将棋

2024年5月19日 (日)

名人戦第4局

 名人戦第4局は,別府で昨日から行われ,挑戦者の豊島将之九段が,3連敗のあと,藤井聡太名人(八冠)に,今シリーズ初勝利をあげました。先手の豊島九段は居玉のまま,積極的に攻める戦法をとり,途中までは評価値も優勢でした。ただ終盤で,素人にはわからないような悪手があったようで,評価値は五分に戻ったのですが,藤井名人に緩手があり,最後はしっかり攻めきりました。豊島九段は,最近,負けが込んでいて不調かと思いましたが,名人戦で調子を取り戻した感じです。これで流れが変わるでしょうか。

 藤井聡太王位(八冠)への挑戦権を争う王位戦リーグは,紅組と白組のトップが挑戦者決定戦を戦うという方式ですが,14日,リーグ戦が終わりました。紅組は斎藤慎太郎八段,白組は渡辺明九段が,それぞれ41敗でプレーオフなしで1位となり,両者が戦うことになりました。渡辺九段は,タイトル獲得数は歴代4位ですが,意外なことに王位のタイトルはまだ取ったことがありません。斎藤八段は王座のタイトル1期の実績があるだけです。どちらも王位戦の挑戦自体はじめてです。両者の対決というと,2020年,2021年に2年連続で渡辺名人(当時)に斎藤八段が挑戦するということがあり,いずれも渡辺名人が防衛しています。斎藤八段は,今回の大一番でぜひ雪辱したいでしょう。今期はB1組に陥落して,出直しの1年ですが,最近は好調で,王位戦リーグでも,最終戦は若手有望の藤本渚五段をやぶりました。一方,渡辺九段は,羽生善治九段に負けて1敗しており,羽生九段の最終局は,ここまでリーグ戦全敗の飯島栄治七段が相手なので,悪くてもプレーオフだと思っていたでしょうが,羽生九段が珍しく最終盤で大逆転をくらうということが起きて2敗目となり,渡辺九段の1位通過が決まりました。羽生九段は,森内俊之九段に負けた1敗が痛かったですが,リーグ戦残留をはたしたのは見事です。

 

 

2024年5月11日 (土)

名人戦第3局

 将棋の初心者の戦法に棒銀というのがあります。銀をどんどん繰り出していくのですが,これが結構,強力であり,受け方を間違えると,ボコボコにされます。ただ攻めは単純なので,素人どうしでは,よく出てくる戦法ですが,プロではまず成功しません。ところが,それが名人戦第3局に,あの藤井聡太名人(八冠)が採用したというのですから驚きです。もちろん一直線の攻めが成功したわけではないのですが,あっという間に優勢になってしまい,2日目(名人戦は2日制)は,挑戦者の豊島将之九段がほとんど見せ場をつくることができませんでした。最後は少し早いようにも思えましたが,ぽっきり折れたように投了となりました。これで藤井名人の3連勝です。この対局をみると,ここから4連勝して豊島九段が名人位を奪還する可能性はほぼないと言えそうです。あとはなんとか1勝できるか,というところでしょうか。

 ところで,2日前に書いた私の足についての話の続報です。昨日,医者に行くことができたのですが,これがまたちょっと大変でして,授業が終わった直後の10時40分くらいにすぐにオンラインで予約をいれて22人待ちということで,ずっと待っていたのですが,結局診察をしてもらえたのが15時30分くらいで,自宅に帰ってきたのが16時30分でした(一人の診察に20~30分くらいかけている感じです)。オンライン予約は,残り2人になるとメールで呼び出しがあるのですが,その呼出が来てあわてて行ってから(自宅から普通なら2分。足をひきずっているので5分くらい),さらに1時間くらい待たされました。丁寧に診察する先生なので仕方がないとはいえ,これではちょっと困りますね。あげくに,痛風という診断はしてくれず,血液検査の結果を待ちましょうということで,結局病名はいまなおよくわかりません。すでに今日の段階で,痛みは大幅にひいているのですが,くるぶしが腫れて紫色の状態は変わらず,これはなんだろうということが,血液検査の結果がでる1週間後まで不明というのは困ります。痛風ならビールを控えることから始めようということになりそうですが,違う病名であればまた違った対応になります。根本的には,ビールが飲めるかどうか知りたいということなのですが,飲めないなら焼酎中心に変えますし,ワインはどっちにしても飲むでしょう。

