政策

2024年6月10日 (月)

保護司の仕事の重要性

 保護司の方が,過去に担当していた保護観察対象者に殺害された疑いがあります。もし事実であれば嘆かわしいことです。保護司の仕事はボランティアであり,長年勤務していた人は勲章がもらえるような重要な社会貢献活動をしているのですが,相手が犯罪者ということで,二の足を踏む人が少なくありません。保護司のなり手をみつけるのは大変です。私も,兵庫地方労働審議会の会長をしていたときは,保護司選考会の委員となっており(保護司の選考に関する規則3110号で,地方労働審議会会長は委員となると定められています。その他は,地方裁判所長,家庭裁判所長,検事正,弁護士会長,矯正施設の長の代表,保護司代表,都道府県公安委員会委員長,都道府県教育委員会教育長,地方社会福祉審議会委員長,学識経験者です),その大変さはよく知っています(ちなみに,この委員の仕事もボランティアです)。
 地域社会の安全を維持するためには,刑務所を出た人が再び犯罪をおかさないようにすることが大切です。その意味で,保護司の役割はとても大きいものといえます。とはいえ,日中に職場に出かけている会社員となると,なかなかこの仕事を務めることはできません。これは会社員が地域社会の担い手になれないという問題の一つといえます。テレワークは会社員を自分が住んでいる地域社会に回帰させるための手段となるといういつもの話になるのですが,地方政治への参加などと並んで,保護司のような仕事をできる状況をつくるということもテレワークのメリットの一つというべきでしょう。
 犯罪者の更生には,就職による社会復帰が重要でしょう。
厚生労働省及び法務省は,2006年度から,刑務所出所者等の就労の確保のために,刑務所出所者等総合的就労支援対策を実施しているようです。刑務所出所者等の雇用に協力する事業者は,「協力雇用主」として登録するという制度もあるようです。労働市場における弱者としては,女性,高齢者,若年者,障害者,(単純技能の)外国人などのカテゴリーが挙げられることが多かったのですが,刑務所出所者もこれに加える必要があるかもしれません。雇用政策で論じられることはあまりありませんが,保護司選考会に地方労働審議会会長が委員となっていることは,保護司の活動は雇用政策とも関係していることを示しています。犯罪者の更生を雇用政策におけるテーマとして論じることは,取り組むに値するものだと思います。

 

 

2024年5月30日 (木)

定額減税政策に思う

  今回の減税はあまり嬉しくありませんね。給与所得者の多くは,日頃から税金を源泉徴収されており,納税感が乏しいので,その部分について減税しても,インパクトは小さいでしょう。一人3万円(所得税分)で引ききれなかった場合には,複数月にまたがって引くそうです(このほか住民税1万円の減税もありますが,これは引き方が違っています)。しかも,減税額の明記まで企業に義務づけるとのことです。政府は,減税してあげたから,有り難く思ってねということでしょうが,恩着せがましいです。減税したからといって,すぐに消費にまわるわけでもありません。物価高による家計負担の足しにしてということでしょうが,私たちの多くは賢い消費を心がけて対応しているのではないでしょうか。むしろ,こういう政策をすることで,財政は大丈夫かということが気になるでしょう。
 しかもこれは減税だけではないのです。調整給付と呼ばれるものがあり,税金を支払っていない人や税金額が減税額に足りない人には,お金を配るそうです(1万円未満は切り上げられます)。税金を払っていない人にも金をばらまくのであれば,最初から,減税などという措置をとらなくて,全員にばらまいても同じだろうという気もします。企業に余計な負担をかけているだけです。どうせなら,減税ではなく,全員給付にして,マイナンバーカードと連動させていたら,このカードがもっと普及したかもしれません(昨年6月時点で,だいたい7割程度の普及でした)。もちろん,こんなバラマキをやっていてよいわけはないのですが。
 そういえば,住民税非課税世帯への給付金という問題もあります。日本経済新聞の4月8日電子版における,山本由里記者の「もう一つの「年収の壁」壊せ 住民税非課税が映す不公平」という記事では,富豪の高額のふるさと納税の問題と並び,「豪邸に住み,住民税非課税世帯向け給付金の支給を受ける」という問題を採り上げていました。たとえば不動産や金融資産がたっぷりあっても,就労しなかったり,年金受給だけであったりした場合には,住民税を支払わないことがあるのです。非課税世帯の算定に資産や利子・配当所得を含まないことから,こういうことが起こるのです。住民税非課税世帯イコール貧困世帯ではないということは知っておかなければなりません。ばらまき政策はひどいですが,どうしてもばらまくというのなら,せめてほんとうに必要な人に限定してばらまいてください,と言いたいです。

