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2025年6月の記事

2025年6月30日 (月)

棋聖戦終わる

 棋聖戦5番勝負は,藤井聡太棋聖が,挑戦者の杉本和陽六段に勝ち,3連勝で防衛をはたしました。杉本六段には悪いですが,勝負にならなかったですね。これで連続で6期目となります。すでに永世棋聖の資格をもっており,さらに今回のタイトルで,通算30タイトルとなりました。すごいのは,彼は31回タイトル戦に登場し,奪取か防衛が30回で,1回しか失敗していないということです。その1回は,伊藤匠叡王に,叡王を奪取されたときだけです。
 その伊藤叡王は苦しみながら,叡王を防衛したばかりですが,ちょうど王座戦で勝ち上がっており,羽生善治九段と挑戦者決定戦を戦います。羽生九段がここまで勝ち上がってきたのもみごとですが,伊藤叡王も,永瀬拓矢九段や広瀬章人九段を破って勝ち上がってきており,ここは負けられないところでしょう。叡王奪取後あまり目立った活躍をしていませんでしたが,もし伊藤叡王が出てくると,藤井七冠(竜王・名人)も本気度がぐんと上がってくるような気がします。その前に行われる,藤井七冠の次のタイトル戦は,永瀬九段と戦う王位戦七番勝負です。今週末から始まります。二人が戦った先の名人戦では1局だけ終盤に乱れて藤井七冠が負けましたが,ほかは激戦となっても最後は藤井七冠が勝つという感じでした。永瀬九段は,この状況を打開できるでしょうか。
 女流棋戦では,女流王位戦5番勝負で,西山朋佳女流ニ冠が体調不良で挑戦辞退して,急遽,福間香奈女流王位(女流六冠)への挑戦権を得た伊藤沙恵女流四段がかなり善戦したのですが,惜しくも23敗で敗れました。福間さんは,ママになってから,いっそう強くなった感じがあります。来週には清麗戦5番勝負がありますが,渡部愛女流四段が,久しぶりにタイトル戦に登場してきます。本戦で,西山朋佳女流二冠と加藤桃子女流四段に勝って,福間清麗に挑戦です。対戦成績は,福間さんからみて116敗ですが,渡部さんは福間(里見)さんから,女流王位を奪取したこともあり(翌年に,取り返されましたが),福間さんにとっては西山さんほどではないにしても,決して楽な相手ではないと思います。充実の福間さんの防衛は堅いでしょうが,最終局まで行くくらい,もつれてほしいです。

 

 

2025年6月29日 (日)

皇位継承と民主主義――女性天皇の議論は避けられない

 日本史を勉強していると,とくに飛鳥時代以降,皇位継承をめぐって激しい争いが繰り広げられてきたことがわかります。最大の例は壬申の乱でしょう。天智天皇の崩御後,その息子・大友皇子と,弟の大海人皇子の間で起きた戦いで,大海人皇子が勝って天武天皇となり,律令制の基礎を築いていきます。
 血を流す争いはこれだけではありません。長屋王の変もその一例です。このころ,藤原氏が外戚として強い力を持っていました。また,当時は女性天皇も即位しており,2度天皇になる「重祚(ちょうそ)」の例もあります(天智天皇の母・皇極天皇=斉明天皇,聖武天皇の娘・孝謙天皇=称徳天皇など)。
 さて,現代の皇位継承問題はどうなっているのでしょうか。現在,どうやら与野党間で合意があるとされているのは,⑴ 女性皇族を結婚後も皇室に残す案,⑵ 旧皇族の男系男子を養子として皇室に迎える案,の2点のようです。
 ただし,⑴については,たとえばその女性皇族の夫や子どもも皇族とするのかどうか,まだはっきり決まっていないようです。⑵についても,同様に,養子に迎えた本人を皇族として認めるのかどうかなど,細部はまだ詰められていません。こうしたなか,立憲民主党の野田佳彦氏は,「⑴を先行させるという合意があった」と主張し,自民党の麻生太郎氏が「⑴と⑵はセットでなければならない」という趣旨の発言したことに反発しています。問題は,こうした重要な制度設計についての議論が,表に出ないかたちで進んでいるようにみえることです。これは,民主国家として望ましい姿ではありません。
 そもそも,皇位継承の安定性だけが論点ではないはずです。多くの国民が関心をもっているのは,「女性天皇は認められるのか」ということです。「女系天皇」まで視野に入れるかどうかは別としても,国民の関心を受け止めた,より開かれた議論があってよいのではないでしょうか。「国論を二分するようなテーマだから議論すべきでない」という意見もありますが,タブー視されすぎて議論が行われないことで,かえって天皇制そのものが国民の支持を失っていくとすれば,それこそ,天皇制を守ろうとする人たちにとって望ましくない未来です。
 私自身,天皇制について一貫した考えを持っているわけではありません。若い頃は廃止論に近い立場でしたが,今ではそこまで極端なことを言う必要はないと思っています。むしろ,天皇制のもつ歴史に関心があります。なぜ天皇制が生まれたのか。先の第二次世界戦争における戦争責任問題,明治維新,さらに遡って,武士と争った建武の新政や承久の乱,皇族間の争いである壬申の乱といった権力闘争の歴史。そうしたことに思いを巡らせ,考え続けていきたいと思っています(…とはいえ,なかなか時間がとれず,本を読んだりYouTubeを見たりする程度なのですが)。
 いずれにせよ,女性天皇の問題を論点にすら挙げないというのは許されることではありません。しかも,皇族に近いとされる麻生太郎氏の発言に重きを置くような“丸投げ”的なかたちで進められているのであれば,国民の議論を誤った方向に導きかねません。自民党のそうした姿勢について,国民はしっかりとみていると思いますよ。

2025年6月28日 (土)

生成AIはイタリア人?