2024年5月 4日 (土)

叡王戦第3局

 藤井聡太叡王(八冠)に,伊藤匠七段が挑戦する五番勝負は,前局で対藤井戦の連敗をとめてタイトル戦の初勝利をした伊藤七段が,連勝して2勝1敗となり,タイトル獲得まであと1勝としました。藤井叡王のタイトル戦の連敗は初であり,もしタイトルを失うと,これもまた初ということになります。藤井叡王は防衛のためには,2連勝する必要があります。

 この将棋は,終盤のほうはAbemaLiveで観ていましたが,途中までは先手の藤井叡王が優勢でした。藤井叡王は2八飛の前方に2六香を打って,6六の角とあわせて,2筋に殺到する攻撃態勢をとり,その後,伊藤七段が桂を7三にはねて攻めに転じ,桂を犠牲にしながら銀を進出して角にあてました。そこで藤井叡王が角を5五にかわして,伊藤陣の8二飛にあてたところが一つのポイントでした。そこで伊藤七段は,飛車を逃げずに6六桂と打って,藤井玉に迫ります。その後も飛車を見捨てて,藤井玉に切り込んでいき,一手もミスが許されないというなかで,正確に攻め続けて藤井叡王を投了に追い込みました。

 評価値では途中で伊藤優勢に逆転したのですが,藤井叡王が悪手を指したわけではなく,神(AI)からみれば悪手であったというくらいのものでしたが,それをしっかりとがめて攻めきった伊藤七段の強さが示された一局でした。最後はずっと1分将棋でしたが,ミスはしませんでした。この将棋をみると,伊藤七段が,これまでの戦績ほど藤井叡王と差がないことがよくわかります。後手番で,藤井叡王の得意戦法である角換わりの将棋を勝ったことは大きいでしょう。藤井叡王にポカがあったとかではなく,実力を出し切って負けたということで,これは逆に尾を引く敗戦かもしれません。
 これで伊藤七段は残り2局のうち1つを勝てば,難攻不落と思われていた藤井八冠の牙城を一つ崩すことができます。叡王戦の第4局は531日(第5局は620日)で,その間に,藤井八冠は,豊島将之九段と2日制の名人戦を3局やる(589日,1819日,2627日)というハードスケジュールになっています。ここで調子をつかんで伊藤戦に臨めるかです。藤井八冠としては,名人戦を連勝して,19日に名人防衛を決めて,叡王戦に臨みたいでしょうが,豊島九段も2連敗しているとはいえ接戦なので,そううまくはいかないかもしれません。叡王戦の第4局を勝ったとしても,今度は山崎隆之八段との棋聖戦5番勝負が,6月6日から始まります(第2局は6月17日)。体調管理が大切ですね。

 

 

2024年4月25日 (木)

名人戦第2局

 藤井聡太名人(八冠)に豊島将之九段が挑戦する名人戦の第2局が,23日から24日にかけて行われました。藤井名人が勝って2連勝です。最終盤では,豊島九段に評価値がふれたときもあったのですが,先手である豊島九段が千日手回避のために指した手が緩手で,藤井名人の逆転勝利でした。もっとも,この将棋も,前半は藤井名人が優勢で,そこから豊島九段が持ち直したということで,決して藤井名人が圧勝したという感じはしません。しかし,最後の最後で緩手が出てしまうのは,体力勝負の名人戦において,藤井名人の若さには勝てないというところもあるのでしょうか(とはいえ,豊島九段のミスは,難解な詰み手順にかかわるもので,やむを得ないところもあります)。
 ところで,第2局の大詰めのときに地震が起きました。対局場は千葉の成田山新勝寺で,茨城県北部の震源地と近く,かなり揺れたようですが,藤井名人はまったく動じずに集中して手を読んでいたそうです。この集中力が藤井名人の最大の武器なのかもしれません。外野のことを気にせず,盤面に集中できる才能はうらやましいです。こういう人は,どんなところでも実力を100%近く発揮できるのでしょう。でも,うらやましいと同時に,あまりに人間離れしていて,自分とは違う人が頑張っているなという感想しかもてませんね。同じように人間離れしているようにみえるけれど,信頼していた身近な人に大金を奪われてしまう大谷選手のほうが,ちょっと人間らしくして親近感をもてるかも,なんて思ってしまいます。

