デジタルトランスフォーメーション

2022年8月 1日 (月)

医療現場の紙

 いつもブツブツ文句を言っているペーパーレス関係のことなのですが,先日の人間ドックでは,事前に問診票が送られてきて,それに記入して提出するようにと指示されていました。これはこのクリニックを利用し始めた10年以上前から様式が変わっていないと思います。ピロリ菌は陰性かという質問には答えを忘れてしまったので,書かないで提出したら,看護師さんがすぐ横にあったパソコンで過去のデータから陰性と確認してくれて,そのように記入してくれました。それはそれでよかったのですが,データで管理をしているのなら,受診者の問診票についても紙ではなく,スマホやPCで入力できるようにしてくれたら助かります。また,これらのデータは,私の健康データなので,いつでも私が観ることができるようにしてもらいたいですね。本人はピロリ菌がどうだったかというようなことは,すぐに忘れてしまいますし(胃がんにかかわるので,そういう大切なことを忘れる自分もバカなのですが)。
 医療機関の初診時にも,たいてい問診票を紙で渡されます。神戸市の医療機関がとくに後進的ということでもないと思います。コロナ禍なので,他人の使った鉛筆やペンは使いたくないです。いまはタクシーも,キャッシュレスがあたりまえとなっていて,お金のやりとりをしたり,行き先を言ったりしなくても,目的地にまで到着できます。医療機関も,予約はスマホで,質問事項もスマホで答えて,診療が終わると,明細をメールで送ってくれて,クレジットカードから自動引き落としというようなことにしてくれれば,よいのですが。さらに,その日の診療結果もメールで送ってくれればなおよいです。もちろん,重症でなければ,オンラインでの診療が助かります。人間ドックは別ですが,普通は体調が悪いときに医療機関に行くのであり,医療機関まで出向いていき,ときには長時間待たされることで,よけいに体調が悪化しそうです。
 ところで,近所の耳鼻科で,医師が,私に小児喘息の既往症があることを前提とした話をしていて,何か変だなと思いながら,まあ喘息に近いものをかかえているからなと思いながら聞いていたところ,パソコンに映し出された私の既往病が目に入り,それが小児喘息となっていたので,あわてて訂正したことがあります。どこでどう間違ってそういう誤データが混入したのかわかりませんが,こわいことです。ただこれはパソコン画面に映し出せるデジタル情報だから発見できたともいえます。手書きのカルテに書かれていると,私の目に入ることはなかったでしょう。
 その医師は,決して悪い人ではありません。私の前でメモ帳の切れ端のような紙を置いて,いろいろ鉛筆で書きながら症状やその原因などを説明してくれました。親切で丁寧なのですが,その紙は回収されてしまいました。どうしても欲しいと言えばくれたかもしれませんが,なんとなく手書きの紙をもらうというのも変な感じがして,言いそびれてしまいました。ただ,こういうのは手書きの紙ではなく,デジタルデータで送ってもらいたいものです。そのようにしてデータでもらえると,セカンド・オピニオンを求めて,他の医療機関にも行きやすくなります。
 デジタル化は,初期費用はかかるでしょうが,医療従事者の仕事を効率化させ,サービスのクオリティの向上につながるでしょう。診療結果のデータ化は可視化でもあり,上記のセカンド・オピニオンの場合のように,サービスのクオリティの事後点検もしやすくなるので,医師はいやがるかもしれませんが,これは受け入れてもらう必要があると思います。
 新型コロナウイルスの第7波で,医療現場が大変なことになっているのはとても心配ですが,外来予約の管理を紙の日程表に書き込んでいる映像が出てきたりすると,これでは業務が回らないのは当然だと思ってしまいます。こういう働き方をさせられている従業員は可哀想です。
 そういえば,前にテレビのニュースで,厚生労働大臣が執務室らしきところから,オンラインで話をしているところが報道されていましたが,背後に映っていた机の上に分厚い紙のファイルがありました。このアンバランスが滑稽でした。これでは,効率的な仕事ができないだろうなと思ってしまいました。こういう映像を出してダメージになると思わないところに,政治家や霞ヶ関のデジタル化への感度の鈍さを感じます。
 政府にデジタル化の音頭をとってほしいとは,もう言いません。ただ,DXを進めたいと思っている医療機関はたくさんあると思うので,政府は,せめてそれを邪魔しないように(できれば補助をするように)してもらえればと思います。

2022年6月29日 (水)

