将棋

2023年11月24日 (金)

JT杯と王将戦

 JT杯(将棋日本シリーズ)の決勝で,藤井聡太竜王・名人(八冠)が糸谷哲郎八段に勝って,2連覇しました。糸谷八段は,なかなか藤井竜王に勝てません。竜王獲得以来,大きなタイトルがない糸谷八段にとって,今回は大きなチャンスでしたが,これまで一度も勝ったことがなく6連敗していた相手に,今回も勝てませんでした。乱戦になって糸谷八段の得意な流れでもあったのですが,藤井竜王・名人の充実ぶりが目立ちました。持ち時間が短い将棋でも強いです。八冠に続き,将棋日本シリーズ,銀河戦,朝日杯,NHK杯という一般棋戦についても,2年連続,完全制覇となりそうな勢いです。八冠と一般棋戦完全制覇など,ありえない大記録です。どこまで記録をつくるのでしょうかね。
 藤井竜王・名人の次のタイトル戦である王将戦の対戦相手は菅井竜也八段に決まりました。最もレベルが高いと言われている王将戦挑戦者決定リーグにおいて,永瀬拓矢九段が先頭を走っていたのですが,最後に菅井八段が逆転しました。永瀬九段は羽生善治九段と佐々木勇気八段に連敗して2敗となり,菅井八段は永瀬九段に敗れた以外は全勝して挑戦権をつかみました。菅井八段は,先般の叡王戦5番勝負でも対戦しており,そこでは藤井叡王の31敗での防衛でした。ただ菅井八段は,糸谷八段とは違い,タイトル戦での1勝だけでなく,A級順位戦でも勝つなど,対戦成績は49敗とはいえ,手も足も出ないという感じではありません。現在の振り飛車党のなかの最高峰にいる菅井八段の登場は注目です。王将は,かつて同じ関西の振り飛車党の久保利明九段も4期とったことがあるタイトルであり,菅井八段の活躍が期待されます。いまの藤井王将からタイトル奪取をすることは難しいとしても,せめて昨年の羽生九段の2勝くらいはしてほしいところです。

2023年11月11日 (土)

藤井八冠竜王防衛

 藤井聡太竜王(八冠)は,伊藤匠七段の挑戦を4連勝で退けました。八冠後の最初のタイトル防衛戦で,藤井八冠を追う一番手ともいえる,現在絶好調の同世代の棋士が相手でしたが,藤井八冠の敵ではありませんでした。この将棋は,序盤に伊藤七段が,通常なら6二に銀を上がるところを金が上がるなど,藤井竜王の早い桂跳ねに対応し新手を指していました。その後,藤井竜王が飛車を切って攻めていくのですが,伊藤七段も6七に銀を打ち,2九に飛車を打って相手玉に迫っていきます。藤井陣は飛車と歩で玉頭から攻められて,素人目には,簡単に負けてしまいそうなのですが,AIの評価値では藤井竜王が若干優勢でした。伊藤七段の攻めは比較的かわしやすいということであったのでしょう。実際,伊藤七段は飛車先の歩が成り込むなど攻勢にみえたのですが,一手空いたところで,なんと藤井竜王は37手詰めで相手玉を詰ましてしまいました(途中で伊藤七段は投了)。37手詰めなど神がかり的で,まさに神の頭脳です。実際,駒を並べてみましたが,二枚の柱がよく効いて,きれいな詰みでした。実は,途中の8四銀という派手な捨て駒の順があるのですが,そこで歩を打っていれば,もっと短い手数で詰んでいたので,藤井竜王はそのことを悔やんでいたようです。あまりにも次元の違うレベルの話です。
 これでタイトル獲得19期で,歴代6位の米長邦雄永世棋聖に並びました。この上は27期の谷川浩司17世名人です。あとは渡辺明九段(31期),中原誠16世名人(64期),大山康晴15世名人(80期),羽生善治九段(99期)となります。しかも,タイトル戦で奪取も防衛も含めて,19回連続勝利で,これは大山15世名人の記録とタイだそうですが,これまでタイトルを奪われたことがないという点では,前人未踏の記録です。桁違いの強さです。
 竜王戦が4局で終わったので,藤井八冠はしばらく休めるでしょう。次のタイトル戦は年明けの王将戦です。挑戦者決定リーグでは,いまのところ永瀬拓矢九段が4連勝で先頭を走っており,菅井竜也八段が31敗で追いかけています。羽生善治九段も32敗で挑戦の可能性が残っています。次の永瀬・羽生戦が大きな勝負となります。棋王戦も同じころに行われますが,こちらはベスト4がでそろい,豊島将之九段,広瀬章人八段,伊藤匠七段,本田奎六段が残っています。伊藤七段はこちらでも挑戦の可能性が残っています。連続挑戦の可能性は十分にあります。棋王戦は,ベスト4以上では敗者復活戦があり,2敗で敗退ということになっています。

