将棋

2023年3月19日 (日)

藤井デー

 今日は藤井デーでした。NHK杯の決勝戦は,A級昇進を決めたばかりの(収録番組なので,実際の対局はその前ですが)佐々木勇気(新)八段相手に快勝でした。あまりにも強すぎます。最後は美しく詰ましました。これでちょっと苦手にしていたNHK杯でも初優勝し,なんとこれで今年度は一般棋戦(朝日杯,銀河戦,JT日本シリーズ,NHK杯)は4つ全連覇となりました。これは羽生善治九段の全盛期でも達成できなかった偉業です。2011年に羽生九段(当時は,棋聖と王位の二冠)は,銀河戦以外の3棋戦で優勝したことがありましたが,それが最高でした。藤井竜王(五冠)は,あっさり達成してしまいました。
 そして夜には,棋王戦第4局。前回,まさかの詰み逃しで敗れましたが,その影響は感じられません。渡辺明棋王(名人)は,いろいろ仕掛けてきましたが,冷静に受け止め,最後は相手の攻めをかわして,一気に勝勢を築いてしまいました。これで31敗で,渡辺棋王の11連覇を阻止し,六冠達成です。渡辺は最後のタイトルの名人の防衛をかけて,4月から藤井竜王(六冠)の挑戦を受けることになります。
 藤井竜王は,先の王将戦でも,羽生善治九段に勝ち,防衛を決めていました。羽生九段は22敗まで行って善戦しましたが,力尽きました。しかし,親子ほどの年の差のある藤井王将相手に,必死に挑んでいく姿は将棋ファンに感動を与えました。羽生九段は,藤井をライバルと感じ,そしてその影響を受けて,さらに強くなっているような印象があります。このことは,順位戦の最終局で,A級昇級を決めた中村大地(新)八段に,快勝したことにも現れています。
 五冠をすべて防衛した藤井竜王は,今日,六冠となりました。そして,これから七冠に挑むことになりますが,その間も防衛戦は続きます。叡王戦の挑戦に名乗りを上げたのが,菅井竜也八段です。A級順位戦では藤井竜王(六冠)に勝っており,勝負はどうなるかわかりません。藤井竜王(六冠)からひょっとしたらタイトルをとれるかも,という期待を最ももたせてくれるのは,現時点では,将棋のスタイルがまったく異なる振り飛車党の菅井八段かもしれません。
 叡王戦以外にも,王位戦と棋聖戦がやってきます。もし名人を奪取し,他棋戦を防衛すると,残すは永瀬拓矢王座のもつタイトルだけとなります。2022年度は無敵の強さをみせましたが,2023年度は,どうなるでしょうか。夢の八冠が実現するでしょうか。そんなに甘い世界ではないと思いますが,藤井竜王(六冠)は進化し続けているので,実現可能性はかなり高いと思われます。

 

 

2023年3月10日 (金)