 生成AIを使っていて,だんだんわかってきたのは,彼ら(?)は「知らない」や「わからない」とは,あまり言わないということです。何か質問して,ネット上にそれほど情報がなくても,なんとか答えを見つけ出してきてくれます。でも,それが正しい答えかどうかは別の話で,とにかく「答える」ということ自体が目的になっているようです。明らかに情報がないような最新の話題とか,質問の内容が曖昧なときは,さすがに自分では答えず,「ここを参照するといいでしょう」というようなことを言います。これはとても誠実な対応です。ただ,中途半端にしか答えられそうにないときに,無理をして(?)答えてくれることがあって,そこでは間違いが起こりやすいです。とても自信ありげに言ってくるので,うっかりこちらが信じてしまうことがあるからです。
 これでふと思い出したのですが,イタリアで道を聞いたときに,イタリア人は「知らない」とはあまり言わないということです。今はどうか知りませんが,昔は「イタリア人3人に道を聞くと,3人とも違うことを言う」なんて言われたものです。それはイタリア人の親切心からのもので,困っている人を助けようとしてくれているのです(その親切心に助けられたことは,数え切れないくらいです)。それに,自分の町のことだから,よその土地の人を相手に「知らない」とはいえないというプライドもあるのでしょう。とはいえ,こちらとしては,確信がないなら,そう言ってもらわなければ困ります。堂々とこうだと言われると信じてしまいますよね。ということなので,イタリアで道を聞くときは,少なくとも3人ぐらいには聞けというのが鉄則です。集団になっている人に聞いたら,その場でそれぞれが違った意見を出して,議論が始まったりすることがありますので,急いでいるときには,要注意です。
 ほとんど笑い話ですが,生成AIにも,なんとなくそれに似た感じがあります。「自分は知らない」と言いたくないのかもしれません。そうなると,生成AIに質問するときも,イタリアで道を聞くのと同じで,3人くらいに聞いてみないと安心できない,なんてことになります。これもまた,AIリテラシーのひとつ,ということなのでしょうね。

2025年6月27日 (金)

『公共部門労働法』

 水町勇一郎・岡田俊宏・町田悠生子・村上一美公共部門労働法』(有斐閣)をお送りいただきました。どうもありがとうございます。労働法のなかでも,公共部門の労働法は,なんとなく行政法の領域ということで,専門的に研究している人は少数でした。とはいえ,行政法の研究者もあまり関心をもたず,手薄な領域でした。公共部門で働く人は数多いので,無視できない領域です,そういうなかで,ようやく本格的な教科書が登場したことは歓迎すべきことです。「実務と研究を融合した」と帯に書かれていましたが,この部門は実務重視ということもあるので,研究と融合したというところは価値があるでしょう。公共部門の労働法というと,争議行為の禁止の合憲性とか,勤務関係の法的性質というような話が中心となりがちですが,そういうことを論じるうえでの基本となるところが必要です。本書はそういう基本について直接的に論じているわけではないように思いますが,そういうことを考えていくうえでの材料を提供してくれているでしょう。
 ところで,公共部門は,法の適用関係がわかりにくいところもあり,法原理という点でも独特のものがあるので,こういう本があることはありがたいことです。個人的には,理論的な研究として,官僚制の問題とは別に,そもそも公共部門はなぜ存在するのか,公共部門は肥大していないか,あるいは欠けているところはないか,公共部門で働くということにどういう意義や特殊性があるのか,というようなところを,歴史に照らして考えていくことに関心があります。たとえば,古代ギリシャの市民は,ポリスという公共的領域で政治的な決定に関与していましたが,彼らは全員公務員というべきなのか,といったことも思考実験としては興味深いところです。そうしたところから考えていくと,公共部門の労働も新たな視点でとらえることができるかもしれません。

 

 

2025年6月26日 (木)

交流戦が終わって

 阪神タイガースは交流戦の最初の2カードは良かったのですが,まさかの7連敗をし,最終的には810敗で終わりました。ただ驚いたことに,セ・リーグの首位は維持し,2位と3.5ゲーム差でとどまりました。交流戦は上位6チームはすべてパ・リーグで,阪神はセ・リーグでも2位です。ということで,当面のライバルであったDeNAや巨人はもっと負けていたのです。実力のパというのは,最近はあまり聞かなくなっていたような気がしますが,今回はパのチームは強いと思いました。とくに投手陣の安定ぶりは見事でした。
 阪神は首位ではありますが,どことなく負けがこんだので,勢いは下がっているような感じで,ここから立て直していかなければなりません。7連敗というのは監督の責任という気もしますが,ほとんどはじめて対戦するチームばかりなので,やむを得ないところかもしれません。投手陣が安定しているので,なかなか大きな連敗をしないように思っていたのですが,石井の離脱,桐敷と湯浅がちょっと調子を落とし,森下の不調も重なってしまいました。それに気になるのは大山です。ときどき打っていますが,これだったら前川を1塁につかったほうがよいかなと思います。投手出身の監督は守備がよい選手が好きなのでしょうが,レフト前川は心配ですが,ファーストならなんとかなるでしょう。もちろんファースト大山の守備は抜群に良いのですが,やはり彼には打撃を期待したいので,現時点ではホームランも少ないですし,打率も高くありません。
 投手陣は,先日,伊藤将が好投し,ネルソンも徐々に力を出してきて,また2軍では髙橋遥人も好投しました。ローテーション投手である村上,才木,伊原,デュプランティエは安定感があり,大竹もまずまずです。ということで,安定した先発カードが5枚ある
ので,門別や富田をオープナー(opener)的に使いながらやっていき,伊藤将,高橋が加わり,石井が戻り,打撃陣がもう少し復活すれば,まずまずやっていけるのではないでしょうか。