尼崎市USB事件の続報

 日本経済新聞の電子版で,「BIPROGY(ビプロジー,旧日本ユニシス)の平岡昭良社長は28日,東京都内の本社ビルで開いた定時株主総会で,兵庫県尼崎市の全市民約46万人の個人情報が入ったUSBメモリーを同社の再々委託先の社員が一時紛失した問題について謝罪した」という記事が出ていました。「再々委託」だったのですね。
 この業界のことはよくわかりませんが,労働法的な観点からは,一般的に重層的な下請け構造や再委託構造というのは,いろいろ問題が起こりやすいわけです。そこに労働法上の問題があるということは,経営上の問題も当然ともなうものとなるでしょう。途中に事業者が入るほど,手数料が抜かれていくのでしょうから,末端の労働者の賃金は低いのではないかと想像してしまいます。ブラックな職場で,自分たちの個人情報を取り扱われたくないですね。
 BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)は,今後,どんどん進んでいくでしょうし,自治体が一定の苦手分野についてアウトソーシングすることは,それ自体は悪いことではありません。ただ,何をアウトソーシングするかが重要で,個人情報の重要性についての意識が低い自治体が,今回のような業務でも,安易にアウトソーシングするということがあっては困ります。そのような姿勢が,受注企業から甘く見られて,再委託禁止などと契約で定められていても,平気で無視されるということが起こるのかもしれません。
 前にも書いたように,個人情報の重要性に鑑みると,企業は,自治体内部で専門職員を育成すべきです。昨日の日本経済新聞では,データ分析や人工知能(AI)などの専門人材を別枠で新卒採用する企業が増えている,という記事も出ていました。自治体に集まっている個人情報は,デリケートなものが多いはずなので,そういうものを扱う業務は,できるだけアウトソーシングしないで自前でやってもらえないでしょうか。
 DXへの対応が遅れている自治体は,アナログ時代の仕事の仕方をひきずって,人間がやる必要のない仕事にまで多くの職員を配置している可能性があります。そういうところは,思い切って事業の再構築をすべきでしょう。業務や職場のDXを進め,それに合った人材を採用し,市民の個人情報をしっかり守る態勢を強化してもらいたいです。これは尼崎市だけの問題ではありません。私が住む神戸市も,兵庫県も,そして日本政府も,今回の事件をきっかけに,DXの推進と同時にセキュリティのいっそうの強化を進めてほしいです。人間が介在するとミスが起こりやすいのであり(だから自治体が自前でやっても不安が残ります),セキュリティ・バイ・デザインの発想で,DXの制度設計をしてもらいたいですね。

2022年5月15日 (日)

