デジタル・デバイド解消と銀行への期待
4月28日の日本経済新聞で,三菱UFJ銀行が,10月2日から店舗の窓口やATMの振込手数料を引き上げると発表したことが報じられていました。窓口などでの現金の取扱いに関する経費の上昇が収益を圧迫しているからのようです。「経済産業省の推計によると現金関連業務の窓口人件費にかかる経費は業界全体で4100億円にのぼる」とされる一方,「日本でも送金はネット移行が進むが,なお高齢者らへの対応で店頭手続きが一定の割合を占めてきた」のです。そして,日本の銀行は,「デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた投資にまわす余力に乏しい課題」があり,「収益性を改善して成長に向けた原資を確保できるかが重要になる」という結びになっています。
ここには,DXをめぐる現在の問題がわかりやすく現れているように思えます。
行政手続なども含め,いろいろな分野で人を介さないオンライン化が進み,それは経費節減をもたらします。省力化・省人化により人手を不要とし,潜在的には失業を増やすおそれがありますが,より高度なサービスに人材を配置することができ,金融業界だけでなく,多くの産業で同様の現象が進みつつあるのではないかと思います。その一方で,サービス業などでは,高齢者らにおけるデジタル・デバイド(digital divide)があるために,ある程度はアナログ的なサービスを残すことが必要となっており,これは企業にとっては非効率な部分となるので,その費用は消費者に負担をしてもらうことになるというのが,今回の手数料引上げなのかもしれません。デジタル化を遅らせることのつけは,結局,国民が払わざるを得なくなるのです。
ただ,そういうことであれば,むしろ高齢者らのデジタル対応を促進して,こうした層にもデジタルの恩恵が及ぶようにし,企業もそれにより事業の効率化を進めて収益を向上させ,よりよいサービスができるようにするという循環を起こすほうがよいと思われます。いまのままでは,デジタル対応できない高齢者らは金のかかるどうしようもない消費者というレッテルが貼られることになりかねません。
金融機関にとって,国民にお金を融通するのが最も重要なパーパス(purpose)であるということからすると,たとえもうからない高齢者であっても,できれば10月に手数料を引き上げる前に,オンライン口座の設置やパソコンやアプリでの操作などについて丁寧に教えてデジタル対応できるようにしてほしいですね。手数料を引き上げてオンラインでやらなければペナルティを課すぞという脅しではなく,オンラインにスムーズに移行できるように寄り添うことこそ,銀行に取り組んでもらいたいのです。銀行業務はほとんどの国民が利用する重要なサービスであるので,銀行にはそうした業務を担っているという自覚と矜持をもってもらい,率先して国民のデジタル・デバイドの解消に貢献してくれることを期待したいと思います。