるので,その費用は消費者に負担をしてもらうことになるというのが,今回の手数料引上げなのかもしれません。デジタル化を遅らせることのつけは,結局,国民が払わざるを得なくなるのです。
 ただ,そういうことであれば,むしろ高齢者らのデジタル対応を促進して,こうした層にもデジタルの恩恵が及ぶようにし,企業もそれにより事業の効率化を進めて収益を向上させ,よりよいサービスができるようにするという循環を起こすほうがよいと思われます。いまのままでは,デジタル対応できない高齢者らは金のかかるどうしようもない消費者というレッテルが貼られることになりかねません。
 金融機関にとって,国民にお金を融通するのが最も重要なパーパス(purpose)であるということからすると,たとえもうからない高齢者であっても,できれば10月に手数料を引き上げる前に,オンライン口座の設置やパソコンやアプリでの操作などについて丁寧に教えてデジタル対応できるようにしてほしいですね。手数料を引き上げてオンラインでやらなければペナルティを課すぞという脅しではなく,オンラインにスムーズに移行できるように寄り添うことこそ,銀行に取り組んでもらいたいのです。銀行業務はほとんどの国民が利用する重要なサービスであるので,銀行にはそうした業務を担っているという自覚と矜持をもってもらい,率先して国民のデジタル・デバイドの解消に貢献してくれることを期待したいと思います。

2023年4月28日 (金)

さらば学歴?

 4月18日の日本経済新聞のインサイドアウトに,「さらば学歴  DX採用はスキルで 専門人材奪い合い 大学で学べぬ『最先端』」という記事が出ていました。これはデジタル人材では,学歴が通用しないという話ですが,もはやデジタル人材だけでなく,デジタル時代におけるすべての業種や職種において,学歴が通用しなくなる可能性があります。もちろん,学歴不問ということをいう企業はかなり前からあり,学歴はあてにならないということは言われ続けていることです。そこには,大学を出ているかどうかは問わないというものから,大学は出ている必要があるが,どの大学を出ているかは問わないというものまであります。 
 いずれにせよ,大学を出ていることや偏差値の高い大学を出ていることだけでは価値がなくなる時代が,ほんとうに来ようとしています。まだ学歴コンプレックスのある人が社会の中枢(政治家,大企業のトップなど)にいる間は,いくら学歴不要とは言っていても,学歴を意識しているという点で,学歴社会は変わらないでしょうが,しかしそれも徐々に消えていくことでしょう。ここでも技術主導でみていく必要があるのです。DXが進み,ジョブ型となっていくと,そのジョブをこなすスキルがあるかどうかが勝負となるので,学歴は主たる要素となりません。これは学歴がスキルと比例しないから生じることで,大学が社会の要請にマッチしていないことを意味しています。知り合いの大手美容店に,最近,大学卒業者が入社したそうです。本人は美容師になりたかったが,親の勧めで仕方なく大学に行ったあと,美容専門学校に入ったそうです。AI時代においても,機械に代替されにくい仕事として美容師を選択するのは良い選択だと思いますが,親世代はそこをよく理解できず,子どもに大学に行かせるという遠回りをさせてしまいました(でも親の気持ちもよくわかります)。ただ,この業界も今後はAIを活用する美容テックを駆使しなければ生き延びることができません。だからやっぱり勉強が必要ですし,とくにChatGPTの活用の仕方などを学ぶことこそ必要といえますが,その場は大学ではないでしょう。
 もちろん,職業的なスキルというのは別に,本当に優秀な人材というのは,技術革新の影響などとは関係なく優秀です。そうした人たちには,社会をリードするエリート層になってもらう必要があります。芦屋市では,キラキラの学歴の最年少市長が誕生しました。エリートの底力をみせてもらいたいところです。
 大学のほうも変わりつつあります。4月25日の日本経済新聞で,一橋大学が,この4月から「ソーシャル・データサイエンス学部」を新設したという記事が出ていました。これは,デジタル時代の文理融合型のエリート層を育成しようとするものではないかと思われます。これからの大学の方向性を示すものであり,どのような成果が出るか楽しみです。