2024年3月22日 (金)

小嶌典明『新・現場からみた労働法』

 小嶌典明先生から,『新・現場からみた労働法―法律の前に常識がある―』(ジアース教育新社)をいただきました。どうもありがとうございました。『現場からみた労働法』シリーズの新作です。常識にこだわる小嶌先生の姿勢が,本書のサブタイトルに示されています。小嶌先生は,ある意味では超リアリストであり,現場できちんと法律を適用していくということにこだわっておられます。その経験に基づき,法律や法解釈のおかしさを指摘するという立場を貫徹されていて説得力があります。またデータへのこだわりの強さも,労働法学者のなかでは随一でしょう。本書に収録されている「労働時間の減少に歯止めを」(初出は,「労働判例」の遊筆に執筆されていた「労働時間によせて」)でも,過去15年の労働投入量の日米比較をデータで示しながら,労働時間は短ければよいというものではないと書かれています。同感です(私は,同趣旨のことを,ジュリスト最新号の論稿で「労働の両義性」という観点から書いています)。
 小嶌先生の著作からは,結論はともかく,示唆を受けることが多いです。学会のなかには「食わず嫌い」ならぬ「読まず嫌い」の方もいそうですが,読めば勉強になると思います。

 

2024年2月26日 (月)

社会保障の再構築

 今朝の日本経済新聞の「核心」で大林尚編集委員が,「年金の主婦優遇は女性差別」というタイトルの記事を掲載していました。国民年金の3号被保険者問題です。「夫への依存を前提にした昭和の年金をいつまでも引きずるのは,みっともない。女性が真に自立するカギは,令和の年金改革である。」というのが,彼の主張です。連合も昨年,3号被保険者廃止論を唱えています。専業主婦を優遇しているというより,専業主婦を家庭に閉じ込めているという構図でみるべきだということでしょう。記事の中では,連合は,「所得比例と最低保障の機能を組み合わせた新しい年金制度への衣替えを提唱している」と書かれていました。私は不勉強で,連合がこういう主張をしていたのは,知らなかったのですが,個人的にはフリーランスの社会保障という問題を考えるうえで,現在の年金制度には問題があると考えていました。働く人のセーフティネット問題を根本から考え直そうということをいまやっていて,そこでは,これは労働法の問題,あちらは社会保障の問題といったことは言ってられなくなっています。自営的就労者(フリーランス)は,企業に頼らずに働くわけで,そうした人の保障のあり方を考える際には,政府が直接関与する社会保障のあり方を考えざるを得ず,そうした視点から現在の社会保障のことをみると,いろいろ改善すべき点がみえてくるのです。3号被保険者問題はその一つですが,より大きな問題は,最低保障+所得比例保障という仕組みを,いかにして現行の枠組みにとらわれずに(つまり働き方に中立的に),国民に公平な形で再構築できるかということになります。
 この点を考えるため,315日に神戸大学でミニシンポジウム(オンライン)を開きますので,関心のある方はご参加ください。制度を変えると誰が得をするか損をするかという話とはいったん切り離し,また移行にともなうコストもいったん忘れ,タブラ・ラサ(白地)から制度を作ると,どういうことになるかという思考実験ができればよいと思っています。法学と経済学と実際のフリーランスの立場から論客に参加してもらいます。このシンポの詳細は,近いうちに神戸大学の社会システムイノベーションセンターのHPに掲載されると思います。

 

2023年10月25日 (水)