名人戦挑戦は藤井竜王

 先日の棋王戦第3局は劇的な最後でした。評価値が100となったので,藤井竜王の勝利を確信してお風呂に入って出てきたら藤井竜王が負けていたので,驚きました。あの正確な寄せの藤井竜王が詰みを逃しました。おそらくテレビ局なども六冠の速報テロップを出す準備をしていたと思われますが,まさかの大逆転です。
 中2日あけて,広瀬章人八段とのA級(名人戦挑戦)のプレーオフでは,素人がみていても全く意味がわからない難しい戦いでした。こちらは見事に藤井竜王(五冠)が勝ち,渡辺明名人(棋王)への挑戦を決めました。これで谷川浩司十七世名人の史上最年少名人の記録に挑戦することになります。
 順位戦は,B2組はすでに昇級者3人が決まっているなかで,谷川十七世名人が,ここまで全勝で昇級をすでに決めている大橋貴洸七段を一ひねりしました。先日の王座戦での徳田拳士四段に続き,好調な若手相手の快勝であり,嬉しいです。鋭い踏み込みが復活している感じもします。これで今期の順位戦は55敗で終わりました。来期は昇級を目指して頑張ってもらいたいです。
 C1組は,ちょっとした事件がありました。全勝でトップを走っていて,他棋戦でも絶好調な伊藤匠五段は,順位戦も9戦全勝で二期連続昇級の一歩手前でした。しかし昇級したばかりなので順位が低く,81敗に3名いるので,この3名が全員勝って,自分が負けると,91敗で4人が並び,順位の低い伊藤五段は昇級できないことになります(昇級できるのは3名)。とはいえ,最終局の相手は,27敗で降級点争いをしていた阪口悟六段で,今期の成績やこれまでの実績を考えても,ほとんどの人は伊藤勝ちを予想していたでしょう。ところが,阪口六段が意地を見せたのです。そして,なんと8勝で追いかけていた3人が全員勝ってしまいました。ということで伊藤五段は頭ハネをされて昇級を逃しました。1敗しただけで昇級を逃すのは不運ですが,仕方がありません。かつて藤井竜王にも同じことがありました。来期は順位が上がるので,しっかり昇級に向けて頑張ってほしいです。
 B1組もちょっとしたドラマがありました。92敗でトップの中村太地七段は,勝てば昇級ですが,負けると,83敗で追う佐々木勇気七段と澤田真吾七段の結果次第となります。中村七段の相手は羽生善治九段です。まず2228分に中村七段は投了しました。中村七段の受けに回った手が弱気で,羽生九段が快勝しました。レジェンドが大きな壁となりましたね。この時点で佐々木七段と澤田七段が勝ちそうな感じだったので,中村七段は悔しい頭ハネとなりそうでした。澤田七段の相手は三浦弘行九段で実力者ですが,今期の調子からも,澤田七段が勝てる見込みは十分にありました。佐々木七段は,過去5連敗と苦手にしている屋敷伸之九段が相手で,しかも屋敷九段は降級がかかっているので必死となることが予想されました。まず澤田七段は,三浦九段相手に,少し無理な攻めをして,結局,相手の攻めを呼び込んでしまい必敗の情勢となりました。澤田七段は諦めきれなかったようで,指し続けましたが,2336分に投了となりました。澤田七段は,勝てば昇級だったのですが,無念の敗戦となりました。この時点で,中村七段の昇級が決まり,また佐々木七段も勝ち負けに関係なく昇級が決まったのですが,それを知らない佐々木七段は,屋敷九段の猛攻を受けて,1分将棋のなか,一手間違えれば負けるというギリギリのところで戦っていました。しかしなんとか逃げ切り,ついに2348分に屋敷九段が投了となりました。屋敷九段は,その前に久保利明九段が千田翔太七段に負けていたので降級は免れ,久保九段が無念の降級となりました。結局,B1組は,佐々木勇気七段と中村太地七段が,晴れてA級昇級で八段となりました。プロの誰もが目標とするA級棋士になった二人に,心よりおめでとうと言いたいです。中村(太)新八段は,羽生九段の壁を感じながらも,昇級できた運を活かして,A級で活躍してもらいたいです。藤井竜王のデビュー以来の連勝を29で留めた男として有名な佐々木(勇)新八段ですが,今期はNHK杯でも決勝に進出しているなど,徐々に実力を発揮しており,来期は四強(藤井,渡辺,永瀬拓矢王座,豊島将之九段)に割って入るような大活躍をしそうな予感がします。

 

2023年3月 3日 (金)

「将棋界の一番長い日」ではなかった?