 

 

2025年6月25日 (水)

生成AI,比較法,弁証法

 最近では,ChatGPTを利用して文章を書く外国人が増えています。そのため,あまりにも達者な日本語に驚きつつ,実際に会話してみると,そうでもなかったということがときどきあります。かつては「話すほうが易しく,書くほうが難しい」と言われていましたが,現在ではそれが逆転してしまったようです。私自身も最近,イタリア語でメールを送る機会がありましたが,生成AIが見事な文章を作成してくれました。相手が私をイタリア語の達人だと誤解していないか,少し心配です。
 翻訳精度の向上に加え,外国語文献のデジタル化の進展やネット上での入手が容易になることで,外国語で文献を学び,翻訳を通じて理解を深めるという従来の研究者養成のプロセスが,大きく変わってしまうかもしれません。かつては現地に赴き,文献を収集し,辞書を片手に懸命に翻訳し,時間をかけて分析するという過程を経て,ようやく外国法の研究に踏み出せたものです。しかし今では,その多くのプロセスを省略できるようになりました。しかも,ChatGPTは関連文献まで示してくれるのです(ただし,少なくとも日本語文献に関しては信頼性に欠ける場合が多く,注意が必要です)。
 とはいえ,生成AIを用いて外国法を学ぶことには懸念があります。ちょうど最近,ヘーゲルの「主人と奴隷の弁証法」について再学習していました。弁証法は,「正・反・合」といいますが,「自己否定 → 媒介 → 自己形成」といったほうがよいでしょう。一度自己を否定し,労働という媒介を通じて,自らを形成していくというのがヘーゲルにおける弁証法のポイントです。
 この図式を比較法の学習にあてはめてみると,たとえばドイツやフランスにおいて,日本で学んだ法律知識をいったん否定し根本から見直すという「自己否定」の過程が,まず必要となります。日本法しか知らないまま海外に渡ると,思考の回路そのものを切り替えなければ,その国の文献の理解も講義・議論への参加も困難です。そのうえで,外国法を媒介としながら,新たな法体系を自ら構築していくというプロセスこそが「自己形成(Ausbildung)」であり,比較法研究のポイントだと考えています。こうしてこそ,外国法が血肉化し,独自の発想へとつながるのです。
 生成AIの高度化は,このような自己形成のプロセスを阻害する可能性があるのではないでしょうか。しかしそれは,もしかすると古典的な研究方法にこだわる私自身の限界なのかもしれません。
  とはいえ,なかには,外国法によって「自己否定」されたまま,次の段階へと進まず,あたかも外国法こそが唯一無二の真理であるかのように依存してしまう人もいます。これは自己形成がなされていないという点で,最も危ういパターンでないかと思います。

2025年6月24日 (火)

ジュリスト最新号に登場

 ジュリスト最新号に登場します(私はまだ受け取っていませんが,もう刊行されているかもしれません)。依頼されたテーマは,「労使コミュニケーション」でした。労働基準関係法制研究会の報告書では,過半数代表のことが扱われていて,その大半は過半数代表者のことに紙幅が割かれていたので,そこに焦点をあてて論じました。といっても,実務雑誌のジュリストですので,本来は報告書の提言内容について細かく評価をしたものを書くべきであったのですが,私の論考は,そもそも方向性自体が間違っているということを書いてしまいました。過半数代表者制に問題があるのは明らかですが,だからといって,そこまでテコ入れする必要があるのか,そもそも労働者代表制はどうあるべきかというところから論じました。あまり知られていないのでしょうが,私は,こうした問題について,20年近く前に上梓した『労働者代表法制に関する研究』(有斐閣)において,かなりディープに議論しています。過半数代表者の正統性なんてことを正面から論じていたのは,私くらいではないかと思います。ということで,このテーマについては,私の意見を書いてよいであろうと考え,空気を読めていないものを書きました。でも,原理論だけでなく,現実論としても,過半数代表者の機能強化ということは難しいと思います。労働者は,その代表者を通さなければ,その利益が守られないということについては,疑ってみてよいと思います。ICTが発達した今日,デジタル時代に対応した労働者利益の反映方法というものを,根本から考えてみたらどうでしょうか。そうすると直接民主制的な発想が浮かんでくるでしょう。ルソーの一般意志論は,もっと勉強してよいように思っています。

 

 

2025年6月23日 (月)

自民党は負けなかったか?

 都議会選挙では,予想どおり自民党が議席を減らしました。とはいえ,大惨敗といった印象が広がらないのは,事前にもっと負けるかもしれないとの見方があったからでしょう。今回勝利したのは都民ファーストでしたが,これは国政には存在しない地域政党であり,参議院選挙には影響しません。連立与党を形成する公明党は,かつてのような全勝とはいかなかったものの,党勢が急速に衰えているわけではないという印象です。ただし,得票数は確実に減っており,内部では相当な危機感があるとみられます。自民党に比較的近い立場とされる国民民主党は,山尾志桜里氏の問題などによる混乱があったにもかかわらず,議席を大量に獲得しました(もっと議席を取れていた可能性もあるとは思いますが)。一方で,立憲民主党は微増にとどまり,風に乗り切れませんでした。日本維新の会は東京ではやはり振るいませんでした。れいわ新選組も減税一本やりでは,都民にポピュリスト政党であることを見透かされ,議席を獲得できませんでした。共産党も議席を減らし,今後は社民党のようになっていくかもしれません。石丸新党は全滅となり,勢いはとまったのでしょうか。とはいえ,自民党にとって今回の結果は決して安心材料にはなりません。このままでは,参議院選挙でも相当の苦戦は免れないでしょう。とくに外国人問題を正面から取り上げた参政党がはじめて3議席をとった点が注目です。今回の結果は,参議院選挙で,参政党が一定の旋風を巻き起こす予兆かもしれません。参政党は,自民党の支持基盤であった保守層を,国民民主党と同様に取り込んでいく存在であり,そこが自民党にとっての懸念材料でしょう。
 ところで,小池百合子氏は依然としてしぶとさを見せていますが,再び国政の表舞台に登場する可能性はあるのでしょうか。一方で,「政党つぶし」の異名をもつ前原誠司氏が,日本維新の会をも崩壊へと導いてしまうのではないか,という見方もあります。兵庫県では,維新への支持は急激にしぼんでいる印象があります。維新が大阪の地方政党に逆戻りしそうな雰囲気も出てきています。万博の評価は悪くないものの,維新にとっては追い風になっていないようです。兵庫県のゴタゴタを片付けることにリーダーシップをとってイメージを刷新するのが,党勢回復に最も効果的に思えるのですが,どうでしょうか。