岸田減税に思う

 岸田首相が,昨日,WBSに登場して,経済の成長を阻害しないようにすることが重要だと強調していて,減税はそのための手段ということでした。減税は税収が予想を上回ったため,物価高に苦しむ国民に還元するということのようです。実は所得税を最もきちんと納めているのは源泉徴収のある会社員です。とくに重い税負担を感じているのは,ある程度の収入があり,所得水準が税率20%に上がっていくくらいの層ではないでしょうか。この層の人たちは,富裕層とまでは言えなくても,かなりの税金を支払っており,還元政策には歓迎の声が上がるかもしれません。ただ,低所得者向けの給付金も同時に提供される予定です。ここが問題です。税金を支払っていないか,わずかしか支払っていない層にまで,金をばらまくのとセットの政策では,釈然としないものが残るでしょう。
 もちろん,税制のあり方として,課税所得未満の人々に給付金(一種の負の所得税)を支給する「給付付き税額控除」というものはあります。そのような制度を設計しようというのなら,検討の余地がありますが,今回は選挙目当てに場当たり的にやっている感じです。国民は金をばらまけば喜ぶだろうというようにみえる政策は,おとなしく税金を払ってきた会社員からは反発を生むことになるでしょう。会社員は納税により国のために貢献していると考えて,税負担にも納得しているのです。しかし,ときの政権の選挙対策として税金が使われるとなると話は違います。
 減税は,これまで(いわば受け身で)源泉徴収されてきた会社員の税意識を目覚めさせるかもしれません。まじめに働いて,ある程度稼げるようになって,でも所得税や住民税でかなり持っていかれるけれど,それも国民の義務だと自分に言い聞かせてきたサイレント・マジョリティの多くは,決して自民党の支持層ではありません。その層が本気で動くと,自民党政権はたちまち崩壊することになるでしょう。減税は経済政策として問題があるだけでなく,多くの会社員の感情としても逆効果であり,しかもそれが低所得者の給付とセットとなっていて,その財源も自分たちの支払った税金であるとなると,次の選挙では反与党に結集するかもしれません。この前の日曜の選挙結果には,その兆候が現れています。首相は,簡単には衆議院を解散できないでしょうね。

2023年10月16日 (月)

日本版(型)◯◯

 1012日の日本経済新聞のDeep Insightで,中村直文編集委員が,「日本版VSガラパゴスの行方」というタイトルの記事を書いていました。最近,日本版という言葉を聞く頻度が増えており,それは日本が,海外モデルにならおうとする姿を示しているものではあるが,「自立性が低下している日本の現実を象徴しているようだ」と述べています。実は日本には,独自の発想の良い文化がありながら,それが「国際競争の場で生かせていない」という問題も指摘されています。そして「日本版で満足せず,日本発のプレミアム・ガラパゴスを伸ばしていく時期だ」と提言しています。
 私が日本版ないし日本型という言葉を耳にしたときに,気にいらないのは,それが本質を隠蔽するごまかしの言葉になっていることがあるからです。代表例は,日本型同一労働同一賃金です。外国では同一労働同一賃金があり,日本も同様にすべきだということを言ってきた人は,でも日本ではそのままは導入できないので,日本型とつけてごまかしているのです。職務給ベースの海外での同一労働同一賃金を,そのまま職能給ベースの日本に導入できるわけがありません。結果,「日本型」同一労働同一賃金は,本家の同一労働同一賃金とはまったく異なるものとなっています。海外の先例を学ぶということでもありません。おそろしいことに,働き方改革で,日本も「同一労働同一賃金」を導入したと思っている人がいることです。いったいどこをとらえて「同一労働同一賃金」なのか。日本型とつけているので,本家の「同一労働同一賃金」と違うという説明はつくのでしょうが,説明がつくかどうかは官僚だけに関係する話で,説明がつこうがつくまいが,実態は異質のものです。日本型ジョブ型という言葉にも同様の問題があります。
 労働の分野では,海外でやっていることを取り入れるので新しい改革だというニュアンスを出しながら,同じことはできないから日本型とつけてごまかしているような気がします。ほんとうに改革をするなら,「日本型」という言葉を除かなければならないのです。「日本型」とつけているかぎり,改革は進まず,新しいことをやっている「雰囲気」だけでごまかされてしまいます。
 日本型雇用システム(この「日本型」は,ほんとうの意味の「日本型」です)は,独自の進化を遂げた「ガラパゴス(Galapagos)」です。かつては海外でも参考にされましたが,いまでは見向きもされません。それでも日本型で行くというなら,それはそれで一つの選択です。しかし,改革でもなんでもないものを,ただ海外にあるから日本向けに適当にアレンジして導入し,それを「日本型」と呼ぶのは,混乱をもたらすだけなので,やめてもらいたいですね。

2023年10月 3日 (火)