2023年10月27日 (金)

竜王戦第3局

 竜王戦第3局は,藤井聡太竜王(八冠)が挑戦者の伊藤匠七段に勝ち3連勝となり,防衛に王手となりました。伊藤七段は4連敗だけは避けたいところでしょうが,藤井竜王は八冠に到達したからといって,まったく緩むことはなく,ますます強くなりそうな感があります。
 この対局について,私たちはAIの評価値があるので形勢判断ができますが,もしそれがなければ,伊藤七段の飛車が成りこんで,藤井玉に詰めろをかけているところなどをみると,勝敗は紙一重のところにあり,藤井竜王も危なかったのではないかという気もするのですが,藤井竜王からすれば自玉は詰まず,相手玉を先に詰ますことができることをしっかり読み切っているのでしょう。
 ところでネット情報で,先日の王座戦第4局の藤井竜王・名人の大逆転(八冠を達成した対局)がなぜ起きたのかというのを解説しているものにふれました(FNNプライムオンライン「『6億手読む棋士』藤井八冠誕生の裏に将棋AI凌駕する“魔の一手”AI開発者杉村氏が驚嘆する勝率1%からの逆転劇」)。永瀬拓矢王座(当時)が絶対優勢のなか,なぜ大悪手を指したのかです。私もその対局場面をLiveで観ていましたが,AIの候補手になく,解説者もふれていなかった,5五銀を藤井竜王・名人が指したとき,私は形づくりで,もう負けました宣言をしたと受けとっていました。AI的には最善手ではなく,それどころか,逆転の可能性がそれほど高い手でもなかったのです。しかし,相手は人間です。AIの判断は,相手も最善手を指すことが前提なのであり,したがって,AIからすると4番目や5番目に善い手であっても,相手がそれに対する最善の応手をみつけることが難しいような手であれば,相手が間違える可能性があるので,決して評価値ほどの差はないということです。ここが人間の対局にAIの評価値をあてはめることの難しさであり,逆に藤井竜王・名人のすごいところなのです。相手は人間であるの,人間にとって間違えやすい手(AIからすると勝ちやすいかもしれない手)を指せばよいのです。藤井竜王・名人は,そういう手を指して相手にいわば宿題を投げ続けるのであり,そうすると,いくら強い人間であっても,そのうち一回くらいは間違えるので,そのときにその隙をついて逆転してしまうというところが藤井将棋にはあるのです。
 これが人間どうしの戦いの面白いところなのでしょう。そして,実に高度だけれど,(AIとは違う)人間くさい勝負手を指せるというところが藤井竜王・名人の強さだとわかりました。AIと人間の共生という私自身にとっても重要な課題について,将棋から学ぶことはいろいろあるように思えます。

2023年10月19日 (木)