2023年3月15日 (水)

日本企業の将来

 昨日の日本経済新聞の「Deep Insight」(梶原誠氏が担当)の『「世界の50社」,消える日本』は,興味深く読ませてもらいました。私は日頃から,日本の企業が創造的破壊をし,革新していくことができるかについては悲観的で,インタビューや講演で話すときには,日本の組織の硬直性とその前途の暗さを嘆いています。とくに創造的破壊のために不可欠の前提であるデジタル技術の活用ができているか,それに適した人材を育成し,活用できているか,という視点でみた場合に,日本はかなり厳しい状況にあるように思います。
 記事のなかで,花王がユニチャームを追い抜いたことについて,両者の逆転は「日本の国力に対する読みとスピード感の違い」に起因するというアナリストのコメントが紹介されていました。日本の国力は着実に低下し,それにスピード感をもって対応した企業とそうでない企業との差が現れているということでしょう。
 また,コンサルティング会社のドリームインキュベータがコロナ後の世界を予測した報告書の内容も紹介されていました。報告書は,コロナ後は元の社会に戻るという楽観論を否定し,「デジタル化を筆頭に,それまで先送りしてきた課題が露呈するので変化を10年前倒しすべきであること,社会の前提が変わるので業界の構造も一変すること,顧客の価値観の変化に合わせた世代交代が避けらず,若い人や新興企業はチャンスを迎えること」というメッセージを発していると紹介されていました。この報告書の言っていることは,基本的には賛成です。私からのメッセージは,コロナは,これまでのDXの到来を早めただけで,DXによる社会の変化はコロナ前から起きていたこと,この変化は今後,加速化し,産業構造やビジネスモデルは根本的に変わり,それに対応できない企業は退場せざるを得ないこと(行政,医療,教育などがDXに対応できなければ,日本は途上国並みになる可能性があり,すでにその兆候があること),人材面では新しい価値観(本物のSDGs)をもった人が登場し,営利追求を基本とする資本主義自体が見直されるであろうこと,というものです。
 梶原氏は,「世界の顔である卓越した50社から日本企業の姿が消えている光景を今こそ想像すべきだ。見たくない現実はそこまで来ている。」と結んでおられますが,まったく同感です。

2023年3月 8日 (水)