ライドシェア解禁の議論の加速化を

 八代尚宏先生から,プレジデントに投稿したという情報をいただいたので,拝読しました(「80代運転手をコキ使ってまでタクシー業界を死守…世界で普及の「ライドシェア」断固阻止する抵抗勢力の言い分」)。私も会員になっている制度・規制改革学会の提言です。
 過激なタイトルですが,書かれている内容は,私がこのブログでも訴えてきたことと方向性は同じです。タクシー業界の人手不足対応で,国土交通省は個人タクシーのドライバーの更新の上限年齢を80歳にまで引き上げました(法人のドライバーは,これまでも年齢制限はなかったそうです)が,高年齢者の免許返納が推奨されているなかで,それと逆行する動きのような気がします。これで国民の安全が守られるのでしょうか。タクシードライバーはプロだから大丈夫ということかもしれませんが,運転技術において,平均的にみて,プロと素人との間に,どれほど大きな差があるかは疑問です。私は免許をもっていないので,乗せてもらう立場からの意見ですが,プロのドライバーでも下手な人はいるし,素人でも上手な人はいます。
 そうなると,そこまでして「プロ」の世界を守って,ライドシェアという形で「素人」が参入することを阻止するのかが妥当なのかという話になります。「プロ」に80歳まで認めるならば,「プロ」も「素人」も70歳以下に限定するという規制のほうが,国民にとっては望ましいのではないでしょうか。そのほうが,安全に運転できるドライバーの裾野が広がり,モビリティの人手不足の解決に貢献するでしょう。
 運転技術には個人差があるのであり,プロであれ,素人であれ,下手なドライバーから被害を受けないようにするためには,いつものように,テクノロジーに期待するところは大きいです。シェアリング・エコノミーの時代において,どのようにライドシェアサービスを育成していくかという視点が大切です。問題もありますが,それは解決可能であることは,八代先生の原稿でも詳しく論じられています。私のような安全重視派からしても,車はどっちにしても危険なものであり,ことさらライドシェアのほうが危険とは思えません(高齢のタクシードライバーのほうが怖いです)。素人ドライバーのかかえる危険性も,それはタクシードライバーとどこまで違うのか疑問でありますし,それについては対策もあるのです。
 「神奈川版ライドシェア」案というのは,タクシー業界にだけライドシェアを認めるというものであり,現実的な選択肢のような気もしますが,そもそもタクシー業界にそこまで忖度する必要があるのかという八代先生の意見にも耳を傾けてもらいたいです。
 ゆくゆくは自動運転にしてもらえれば,人手不足の問題は解消します。でも,あまりゆっくりしていられないと思います。気づけば,タクシーは数時間待ち,バスは計画運休で,私たちの日常生活はストップということが起こりかねません。想像力をもって,早めに対応することが必要です。走りながら,(でも質の高い)議論をするというスピード感覚が必要です。

2023年8月 7日 (月)

サラリーマン増税?