 

 

2024年4月22日 (月)

叡王戦第2局

 叡王戦5番勝負の第2局は,20日に行われ,ついに挑戦者の伊藤匠七段が,藤井聡太叡王(八冠)に勝ちました。対藤井戦の連敗を11で止め(1持将棋),同時に,昨年秋の竜王戦からの藤井八冠とのタイトル戦での連敗も8で止め,さらに藤井叡王のタイトル戦の連勝記録を16で止めました。17が大山康晴15世名人の記録であったので,それに一歩届きませんでした。しかし16も偉大な連勝記録であることに変わりありません。タイトル戦は,絶好調の棋士が相手となるのです。
 これで叡王戦は11敗となり,実力的にはいま一番藤井八冠に迫っているはずの伊藤七段が,ここからどう挽回するかが見ものです。
今週には名人戦の第2局もあり,挑戦者である豊島将之九段も勇気づけられたかもしれません。

 2つのタイトル戦が並行して進んでいますが,もう一つ,6月からは棋戦戦が始まります。その挑戦者決定戦が,本日,山崎隆之八段と佐藤天彦九段との間で行われました。山崎八段は独創性が高い将棋で,この棋戦の準決勝でも,永瀬拓矢九段を鋭い攻撃で「瞬殺」したような切れ味鋭い終盤力が魅力的です。対照的に,天彦九段は,名人3期の実力者ですが,近年は低迷していました。しかし昨年,振り飛車党に変わり再生しました。振り飛車党から居飛車党に変わって飛躍するということはよくあるのですが,その逆は珍しいです。受け中心の棋風には振り飛車が合っていることを発見したのでしょう。これは一般の会社員にも参考となる話かもしれません。いったん棋界最高峰の名人をとった棋士でも,AI時代の到来もあって,自分の将棋のモデルチェンジをして,独自の道を歩みながら成果をあげているのです。自分の成功体験を捨てて,新たなことにチャレンジするのは大変なことですが,天彦九段の復活には勇気づけられます。

 ということでこの二人の対局でしたが,182手までの熱戦で山崎八段が勝ちました。まさか43歳の山崎八段がタイトル戦の舞台に再び登場するとは誰も予想していなかったでしょう。15年ぶり2回目のタイトル戦です。前回は王座戦で当時の羽生善治王座に挑戦しましたが,3連敗で敗退しています。タイトル獲得経験はないですが,タイトル戦に昇格する前の叡王戦の初代王者ですし,NHK杯でも2回優勝するなど,実績は十分です。普通に考えれば,山崎八段が藤井棋聖からタイトルを奪取することはきわめて困難ですが,対戦成績は11敗であり,2018年の初手合いのときは山崎八段が勝っています。あのときからは藤井棋聖の実力はパワーアップしていますが,天才山崎がどこまで王者藤井棋聖に迫れるか楽しみにしています。

 

 

2024年4月13日 (土)