 3月2日に行われたA級順位戦の最終局は,トップを走っていた広瀬章人八段と藤井聡太竜王(五冠)がともに勝って72敗となり,プレーオフとなりました。竜王戦での対局の再現です。竜王戦では広瀬八段は敗れたとはいえ,藤井竜王から2勝しており,1発勝負ですので,どうなるかわかりません。他にプレーオフ進出の可能性があった豊島将之九段と永瀬拓矢王座はともに勝ちましたが,届きませんでした。来期の順位は3位以下は,豊島九段,永瀬王座,齋藤慎太郎八段,菅井竜也八段,稲葉陽八段,佐藤天彦八段の順となり,その下にB1組から上がってくる2人が入ってきます。
 これで藤井竜王は,来週は,渡辺明棋王(名人)との棋王戦(3月5日),羽生善治九段との王将戦(3月11日~12日)というタイトル戦と並んで,名人への挑戦をかけてのプレーオフ(3月8日)という怒濤の1週間となります。おそらくその間にNHK杯の準決勝・決勝も収録がされているはずです(もう終わっているかもしれません)。
 それにしても昨日の藤井竜王は強かったです。稲葉八段相手に19時台に勝負を決めてしまいました。圧勝でした。この日は一斉対局で,「将棋界の一番長い日」と呼ばれているのですが,それは最終局であることから,名人挑戦者が決まると同時に,最高峰のクラスからの降級者も決まるということで,熱戦が繰り広げられ,日をまたぐことも多かったからです。いろいろなドラマもあるのですが,今期は降級者がすでに決まっているため,名人挑戦者が決まる可能性があるということだけが注目でした。稲葉八段は名人挑戦も降級も関係しない気楽な立場であったのですが,見所をつくれなかったのは残念です。それだけ藤井竜王の力が頭抜けているのでしょう。昨日敗れた齋藤慎太郎八段,菅井竜也八段,それに降級が決まっていて,昨日も敗れた糸谷哲郎八段と並んで,関西の中堅棋士には,もう少し頑張ってもらいたいです。
 今日は谷川浩司十七世名人が,関西の若手の徳田拳士四段相手に93手で勝ちました。踏み込みのよい寄せ(光速とまでは言えないかもしれませんが)で快勝です。順位戦(B級2組)の最終局は,すでに昇級を決めている大橋貴洸七段が相手であり,おおかたの予想は大橋勝ちでしょうが,なんとしても勝って少しでも順位を上げて今期の順位戦を終えてもらいたいです。

2023年2月26日 (日)

王将戦第5局

 王将戦第5局は,藤井聡太王将(五冠)が挑戦者の羽生善治九段に勝ちました。終盤の評価値では羽生九段が一時逆転してリードしていたのですが,最後は再び藤井王将がリードして,最後は羽生玉を即詰みにしました。初日から飛車交換があるなど派手な応酬で,後手番の羽生九段が攻勢かなと感じましたが,羽生九段の攻撃を相手にせずに,4五桂と飛んで羽生玉を狙っていく攻撃が鋭く,2日目に入っても藤井王将が攻勢でした,しかし途中で受けに回ったところで,羽生九段が逆転した感じでしたが,最後は飛車2枚と角をつかって豪快に攻めきりました。難解な攻防で激戦だったと思います。これで藤井王将(五冠)は32敗で初防衛に王手となりました。とはいえ,次局に羽生九段が勝ってタイとなると最後はどうなるかわかりません。第6局の場所は佐賀県上峰町の大幸園です。不勉強で,上峰町という場所は聞いたことがなく,どんなところか想像がつかないのですが,将棋のタイトル戦をするくらいなので,きっと素晴らしいところでしょう。ぜひいつか行ってみたいです。
 23日には,朝日杯将棋オープン戦の準決勝と決勝があり,藤井聡太竜王(五冠)が優勝しました。準決勝の豊島将之九段戦は,最後,藤井玉に詰みがあり,評価値的には0%で豊島必勝だったのですが,その詰み筋をなんと豊島九段が見落として大逆転となりました。AbemaTVで解説していた高見泰地七段が絶句していましたが,プロでも珍しい大ポカだったようです。将棋は最後にミスをしたほうが負けるものですが,豊島九段ほどのトッププロでもこういうことがあるのです。逆にいうと,藤井竜王は,悪いなりに,最も相手が間違えそうな手を指していたのであり,このあたりの勝負術もすごいのです。普通に指しても強いし,負けそうになったときの勝負術もあるということですから,無敵ですね。藤井竜王は,前期の銀河戦の準決勝でも豊島九段相手に大逆転勝ちをおさめています(決勝で高見七段に勝って優勝)。こうなると,かつては藤井竜王のほうがカモにされていた豊島九段ですが,豊島九段のほうに苦手意識が出てくるかもしれませんね。朝日杯の決勝は,これも逆転で糸谷哲郎八段に勝った渡辺明名人(二冠)と藤井竜王の対決となりましたが,こちらは藤井竜王の完勝でした。ちょうど数日前にも棋王戦の第2局で,やはり藤井竜王が快勝していて,渡辺名人ははっきりと藤井竜王に苦手意識をもっているような気がします。
 女流では,西山朋佳女流二冠が,伊藤沙恵名人に挑戦した名人戦で,31敗で名人奪取となりました。これで西山さんは女流王将,女王と女流名人のタイトルをとり,女流三冠となりました。女流は八冠を,里見香奈さんが5つ,西山さんが3つとって分け合うという二強時代に戻った感じです。伊藤さんは実力者ですが,里見さんと西山さんとの対戦成績が悪すぎるので,二強に食い込むことは難しいですね。