2025年6月22日 (日)

帽子をかぶった大統領

 アメリカがイラン(Iran)の核関連施設を攻撃しました。恐ろしい話です。アメリカとイスラエル(Israel)だけの論理で,おぞましいことが進んでいるように思います。今日の日曜日,私たちは平和な日を過ごしていましたが(地震は起きていますが),その裏側で,世界を破滅に導きかねないような軍事攻撃が行われているのです。ウクライナ(Ukraine)でも,ガザ(Gaza)でも,戦争状態は続いています。
   Trump
大統領が,赤いMAGA帽をかぶってインタビューに応じる姿は何度もみてきました。スーツにネクタイ,そして赤い帽子というスタイルは,どうみても異様で,違和感が拭えません。赤沢亮正・経済再生担当相も,MAGA帽をかぶった写真が公開されていましたが,正直,情けないです。
 そもそも,帽子をかぶったまま公式な場でインタビューに応じるというのは,礼を欠いているのではないかという気がします。野球帽タイプのcapをかぶってフォーマルな場に現れるというのは,どうしても粗野な印象を受けます。そして,そのようなスタイルで軍事攻撃の可能性などを語っていたのです。重大なことを話すには不適切な装いでしょう。
  ただ,野球帽に違和感を覚えるという点についていえば,私のほうが古いのかもしれません。アメリカという国は,スーツにスニーカー(sneaker)やリュックサック(ドイツ語読み。英語では“rucksack”でラックサック)というスタイルを広めた国でもあります。そう考えると「何でもあり」なのでしょうね。でも,軍事力の行使については「何でもあり」は困ります。

2025年6月21日 (土)

季刊労働法の新作

 季刊労働法の最新号に,拙稿「労働紛争の調整的解決と強行規定―公的紛争解決機関の行為規範に関する一試論―」が掲載されています。いま思えば,サブタイトルのほうをメインタイトルにすべきだったかもしれません。いずれにせよ,たぶん変わった試論だと思われるでしょう。強行規定とはなにかとか,最高裁の自由意思法理はどういうものかとか,それについてのオーソドックスな解釈はあると思うのですが,それはともかく,私にとっての理論と実務経験の両方から,法律が出しゃばるのはよくないという感覚があり,ましてや紛争の調整的解決の場ではどうなのか,という問題意識から,問題提起をしてみました。もう少し,落ち着いて老成したようなものを書けよと言われそうな気もしますが,気になったことには,どうしてもこだわらずにはいられず,今回のようなものを書きました。試論の域を出ないのは,本格的に論じるためには,民法の強行規定(法規),公序良俗, ADR論の議論などを総合的に吸収して書く必要があるのですが,とてもその力はないので,まずは問題提起をしてみました。誰かが私の問題意識に共感して,本格的な論考に発展させてくれればいいのですが。

2025年6月20日 (金)

学部での労働時間の講義

 研究者としては,労働時間規制には限界があるという点を繰り返し指摘してきましたが,学部の授業となると,そうした議論にゆっくり時間を割くことはできません。現行の労働時間規制の説明だけでも,かなりの時間を要します。日立製作所武蔵工場事件などはどうしても取り上げる必要があり,さらに年次有給休暇まで扱ったため,事業場外労働のみなし労働時間制にまで話を広げる余裕はありませんでした。それでも,割増賃金の規制がかえって時間外労働を誘発するのではないかという点については,少し力を入れて取り上げました。年俸1700万円であっても,割増賃金込みという合意だけでは法的に割増賃金を支払ったことにはならないという問題についても,学生の関心が高そうだったため取り上げました。
 そのほかに,大星ビル管理事件で「仮眠時間も労働時間だ」とか,マクドナルド事件で「店長は管理監督者ではないから残業代を払わなければならない」というのも,話題として興味深く,時間を割いて取り上げました。そういうことをやっていると,解釈論上の細かい問題は扱えません。でも,それでよいのだと思います。学部の授業で大切なのは,労働時間規制に関心をもち,基本的な知識を身につけたうえで,政策的課題についても少しでも理解してもらうことです。来週は労災の話になります。このテーマでも話すことはたくさんあります。

 

 

2025年6月19日 (木)