名人戦始まる

 桜の時期というと,名人戦です。410日から藤井聡太名人(八冠)に,名人経験者である豊島将之九段が挑戦する7番勝負が始まりました。持ち時間9時間の2日制で,心身ともに強靭でなければ勝てない過酷な勝負です。第1局は,藤井名人の逆転勝利でした。途中までは豊島九段が評価値でも70%くらいにまでなっていて優勢でした。とはいえ,そう簡単に勝ちが見えているわけではなく,あくまでAIの目では優勢ということにすぎませんでした。藤井玉はずっと不安定で,豊島九段の竜に追われて危険な状況であったのですが,藤井玉を上部に逃さないようにする金と玉の田楽刺しの4四香が痛恨の失着で,金を見捨てて玉が5七に落ちることができ,つかまらなくなりました。正着は,竜で4八の金をとり,藤井玉が下段に落ちれないようにすることだったようです。おそらく4八竜と指していれば豊島九段が勝ちでした(それでもまだ大変な勝負だったようですが)。たった一手で敗勢となり,最後は藤井名人の華麗な4一銀捨てで,豊島九段を投了に追い込みました。藤井名人の相手を間違いやすいような局面に引き寄せる勝負術はすごいものです。羽生善治九段の「羽生マジック」というのも,終盤に不思議に相手が間違えて逆転するということでした(同じ11日に木村一基九段は,王位戦リーグで,羽生九段との必勝の勝利を,最終盤の大失着で逆転されて負けましたが,木村九段はこれまで羽生マジックに最もやられた棋士の一人でしょう)が,藤井八冠の場合は「マジック」という言葉があまりしっくりきません。羽生九段の「羽生にらみ」のようなプレッシャーがあるわけではなく,藤井八冠は盤上没我で,相手にただ無言の威圧感を与えているだけなのですが,それだけで相手がみずから転んでしまうのです。

 ただ,この将棋は決して豊島九段が完敗したわけではありません。ぎりぎりの戦いだったと思います。今期の名人戦は第1局から白熱の攻防が繰り広げられたのであり,どこかで豊島九段がきっかけをつかめば,第2局以降の行方はまだわからないという感じがしました。ファンの期待は7戦までもつれることですが,まずは藤井八冠のタイトル戦の連勝がこの名人戦で止まるのかが注目です。

 

 

2024年4月 7日 (日)

叡王戦第1局

 伊藤匠七段が,タイトル戦に登場しました。叡王戦5番勝負です。昨年の竜王戦,今年の棋王戦に次く挑戦です。これだけタイトル挑戦が続くのは,とてつもない実力があることを示すものですが,その一方で,藤井聡太八冠は,これまで伊藤七段に負けたことがないというのも驚異的です。伊藤七段は,昨年度の最多勝,藤井八冠は最高勝率(史上最高勝率は逃しましたが)と,どちらも昨年度の将棋界においてナンバー2,ナンバー1の活躍でした。対戦成績が,これまで藤井八冠の100敗1持将棋という結果はちょっと信じられないのですが,実際は実力差は紙一重のところです。

 ということで,叡王戦の初戦でしたが,これも藤井八冠の勝ちでした。評価値的には,途中まで微差ですが,伊藤七段が優位でしたが,最後は藤井八冠が勝負手を放って見事に勝ちました。このレベルになると,途中まではほとんど研究範囲内で,そこからどう相手の研究を超えた新手を指すかということが重要となります。本局も,歩で5五銀が取られそうなところに,さらに連続して歩で取られそうな位置に5六銀が上がるという常識を超える藤井八冠の勝負手が,局面を大きく動かしました。評価値的には評価の高い手ではなかったのですが,結局,そこから伊藤七段の逸機もあり,藤井八冠の勝利となりました。

 二人はともに21歳ですが,もう1年若い20歳の兵庫県加古川市出身の上野裕寿四段がNHK杯に登場しました。上野四段は新人王をとっており,予選免除でいきなりNHK杯登場です。ただ,この対局は,澤田真吾七段にうまくさされて,見せ場をつくれず敗れました。苦い経験になったと思いますが,これから頑張ってほしいです。彼は井上慶太九段門下ですが,同門には,藤井八冠と最高勝利を争った藤本渚五段(18歳)という,若手の超有望格がいます。井上門下の現在の大将格は,菅井竜也八段ですが,長男格の稲葉陽八段も含めA級棋士が2人もいます。いまのところは,藤井八冠を脅かす存在になれていませんが,関西勢を引っ張る存在として井上門下の棋士たちには頑張ってもらいたいです。

 

 

 

 

2024年3月17日 (日)