沖縄こそDXの拠点に

 今日は沖縄返還の日で,50周年の記念の年でもあります。「ちむどんどん」(欠かさず観ています)では,ちょうど主人公の比嘉暢子の東京出発と沖縄返還の日が重ねられていました。
  この時期は,沖縄の早い梅雨にぶつかりやすいのでしょう。50年前も今年も,5月15日は雨だったそうです。2011年に沖縄で日本労働法学会があったときも,あまり天気が良くなかった記憶があります(私もオランゲレルさんの報告の司会で行きました。その後,みんなで首里城に観光に行ったことを覚えています。首里城があんなことになるとは悲しいです)。
 沖縄返還といえば,憲法判例でも出てくる西山事件が有名です。アメリカと日本との間で,米軍基地の返還費用を日本政府が肩代わりするという密約をすっぱぬいた毎日新聞記者が,国家機密の漏洩として起訴されて有罪となったものです。国家の隠蔽体質が明らかにされ,この密約はいまなお沖縄返還後の米軍基地問題などが解決されていないことの原因にもなっているように思います(事件は,スキャンダラスなハニートラップのような報道の仕方がされましたが,この問題の本質は,そういうところにはありません)。
 ウクライナの問題があり,ロシア,中国,北朝鮮という核保有国の脅威が現実のものとなりつつあるなか,対中国という観点からの沖縄の重要性がいっそう高まっています。逆さ日本地図というものがありますが,これでみると,日本列島と台湾の中間にある先島諸島などは,中国が太平洋に出て行く際にどうしても通らなければならないところであることがよくわかります。アメリカにとっても,沖縄をおさえておくことは,対中国という点では,どうしても必要なのでしょう。だからといって沖縄に基地の負担をおしつけていてよいわけではありません。ただ,どうしても避けられない地政学上の要衝であることを理解したうえで,どう沖縄の基地問題と向き合っていくかを,私たちは考えていく必要があります。反対もいいのですが,対案が必要でしょう。
 基地問題と並んで,沖縄と本土の経済格差も大きな問題です。ただ,この点については,沖縄のほうにも戦略が必要です。WBSの原田亮介キャスターも言っていましたが,沖縄はシンガポールを目指すというのも面白い発想だと思いました。またNHKのニュースでは,沖縄でシングルマザーにITの教育をしているということも報道されていました。沖縄は,観光以外は目立った産業がないのですが,それゆえに思い切った経済政策をとることができるのではないかと思います。教育面でもデジタル産業に特化したものとし,世界から人材を集め,これからの日本のデジタル技術の発展拠点にすればよいのです。自然豊かな沖縄は,ワーケーションの場でもあります(私も移住したいくらいです)。情報インフラを徹底的に整備し,本土ではぐずぐずしてなかなか進んでいないDXの先頭に立って,引っ張る存在になってもらえればと思います。そうすれば,沖縄は20年後くらいには,日本で最も豊かな県となり,基地なくしても経済的に自立できるかもしれません。
 コロナ前の20199月に,当時からすでに出張は控えていたのですが,沖縄経営者協会のお招きで,沖縄ならぜひ行きたいということで講演をお引き受けしました。そのときのテーマは,「デジタル経済社会の到来と企業経営」というものでした。聴衆の反応は,すごく受けが良かったというものではありませんでした。あの頃は,こういう話をどこでしても,経営者の方からの反応はいま一つだったので,仕方がないのですが,沖縄は,いまこそこのテーマがぴったりあてはまるような大きなチャンスを迎えているのではないかと思います。
 残念ながら,県のホームページでみた「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画(案)」はダメだなと思いました。官僚の作文という感じです。もっと「ちむどんどん」するようなものを書いてくれなければ困ります。沖縄を本気で変えていこうとする強いリーダーシップと斬新な発想をもった人が登場しなければ,沖縄はなかなか現状を打開できないでしょう。うまくいけば,一気にLeapfrog 的発展が期待できるのに,もったいないです。これは,沖縄への愛を込めた激励です。

2022年4月17日 (日)

社会的共通資本としての医療とDX

 4月15日の日本経済新聞の出口恭子さんの経済教室は,医療介護DXが成長を底上げするという内容でした。DXが私たちの最も深刻にとらえるべき医療や介護という社会的課題の解決に役立つことがわかりました。医療や介護の現場におけるアナログ体質はつとに指摘されており,私も父のことを通して,それを実感していました。医療や介護において,もっとデジタル技術をうまく活用できないかと思うことがよくあります。いつも書いていることですが,医療や介護に従事する人たちの献身的な働きぶりには,ほんとうに頭が下がる思いなのですが,もっと効率的に働く方法があるはずだと思うこともよくあります。これは現場の労働者ではどうしようもないことでもあるので,経営者たちがデジタル技術を使えるところはデジタル技術を使うというデジタルファーストの精神で臨んでもらう必要があります。そのためにもデジタル人材が,もっと各所で活躍するという状況が出てこなければなりません。そのうち,きつい仕事には人が集まらなくなり,ほんとうに医療や介護が回らなくなる可能性があります。コロナ禍で露呈した医療提供体制の問題点は,将来における医療介護従事者不足の問題を前倒しで国民に示してくれたという面がありました。医療や介護は人間がすべてやらなければならないというのは大きな間違いであって この経済教室の論考でも出てきたように,プロセスにおけるデジタル化によるイノベーションがまずは重要なのです。日々のちょっとした作業をデジタル化することだけでも,ずいぶん仕事が楽になるでしょう。そしてその浮いた時間は,別の肉体労働に充てるのではなく,DXをどのように活用すれば,医療や介護の目的を実現できるかということに知恵を絞る作業に充ててもらいたいのです。 医療介護サービスの目的は何なのかを定義し,そのために,いまやっている作業はほんとうに必要なのか,同じ目的を達成するために別の効率的な方法はないかという視点で事業の再検討をしていくことが大切です。
 もちろん医療や介護の効率性というのは,それはFriedman 的な市場メカニズムをどんどん導入して行くべきという話とは全く違います。むしろこの分野は,政府が徹底的にサポートすべきものであって,病院の経営者が金策を考えなければならないということでは困るのです。医療や介護こそ税金で支えるのに適した分野です。経済学者の宇沢弘文の有名な「社会的共通資本」 という考え方があります。医療はこの社会的共通資本の代表例です(同タイトルの岩波書店の本の第5章も参照)。医師たちの育成や業務(治療など)の費用(もちろん報酬も含まれる)は,社会で支えるべきものです。国民も医師も,この貴重な社会的共通資本を無駄に使わないように,互いに倫理的な行動をとっていくことが,求められているのです(医師側は「ヒポクラテスの誓い」)。デジタル技術を活用した効率化と人々の倫理的な行動とは,よりよく社会課題を解決するという目的のための車の両輪です。こういうことをサポートするための制度設計をすることこそ,法の役割ではないかと思っています(国民皆保険などの日本の制度は世界に誇れるものではありますが,なお課題は山積しています)。