能見善久『法の世界における人と物の区別』

 信山社が出している「民法研究レクチャーシリーズ」というのが面白そうです。今回,能見善久『法の世界における人と物の区別2022年,信山社)を読んでみました。高校生に向けた講義形式ということでわかりやすくなっていますが,内容は高度です。人と物の区別は,法学における基本中の基本ですが,あまりきちんとわかっていないところもあります。労働との関係では,奴隷というものの位置づけが難しく,しかも奴隷のlocatio conductio(賃約)というモデルを取り入れたフランス民法典の「雇用契約」が,現在の日本民法の雇用契約の起源であることからもわかるように,人と物の関係は,雇用契約・労働契約においても非常に重要な論点となります。人間は,労働力を取引するという主体という面では「人」ですが,取引の対象となるという面では「物」であり,その両義性が様々な労働問題の発生の根源にあるともいえます。そして,その問題を突き詰めると,「奴隷」の問題に行きつきます。能見先生の本では奴隷のことを扱っているのはわずかですが,奴隷の問題は,動物やAIの権利主体性の問題とも深く関係しています。その中間に法人とはなにかという問題もあります。生物学的には人間でありながら,物として取引された奴隷,生物学的な人間ではないにもかかわらず,擬制された人として主体性が認められる法人。ではAIは,動物は・・・。能見先生の民法総則の講義を聴講したことがありますが,もし今回のような話から民法の授業を聴いていれば,もっと民法の勉強に力が入ったかもしれないと思うと,こうした本に親しめる今の学生が,少しうらやましく感じます。

 

 

2025年6月18日 (水)

棋聖戦第2局

 棋聖戦5番勝負の第2局は,藤井聡太棋聖(七冠,竜王・名人)が,杉本和陽六段に勝って2連勝となりました。振り飛車党の杉本六段がどこまで通用するかというところが注目ですが,この対局は,あまり見どころがないまま88手で終わりました。藤井七冠相手の振り飛車ではやはり厳しいですかね。
 先週から順位戦がC級2組から始まりました。ここは10代の炭崎俊毅四段が1期で抜けれるかが注目です。C1組は,昇級候補の本命がよくわかりませんが,普通はC2組からの昇級組に勢いがあるものです。しかし,上野裕寿五段はいきなり負けてしまいました。このクラスは1敗すると順位が下では厳しいですね。同じく昇級組の岡部怜央五段と池永天志六段は白星スタートです。B1組は,昇級候補の服部慎一郎七段が,佐藤康光九段に負けて痛い1敗となりました。唯一人の50歳代の佐藤九段は存在感をみせました。鬼の住処と呼ばれるこの組は誰が昇級するか予想がつきません。初戦は破れたとはいえ,服部七段は,伊藤匠叡王と並び最有力候補です。
 今期はB2組に,羽生善治九段が降級してきて,このクラスに対局を観てみたいという棋士が揃っています。羽生九段以外でも,順位が上から,三浦弘行九段,山崎隆之九段,丸山忠久九段,屋敷伸之九段,木村一基九段,谷川浩司十七世名人,深浦康市九段,郷田真隆九段,久保利明九段などの豪華メンバーです。とはいえ,昇級候補は,斎藤明日斗六段,藤本渚六段といった昇級組でしょう。羽生九段がここに割り込んで一期で戻れるかも注目です。羽生九段は,斎藤六段と藤本六段との対局が組まれているので(B2組は総当たりではありません),この二人に勝てればチャンスがあるように思います。谷川十七世名人は,今期は若手強豪との対局はないので,頑張ってほしいです。

 

 

2025年6月17日 (火)

殴る文化?

 軍隊の上下関係は,階級よりも,年次が重視される傾向があるようです。「あんぱん」では,妻夫木聡が演じる八木は,古参兵として,それなりに力をもっているようです。嵩もかなり助けられていました。
 軍隊では,入るまえの社会的身分などは関係ないので,東大の助教授であり,政治学の大権威となる丸山眞男も二等兵で入隊し,殴られたそうです。かつて赤木智弘氏が,2007年に『論座』(朝日新聞社)で,「『丸山眞男』をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。」という投稿をして話題になりました。戦争は,秩序をひっくり返すことになるのです。ちなみに丸山は,大卒なので,幹部候補生の試験を受けることもできたが,あえて受けなかったために,嵩と同様,最初は二等兵となってしまったようです。
 嵩は試験を受けさせてもらい合格したため伍長になれたので,下士官の最下位の階級ではありますが,理不尽に殴られる立場からは脱したようです。
 しかし,そもそもどうして殴る必要があったのでしょうかね。それは馬鹿げた疑問なのでしょうか。軍隊の影響が,戦後でも昭和の間は残っていたと思います。とくにスポーツ関係では,先輩後輩の関係が厳しくて,先輩や監督が殴るということは,よく見られた光景だったと思います。そういえば,阪神の監督もした星野仙一は,鉄拳制裁で有名でした。愛のムチということかもしれませんが,いまではとても許されないでしょうね。そして現在でも,相撲部屋では,そうした風習が一部に残っていたのではないかが問題となっています。「かわいがり」という名のいじめがあるのではないか,という話です。ネットニュースによると,佐渡ヶ嶽部屋関係で民事事件になっています(判決は27日に出るそうです)。

2025年6月16日 (月)