竜王戦第2局

  藤井聡太竜王・名人の八冠になったあとの最初の対局は,竜王戦の第2局です。彼は,これからほとんどの対局がタイトル戦になります。タイトル戦以外の対局は,朝日杯将棋オープン戦,銀河戦,NHK杯,将棋日本シリーズになるでしょう。これらの棋戦でも勝ち進んでいて,ひょっとすると八冠+全棋戦優勝という前人未到・空前絶後の大記録も達成しそうな勢いです。とくに進行が早い将棋日本シリーズは,ベスト4まで行っていて,次に永瀬拓矢九段戦が待っています。永瀬九段は,王座戦のリベンジがかかっています。さすがに,全棋戦制覇までされてしまうと,他の棋士は何をしているのかということになりそうです。
 というなかでの,竜王戦第2局ですが,やはり藤井竜王は強かったです。伊藤匠七段は,歯が立たなかった気がします。これで2連勝です。4戦で終わってしまう雰囲気が出てきました。
 順位戦は,藤井名人への挑戦を決めるA級では,豊島将之九段が,難敵の永瀬九段に勝って4連勝です。忘れてもらっては困るというところでしょう。かつては藤井竜王・名人に壁となって立ちはだかった豊島九段です。永瀬九段や渡辺明九段では,タイトルを奪取するのは難しそうになってきている現在,安定して勝ち続けている豊島九段が,打倒藤井に向けて再浮上する可能性もあります。現在,王将戦の挑戦者決定リーグは1勝1敗,棋王戦の決勝トーナメントもベスト8に勝ち残っています。

2023年10月13日 (金)

藤井八冠の衝撃

 藤井聡太八冠に,内閣総理大臣顕彰を授与することが決定されたそうです。藤井八冠の成し遂げたことが偉大であることは言うまでもありません。将棋ファンからすると,神の領域に到達したと言っても言い過ぎではありません。ただこの授与は,不人気の岸田政権の人気取りに利用されているみたいで,良い感じはしません。まだ21歳の若者で,今後ますます精進すると言っているのであり,ここはそっとしておいてあげたい気もします。もっとも,このようなことで,舞い上がったりするような人ではないでしょうが。
 対局の静けさとは対極的に,八冠達成に対する周りの喧騒は凄まじいものです。経済効果も大きいし,子をもつ親たちへの影響も甚大でしょう。たとえば,藤井八冠が受けていたというモンテッソーリ(Montessori)教育法にも関心を向ける親は増えていくことでしょう。このほか,藤井八冠が,AIを活用して将棋の勉強をしていると聞くと,やはり教育や学習にAIを活用すべきであるという議論がいっそう高まるでしょう。その礼儀正しさをみると,やはり若くてもきちんとした躾を受けている人は違うと思うでしょう。勝っても奢らず,発言は一つひとつよく考えて慎重にされており,しかも自分の言葉でしっかり話しています。大逆転での勝利ということを聞くと,諦めずに粘り強く取り組むことの重要性を再認識することにもなるでしょう。将棋の棋士をみると,とくに社交性やコミュニケーションというようなものがなくても,あるいは対人関係が苦手であっても,やっていける仕事なのであり,藤井八冠の活躍は,そうした能力に自信がない人にも希望を与えるものといえるでしょう。
 彼は,いまや誰と対局するときも上座であり,もはや将棋界では自分よりも格上の棋士はいません(11日までは王座戦だけは,永瀬拓矢前王座が上座でした)が,それでも対局となると,相手の地位などは関係なく,ひたすら自分の指す将棋をよいものとすることに専心するというところも立派です。すぐに相手との上下関係を確かめて行動したがるおじさんたちには,真似ができないことでしょう。
 藤井八冠の生き方そのものが,多くの人に良き影響を及ぼすのです。内閣総理大臣顕彰のようなもので評価されたくない気もします。というか,内閣総理大臣をはじめとした政治家がまずやることは,藤井八冠からいろんなことを謙虚に学ぶことでしょうね。

2023年10月11日 (水)