年間最高勝率達成か

 将棋界は年度末となり,年間最高勝率の更新が話題になっていました。現在の記録は,中原誠16世名人が五段時代に挙げた855厘(478敗)であり,それに藤井聡太八冠が迫っていました。生涯勝率が8割を超えている藤井八冠でもこの記録を抜くのは簡単ではありません。実は,今年度は,もう一人,18歳の藤本渚五段(最近,C1組へ昇級を決めて昇段)も勝ちまくっていて可能性がありましたが脱落していました。藤井八冠は,今日のNHK杯戦と棋王戦第4局でともに勝てば,477敗となり新記録となるところでした。また今日のNHK杯戦で勝てば,棋王戦第4局で負けても,第5局で勝てば,最高記録タイとなるところでした。
 しかしNHK杯では,2年連続で,決勝でぶつかった佐々木勇気八段が雪辱しました。終盤で評価値では藤井NHK杯(八冠)が勝勢でしたが,一手の緩手で逆転し,最後は佐々木八段がA級棋士の実力を発揮し,藤井NHK杯を投了に追い込みました。これで藤井NHK杯の2連覇を阻止し,また年間最高勝率記録の更新も阻止しました。ちょうどデビューからの30連勝を阻止したときのことを思い起こさせます。

 今回の佐々木八段の優勝については,外野ではちょっとした騒動が起きていました。師匠の石田和雄九段が自身のYouTube番組で,弟子のNHK杯の優勝をにおわせていたからです。テレビ棋戦は事前に収録となりますが,その結果は放映されるまでは秘密にするのが鉄則です。例外は,1000勝とか記録がかかっている場合で,谷川浩司九段も,たしか1300勝は,NHK杯での稲葉陽八段戦であり,事前に結果がわかっていたと記憶しています。しかしこれは例外であり,通常は対局結果は秘密になっています。

 しかも石田九段は,準決勝の羽生善治九段・藤井戦が未放映の段階で,藤井NHK杯が決勝進出することをにおわせていました。このため,この番組をみた人は,準決勝で藤井NHK杯が勝つことが,ほぼわかってしまいました。藤井NHK杯が負けていたら,絶対にしそうしない話をしていたからです。石田九段が結果を知らない純粋な第三者であれば,何の問題もない単なる弟子応援の動画といえたのですが,彼は結果を知りうる立場であったことをふまえれば,結果はやはりわかってしまうような動画でした。石田九段は厳密な意味でのネタバレはしていません。慎重に,言葉のうえでは回避していますが,そこが石田九段の愛すべきキャラなのですが,佐々木八段が優勝したことの嬉しさを,隠したくても隠せていないのです。石田九段を,日本将棋連盟が処分したりはしないでしょうが,今後は,テレビ棋戦に参加する棋士など関係者は,師匠や家族にも結果を言うなという箝口令がしかれる可能性はあるでしょうね。

 ただ,今日の棋王戦の始まる前に,年間最高勝率の話がまったく出てきていなかったことから(メディア関係者は藤井八冠がNHK杯決勝で敗れたことを知っているからでしょう),石田九段がにおわさなくても,私たちは察知することができていました。もしNHK杯戦で藤井八冠が優勝していれば,この対局は,年間最高勝率がかかる最高に盛り上がる対局となるはずなので,メディアがそのことに言及しないはずがないからです。

 ということで今日の棋王戦ですが,藤井棋王が勝って,31持将棋で,伊藤匠七段を退けました。伊藤七段は他棋戦ではほんとうに強いのですが,藤井八冠には歯がたちません。叡王戦でも決勝まで来ているので,次の永瀬拓矢九段に勝てば,もう1回,藤井八冠に挑戦できるのですが,竜王戦,棋王戦に続く3度目の挑戦はあるでしょうか。

 ところで,NHK杯の準決勝の藤井・羽生戦も,素人目でも名局でした。先手の羽生九段が,初心者の模範となるような飛,角,銀,桂を4筋に集めた攻めを展開しようとする一方,藤井NHK杯は,初心者がやってはいけないとされる居玉をずっと続けていました。羽生九段が優勢に攻めているようにみえたのですが,緩手ともいえないような手(3一角)の瞬間,藤井NHK杯の攻めが炸裂して,あっという間に羽生玉は「詰めろ」となります。羽生九段はこれを受けて対応しますが,藤井NHK杯の攻めは的確で,最後は「受けなし」の状態に羽生玉を追い込みます。あとは藤井玉が詰むかどうかです。藤井玉は居玉ですから危ないことこのうえありません。AIの評価値をみれば藤井勝ちなのですが,それは正確に指しきればという条件付きであり,少しでも間違えれば羽生勝ちというところでした。この難局面を藤井NHK杯は乗り切り,羽生九段を投了に追い込みました。1手勝ちを読み切って,ぎりぎりのところを正確に攻めきった藤井NHK杯の強さを改めて感じると同時に,羽生九段が依然として棋界の第一人者であることを感じさせる指しぶりでした。