2023年2月18日 (土)

棋王戦第2局

 渡辺明棋王(名人)に藤井聡太竜王(五冠)が挑戦している棋王戦第2局は,藤井竜王(五冠)の勝利で2連勝となりました。渡辺棋王は攻めているようではありましたが,藤井竜王(五冠)の角2枚の攻撃が炸裂して,最後は見事に渡辺玉を詰ませました。素人目には,かなり藤井玉も危ない気がしましたし,一方,渡辺玉は金銀でしっかり守っていたようで,AIも途中まではほぼ互角だったようですが,終盤の藤井竜王(五冠)の攻めの切れはさすがでした。藤井竜王(五冠)は渡辺棋王とは相性がよいようで,力強い将棋をみせてくれます。どちらも攻めの強い将棋で,力勝負ができるからでしょうかね。これで,あと1勝で六冠というところまで来ました。六冠を達成すればNHKの速報で流れるかもしれませんね。
 順位戦は,B1組で,羽生善治九段が,横山泰明七段に勝って,降級危機を脱しました。羽生九段は復活していますね。王将戦をみても,いまは渡辺棋王(名人)よりも羽生九段のほうが,藤井竜王(五冠)に勝てそうな気がします。
 NHK杯は,藤井竜王(五冠)がベスト4進出を決め,菅井竜也八段と最近結婚を発表したばかりの八代弥七段の勝者と,また佐々木勇気七段が難敵の永瀬拓矢王座を下してベスト4進出を決め,糸谷哲郎八段と広瀬章人八段の勝者と,決勝進出をかけて戦います。誰が優勝しても初優勝というフレッシュな顔ぶれです。
 将棋界のビッグニュースとして,小山怜央さんが,棋士編入試験に合格(31敗)して,4月から四段になることになりました。昨日の日本経済新聞の夕刊で森下卓九段が,小山さんはA級に昇級できる逸材と書いていました。過去の編入組は,A級どころか昇級にも苦労し,タイトルをとるようなレベルにはなかなか到達できません。プロ棋士にも調子の波がありますが,ある一時期だけ輝いて勝ちを集めることができると,プロ棋士になることができるという言い方もできます。そこからさらにトッププロになるためには,この波のなかで,下降の期間を減らし,上昇波の頻度を上げることが必要なのでしょう。とくに順位戦などの重要棋戦で,しっかり勝ちを集めることが大切です。
 女流の里見香奈さんは,残念ながら,昨夏の編入試験のときに不調の波に当たったような気がします。里見さんには,もしまた受験要件(いいとこ取りで10勝以上,かつ65分以上)を満たすことがあれば,再度,挑戦してもらいたいですね(再受験ができるルールなのかは,よく知らないのですが)。

2023年2月11日 (土)

藤井五冠に試練?