 

2022年3月25日 (金)

SF的手法

 今朝の日本経済新聞において,「日立,SFが導く研究開発 小説から新技術を議論 メタバースの課題探る 既存の手法に限界」という長いタイトルの記事が出ていましたが,「幅広い産業で創造的破壊(ディスラプション)が起き,既存技術を積み上げる従来型の研究開発では10年以上先の予測は難しい。小説で描く未来像から必要な技術や法制度を逆算して経営の道しるべにする」ということのようです。
 SF小説とまで行かなくても,現実にはまだ空想の世界だけれど,技術が発展すれば出来そうなことを空想するのは,すでに私もやってきたことです。想像力と創造力が大切だというのは,講演でしゃべれば語呂がよすぎて軽い感じになりますが,ほんとうにそういうことが求められているのだと思います。日本企業は,日立のような会社は別なのかもしれませんが,多くは組織の上層部の頭が堅くて,想像力を少しでも働かそうものなら,もっと現実的なことを考えるべきだと叱られそうな感じです。
 私はこれからの経営者は,いかにして自分にない創造力(それは想像力を必要とする)を,他人から提供してもらえるかが勝負になるということを書いていて,逆に人材側はそういう力がなければやっていけないと主張しています。SF小説家に頼るのもよいのですが,できるだけ多くの人が,大きなことから小さなことまで,いろんな想像力を働かせるところから,ディスラプションが起きるのでしょうね。
 私はこれからの企業は,経営者は,いかにして自分にない創造性(それは想像性にもつながる)を,他人から提供してもらえるかということが勝負になるということを書いていて,逆に人材側はそういう創造性がなければやっていかないと主張しているのです。SF小説家に頼るのもよいのですが,普通の人が,大きなことから小さなことまで,いろんな想像を働かせるところから,企業においても社会においてもディスラプションが起きるのでしょうね。
 そういえば,私が5年以上前に連載していた弘文堂スクエアでの「絶望と希望の労働革命―仕事が変わる,なくなる」の 第8回「闘うのはいつだ!」と第9回(最終回)「Reconciliationの力」第9回(最終回)「Reconciliationの力」では,未来の社会の男二人の会話を書いています。想像の世界ですが,自分で読み返しても,結構面白いので,皆さんもぜひ読んでみてください。
 それと昨年上梓した『労働法で企業に革新を』(2021年,商事法務)は,最後の場面は,ワインバーをリモートで営業し(バーチャルバー),ソムリエが世界中の人にワインを提供できるという話で終わっています。これはまだSFの世界かもしれませんが,誰かビジネス化してくれたら愉快なことですね。

 

2022年3月18日 (金)