ストライキについて

 今日もまた大学院の授業で,ストライキのことについて議論をしました。憲法28条が制定されたとき,資本主義経済の下での勤労者の団結権や団体行動権にどれだけの規範的意義を盛り込むことができるか。それをめぐってプロレイバーとプロキャピタルの対立が生じたこと(プロキャピタルは自分たちがそうだとは思っていなかったでしょうが),受忍義務説や違法性阻却説の対立は,たんなる組合活動の正当性をめぐる学説の対立以上に,資本主義社会において労働法ができることの限界を探るという深い意味があることなどを語りました。昔は学部の授業でやっていたような内容ですが,徐々に学部では扱わなくなりましたね。
 労働者の戦う手段としてのストライキは,若いときには非常に重要な権利だと思っていましたし,いまでも理屈のうえではそういう気持ちはありますが,やっぱりストライキよりもっと良いやり方はないかという気もしています。SNSも,使い方によっては,強力な争議手段となるでしょう。そう書きながら,でも最近の公職選挙などにおけるSNSの「暴力的な」使い方を目の当たりにすると,やっぱりアナログ世界の戦いのほうが良いのかなという気もしています。感情をむき出しにして「肉弾戦」をしたからこそ,「雨降って地固まる」ということもありそうです。
 私は少し前にオンライン交渉をもっと認めるべきというスタンスで論文を書いていますし,その気持に変わりはないのですが,リアル交渉にはそれなりの意味もあるとは思っています。
 というように迷っていますが,やっぱりいちばん良いのは,平和的な労使コミュニケーションで,それはオンラインでもいいのでしょうし,ときどき「オフ会」的に対面で協議をすればよいというところでしょう。

 

 

2025年6月15日 (日)

Fashion Cantata

 昨日は久しぶりにFashion Cantataに行ってきました。コロナ前には何回か行っていましたが,久しぶりです。着物中心のファッションショーでした。音楽の演奏もよく,1時間だけでしたが,十分に楽しめました。冒頭のバイオリンとギターで,チャルダッシュは盛り上がりました。シシド・カフカのドラム演奏も迫力満点でした。女優の水川あさみさんも登場しました。
 Cantata は,よく女優を登場させますよね。以前には,杏が出たこともありました。プロのモデルではない人を登場させて,女優の表現力でカバーするという感じでしょうか。その昔は,屋外で生ギター演奏を聴いたこともありましたが,最近は京都劇場の屋内での実施です。
 山本寛斎のシュールなデザインはちょっと理解できないところもありましたが,感性を刺激するようなところがありました。「情熱のベクトル」がテーマでしたが,たしかになにかパワーをもらったような気がしました。

 

 

2025年6月14日 (土)

叡王戦は伊藤叡王の防衛

 叡王戦第5局は,伊藤匠叡王が勝って防衛しました。1分将棋になったあとの攻防で,挑戦者の斎藤慎太郎八段が勝勢でしたが,1手の緩手をとがめられて,伊藤叡王の防衛となりました。斎藤八段にとっては悔しい敗戦です。その緩手とは龍を馬金両取りにさせて伊藤玉に迫っていく手で素人目には圧倒的に良さそうなのですが,実はそのあとの手が続かないことを伊藤叡王は読み切っていたようです。それで負けてはしかたがありません。将棋は最後に悪手を指したほうが負けるということですが,悪手を指さなくても,緩手を指して,相手がそれを上回る手を指すことができれば勝てないのです。1分将棋のギリギリのところで伊藤叡王はそれが指せました。最近,重要棋戦で永瀬拓矢九段に勝つなど,調子が上がっていたようです。貴重な防衛をして,タイトル2期の要件を満たして八段に昇段です。現在B1組ですが,来期はA級に上がって順位も八段に追いつくことでしょう。
 そのB1組の順位戦ですが,昇級候補の服部慎一郎七段が,佐藤康光九段に敗れました。いきなり「鬼の住処」の洗礼を受けたような感じです。B1組の昇級レースは,伊藤叡王と前年度にもう少しで史上最高勝率を実現しそうであった服部七段が中心になると予想されていますが,そう簡単にはいかないかもしれません。
 藤井聡太王座(七冠)への挑戦権をめぐっては,羽生善治九段が屋敷伸之九段を破って決勝に進出しました。対戦相手は,永瀬拓矢九段を破った伊藤叡王と広瀬章人九段との勝者になります。羽生九段はタイトル100期がかかっていますので,なんとか挑戦者に名乗りあげたいでしょう。
 女流棋戦では,福間香奈女流五冠がマイナビ女子オープンで22敗のあとの最終局に西山朋佳女王に勝ち,女王のタイトルを獲得して,女流六冠になりました。西山さんは白玲と女流王将のニ冠となりました。このうち白玲については,西山さんが3期タイトルをもっています。最近の将棋界において最も衝撃的と思えるニュースは,白玲5期で棋士に編入するというものです。西山さんは,あと2期白玲を防衛すると,プロ棋士編入試験では涙をのみましたが,棋士になれるということです。白玲戦は,女流棋士にとっての最高棋戦であり,まだできたばかりですが,棋士の順位戦に近いような構造をもっています。そして,そういう話のなかで,日本将棋連盟の会長が,羽生九段から,清水市代女流七段になることが発表されました。清水さんは,林葉直子,中井広恵という女流トップ棋士の流れを引き継ぎ,女流の多くのタイトルを数多くとり,まさに女流棋士版の羽生と呼ばれた人でした。女流タイトル43は,女流のなかでは図抜けた成績です(もちろん,現在の福間さんは,女流棋戦が増えたとはいえ,タイトル63期は別格です)。
 実力の世界である将棋界において,棋士ではない清水さんが会長となることにより,何が変わるのかよくわかりません。一ファンとしては,単純に,スリリングで良い将棋をみたいです。その意味ではプロ的に納得がいくかもしれない長時間の将棋よりも,NHK杯のような持ち時間の短い将棋のほうが面白いです。そして,そうした将棋のほうが,女流棋士の力も発揮しやすく,番狂わせも起こりやすいように思います。名人戦,竜王戦のような長時間でじっくり勝負をつける棋戦も必要ですが,持ち時間の短い棋戦をもっとつくって,できれば小学生名人あたりも参加できるようなものにすれば面白くないでしょうか。

 

 

2025年6月13日 (金)