 昨日の王将戦第4局は,2勝1敗とリードしていた藤井聡太王将(竜王・五冠)が,挑戦者の羽生善治九段に敗れました。藤井王将が羽生九段の攻めを呼び込むような将棋でしたが,結局,藤井王将の必死の受けも功を奏さず,羽生九段が攻めきりました。これで勝敗はタイとなり,羽生九段の前人未踏の100冠も可能性が出てきましたね。棋界のレジェンドが,藤井の前に立ちはだかるか注目です。
 藤井竜王(五冠)は,棋王戦5番勝負のタイトル戦も同時並行で戦っています。六冠に向けての戦いです。渡辺明棋王(名人)との第1局は,藤井竜王(五冠)の快勝でした。渡辺棋王(名人)は目立った悪手がないまま敗れた感じでした。
 問題は順位戦です。渡辺名人への挑戦者を決めるA級順位戦では,トップを走っていた藤井竜王(五冠)が,永瀬拓矢王座に敗れて62敗となりました。これで,3年連続名人挑戦を狙う齋藤慎太郎八段に勝った広瀬章人八段が62敗と並び,順位が上の広瀬八段がトップに立ちました(同成績の場合はプレーオフとなりますが,3人以上が並んだ場合は,順位が下のほうからの勝ち抜き戦となるパラマス方式なので,藤井竜王(五冠)には不利となります)。最終局で藤井竜王(五冠)は稲葉陽八段,広瀬八段は菅井竜也八段と対局です。どちらも敗れると,63敗に藤井,広瀬,菅井が並び,さらに現在53敗どうしの齋藤八段と永瀬王座の勝者も6勝となり,さらに豊島将之九段が佐藤天彦八段に勝てば6勝となります。つまり最大5人のプレーオフの可能性があるということになります。藤井竜王と広瀬八段とのプレーオフになる可能性が濃厚ですが,どうなるでしょうか。降級は,すでに決まっていた佐藤康光九段に加え,糸谷哲郎八段が稲葉八段に敗れて無念の降級となりました。今期は成績もよくないので仕方ないでしょう。まだ衰える年ではないので,稲葉八段のように1期で戻ってきてほしいですね。
 B1組は,トップを走る中村太地七段(92敗)が星を伸ばして,あと1勝で夢のA級への自力昇級です。ただし最終局の相手は羽生九段なので大変な戦いとなるでしょう。敗れても,83敗の佐々木勇気七段と澤田真吾七段のどちらかが敗れれば昇級です。昇級は2名で,順位が微妙に関係します。順位5位の佐々木七段は勝てば昇級です。敗れても,順位11位の澤田七段が敗れれば昇級です。澤田七段は自身が勝ち,かつ中村七段と澤田七段が敗れれば昇級です。降級は丸山忠久九段が,すでに1期での陥落が決まっていて,さらに郷田真隆九段も降級が決まりました。どちらもタイトル経験のある元A級の大物九段ですが,年齢には勝てないところでしょうか。3人目の降級者はまだ決まっていません。現在4勝の棋士に降級の可能性があり,順位1位の羽生九段もそのなかに含まれています。
 B2組は,最終局を待たずに,昇級者が決まりました。木村一基九段は1期でB1組への復帰です。最終局の相手が,先日亡くなった中田宏樹八段で,不戦勝となるので,昇級が決まりました。前期の降級はショックだったでしょうが,今年50歳になる木村九段が,それを跳ね返しての昇級は中年世代に希望を与えることでしょう。他の昇級者は,藤井キラーの大橋貴洸七段(30歳)と増田康宏七段(25歳)というフレッシュな初昇級組です。

2023年1月30日 (月)

王将戦第3局

 今日は季刊労働法の原稿を書き上げました。前号でも2本書いて,今回も1本で,何だかずっと原稿に追われている感じですが,研究者は論文を書くのが仕事なので,書かせてもらう機会があることは有り難いことです。もっとも,テーマは全部違うので,頭のなかがグチャグチャになりそうです。複数同時並行は昔は平気でやっていましたが,徐々にしんどくなってきました。そういえば,この間に重要判例解説の山形大学事件の評釈も書きました。それにいくつかの講演もあり,そのスライド作りにも,結構,時間がとられています。基本的にテレワークで,時間を効率的に使えるので,まだなんとかなっている感じです。そうそう相続関係の手続も,おそろしく面倒です。これについての愚痴はまたそのうち書きます。とにかく,今日の大学院の授業で今学期の授業はすべて終わったので,これからは少しインプットの時間をつくれると思います。
 話は変わり,王将戦第3局は,藤井聡太王将の勝ちでした。この若き王者は,連敗しないことで知られています。羽生善治九段は前局で勝ったのですが,死力を尽くしたという感じであり,一方,藤井王将は良い勉強をしたくらいの感覚だったのではないでしょうか。若さは羨ましいです。第3局は,藤井王将の先手番で,快勝でした。羽生九段の封じ手が若干疑問であったようで,その後は藤井王将が羽生玉を的確に追い詰めて,最後はきれいに1手違いで,詰ませてしまいました。藤井王将に勝つには,1手のミスも許されないということで,相手は消耗するでしょうね。
 藤井王将は,王将戦の第4局までの間に,六冠を目指して棋王戦を渡辺明名人・棋王と戦います(25日の1日制)。A級順位戦も,21日にあり,永瀬拓矢王座と対局です。藤井竜王(五冠)は,永瀬王座に勝つとプレーオフ進出は確定します(名人戦挑戦は,順位上位者の頭ハネはありません)。重要な棋戦が次々とあるなか,調子を維持するのは大変でしょうが,これも若さで乗り切れるのかもしれません。
 名人戦は春,竜王戦は秋,王将戦は冬というように重要な棋戦は季節ごとにありますが,多くのタイトルを保持するためには,苦手な季節があってはいけないわけで,健康維持がとても大切です。その点でも,長年にわたって多くのタイトルを保持してきた羽生九段は偉大です。一方,渡辺名人は冬将軍と言われて,秋以降になされる竜王戦と冬に行われる棋王戦に滅法強く,過去の獲得タイトルの大半を占めています(歴代4位の30タイトルのうちの7割を占めています)。得意の冬の棋戦で藤井竜王(五冠)の挑戦を撃退できるでしょうか。