藤井聡太八冠達成

 Abemaで歴史的偉業の瞬間を観ていました。藤井聡太竜王・名人(七冠)が王座戦で,永瀬拓矢王座に勝って,31敗でタイトルを獲りました。これで八冠の達成となります。今回の王座戦は激戦だったと思います。今日の勝負も,122手目に,藤井竜王・名人が5五銀と指したときは,ほぼ形作りで,永瀬王座が勝ちになっていたようです。アプリのほうの評価値は永瀬100でした(詰みがあるか,自陣に詰みがない状況で必至をかけれる)。次に永瀬王座が指すべき手は,4二玉でした。ところが,5三馬と王手をかけた瞬間,評価値は3になりました。藤井玉に2二に逃げられてしまい,容易にはつかまらなくなりました。そこで5六歩と指されて,逆に永瀬玉が必至となりました。大逆転です。中継を観ていると,永瀬王座は5三馬を指したあと,すぐに失着とわかったようで,髪をかきむしっていました。永瀬王座には悪いですが,とても人間くさい仕草で,悔しさがにじみでていました。たった一手で天国から地獄でした。そういうミスがないような棋士だったのですが,藤井竜王・名人相手に二局続けて大逆転負けです。しかも,本局のほうが衝撃は大きいでしょう。藤井竜王・名人は,相手の悔しさを肌で感じながらも,淡々と勝利に向けた手を,間違わずに指し続けます。最後は,相手の歩の上に桂を打つ美しい手で仕上げました。永瀬王座は投げるに投げきれない感じでしたが,ついに再度の5六歩で投了となりました。ちょうど21時直前で,NHK21時のニュースに切り替えたら,トップニュースがこの対局で,直後に速報のテロップが流れました。
 永瀬王座の名誉王座の夢はついえ(まだ将来のチャンスはありますが),タイトルはすべての藤井竜王・名人の手にあるという,藤井1強時代の到来となりました。羽生善治九段も全冠制覇しましたが,あのころよりタイトルが一つ増えているので(叡王戦),八冠は前人未踏です。歴史的な瞬間を目撃できてよかったです。
 八冠となると,年から年中,タイトル戦をしていることになります。いつかはタイトルを奪われるときもくるでしょうが,それが一体いつになるのか,いまはまったく予想すらできません。現在,竜王戦を伊藤匠七段と戦っていますが,現在の勢いからすると,最も打倒藤井に近いのはこの伊藤七段だと思いますので,まずは竜王戦の今後に注目したいと思います。
 羽生九段の七冠制覇は,1996214日(王将戦で谷川浩司17世名人(現在)に勝利)。それが崩れたのが,同年730日に棋聖戦で三浦弘行九段(現在)に敗れたときです。期間は167日です。これが全冠制覇期間の記録です。次は,藤井八冠が,この記録を破るかが注目されます。なお,藤井竜王・名人が名人位を奪取して七冠をとったのは202361日です。今日(1011日)で,七冠の日数が132日となっています。167日を七冠の記録とみた場合,これを超えることは確実となっています(六冠になるのは,竜王戦に敗れ,かつ,王将戦か棋王戦に敗れなければならず,それは早くても来年2月以降で,167日を大きく超えているからです)。

2023年10月 7日 (土)

竜王戦が始まる

 竜王戦の第1局が106日から始まりました。伊藤匠七段は初タイトル戦が,いきなり竜王戦の舞台です。相手は,もちろん藤井聡太竜王(七冠)です。1日目で伊藤七段は封じ手をしました。封じ手は,1日目と2日目の途中で,ずっと次の手を考えることができるとすると,持ち時間の制限の意味がないので,一定の時間を超えると,その時の手番の棋士は,次の手を封じなければならず,その手を指すまでは持ち時間は減少していくことになります。封じ手には,いろいろ作法があるので,伊藤七段は初めてのタイトル戦で,少し緊張したかもしれませんね。
 2日目は,封じ手を開けてから始まりますが,少し伊藤七段の突っ張った手となっていて,徐々に藤井竜王の優勢が拡大した感じです。互いが一歩も引かない殴り合いのような攻めが展開されましたが,最後は藤井竜王が勝ちました。ただ,伊藤七段の強気の姿勢が印象的でした。7番勝負は始まったばかりで,熱戦が続くことでしょう。
 順位戦は,A級は3局目が終わって,名人への復位をめざす豊島将之九段が3連勝でトップです。永瀬拓矢王座,菅井竜也八段,佐々木勇気八段が21敗で追っています。伊藤七段が所属しているC1組は,伊藤七段が32敗と苦しい星勘定で,今期の昇級はかなり厳しくなっています。竜王をとって,順位戦のクラスはC1組となると,これはおそらく前代未聞ではないかと思います。順位戦と竜王戦の性格の違いが出ていて面白いです(名人を選ぶ順位戦は蓄積型で王者を選ぶ棋戦,竜王戦はその時の最強者を選ぶ棋戦という感じです)。