 そんな藤井NHK杯に勝ったのですから,佐々木八段はお見事です。A級は最終局で勝ってのぎりぎりでの残留でしたが,残留すること自体が難しいA1年目ですから,その結果は見事でした。来年度は,そろそろタイトル戦の舞台に出てきてほしいですね。

 

 

2024年3月 7日 (木)

棋王戦第3局と順位戦

 棋王戦第3局は,藤井聡太棋王(八冠)が,挑戦者の伊藤匠七段に勝ちました。完勝だったと思います。これで21引き分けです。伊藤七段は藤井八冠に勝てませんね。このままあっさり3連勝で藤井防衛となると,現在のナンバー2を徹底的にたたいたことになりますね。伊藤七段は叡王戦でも挑戦者となる可能性があるほどの活躍ぶりなのですが。

 順位戦C1組で,その伊藤七段は昇級するかどうかギリギリでしたが,なんとか勝って昇級を決めました。宮田敦史七段相手に途中まで苦戦でしたが,最後は逆転して自力で昇級を決めました。すでに服部慎一郎七段が全勝で昇級を決めて,残り2枠でした。自力は,2敗ですが順位が1位の伊藤七段以外に,1敗の古賀悠聖六段でしたが,ふたりとも勝って昇級しました。古賀六段か伊藤七段が敗れれば昇級の可能性があったのが,2敗の都成竜馬七段でした。都成七段は勝ちましたが,順位の差で伊藤七段に頭ハネされて,昇級を逃しました。

 B2組は,すでに1敗の大石直嗣七段が昇級を決めていました。後は2枠で,可能性があるのは,2敗で追っている4人で,順位の上位から高見泰地七段,深浦康市九段,石井健太郎(新)七段,青島未来六段,さらに3敗で追っている3人で,順位の上位から,村山慈明八段,松尾歩八段,谷川浩司十七世名人でした。谷川十七世名人にも昇級の可能性がわずかですが,ありました。途中の経過では,高見七段はずっと勝勢でしたが,実は他の棋士は全員敗勢か接戦でした。谷川十七世名人も,飯島栄治七段と接戦で,もしかして3枠目に入るかという期待も出ていました。しかし,高見七段と青島六段が勝ち,ここで谷川十七世名人の昇級可能性は消えました。昇級は,深浦九段と石井七段が負けると,青島六段の昇級が決まります。途中までは,石井・戸辺誠戦は,戸辺有利で来ていましたが,石井七段が逆転勝利しました。深浦九段は佐々木慎七段に勝てば昇級でしたが,途中からずっと敗勢で,結局,敗れました。結局,高見七段と石井七段が昇級です。高見七段は叡王のタイトルを取ったことがあるものの,順位戦は苦しんでいましたが,ようやくB1組まで這い上がってきました。来期はA級に向けての挑戦です。

 谷川さんは惜しかったです。7番手なので,6人が敗れなければ上がれませんでした。さすがにそれは無理だろうなと思っていましたが,実際には4人が負けました。弟子の都成七段も惜しかったので,師弟ともに悔しい結果となりましたが,来期に希望をもてる順位戦でしたね。

 B1組は,千田翔太八段がすでに昇級を決めていますが,あとの一人の枠をめぐる争いは,3敗の増田康宏七段(13位)と4敗の大橋貴洸七段(11位)でした。一方,残り1人の降級可能性があるのは,56敗の棋士で,順位が上から,佐藤康光九段(2位),三浦弘行九段(5位),山崎隆之八段(7位),屋敷伸之九段(10位)でした(すでに木村一基九段と横山泰明七段の降級は決まっています)。千田八段と大橋七段,増田七段と屋敷九段が対戦していますが,先に勝負がついたのが,千田・大橋戦で,千田八段が勝ちました。この時点で増田七段の昇級が決まりました。降級争いのほうは,早々に,佐藤九段が糸谷哲朗八段に勝って残留を確定させ,残るは3人ですが,屋敷九段が増田七段に敗れて,それで降級が決まりました。屋敷九段の投了時に,横で三浦九段は,羽生善治九段と対局していて,なんとなく結果はわかったでしょうから,ほっとしたことでしょう。