会社員になりたい子どもたち

  第一生命保険の(「第32回大人になったらなりたいもの調査結果」)によると, 小学生,中学生,高校生のいずれにおいても,将来なりたいものは,男女を問わず「会社員」 が1位でした(例外は小学生の女子で,それでも「会社員」は4位でした)。『会社員が消える―働き方の未来図』(文春新書)という本を書いている私としては, 頭を抱えてしまいそうな結果であり,子供たちはほんとうに大丈夫かと,思わず言ってしまいそうです。しかし,この調査結果に付されている的場康子さん(第一生命経済研究所・ライフデザイン研究部・主席研究員)のコメントをみると,その考えは変わりました。
 的場さんは,「会社員」の人気が高いことの背景について,「コロナ禍で在宅勤務が広がり,親の働く姿を身近にみるようになったこともあると思います。親の背中を見て,自分も『会社員』として頑張ろうと,子どもながら現実的に考えているのかもしれません。でもそれだけではなく、自分の可能性を広く考えているとの見方もできるのではないでしょうか。AI(人工知能)やロボットなど技術革新が進み,子どもたちが大人になるころには,今は想像できないような会社が創られ,新しい職業も生まれる可能性があります。そのような社会の変化を敏感に感じて,子どもたちなりに新しい『会社員像』を思い描いているのかもしれません」。
 コロナ前であれば,親の会社員としての働き方を,子供たちが直接目にすることはほとんどなかったでしょう。家で見るのは疲れて帰ってくる両親であり,子どもにとっては自分たちの生活が,親の都合,そしてそれは通常は会社の都合によって左右されていたのです。「仕事だから」というと,あらゆることに優先されてしまい,子どもたちは自分の希望が言えなくなってしまっていたことでしょう。ところがコロナにより,テレワークが増えて,自宅で働く両親の姿を直接目にすることによって,会社員としての親の働き方への評価も変わったのかもしれません。あるいは,テレワークという働き方であれば,自分の生活がそれほど犠牲にならないとわかって,それならやってみたいと思ったのかもしれません。つまり「会社員」が1位になったのは,伝統的な働き方をしている会社員ではなく,ワーク・ライフ・バランスを両立できているテレワークをしている会社員なのでしょう。そうだとすると,彼ら,彼女らは,将来「テレワークができないような会社員にはならないよ」ということになるかもしれません。
 もう一つ,後半のコメントも示唆的です。 私が「会社員が消える」と言っているのは,典型的には大企業で雇用されている労働者がいなくなるということであり, 自分で独立して働くフリーワーカーが増えていくと予想しています。 こうしたフリーワーカーには, 自ら起業して会社をたちあげる人も含まれます。DX時代のこれからは, 雇用されて働くというスタイルは廃れていくことになります(詳細は拙著を読んでください)。子供たちがなりたいと思っている会社員とは,決して従来型の企業に雇われて指揮命令を受けてガッツリ働く会社員ではないのでしょう。会社は,あくまで自らが知的創造性を発揮して働く場を提供してくれる存在にすぎないのであり,そうした会社で働くことを前提とした会社員なのです。そうだとすると私が考えていることと,まったく同じとなります。子どもたちが,ほんとうに,このような展望をしっかりもって将来になりたいもののことを考えているならば,日本の未来は明るいと思います。
 会社員を希望する者が多いということだけが見出しにでてくると,おそらく大きな誤解が生じてしまいそうな調査結果です。その意味で的場さんの解説は非常に重要だと思いました。

 

2022年2月24日 (木)