2023年9月28日 (木)

王座戦第3局

 王座戦5番勝負の第3局は,挑戦者の藤井聡太竜王・名人(七冠)が,永瀬拓矢王座をやぶり,ついに八冠に王手をかけました。この対局は先手の藤井竜王・名人が劣勢で,終盤では評価値が80を超えて永瀬王座大優勢でした。藤井玉は,左右から挟撃され,永瀬王座が5筋を香車をバックに金でゴリゴリと押し込んでおり,藤井竜王・名人もがっくり肩を落として敗戦を覚悟している感じでした。それでも飛車で香車をとり,金を一歩バックさせて,一手だけ余裕が生まれたような感じがしました。しかし飛車を渡したこともあり,1手でもゆるむと,そこですぐに必至がかけられそうな状況です。そこで藤井竜王・名人は5一にいる玉に向けて,2一飛と持ち駒の飛車を打ち込んで王手をかけました。形作りのような感じでした。素人目には,3二に金がいるので,3一と底歩を打てばよいのではと思えました。そのあとも先手は4三銀からの攻めは続けられますが,後手が余しているようでした。しかし永瀬王座は残り時間をすべて使って,4一飛と指したことで,「事件」は起こりました。評価値は大逆転となりました。藤井竜王・名人は6五角と指して,3二と5六にいる金の両取りをかけ,永瀬王座の攻撃の要であった5六の金を取り除くことができ,必勝の形となりました。たった1手のミスによる大逆転でした。藤井竜王・名人は,ずっと肩を落としたまま指していたので,本人にとっても勝った気はしていなかったのかもしれません。負け将棋をたんに相手のミスで勝っただけでは,最強の王者としては満足できなかったのでしょう。
 いよいよ1011日が,前人未到の八冠の達成がなるかどうかという日になります。日本中が注目する対局となるでしょう。第3局は藤井竜王・名人は勝ったとはいえ,内容は負け将棋であり,最近はこういうパターンが増えつつあるように思います。それでも勝つのはたいしたものですが,やはり圧倒的な強さで押し切るという感じでないところは気になります。タイトル戦続きの影響かもしれません。その意味で,永瀬王座にも挽回のチャンスはあると思います。さらに藤井竜王・名人は,現在の最強の挑戦者かもしれない伊藤匠七段との竜王戦七番勝負が,106日から始まります(二日制)。藤井竜王・名人の疲労が気になるところであり,体調に気をつけて頑張ってほしいです。

2023年9月12日 (火)