 増税は困りますが,通勤手当への課税や退職所得の税額控除の見直しについて「サラリーマン増税」だと言って批判するのは,どうかと思います。もちろん,個人的には,こういう改悪は困ります。しかし,もし歳出改革をしっかりして,それでもなお増税しなければならないとすれば,通勤手当は賃金の一種なので,それへの課税は筋が通るものと思っていますし,退職所得控除についても,これが伝統的な日本型雇用システムと整合性のあるものなので,日本型雇用システムの変容にともない見直すのは,理解できるところです。
 通勤手当について言うと,これは,そもそも,企業が支払う義務があるものではありません。民法485条は,「弁済の費用について別段の意思表示がないときは,その費用は,債務者の負担とする」と定めているので,労働契約でいえば,労働義務の履行のための費用は労働者が負担すべきものなのです。もちろん,これを企業が負担するという合意はできるのですが,それは業務費用ではなく,労働の対償として,賃金に該当すると解されています(労働基準法11条の賃金に該当し,24条の定める賃金支払に関する諸原則が適用されます)。社会保険における報酬月額にも含まれます。もっとも,税法上は,通勤手当は,実費補填的なものであるので,所得税法上は,1ヶ月15万円までは非課税とされてきました。ところで,今回,問題となっている政府税制調査会の答申「わが国税制の現状と課題令和時代の構造変化と税制のあり方」(20236月)では,「非課税所得等については,それぞれ制度の設けられた趣旨がありますが,本来,所得は漏れなく、包括的に捉えられるべきであることを踏まえ,経済社会の構造変化の中で非課税等とされる意義が薄れてきていると見られるものがある場合には,そのあり方について検討を加えることが必要です」と書かれているだけであり,私が見落としていなければ,積極的に通勤手当の非課税限度額を引き下げたり非課税所得扱いを撤廃したりするようなことは書かれていません。これは「火のないところの煙」であったようです。通勤手当の税法上の取扱いに変更が加えられることは,いまのところまったく改革の俎上に載せられていないと言ってよいでしょう。
 誤解が発生したのは,退職所得控除についての議論も併行してなされていたからです。現行の退職所得控除については,上記の政府税調の文書では,「退職金は,一般に,長期間にわたる勤務の対価の後払いとしての性格とともに,退職後の生活の原資に充てられる性格を有しています。このような退職金の性格から,一時に相当額を受給するため,他の所得に比べて累進緩和の配慮が必要と考えられることを踏まえ,退職所得については,他の所得と分離して,退職金の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1を所得金額として,累進税率により課税されます(2分の1総合課税)(個人住民税は比例税率)。退職所得控除は,勤続年数 20 年までは1年につき40万円,勤続年数20年超の部分については1年につき70万円となっています」が,「現行の課税の仕組みは,勤続年数が長いほど厚く支給される退職金の支給形態を反映したものとなっていますが,近年は,支給形態や労働市場における様々な動向に応じて,税制上も対応を検討する必要が生じてきています」と書かれています。これについては,「三位一体の労働市場改革」では,「退職所得課税については,勤続 20年を境に,勤続1年あたりの控除額が40万円から70万円に増額されるところ,これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある。制度変更に伴う影響に留意しつつ,本税制の見直しを行う」と明確に改革の姿勢を示し,また骨太の方針でも,「自己都合退職の場合の退職金の減額といった労働慣行の見直しに向けた『モデル就業規則』の改正や退職所得課税制度の見直しを行う」としており,実際「モデル就業規則」の改正はすでに前月実施されているので,退職所得控除についても,勤続20年超の部分の控除額の引上げをなくすことが,近いうちに実行されるのではないかという不安が出てきているのでしょう。こちらは「火のない所の煙」ではありません。
 野党は,退職金税制の話に,通勤手当の話を無理矢理くっつけて,「サラリーマン増税」といったネーミングをつけて,政府批判をしようとしている印象があり,かつてホワイトカラー・エグゼンプションを「残業代ゼロ法案」というネーミングで攻撃したことを想起させます。
 個人的には退職所得税制の改正(改悪)はとても困るし,大衆迎合の岸田政権によって実施されたら嫌だなと思うところもありますが,政策としては,いつかは退職所得について,現在の分離課税であることも含め,徹底的に見直すことが必要であると思っています。退職金のあり方が今後激変することが予想されるなか,それをふまえた政策論議をしなければなりません。退職金のことについては,ビジネスガイド(日本法令)で連載している「キーワードからみた労働法」の最新号でも論じているので,関心のある人は読んでみてください。

2023年8月 5日 (土)

環境政策について思う

 今日は用事があって外に出なければならなかったのですが,あまりの暑さに,このままだと倒れるのではないかと感じるほどでした。これまでの人生で感じたことがないような暑さによるダメージを受けた気がします。
 これが地球温暖化の影響なのかは,よくわかりません。地球温暖化はフェイクだという議論もあるようで,私はそうした議論には反対ですが,肝心の科学者の意見も分かれているようです。そうなると,政府がGXの実現ということで,特定の対策に予算をどんどん使うことは危険です。ほんとうに環境問題の解決につながるかよくわからないものもあるからです。再生エネルギーも,そうです。
 少し前のことになりますが,テレ東のWBSで,ある不動産会社が,建造物の屋上に太陽光パネルを設置することに力を入れていることが紹介されていました。再生エネルギーの推進に協力し,CO2削減に貢献する取組をしている企業として,十分にアピールできると考えているようですが,個人的には,太陽光パネルについては,その廃棄方法が十分に確立していないのではないかという疑念があり,その点が説明されていなかったので,簡単には評価できないところがあります。
 また,洋上風力発電については,国会議員の贈収賄問題も起きてしまいました。検察が捜査中ということなので,まだ真相はわかりませんが,報道によると,国会議員が,企業から金をもらい,国会で,その企業に有利になるような質問をしていたそうです。こういう場合,所属する自民党は,国会議員の出処進退は個人で決めるものと言って,党の責任を曖昧にしがちですが,自民党の議員として国会で業者に有利になるような質問をしていて,その行為が贈収賄に関わっているとすると,自民党の党としての責任を免れることはできないでしょう。収賄を本気で重い事柄と考えるならば,党幹部の誰かが責任をとらなければ,おさまらないはずです。
 さらにこの議員は,自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟の事務局長もしていました。議連にはいろんなタイプのものがあり,Wikipediaの「議員連盟の一覧」をみると,その多さに驚きます。そこにはたんなる同好会的なものから,政策立案に関するなど政治的な色彩が強いものもあり,後者については,やや要注意かもしれません。こういう議連は,政治家が,業界団体などを呼びつけてヒアリングをし,業界団体に対して政治家の影響力を示す絶好の機会となっているようにもみえます。業界団体も,その業界に関連する議連ができることを歓迎することがあるでしょう(どの政党に属する議員かにもよるでしょうか)。そのようななかから,政治家と業界団体との癒着が生まれ,立法過程を金で歪めることも起こりえて,今回の事件は,そういうものである可能性もあります。政策形成にかかわる議連には,その分野を主管する関連省庁もくっついていることが多いでしょう。役所が背後できちんとコントロールして対応している場合もあるでしょうが,役人は議員には頭が上がらないので,議員が暴走すれば止められないですよね。
 いずれにせよ,環境政策が,ビジネスや利権といった思惑から,金で歪められるのは不幸なことです。地球温暖化フェイク論にも勢いを与えてしまいそうです。政府はGXに取り組むのは結構ですが,いたずらに予算をつけるのではなく,(見解が分かれているとしても,できるだけ)科学的な根拠に基づいて,環境問題対策に必要なことは何か,そのために具体的にどのように税金を使うのかということを,ごまかしなしに,わかりやすく説明して,私たち国民を納得させてもらいたいです。