 熱い順位戦,残すはC2組ですね。

 

 

2024年3月 1日 (金)

将棋界の一番長い日

 229日は政倫審に関心がありましたが,なんといっても将棋ファンとしては,「将棋界の一番長い日」でありますので,夜中までA級順位戦の一斉対局の結果を注目していました(すべての対局が23時台に終わり,日をまたがなかったので良かったです)。この日,最初に終局したのは,名人挑戦がかかる,豊島将之九段・菅井竜也八段戦です。豊島九段が勝って72敗となり,挑戦権を獲得しました。久しぶりの名人挑戦です。名人復位に向けて,藤井聡太名人(八冠)との対決となります。菅井八段は,54敗で終わりました。今期は叡王や王将のタイトル挑戦もあり,順位戦でも最終局で名人挑戦(プレーオフ進出)がかかる戦いをしていたので充実していたとも言えそうですが,王将戦の一方的な敗戦があまりにも衝撃的で,来期は立て直しの年になるでしょう。

 次に終わったのが,プレーオフ進出の可能性があった永瀬拓矢九段と,4勝をしているものの,順位が最下位であるため,残留争いをしている中村太地八段です。永瀬九段が勝ち63敗となりましたが,挑戦には一歩及びませんでした。今期も安定した力を発揮していたと思います。現在は,叡王戦でベスト4に残っていて,藤井聡太叡王(八冠)に挑戦する可能性が残っています(ベスト4に残っているのは,永瀬九段と対戦する糸谷哲郎八段,そして,伊藤匠七段と青嶋未来六段です)。来期のA級順位は2位です。

 中村八段は負けたので降級の危険が高まりました。次に終わったのが,負けたら降級という35敗どうしの斎藤慎太郎八段・佐々木勇気八段戦でした。この対局は,斎藤八段が途中までやや優勢でしたが,1手の緩手を咎められ,佐々木八段の勝ちとなりました。斎藤八段はA級4期で無念の降級です。名人挑戦を2回するなどA級で実績を残しましたが,今期は他の棋戦でもあまり活躍できていないので降級はやむなしです。佐々木八段は勝ってもなお降級の可能性がありましたが,中村八段が負けていたので,同じ4勝でも順位が上の佐々木八段は残留が確定しました。残りは,広瀬章人九段,稲葉陽八段,中村八段のうちの一人です。佐藤天彦九段と対局した稲葉八段の対局は,相穴熊の戦いで長くなりそうでしたが,思ったよりも早くに佐藤九段が投了し,稲葉八段が4勝目をあげて残留を確定させました。その結果中村八段の残留は,広瀬八段と渡辺明九段との対局結果次第になりました。途中まで渡辺玉が追い込まれていた感じでしたが,評価値は渡辺勝勢で,結局,渡辺九段が押し切りました。渡辺九段は54敗で終わり,来期の順位は3位です。広瀬章人は36敗で,順位2位で臨んだ今期でしたが,降級となりました。同時に,中村八段の残留が確定しました。広瀬九段は,10期守ってきたA級から陥落です。この10年間は,羽生善治九段から竜王を奪取して,羽生九段を無冠にするといった活躍もありましたが,1度も名人挑戦はかないませんでした。
 来期のA級は,千田翔太八段の昇級が確定しています。もう一人は,B1組の最終局である37日に決まります。増田康宏七段か,大橋貴洸七段かです。増田七段は勝てば確定です。大橋七段は自身が勝って,増田七段が負けた場合のみ,昇級です。どちらになっても,千田八段と同様,初昇級となります。

 今期のA級は,結果として,初昇級組の佐々木八段と中村八段がともに残留しました。来期はどうなるでしょうか。

 

 

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