戦争はいやだ

 NHKの朝ドラの「あんぱん」は,戦争のディープな話になっています。「ちむどんどん」や「ブギウギ」でも,戦争の話はでてきましたが,今回は嵩が戦争に実際に行って,理不尽な目にあわされるシーンがたくさん出てくるので,その重みが全然違います。弟の千尋は志願して海軍に入り,駆逐艦での出撃が決まっています。帰ってこれないことがわかっているので,兄弟での分かれの宴が悲しかったです。母親っぽい感じがなかった登美子が嵩に対して発した「何があっても生きて帰ってきなさい」という愛情あふれた叫びもよかったです。「お国のために死ぬより,愛する人のために生きたい」という嵩の言葉は,あの時代にはとてつもなく弱虫の発言であったのでしょうが,人間である以上,当然の思いです。あの時代が狂っていたのです。のぶもようやく気づき始めました。学校の先生が子どもを軍国少年に育ててしまったことの罪の重さに,さいなまれていくことになるでしょう。
 RADWIMPS(野田洋次郎)の主題歌「賜物」を,YouTubeで,フルコーラスで聴いてみました。これはすごい曲です。歌詞も深いもので,この作品にぴったりと言えます。すごい才能のアーティストがいたものです。私が知らなかっただけですが。

 

 

2025年6月12日 (木)

劣化するアメリカ

 すでに何度も書いていますが,アメリカが無茶苦茶をやり始めていますね。イランを攻撃するなどしたら,第三次世界大戦になりかねません。自分の誕生日に軍事パレードをするといったり(陸軍創設250周年というのが名目),ロサンゼルスの抗議デモに州知事の意向に反して軍を投入したり,自分に批判的なジャーナリストを解雇するよう圧力をかけたり,相互関税の話だけなら経済の話ですみましたが,もはや私たちの考えている普通の国家ではなく,たんなる独裁国家になりそうです。こんなことを書いていると,一般の外国人でも,アメリカ旅行ができなくなるかもしれませんが。
 民主主義というものが,どうやったら機能しなくなるかということを実証してくれているので,将来的には良い教材になるでしょうが,歴史の渦中にいる同時代人にとっては,たまったものではありません。

 

 

2025年6月11日 (水)

備蓄米放出に対する3つの不安

 備蓄米の放出は,次々と進められ,それだけでは足らず,輸入も増やすという話があるようです。一方でもしいま大規模な災害が発生した場合,十分な備蓄があるのかという不安もあります。小泉大臣は大丈夫と言っていますから,そこは信じましょう。
 ただ第2の不安として,実際に南海トラフのような大きな地震がきたときに,迅速に備蓄米の放出をできる態勢にあるのかというのは,今回の件で少し気になってきました。当初やっていたような入札で決めてから放出ということであると,時間がかかるし,値段もかかるということにならないでしょうか。前にも書いたように財政面からは入札をすることは必要となるでしょうが,緊急時には,そういうときにこそ税金を使うべきだとも言えます。そう考えたとき,災害のときにいつも今回の小泉大臣のような人が担当大臣にいるとは限らないので心配になります。
 とはいえ,まったく逆の観点からもう一つの不安があります。今回は南海トラフのような災害が起きたわけではありません。たんに米価が高いとか,市場で流通していないというだけで,政府が民間企業に号令をかけて,強引なことができるというのが先例になると,ちょっと危険なことはないかということです。現在のアメリカのように大統領がなんでもできてしまう国をみていると,それよりはましといえそうですが,それでもちょっとやりすぎているのではないかという気がしないわけではありません。米の問題は大きいとはいえ(個人的には米が不足したり,高くなったりしたら困りますが),パンもあるし,いくらでも代替のものはあります。そもそも日本人は米を食べなくなっているということが問題になっていたくらいです。そうだとすると,この程度のことで,野村元大臣の発言ではないですが,これまでのルールを無視して政府がいろんなことができるということになるのは,危険な気がします。自民党的には,参議院選前だから緊急事態だったかもしれませんが,国民全体でみると,そこまで緊急事態であったのでしょうか。安いコメが出回ると喜ぶ人がいるでしょうが,それだけであれば税金を使ったポピュリズム政策です。前にも書いたように,しっかりした事後検証が必要でしょう(もちろん,日本の農政やJAに問題があるのなら,そのことはそのことで早急に取り組む必要があるでしょう)。

 

 

2025年6月10日 (火)

十倉雅和『Future Design 2040』

 経団連会長の十倉雅和の名前で出されたFUTURE DESIGN 2040-成長と分配の好循環 公正・公平で持続可能な社会を目指して』(中央公論新社)は,すでにインターネット上で発表している政策提言の単行本化です。社会保障,環境・エネルギー,地域経済社会,イノベーション,教育・研究,多様な働き方,経済外交という重要なテーマについて課題と施策を論じています。それぞれのテーマの具体的な施策については,もう少し突っ込んだ検討が必要でしょうが,経団連がどのようなことに関心をもっているかを知るうえでは貴重な資料となります。労働面でいえば,「多様な働き方」という項目もありますが,それ以外にも,社会保障,教育・研究など,いろいろなテーマで労働に関する論点が扱われています。
 とくに労働法制という点では,労働時間法制と解雇法制がとりあげられており,ホワイトカラー・エグゼンプションという言葉はつかっていませんが,そのようなニュアンスの制度の必要性を指摘していて,私と問題意識は近いです。解雇の金銭解決についても提言していますが,こちらのほうは,私たちが『解雇規制を問い直す―金銭解決の制度設計』(2018年,有斐閣)で提言しているものとは違う内容です。私が個人でかつて解雇全般の見直しを提言する『解雇改革』(2013年,中央経済社)で述べたものに問題意識は近いのですが,金銭解決に限って言えば,使用者主導のものを認めるべきという私たちの提言に経団連が乗ってきていないのは,私たちの提言を知らないか,理解していないのか,それとも政策の実現可能性を重視して,よりマイルドな金銭解決を目指しているのかは,よくわからないところです。金銭解決について,どうしてもブレイクするーしたいのなら,経団連の政策を練り直す必要はないでしょうか。