仲介業のデジタル化

 今朝の日本経済新聞でFinancial Times の米国版のeditor-at-large のジリアン・テット(Gillian Tett)さんのAI,不動産業界に新秩序」という翻訳記事が掲載されていました。不動産仲介事業にはレントシーキング(rent seeking)が広がっているが,AIなどの先端技術が入ることにより,今後はそれが難しくなり,手数料も下がることになるのではないか,ということが書かれています。投資家は,この事業への投資について慎重であるべきかもしれないということです。
 日本でも,不動産仲介事業の手数料が高いという不満の声はネットをみるとかなり広がっているようです。これに対しては,プロの事業者を活用するメリットを説く投稿もあり(たぶん業界関係者からのもの),素人には悩ましいところがありますが,いずれにせよ,こういう不満があることは事実なのであり,先端技術の活用の余地は十分にあり,大きなビジネスチャンスがあることは間違いありません。
 株式市場でもネット証券を中心に手数料を思い切って引き下げると,個人も参加しやすくなるというのと同様,不動産市場の活性化は,限られた土地の有効活用のためにも必要なことで,そこではデジタル化にともなう手数料の引き下げは有力な方法となるように思います。社会課題の解決につながるというところに,このビジネスの大義があります。
 普通の人は,不動産売買にせよ,賃貸借にせよ,仲介事業者を通さなければ,売主と買い主,貸主と借主が個人で交渉をしなければならないことになるので大変そうだと考えているでしょう。私もそうです。しかし,これもうまいデジタルプラットフォーム(digital platform)をつくることができれば,克服できないことではないと思います。あとは,私たち自身が,これはプロに任すのは当然という意識を改めることかもしれません。
 少し状況は違いますが,相続手続は司法書士に任せるというのも常識のようにも思えますが,私は今回の相続は簡単なものであったこともあり,自分ですべてやりました。面倒くさいことでしたが,自分でできることは自分でやって出費をおさえたいという気持ちから,頑張りました。幸いなことに,法務省などのホームページにかなり情報があり,不明な点は電話で確認をしていけば,丁寧に対応してもらえました。さらに,実際の手続ではいろいろとミスをしましたが,これもまた丁寧にサポートしてもらえました。実は相続以外にも,社会保険関係の手続で,書類の不備などのミスをしましたが,これも役所の人が丁寧にサポートしてくれました。しかも,ほとんどすべてムーブレスでやることができたことも助かりました。一つだけ,法定相続情報一覧図については,申請書に印鑑を押し忘れていたので,法務局に行きました。ただ,印鑑を押して補正したあと,その場ですぐに一覧図を受け取ることができました。返信用封筒には,本人受取限定書留の高い切手代を貼っていたのですが,それが不要となり返却してもらえたので,結局,費用の節約となり助かりました。
 インターネットでの情報提供というデジタルな側面と,役所側の人の丁寧な対応というアナログ的な側面とが合わさって一人ででてきたのだという結論になりそうですが,もとはといえば印鑑にこだわるところに問題があったともいえます。戸籍の収集ももっと簡単にできるはずです。こういうところがもっと効率化すれば,役所の人の仕事も減り,国民の負担も減り,こうした手続はオンラインでもっと簡単にできることになるでしょう。それは同時に,司法書士の方に,こんな事務的な細かいことではなく,もっと大きな仕事に専念してもらえることにつながると思います。

2023年1月19日 (木)

女性優位の時代か

 まだまだ日本社会は,男性優位なのでしょう。しかし,着実に女性の時代は近づいていると思います。男性中心の組織には,女性がまだあまり進出していないので,なんとなく女性の社会進出は遅れているとみられがちですが,実は,男性中心の組織などには魅力がないので,優秀な女性はそこには集まらず,別のところで活躍している可能性が高いのです。フリーランスで活躍しているのは,女性のほうが多いでしょう。かりに男性に評価されて登用されている女性が増えても,真の女性の進出にならないと思います。デジタル時代に広がる新たな領域に,優秀な女性がなだれ込んで,社会を変えていく,そんな予感がしています。
 ところで,二人の男子学生とコミュニケーション能力について,雑談めいた話をしていたとき,二人とも塾アルバイトで小学生に教えているそうなのですが,コミュニケーション能力は圧倒的に女子が高いと言っていました。でも,コミュニケーション能力って,何をコミュニケーションするかが大切だよねと言うと,話している内容のほうも女子のほうがよいというのです。内容がよくて,伝える力もあれば鬼に金棒です。どうしてそうなるのかは,よくわかりません。塾に来るような小学生なので,サンプルが偏っているかもしれません。しかし,なんとなく一般的な傾向を示しているのではないかという気もします。ロボットが広がることにより,男性が体格や体力などの面での有利さを発揮しづらい時代が来るのであり,将来的には男性を差別するなという運動が起こる可能性も十分にあります(私がよく書いていることです)。
 父のいろいろな整理の手続で,多くのところ(役所やそれに近いところが多いのですが)に電話をする機会があるのですが,そういうときでも女性のほうが,ちょとした配慮をしてくれるケースが多いように思います。「気が利く」ということです。こういうのもコミュニケーション能力なのだろうと思います。私は,「気が利く」というところから最も遠いところに存在していると思うので,「気が利く」サービスができる人は尊敬してしまいます。男性でも「気が利く」人はいくらでもいるのでしょうが,女性は,小さいときから,男性よりも,周りの友だちとうまくいくことに神経を使い,そのためにコミュニケーション能力を磨いてきているかもしれず,そうだとすれば,これは訓練の蓄積が違うので,男性は簡単には追いつけないことになりそうです。
 コミュニケーション能力を活用した仕事は,AI時代においても残る可能性が大きいです。チャットボットではできない「気が利く」対応も,人間だからこそできることです。この仕事の領域を,女性に制覇されてしまうと,男性には厳しいことになるでしょうね。