2023年6月13日 (火)

育児とテレワーク

 育児とテレワークの相性の良さは,ずっと指摘してきたことですが,ようやく政府もその方向に動こうとしているのかもしれません。今日の日本経済新聞は,「育児期,働き方柔軟に」というタイトルで,厚生労働省の会議で,育児と仕事の両立が一段とやりやすくなるよう制度を盛り込んだ報告書案が出されたと報じていました。おそらく,この会議とは「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」であり,報告書案をみると,「子が3歳になるまでの両立支援の拡充」として,「現在,努力義務となっている出社・退社時間の調整などに加えて,テレワークを企業の努力義務として位置付けることが必要である。」とし,また「短時間勤務が困難な場合の代替措置の一つに,テレワークも追加することが必要である。」と書かれています。前者は,育児介護休業法2412号で,子が1歳から3歳に達するまでの子を養育する労働者について,育児休業に関する制度か始業終業時刻変更等の措置に準じるものを講じることなどが努力義務として定められているので,これにテレワークも追加するということだと思われます。後者は,3歳に満たない子を養育する労働者について認められている,所定労働時間の短縮措置について,例外的にその適用対象外となる場合に,フレックスタイム制,始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ,事業所内保育施設の設置運営などの便宜供与のいずれかを講じなければならないとされています(育児介護休業法232項,同法施行規則742項)が,その選択肢にテレワークを追加することだと思われます。
 また報告書案では,「子が3歳以降小学校就学前までの両立支援の拡充」として,「業種・職種などにより,職場で導入できる制度も様々であることから」として,短時間勤務制度,テレワーク(所定労働時間を短縮しないもの),始業時刻の変更等の措置(所定労働時間を短縮しないもの。フレックスタイム 制を含む。),新たな休暇の付与(子の看護休暇や年次有給休暇など法定の休暇とは別に一定の期間ごとに付与され,時間単位で取得できるもの) などの柔軟な働き方を措置する制度の中から,事業主が各職場の事情に応じて,2以上の制度を選択して措置を講じる義務を設けることが必要である」とされていて,これは育児介護休業法2413号の強化をめざすものと思われます。
 ということで,テレワークが,育児期の労働者に対するサポートの手段として認められるのは望ましいと思いますが,「異次元の対策」というなら,もっとテレワークの地位を高めてもいいでしょうね。少子化の直接的な対策となるかはさておき,育児期の労働者にとって在宅勤務のテレワークは最も助かるものと思われるので,育児期の労働者にテレワークを認めた事業者への補助金(同僚の負担増に対する手当として使えるようにするなど)を認めたり(もしかしたら,そういうのはすでにあるのかもしれませんが),所定労働時間の短縮かテレワークの請求を選択的に認めたりすることもあってよいように思いますが,どうでしょうね。

より以前の記事一覧