Eコマースと物流業界と労働

 デジタル社会の一側面といえるECEコマース,電子商取引)を支えるのは配送業者ですが,この業界においてドライバーの「2024年問題」があるということが新聞報道されていました。何だろうと思ってネットで調べてみたら,これは労働時間規制のことを言っているのでした。労基法の2018年改正(いわゆる働き方改革)による時間外労働の上限規制(36条)について,一部の業種などでは適用猶予となっているのですが,自動車運送業務もそこに含まれています(このほかの適用猶予の対象としては,建設事業や医師などがある)。同法140条に定めるもので,詳しくは,行政通達の201897日の基発09071号をみてほしいのですが,簡単にいうと,一般乗用旅客自動車運送業務,貨物自動車運送事業,その他,労基則692項で定める自動車の運転業務については,2024331日までの間は,改正法がそのままは適用されず,三六協定で定めるべき時間外・休日労働の単位期間である「1日,1カ月,1年」のうち「1カ月」は「1日を超えて3カ月以内」の範囲で決めてよいとされ,また,①三六協定の限度時間(1カ月45時間以下,1360時間以下)の規制(労基法364項),②特別協定による場合の時間外労働の上限(1カ月100時間未満[休日労働込み],1720時間以下。同条5項),③時間外労働と休日労働の上限規制(1カ月100時間未満,複数月平均80時間以下。同条62号および3号)の適用は猶予されます(1402項)。 
  これが2024年4月以降どうなるかというと,②の特別協定による場合について1カ月100時間未満の上限はなくなり,また1カ月45時間を超えることができる月数6カ月以内という制限も適用されず,さらに1年間の720時間以下という規制は960時間以下とされます。実労働時間についても1カ月100時間未満や複数月の平均80時間以下という上限は適用されません(140条1項)。
  つまり年間の時間外労働の時間総数を960時間以下としておけば,1カ月の100時間未満,複数月平均80時間以下という基本的な上限規制がかからないことになるので,これは一般的な労働時間規制と比べると,かなり緩いものです。ただ,この緩い規制は「当分の間」のものであり(それゆえ適用除外ではなく,適用猶予である),いつまでも特別扱いはしないぞ,という法の姿勢を示しています。
 ただ,この業界における労働時間規制を強化すると,私の推奨するムーブレスな生き方や働き方に影響を及ぼす可能性もあります。労基法は,労働者の保護のために長時間労働をさせないようにすることを目指しており,法律で個々の労働者の時間外労働の絶対的上限を設けています。もし企業が労働力を確保したいのならば,労働時間を延長するのではなく,たくさん人を雇うようにせよということなのです。労働力確保のためには,労働条件の改善も必要となるので,これも労働者の保護につながるでしょう。ちなみに20234月からは,中小企業に対する,月60時間を超える時間外労働についての割増賃金の引上げ猶予規定(138条)が撤廃されます。厳しい競争に巻き込まれているであろう物流業界の中小企業にとっては,年間の時間外労働の枠は上記のように緩いものであっても,割増賃金の負担という形の規制はかかってくるので,やはり厳しい状況に置かれるかもしれません。
 これは消費者(および企業)の論理と労働者の論理の対立のなかで,まさに労働者の論理を優先させたものといえるでしょう(この対立の図式は,拙著『雇用はなぜ壊れたのか』(ちくま新書)も参照。やや局面が違いますが,医師についても,医療提供体制の確保と,医師の健康のための労働時間規制との対立が問題となります)。もっとも,賃金の中心が歩合給であることが多い配送ドライバーにとってみれば,労働時間に上限を設けられると収入減となるおそれがあります。労働者の健康面での保護は労働者の経済面での保護とは両立しないことがあるのです。とくに短期でまとめて稼ぎたいと思っている人にとっては,健康よりも収入ということもあるでしょう。こういう人にとっては,労働時間の規制は余計なことなのです。それでも労働者の健康は,運行の安全などにも影響するので(負の外部性の問題),やはり労働時間規制は正当化されることになるでしょう。
 問題の抜本的な解決は,私なら次のように考えます。まず安全面の問題だけであれば,ドライバーの健康管理を,IoTを活用してAIでチェックするという仕組みの導入に取り組んで解決すべきです。労働時間の規制の特別扱いはできるだけないほうがよいです。一方,人手不足の点については,自動運転の活用が期待されます。隊列走行の取組の実証実験はすでに着手されているようですが,実現に向けた加速化が待たれます。ラストワンマイルのところのロボットやドローンの活用ができれば,人手附則問題の大半は解決されていくでしょう。
 労働時間規制の強化にしろ,あるいはそれに適応するための自動化や省人化の進行にしろ,ドライバーという職業の未来はそれほど明るいものではありません。この業界にかぎらず,私たちは,DXが雇用にどのように影響をするかを見極めて職業選択をしていかなければならないのですが,これから隆盛となりそうなECを支えるエッセンシャルな仕事だからといって,決して安泰とはいえず,むしろ衰退の可能性がみえるのです。DX時代における雇用の展望については,何手も先を読まなければならないのです。


2022年2月23日 (水)