2022年10月26日 (水)

マイナカードのセキュリティを議論せよ

 昨日はインフルエンザの予防接種をしました。副反応もなくよかったのですが,問診票と接種費用の賃金からの控除についての同意書が紙なので,それを持っていかなければいけないのがちょっと残念でした。 事前にオンラインで手続できるようにしておいてもらえれば,会場まで手ぶらで行けるのですが。
 大した手間ではないので誰も文句は言わないでしょうが,紙が必要だということになると, 紙を受け取る職員を配置しなければならず,紙を忘れてくる接種者のために,紙とペンを用意しなければならず,受け取った紙を後で整理しなければならないというように,事務職員の方には結構な負担となるでしょう。
 ところで,マイナンバーカードと保険証の一体化について批判があるようです。私は議論をすべてフォローしているわけではありませんが,良い議論があまりされていないような印象を受けています。マイナンバーカードそれ自体への批判なら,わからないではありません。政府に個人情報が握られることへの不安もあるでしょうし,漏洩のおそれもあります。それらについては政府が丁寧に説明するしかないでしょうし,もっと国民に信頼してもらえるような政府になれと言うことになります。
 ただ,健康保険証をなくすなという主張だけだと,どうも首をかしげたくなります。保険証が残れば,医療機関は,保険証での対応とマイナンバーカードでの対応で業務が過重になります。マイナンバーカードをもつメリットがわからないという主張も多くあったわけで,政府は保険証をなくすことができるとか,運転免許証をなくすことができるとか,そういうメリットで対応しているのであり,そこは評価すべきでしょう。上述のように,個人の多くのデータが紐付くことへの不気味さはわかりますし,そこはセキュリティについてどうなのかということを政府に質していくことは必要です。しかし,マイナンバーカードを忘れたり,なくしたりしたら医療サービスは受けられないのか(そんなことはありえない)とか,医療機関が停電になったらどうなるのかという頓珍漢なことをいう政治家もいたりして,こうした意見は困ったものです。保険証がなくても医療を受けられる(将来的には,スマホのなかにカードが組み込まれるでしょう),いろんな医療機関にある個人の医療データを統合できて,よい医療サービスを受けられる,薬の過剰投与を避けられる,などのメリットは大きいものだと思っています。野党は筋の悪い質問をして,この議論を変な方向にもっていかないようにしてもらいたいです。
 マイナンバーカードについて,いかにしたら安全性が担保されて,私たちが安心に使えるようになるかという建設的な議論をしてもらいたいのです。そのうえで,移行期間は必要ですが,最終的にはマイナカードをもたない人が何らかの不利益を受けることがあっても仕方がないのではないかと思っています。政府も国民もデジタル社会に移行することへの覚悟を決めるべきです。お年寄りには抵抗がある人も少なくないでしょうが,デジタル・デバイドが生じないように,苦手な人や敬遠している人にうまく寄り添ってデジタル化のサポートをし(そこにはマンパワーを投入すべきです),デジタル化のメリットが最も大きいであろう高齢者に,デジタル化の利便性やメリットがきちんと及ぶようにしてもらいたいです。

2022年10月19日 (水)