2023年1月22日 (日)

王将戦第2局

 藤井聡太王将(五冠)に羽生善治九段が挑戦している王将戦は,藤井王将先勝を受けて,第2局が大阪高槻で行われました。摂津峡花の里温泉山水館が対局場です。この温泉には行ったことがありませんが,将棋のタイトル戦で使われるようなところには,ぜひ行ってみたいと思っています。
 この対局は,羽生九段が勝ちました。何と言うか,執念が感じられましたね。先手番なので,入念に作戦を練り上げて試したという感じでしょうか。藤井王将を,強引な攻撃へと引き込んで,最後のほうは,いろいろ藤井王将のきわどい罠が仕掛けられていたのでしょうが,しっかり読んでそれを回避して勝ちきりました。私は,レジェンドの大棋士が,20歳の新たな天才棋士に全力で立ち向かい,勝利をおさめたことに感動をおぼえました。7番勝負ですので,まだ先は長く,このあと羽生九段がどれだけ勝てるかはわかりませんが,この1勝は印象に残るものとなるでしょう。
 A級順位戦は,藤井竜王(五冠)が豊島将之九段に勝ち,61敗で単独トップになりました。52敗で追いかけるのが,斎藤慎太郎八段,広瀬章人八段,菅井竜也八段の3人です。渡辺明名人への挑戦者は,この3人以外に,現在43敗の豊島九段と永瀬拓矢王座にもチャンスは残っています。しかし藤井竜王がこのまま逃げ切る可能性が高いでしょうね。降級は残り一人で,3勝の稲葉陽八段,2勝の佐藤天彦九段,1勝の糸谷哲郎八段の誰かとなります。稲葉八段は1勝すれば残留確定ですが,最終局が藤井竜王で,順位が悪いので,次の糸谷八段との対局で勝たなければ危なくなります。糸谷八段は順位が2位といいので,稲葉八段に負けても,天彦九段が菅井八段に負ければ残留の可能性はあります。名人挑戦争いも降級争いも,今年のA級は熾烈です。B1組は,快調にトップを走っていた中村太地七段が,澤田真吾七段に敗れて82敗となり,順位がよくないので2連勝しなければ昇級は難しい状況になってきました。澤田七段は73敗で昇級のチャンスが残っています。また順位がよい山崎隆之八段も64敗ですが昇級のチャンスがあります。佐々木勇気七段も73敗で昇級可能性が高いですし,4連敗後に7連勝している近藤誠也七段は最終局が空け番なので,次局に勝って8勝すればライバルたちにプレッシャーとなるでしょう。B1組の昇級争いも,最後まで目が離せません。私は,最後は,残りの2局を連勝した中村七段と佐々木七段の昇級とみていますが,どうなるでしょうかね。

2023年1月17日 (火)