スノーデン

 公益通報者保護法やEnronの内部告発などが小さく思えるほどの超弩級の内部告発が,Snowden氏によるアメリカ政府の諜報活動に関する内部告発です。少し前の2016年の映画ですが,その実話をテーマとした,Oliver Stone監督のその名も「Snowden」を観ました。純粋な正義感にあふれる青年は,公私に関係なく他人の情報を,テロ対策という名目で,ただ実はそれと無関係に盗取することに我慢できなくなったのでしょう。自分のもつ技術が,そういうことに使われていたことへの贖罪の意識もあったのかもしれません。まさにすべてを捨てて決死の覚悟で内部告発をしたのです。日本の公益通報者保護法は,「不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的」があれば保護されなくなるのです(21項柱書)が,そんな主観的要件を設定するのが馬鹿げたことと思えるほど,正義のための「純粋な」内部告発だったのでしょう。NSA(アメリカ国家安全保障局)CIAなど国家秘密にかかわる仕事に従事し,報酬をもらっている以上,その漏洩行為は許されないというのは当然としても,国民に嘘をつきながら,国民から黙ってプライバシーにかかわる情報を収集するというのは,アメリカの民主主義の精神に反するというSnowden の信念を支持する人も多いでしょう。映画を観ているだけでは,彼が“whistleblower”(警笛をならす人,すなわち「内部告発者」の意味)になる前に,十分に内部的な違法の是正活動に尽力していたか不明です。ただ,そういうことをやろうとしても無理であった可能性は高く,そのためマスコミへのリークも仕方がないと考える人も多いのではないかと思います。Snowden氏は,現在も亡命先のロシアにいるのでしょうか。米ロ関係がこじれることが,Snowden氏のこれからの運命にも影響を及ぼすかもしれません。ただ,史上最大の内部告発者といえるSnowden氏をどう扱うかは,アメリカ政府としても今後,頭が痛いことでしょう。
 日本も無関係ではありません。彼は日本に住んでいたことがあり,スパイ活動をしていました。映画のなかで,もし日本が同盟国でなくなったら,日本は終わりと語るシーンが出てきます。たんに電話を盗聴するだけでなく,物的施設への打撃も考えていたのです。送電網,病院などにマルウエアを仕込ませていて,日本中を真っ暗闇にすることができるというのです。アメリカというのは,そういう国だということです。この映画のシーンは,何かのSF映画と思わず勘違いしてしまいそうなのですが,そうではありません。
 Snowdenのリークが20136月で,この映画の公開が2016年です。それから5年以上経ち,状況がどう変わっているのか,よくはわかりません。Intelligence の活動は,テロ防止など国益を守るための必要性は理解できるとはいえ,やはり不気味です。家の中にいても,インターネットにつながっているかぎり,いつ誰が覗いているか,わかりません。パソコンやスマホが危ないだけでなく,IoT家電のようなものも,もちろん危ないわけです。悪意ある人がやるのはもちろん問題ですが,自国やさらには外国政府がやっているかもしれないのです。情報については,その利用方法についての教育も大切ですが,サイバーセキュリティ教育が重要なのであり,さらにいうと,公権力による私人への「サイバー攻撃」(とくに個人情報の無断での盗み取り)がなされないようにすることも,デジタル社会における新たな基本権人権(自由権)として保障されるべきでしょう。現在の憲法であれば13条の幸福追求権や21条2項の通信の秘密に含まれるという解釈になるのかもしれませんが,「デジタル憲法」論もあることなので,そこできちんと位置づけてもらいたいですね。
 そんなことを考えさせてくれる映画ですので,まだ観ていない人は,ぜひ観てみてください。私はHuluで観ました。

2022年2月10日 (木)

デジタルクローン

 インターネット白書編集委員会の『インターネット白書2022』が刊行されました。私もテレワーク関係で,昨年に続き執筆しています。拙稿はともかく,この白書は,これからDX時代がどういうものとなるかを知るうえでの役立つ教材になると思います。今回の白書は,次の10のキーワードから構成されています。
 それが,NFTnon-fungible token:非代替性トークン),XR(クロスリアリティ)/メタバース,デジタルツイン,オンライン診療,改正プロバイダー責任制限法,フェイクニュース,デジタル社会形成基本法,DFFTdata free flow with trust:信頼性のある自由なデータ流通),宇宙インターネット,グリーン by デジタルです。
  Web3.0という言葉もありますが,インターネット上の世界が,リアル世界と融合することが本格的に起きようとしています。私の分野でいえば,この技術が,どこまで労働の世界に及んでくるかが注目されます。とくにデジタルツインが気になります。この言葉が出てきてから,もうかなり経ちますが,工場のスマート化の手段として使われてきたものが,いまや人間のデジタルツイン(デジタルクローン)の実用化の段階になってきています。デジタルヒューマンという言葉もありますが,おいしい料理のつくり方とか,薬の飲み方についての相談とか,特定の分野でのデジタルヒューマンは実用化されていて,専門家に相談しているような感じで,しかも相手はほんとうの人間ではないのに感情がある感じで,今後は私たちはこういうものに頼ることになるのだろうと思います。
 すでにNTT関連のシンクタンク(情報通信総合研究所)でも,DTCDigital Twin Computing)の研究が進められており,私も1年ほど前に少しだけ参加しました。この技術が実用化されると,労働の世界にどんな変化や影響が生じるのかは,想像するだけでワクワクします。かなり前に,このブログでも,美空ひばりのデジタルクローンのことを紹介しましたが,将来的には,私のクローンが授業や講演をして質問にも応答するといったことになるかもしれません。ちょうど1月はじめにどこかのテレビ番組で,橋下徹さんのデジタルクローンが出ていましたが,外見もさることながら,応答内容もそれなりのもので,驚きました。
 デジタルクローンの法律問題というと,例えば,その労働の成果をめぐる知的財産法上の問題というのがまず出てきますし,またデジタルクローンでは,開発会社は本人の個人情報を使うでしょうから,個人情報保護法も関係するでしょう。クローンが不法行為をした場合の責任主体はどうなるのか,といったことも問題となります。クローンの開発を許可したとき,そのクローンの利用については,おそらく個人と開発会社で契約が結ばれ,その内容如何で,クローンの対外的な行為についての責任も決まっていくでしょうが,その契約については,通常は技術面において大きな情報の非対称性があるので,法的なルールは必要となるでしょうね。また,今後,デジタル環境でできる仕事について,労働者が,クローンにやらせる場合,民法6252項により,使用者の承諾が必要なのか,それともクローンは本人と一体なので,承諾は不要なのか,といったことも気になります。あるいはクローンは,自分とは別の法人格をもつ「ヒト」として擬人化していく立法もありえるでしょうし,単なる道具(モノ)とみる考え方もあるかもしれません。クローンを擬人化すると,そのしでかした不祥事は,民法715条で本人が使用者責任を負うなんてことになるのかもしれません。またこれとは別に,一般のAI代替と共通の論点として,デジタルクローンが広がると,雇用が減る可能性があります。単純にいうと,優秀な人材が2倍あるいはそれ以上になる(24時間稼働するので,労働できる時間が長くなる)ということですから。
 以上はまだ序の口であり,今後次々と問題が現れるでしょう。リアル空間と融合するデジタル空間で,アバターというデジタル分身にとどまらず,自分のクローンが出てきてしまうというのですから,根本的に思考方法を変えてしまわなければ,ついていけないかもしれません。デジタル労働法の守備範囲についても,最終的には,デジタルクローンにまで視野を広げていかなければならないのでしょうね。こういうことも,大秀才の人のデジタルクローンがいれば解決してくれるのかもしれませんが。