AI審査

 信用調査などでAIはかなり前から活用されています。昨日の日本経済新聞で,ギグワーカーに対して,三井住友海上が車両ローンを始めるという記事が出ていました。「人工知能(AI)によるローン審査モデルを使い,勤務先などの属性ではなく,個人に将来見込まれる所得向上や車両の使用目的などのデータをもとに返済可能性を判断する。」ということのようです。こうしたAIの使い方は,今後いろいろなところに広がっていくでしょう。 データが蓄積されていけば, いっそう精度の高い予測判断ができることになります。
 ところで先日,このブログで研究費のつけ方のことを書きましたが,研究成果の発表可能性というものをAIに審査してもらって,研究費を決めるということもできそうな気がします。研究の場合には,ローンなどとは違って,アウトプットをどう評価するかなど,AIの学習データの作成に苦労する可能性はありますけれども,この分野でもAIの活用ができないわけがないでしょう。
  研究費とは違いますが,研究業績に対する審査をして賞が与えられることもあります。この場合,実際に世の中に出ている研究成果のすべてが対象になっているわけではなく,推薦などによってすでに制限されています。これはやむを得ないのですが,見落としているものがある可能性は避けられません。少なくともネットで公開されている研究成果はすべて網羅的に審査対象にして,AIに1次審査してもらうという方法はあるでしょう(就活のESのふるい分けのような感じです)。人間の推薦とAIの推薦で業績を絞って,最後は人間が判断するというようなスタイルが,今後は普通になっていくでしょう。ノーベル賞も,芥川賞や直木賞も,労働関係図書優秀賞も,商事法務研究会賞もそうなるかもしれません(受賞対象の要件の変更が必要でしょうが)。そのうち,人間がタッチしない完全AI審査も出てくるかもしれません。もちろん審査基準は人間が決めるのですが,もし審査基準もAIで決めるということになると,人間が機械に評価されてしまうということなので,不気味な感じがしますね。

2022年9月20日 (火)

マイナンバーカードの普及率

 台風一過。神戸は,夜中に強風は過ぎ去り,昼間は秋晴れとなり,同時に気温が下がりました。今日からLSの後期授業が始まりましたが,前日段階の予報のためか,今日はオンライン授業だったようです(私は,後期は,LSの授業は担当していません)。よく考えると,コロナ禍以降,LSと学部の授業では,私は休講をしたことがありません(それまでは,毎年,出張などで数回は休講がありました)。ずっと出張はせず,また授業もオンラインリアルタイムかオンデマンドであったので,災害の影響を受けず,休講の必要がなかったからです。
 ところでコロナというと,cocoaのサービスが休止されると聞いてアプリを削除しました。ただでさえスマホ上にアプリがたくさんあって整理したいと思っていたので,不要なものは即刻削除です。せっかく,cocoaログチェッカーを使って感染者との接触についてチェックできると思っていたのですが,意味がなくなりました(もともとあまり役立っていなかったのでしょうが)。
 私はなかなかモノを捨てることができないタイプなので,本の整理などができずに困るのですが,アプリも同様で,スマホ上でどんどん増えていきます。どこかで思い切って整理しなければなりませんし,政府系のものは使い物にならない可能性が高いので,できるだけインストール時に慎重に判断したいものです。
 さすがにマイナポータルはインストールしていますが,マイナンバーカードの普及率は半分以下のようです。政府は「マイナポイント第2弾」の期限延長を発表したと報道されていました。
 マイナンバーカードが普及しない理由については,前にも少し書いたことがありますが,かつて本人確認書類に含まれていなかったことが大きかったと思います。免許証やパスポートがない人には取得のインセンティブがあったはずですが,本人確認に使えないのであれば,この面では意味がなかったのです。いまは状況が変わっていると思いますが,当時は総務省が本気でマイナンバーカードを普及させようとしていなかった(以前に私の体験談をブログで書いたことがあります)から,国民の間には,マイナンバーカードへの冷ややかな視線があるのではないでしょうか。ここで一転して普及しようと頑張っても,国民はそう簡単にはついてこないでしょう。マイナポイントという餌を与えても,使えるところはあんまりないという感じで,食いついてもらえないようです。
 ただ,これは何を参照点とみるかであって,たとえばデジタル給与を期待する人は,○○payを使っていて,そういう人はマイナポイントを使えるところをよく知っているので,マイナンバーカードを取得するでしょう。そもそも国民のキャッシュレス派は,モバイル族以外に,カード族も含めて,半分くらいなので(https://infcurion.com/news/news-20220525_001/),マイナンバーカードの普及率が50%近いということは,マイナポイントを使えそうなキャッシュレス派にはかなり行き届いているという見方もできるかもしれません。取得率が8割を超えている運転免許証と比べると低いのでしょうが,要は何と比較するかです。政府は全員取得という目標を立ててしまったから,マイナンバーカードは普及していないという話になってしまうのかもしれません。いずれにせよ,根本には行政や社会のデジタル化の遅れがあるのであり,そこから改善していく必要があります。

