武石恵美子『「キャリアデザイン」って,どういうこと』
武石恵美子さんから,岩波ブックレットの『「キャリアデザイン」って,どういうこと―過去は変えられる,正解は自分の中に』をいただきました。いつも,どうもありがとうございます。キャリアデザインって言われても,どうやったらよいかわからないという若者向けに書かれたものだと思います。
日本でキャリアのことを学ぶということは,日本型雇用システムについて学ぶということと同じです。そして,その大きな変容過程のど真ん中にいる若者は,これまでがどうであったかを知ったうえで,しかし,これからは違うということを知り,そのうえで,どういうことをすべきかを考えていく必要があるのです。本書のなかの言葉を使えば,「見通せるキャリア」の時代から,「見通せないキャリア」の時代へ,ということです。そもそも「見通せるキャリア」の時代というのは,つまらないものでもあります。安定は得られますが,大きな可能性も開けません。せいぜい企業の社長どまりです。組織のなかの出世にすぎません。「見通せないキャリア」の時代は,不安定ですが,可能性は大きく広がるともいえます。そもそも,デジタル化などのビジネス環境の激変でVUCAの時代に突入したことと,人生100年時代というような健康寿命の延伸のなかで,単一の安定したキャリアデザインは無理なことなのです。大きく羽ばたけよと,時代が若者を後押ししているのです。
武石さんは,これからはキャリア自律が大切だとします。キャリアは自分のものであり,自分で描いていかなければなりません。そのなかで他者の助けも必要です。いつも書いていることですが,私は学生たちに,人生を幸福に過ごすためには,良い人に出会うことが大切だということを言ってきました。良い人に会うためには,自分が良いオーラを出していなければなりません。この人とだったら一緒にいたいという人がたくさんいたほうが,人生は豊かになり,何かのときの助けにもなります(友達がうまくできなくても,親や親戚,あるいは近所の人たちと良好な関係を保つということでもよいのです)。
本書の終章では,サブタイトルにあるように,「過去は変えられる」とし,「正解は自分の中に」ということが書かれています。キャリアデザインの正解は,自分の選択したものを肯定的に受けとめていこうということだと思いますが,それならむしろ,正解などないと言ったほうがよい気もします。過去を変えられるというのは,過去の失敗があっても,それを活かすことができるという意味が含まれていると思いますが,そうすると結局,正解や失敗というのは,存在しないということでもあるのです。選択が求められたときに,自分で熟慮して決めたことが結果がどうあれ最善で,ただその選択ができるだけうまくいくように,日頃から前向きに努力していくことが大切なのだと思います。そう考えると,キャリアデザインとは,まさに日々の営みそのものともいえます。
本書は,ときどき難しい用語がでてきますが,そこは気にせずに,ぜひ読み通してもらえればと思います。キャリアについて学びながら,実践的なキャリアデザインへの準備もできると思います。