王座戦第2局

 阪神の西勇輝が,巨人を完封しました。2時間弱の完勝でした。これで9月に入って9連勝ということで,いままで9月になると失速する阪神に慣れていたので,この変わりようは驚きです。野球は投手が大切ということがよくわかります。村上,大竹,伊藤の3人の先発陣が続けて10勝に到達し,そして今シーズンは不調であった西勇輝も今日で7勝まで来ました。広島が負けたので,マジック3です。これで「アレ」はもう大丈夫でしょう。あさって巨人相手に甲子園で胴上げとなると,阪神ファンにはたまりませんが,実現するでしょうか。
 王座戦第2局は,挑戦者で後手番の藤井聡太竜王・名人(七冠)が,永瀬拓矢王座に勝ちました。これで11敗です。途中の評価値は永瀬王座が優勢でしたが,1手の緩手で形勢が逆転し,藤井玉は入玉に成功して,あとは手数はかかりましたが,永瀬王座に逆転の目はありませんでした。214手まで粘ったのは執念ですね。
 順位戦は,B1組の進行が速く,5局終わったところで,羽生善治九段が4勝1敗でトップにいます。A級復帰に向けて好発進ですね。佐藤康光九段も連敗スタートでしたが,連勝で盛り返してきました。木村一基九段は,B1組に復帰しましたが4連敗で苦しいスタートとなりました。そのほかでは,C1組の伊藤匠七段が敗れて2敗となりました。順位1位ですが,苦しくなりました。竜王戦に挑戦を決めていますし,他棋戦でも勝ちまくっていて,NHK杯でも糸谷哲郎八段に快勝したばかりでしたが,順位戦で勝ち星を集められないのは,名人への道が遠くなることを意味するので,棋士としてはつらいところでしょう。竜王戦に向けて調子を上げてもらいたいです。

2023年9月 1日 (金)

棋士の服装規定

 防災の日です。いまは南海トラフ震災前という時期ですが,地震のことをすぐに忘れがちです。物的な準備はそれほどできていません(今日の時点では水と非常食くらいでしょうか)が,心の準備はしているつもりです。どうせ来るなら早く来てほしいという気がする反面,弱い地震が少しずつ来てくれたらと思っていますが,そんな都合よく行くわけありませんね。
 話は変わり,昨日の永瀬拓矢王座のことで書き忘れていたことがありました。それは彼が和服を着用していたことです。これまでは,最初だけ和服で,すぐにスーツに着替えるということをしていたと思うのですが,どうも服装規定で王座戦は原則として和服着用に変わったようです。これが王座戦だけのルールなのか,よくわかりませんが,タイトル戦で現在和服を着ないのは永瀬王座だけなので,彼を狙い撃ちにしたルールということでしょう。いまは,永瀬王座以外はみんなタイトル戦で和服を着ているので,これが慣行です。労働法でよく出てくる言い回しでいうと,慣行を就業規則で明文化したというのと近いようなものですね(服装とは関係ないですが,有名な例としては,賞与の支給日在籍要件の慣行を明文化した就業規則の合理性を肯定した大和銀行事件・最高裁判決(1982年10月7日)があります)。
 雇用労働者であれば,業種によっては,服装の強要を言われると,争う余地がありそうですが,棋士は個人事業主という扱いなので,争うことは難しいでしょう。棋士の対局姿は,Abemaでライブで世界中に報道されます。日本古来の文化という意味のある将棋において,一種の興行ですから,やはり和服着用が求められるのは仕方がないと思います。とくにタイトル戦という最高峰の戦いでは,スポンサー(王座戦は日本経済新聞)にも配慮する必要があるでしょう。スーツでは,ちょっとタイトル戦を軽視しているのでは,という不満が出てくるかもしれません(私のようにスーツも和服ももっていない人間は,正装ができないので,正式な場に出ることができないのですが)。
 もちろん,永瀬王座にも言い分はあるのでしょう。和服ですと,日頃着慣れていないので集中できず,良い将棋が指せないということなのかもしれません。彼が若いときなら大目に見ようということもあったかもしれませんが,今期防衛すると名誉王座という永世タイトル保持者となるくらいの大棋士となってきているので,やはりそれなりの責任感をもってもらう必要があるということなのでしょう。たんに勝負に勝てばよいというだけではなく,それ以外のことにも気を配って大人になってほしいということでしょうか。日本将棋連盟の会長に新たについた羽生善治九段の意向も働いているのかもしれません。そんなプレッシャーもなんのその,永瀬王座は,見事に和服を着こなして先勝しました。その精神力は半端でないです。

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