2022年8月 1日 (月)

医療現場の紙

 いつもブツブツ文句を言っているペーパーレス関係のことなのですが,先日の人間ドックでは,事前に問診票が送られてきて,それに記入して提出するようにと指示されていました。これはこのクリニックを利用し始めた10年以上前から様式が変わっていないと思います。ピロリ菌は陰性かという質問には答えを忘れてしまったので,書かないで提出したら,看護師さんがすぐ横にあったパソコンで過去のデータから陰性と確認してくれて,そのように記入してくれました。それはそれでよかったのですが,データで管理をしているのなら,受診者の問診票についても紙ではなく,スマホやPCで入力できるようにしてくれたら助かります。また,これらのデータは,私の健康データなので,いつでも私が観ることができるようにしてもらいたいですね。本人はピロリ菌がどうだったかというようなことは,すぐに忘れてしまいますし(胃がんにかかわるので,そういう大切なことを忘れる自分もバカなのですが)。
 医療機関の初診時にも,たいてい問診票を紙で渡されます。神戸市の医療機関がとくに後進的ということでもないと思います。コロナ禍なので,他人の使った鉛筆やペンは使いたくないです。いまはタクシーも,キャッシュレスがあたりまえとなっていて,お金のやりとりをしたり,行き先を言ったりしなくても,目的地にまで到着できます。医療機関も,予約はスマホで,質問事項もスマホで答えて,診療が終わると,明細をメールで送ってくれて,クレジットカードから自動引き落としというようなことにしてくれれば,よいのですが。さらに,その日の診療結果もメールで送ってくれればなおよいです。もちろん,重症でなければ,オンラインでの診療が助かります。人間ドックは別ですが,普通は体調が悪いときに医療機関に行くのであり,医療機関まで出向いていき,ときには長時間待たされることで,よけいに体調が悪化しそうです。
 ところで,近所の耳鼻科で,医師が,私に小児喘息の既往症があることを前提とした話をしていて,何か変だなと思いながら,まあ喘息に近いものをかかえているからなと思いながら聞いていたところ,パソコンに映し出された私の既往病が目に入り,それが小児喘息となっていたので,あわてて訂正したことがあります。どこでどう間違ってそういう誤データが混入したのかわかりませんが,こわいことです。ただこれはパソコン画面に映し出せるデジタル情報だから発見できたともいえます。手書きのカルテに書かれていると,私の目に入ることはなかったでしょう。
 その医師は,決して悪い人ではありません。私の前でメモ帳の切れ端のような紙を置いて,いろいろ鉛筆で書きながら症状やその原因などを説明してくれました。親切で丁寧なのですが,その紙は回収されてしまいました。どうしても欲しいと言えばくれたかもしれませんが,なんとなく手書きの紙をもらうというのも変な感じがして,言いそびれてしまいました。ただ,こういうのは手書きの紙ではなく,デジタルデータで送ってもらいたいものです。そのようにしてデータでもらえると,セカンド・オピニオンを求めて,他の医療機関にも行きやすくなります。
 デジタル化は,初期費用はかかるでしょうが,医療従事者の仕事を効率化させ,サービスのクオリティの向上につながるでしょう。診療結果のデータ化は可視化でもあり,上記のセカンド・オピニオンの場合のように,サービスのクオリティの事後点検もしやすくなるので,医師はいやがるかもしれませんが,これは受け入れてもらう必要があると思います。
 新型コロナウイルスの第7波で,医療現場が大変なことになっているのはとても心配ですが,外来予約の管理を紙の日程表に書き込んでいる映像が出てきたりすると,これでは業務が回らないのは当然だと思ってしまいます。こういう働き方をさせられている従業員は可哀想です。
 そういえば,前にテレビのニュースで,厚生労働大臣が執務室らしきところから,オンラインで話をしているところが報道されていましたが,背後に映っていた机の上に分厚い紙のファイルがありました。このアンバランスが滑稽でした。これでは,効率的な仕事ができないだろうなと思ってしまいました。こういう映像を出してダメージになると思わないところに,政治家や霞ヶ関のデジタル化への感度の鈍さを感じます。
 政府にデジタル化の音頭をとってほしいとは,もう言いません。ただ,DXを進めたいと思っている医療機関はたくさんあると思うので,政府は,せめてそれを邪魔しないように(できれば補助をするように)してもらえればと思います。