震災と谷川王将の防衛

 あの震災から28年経ちました。先日,谷川浩司17世名人の話が,NHKのニュースで紹介されていました。谷川さんも震災にあい,自宅が被害を受けて,被災者として避難して人々に助けられたそうです。そういうなかでも,将棋ができる喜びを感じ,神戸の人のために戦ったと言っておられました。あのとき谷川さんは王将のタイトルホルダーでした。ちょうど1月のこの時期は王将戦です。いまも藤井聡太王将(五冠)と羽生善治九段がタイトル戦を戦っています。28年前も羽生九段(当時は六冠)が挑戦者でした(羽生さんはすごい)。羽生六冠は,当時,空前の記録である七冠目前で,その勢いからして七冠実現の可能性は濃厚でした。この年度,羽生さんは,名人と竜王を奪取しすでに六冠となっており,その間に棋聖と王座で,谷川王将の挑戦を退けていました。谷川ももちろんトップ棋士でしたが,羽生さんがその前に立ちはだかっていたのです。この流れからすると,王将戦の挑戦者となった羽生六冠が,残された最後のタイトルである王将を奪取する可能性が濃厚でした。しかし,フルセットの末,谷川王将がタイトルを防衛しました。震災をはさみながらのタイトル防衛に,多くの人は感動しました。
 次の1995年度(1995年4月からの1年間),羽生六冠はすべてのタイトルを防衛し,再び王将戦の挑戦者になりました。他の棋士は何をしていたのかと言いたいところですが,羽生六冠は現在の藤井竜王(五冠)以上の勢いがありました。震災から1年後の1996年,再び両者が相まみえることになった王将戦は,結局,羽生六冠のストレート勝ちで,同年2月14日に史上初の七冠達成となりました。
 それでも,その前年,当時の羽生のすさまじい勢いを,震災下の谷川さんはかろうじて食い止めて,1995324日に大激戦の末に防衛をはたした谷川さんの勝利は,多くの人の記憶に深く刻まれていることでしょう。

2023年1月12日 (木)

棋士のマスク問題

 かつての羽生(ハブ)キラーで「マングース」と呼ばれた日浦市郎八段が「鼻だしマスク」で反則負けとなりました。順位戦(C1組)なので,大きな棋戦でしたが,本人は確信犯だったようです。ただルール違反として警告を受けていたにもかかわらず,従わなかったということで,ルールの執行上はとくに問題はないとみられるものでした。この点で,佐藤天彦九段がA級順位戦で,永瀬拓矢王座との対局で,警告なしの一発レッドカードを受けたのとは違うところです。日浦八段は裁判をすると言っているという報道もありましたが,もしそうなると裁判所はどう扱うのでしょうか。
 裁判所法31項は,「裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し,その他法律において特に定める権限を有する。」と定めていますが,判例上,「部分社会の法理」というものがあり,たとえば政党の党員の除名処分の有効性について,最高裁は,「政党の結社としての自主性にかんがみると,政党の内部的自律権に属する行為は,法律に特別の定めのない限り尊重すべきであるから,政党が組織内の自律的運営として党員に対してした除名その他の処分の当否については,原則として自律的な解決に委ねるのを相当とし,したがって,政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り,裁判所の審判権は及ばないというべきであり,他方,右処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であっても,右処分の当否は,当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り右規範に照らし,右規範を有しないときは条理に基づき,適正な手続に則ってされたか否かによって決すべきであり,その審理も右の点に限られる」と述べています(最高裁判所第3小法廷判決19881220日)。最近では,地方議会議員の出席停止処分について,部分社会の法理を適用して司法審査を否定していた従来の判例を変更して,司法審査の対象とするとした判決も出ています(最高裁判所大法廷20201125日判決)。除名処分のような場合はさておき,対局のルール違反についてのペナルティについては,「法律上の争訟」と認められない可能性もありますね。
 さて,佐藤天彦九段のほうは連盟に対して不服申立てをしているようですが,その結果がどうなったかはよくわかりません。昨日は,A級順位戦で佐藤康光九段との激戦を制し,2勝5敗となりA級残留に可能性を残しました(昨日,敗れて1勝6敗となった糸谷哲郎八段との間の残留争いになりそうです)。一方,敗れた康光九段のほうは,0勝7敗でB級1組に降格が決まりました。おじさん世代の最後の砦でしたが,A級に残留することは,やはり難しかったですね。

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