真のresilienceに向けて
シルバーウイークに関東地方などを襲った台風25号は,各地に浸水や土砂崩れなどの被害をもたらしました。私の住む神戸では大きな影響を感じませんでしたが,どうも台風の進路が,これまでのイメージから大きく変わってきているように感じます。台風が,これまで来襲していなかったところに,向かってきているようです。「100年に一度の豪雨」といったことが,今後,各地で増えるおそれがあります。「これまで大丈夫だった」からといって,「これからも大丈夫である」とは限りません。
災害対策では,危険が迫ったときに避難することだけでなく,被害を生じにくくすること,そして被災後も生活を支え続けることも重要です。たとえば,都市の排水施設や送電網,交通網の整備,斜面の管理など,平常時の備えが災害時の被害の広がりを左右します。しかも,これらは互いに関連しています。電気が止まることで給水や通信に支障が生じ,交通が途絶えることで物資の供給や医療へのアクセスが妨げられるなど,一つの機能の停止が別の機能に波及することがあります。施設を個別に守るだけでなく,社会全体として必要なサービスをどう維持するかも,考えていく必要があります。
私は,『労働政策の再創造』(弘文堂)で,政策を考える際には,「共同体の生存確保能力の維持・向上」を究極の目標とすべきだと書いています。この立場からすると,一人ひとりが生きていくために必要な水,食料,電気,医療などを,社会全体として確保し,届け続けられるというセーフティネットの確保こそ,最も基本的な政策目標となります。ここでキーワードとしたいのが,レジリエンス(resilience)です。これは,災害に耐えるだけでなく,被害を受けても基本的な機能を維持し,回復し,変化した条件に適応していくことを意味します。
とくに長く使うインフラであれば,現在だけでなく,将来の気候も,設計や更新の判断材料になります。災害後の復旧と,事前に被害を減らすための投資をどう組み合わせるか。大きな施設の建設だけでなく,変化する気候の下で,既存施設の補修,雨水をためる場所の確保,代替電源や輸送経路の整備などの暮らしを支える機能を維持するという視点が重要となります。
そして,ここに,AIの活用を考える余地があります。気候モデルが示す降雨の変化に,地域の地形や人口,施設の状態,電力・交通網などの情報を重ね,被害がどこで生じ,生活にどう波及するかを検討する。そのうえで,対策ごとの費用と効果を比較する。こうした作業を,気候モデルや被害シミュレーションと組み合わせたAIが支援するという使い方が考えられます。もちろん,将来予測には幅があり,AIが常に正解を出すわけでもありません。AIはあくまで補助道具であり参考資料なのです。ただ,過去の災害の記録と将来の気候予測をあわせて検討し,複数の条件の下で対策を比較する作業には,AIの活用による効率化には大きな期待が寄せられます。
またレジリエンスは,一度設備を整えれば完成するものではありません。観測結果や将来予測が更新されれば,備えの前提も再点検する必要があります。そうした継続的な見直しの支援の面でも,AIが大きな役割を果たすでしょう。