2022年6月29日 (水)

尼崎市USB事件の続報

 日本経済新聞の電子版で,「BIPROGY(ビプロジー,旧日本ユニシス)の平岡昭良社長は28日,東京都内の本社ビルで開いた定時株主総会で,兵庫県尼崎市の全市民約46万人の個人情報が入ったUSBメモリーを同社の再々委託先の社員が一時紛失した問題について謝罪した」という記事が出ていました。「再々委託」だったのですね。
 この業界のことはよくわかりませんが,労働法的な観点からは,一般的に重層的な下請け構造や再委託構造というのは,いろいろ問題が起こりやすいわけです。そこに労働法上の問題があるということは,経営上の問題も当然ともなうものとなるでしょう。途中に事業者が入るほど,手数料が抜かれていくのでしょうから,末端の労働者の賃金は低いのではないかと想像してしまいます。ブラックな職場で,自分たちの個人情報を取り扱われたくないですね。
 BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)は,今後,どんどん進んでいくでしょうし,自治体が一定の苦手分野についてアウトソーシングすることは,それ自体は悪いことではありません。ただ,何をアウトソーシングするかが重要で,個人情報の重要性についての意識が低い自治体が,今回のような業務でも,安易にアウトソーシングするということがあっては困ります。そのような姿勢が,受注企業から甘く見られて,再委託禁止などと契約で定められていても,平気で無視されるということが起こるのかもしれません。
 前にも書いたように,個人情報の重要性に鑑みると,企業は,自治体内部で専門職員を育成すべきです。昨日の日本経済新聞では,データ分析や人工知能(AI)などの専門人材を別枠で新卒採用する企業が増えている,という記事も出ていました。自治体に集まっている個人情報は,デリケートなものが多いはずなので,そういうものを扱う業務は,できるだけアウトソーシングしないで自前でやってもらえないでしょうか。
 DXへの対応が遅れている自治体は,アナログ時代の仕事の仕方をひきずって,人間がやる必要のない仕事にまで多くの職員を配置している可能性があります。そういうところは,思い切って事業の再構築をすべきでしょう。業務や職場のDXを進め,それに合った人材を採用し,市民の個人情報をしっかり守る態勢を強化してもらいたいです。これは尼崎市だけの問題ではありません。私が住む神戸市も,兵庫県も,そして日本政府も,今回の事件をきっかけに,DXの推進と同時にセキュリティのいっそうの強化を進めてほしいです。人間が介在するとミスが起こりやすいのであり(だから自治体が自前でやっても不安が残ります),セキュリティ・バイ・デザインの発想で,DXの制度設計をしてもらいたいですね。