 

2022年2月 6日 (日)

デジタル介護

 NHKのクローズアップ現代で「デジタル介護最前線」というタイトルのものがあったので,NHKプラスで観てみました。介護人材の減少は,コロナ禍で欠勤する職員が増えているという一時的な問題ではなく,恒常的な問題となっています。番組では,デジタル技術をつかってそれをカバーしようとする努力がされているものの,コスト問題やスキル不足などがあり,あまりうまくいっていないということが紹介されていました。解決策は,行政が「伴走」してサポートすることだ,というのが番組からのメッセージです。
 介護現場のようなアナログ的な職場に思えるところでも,デジタル化は十分に可能で,とりわけ単純作業を機械化し,人間はより余裕をもって高いクオリティのサービスに打ち込めるというメリット,省人化によって人材が減っても従前のサービスクオリティを維持できるというメリットは大きいものでしょう。番組では,同じ内容の日誌を3回も手書きしなければならないというような非効率きわまりない働き方も紹介されていて,ヘルパーの方は気の毒に思えました。デジタル化とか言う次元の問題ではなく,信じられないような古い働き方をしているのですが,職場にいる人材が同質的であれば,その古さに気づかずに,旧態依然とした仕事のやり方が残ってしまうのかもしれません(デジタル導入のコストは言い訳にすぎないように思えます)。とはいえ,大学も他人のことは言えません。先日も,学生関係でどうしても私が署名をしなければならない書類があると言われて,授業はリモートでできるのに,署名だけのために大学に行きました。
 ところで,介護のデジタル化は,一般の企業と基本的には同じようなことで,まず現在の業務の可視化をし,そのなかでデジタル化できるものの洗い出しをしたうえで,どのような方法(機器など)でデジタル化をするかを決めていくということになります。その過程で専門家のアドバイスも必要となるでしょうし,デジタル化により,従来の仕事とは進め方が変わるので,それに対応できるような研修が必要となります。このプロセスが面倒くさいと言っていると,いつまで経っても変わらないのですが,いったんこのハードルを越えてしまうと,あとは全く違った労働の世界が待っています。働く者も,サービス業であれば利用者などの顧客も満足し,もちろん業績の改善にもつながるでしょう。テレワークも,そのようななかでやりやすくなるのです。
 介護においても,IoTを活用してリモート管理を中心とし,現場はロボットにまかせ,緊急対応の人材のみを配置するというような態勢になっていくでしょう。人間が対応しなければ真心のこもったサービスができないのではないかという懸念もあり,それは私もわからないではないのですが,ロボットの力を侮ることはできないとも思っています。これからはおそらく感情をもったロボットがどんどん出てくるのであり,まずは介護現場で成果を出してもらいたいです。
 この番組では「最新技術で老後は安心!?」というタイトルになっていましたが,私も自分自身のこととして,今後のデジタル介護の発展に注目しています。これは日本のDXの試金石となるような気がします。