2025年6月 9日 (月)

阿波晩茶

 梅雨に入り,体調管理が難しい季節になりました。少しでも身体にいいと聞くと,つい飛びつきたくなりますが,そういうものこそ注意が必要だということは,長く生きていると,それなりに経験から学んでいるはずです。
 かつて実家には紅茶キノコがありましたが,あれはいまでも飲まれているのでしょうか(私は飲んだ記憶がありません)。クロレラは大きな瓶が食卓に置かれていて,気が向いたときに数粒つまんでいました。らっきょうの瓶があった時期もありましたが,匂いが強烈だったせいか,いつの間にか姿を消しました(いまでは外でカレーを食べたときに添えてあるものを食べる程度ですね)。ぶらさがり健康器も家にありましたが,気づけば家族の誰も使わなくなっていました。大人になってからは,ローヤルゼリーに手を出したこともありますが,値が張って長続きはしませんでした。
 そんな私が,今度は阿波晩茶に飛びつきました。テレビ東京の番組で,大阪大学の先生がアンチエイジングに効果があると言っていたのをみて,すぐに取り寄せました。効果のほどはわかりませんが,こういうお茶を飲んでいるという安心感こそが,むしろ精神的なアンチエイジングにつながるのではないかと思っています。

2025年6月 8日 (日)

交流戦単独首位

 交流戦が始まり,6戦が終わったところで,門別が失敗した日本ハムとの第2戦を落としただけで,51敗で快調です。オリックスはスイープしました。ということで,交流戦は単独首位ですし,セ・リーグも首位を独走し始めました。もちろん,このまま行くほど甘くはないのはわかっていますが,いまはかなり強いです。打線が不調なときは投手陣がなんとかおさえるということでしたが,オリックスとのここ2戦は,打線が活発で快勝でした。今日のサトテルの満塁ホームランにもしびれました。これで岩崎を温存できました。オリックス戦では少し点差があいたときに投げた石黒が戦力になることがわかりました。石井の頭上直撃アクシデントは心配ですが,万全な状態になるまで,しっかり休んでもらいたいです。いまはそれくらいの投手順の余裕があります。
 打線は森下が2戦連発の3ランですし,サトテルはホームラン王目指して快進撃です。近本は昨日は阪神生え抜き最速で1000本安打達成(外国人を含めれば,マートンが最速),中野は守備が抜群に加えて,今期は打撃も好調,大山は打撃はいまひとつですが,安定した守備はどれだけ野手のエラーを消したかわかりません。熊谷も良い味を出していますし,豊田も代打の神様になりかけ,糸原も今日はしぶとい打撃をみせました。坂本も昨日の衝撃のホームランもあり,打撃が上向きです。小幡は怪我から早めに復帰できてよかったです。守備はいいし,そのうち打ち出すでしょう。いまは3塁と遊撃手が固定しないという,ちょっと予想できなかった状況がいて,今日はいったい誰が守るのだろうという感じなのですが,結構,藤川監督の采配がはまっているので,そこはすごいところです。

 

 

2025年6月 7日 (土)

フリーランス法をLSで扱うか

 昨日のLSでは解雇以外の退職というテーマでしたので,定年のことを扱い,そこで高年齢者雇用安定法8条や9条について,解釈上の問題の解説をし,津田電気計器事件を素材に対話型授業をしました。そうすると,どうしても高年齢者就業確保措置(同法10条の2)のことも話したくなり,そうすると創業支援等措置の関係で,フリーランスの話もしたくなりましたが,時間の関係があるので控えました。
 ただ,これからのLSの労働法では,フリーランスの話をしなくて大丈夫でしょうかね。フリーランス法も制定され,実務上は徐々に重要性が高まるでしょう。公益通報者保護法でも,今回の改正で,特定受託事業者が保護対象となりました。労災保険の特別加入は,すでに特定受託事業者に開放されました。私たちも現在,フリーランスに関する本を執筆していますし,その他にもすでにいろいろと専門書が出ています。フリーランスの重要性は徐々に高まっています。まだ統計上は,フリーランスは少数ですが,プラットフォーム就労にまで視野を広げると,プラットフォームとそれを利用した自営的な働き方を抜きには労働を語れない時代が来るでしょう。私の定年まではLSでフリーランスのことを扱う必要はないかもしれませんが,そう遠くない時代に,裁判例も次々と出てきて,少なくともLSの労働法の1回分はフリーランスに当てなければならない時代が来ると思います。

 

 

2025年6月 6日 (金)

『睡眠科学・医学・労働法学から考え直す日本の労働時間規制』

 『睡眠科学・医学・労働法学から考え直す日本の労働時間規制』(日本評論社)を編者の方と,グリーンディスプレイ事件における遺族側の方 (事故で亡くなった若者のお母様)からいただきました。どうもありがとうございました。熱い思いのこもった本です。お母様の渡辺淳子さんの特別寄稿にも心を打たれました。子を失った親の悲しみや悔しさ,そしてわが子の死を無駄にしたくないという気持ちが伝わってきました。
 帯には,「未だなくならない過労死,過労自死,過労事故死 労働者の健康を保護して職場の安全を確保するため 医学と睡眠科学の視点を活かした法規制改革を提言」と書かれています。医学や睡眠科学とのコラボということですので,研究書としてもたいへん興味深いです。私自身も労働時間規制では労働者の健康は守れないという立場からいろいろ発言をしておりますので,関心をもって本書をみてみました。たしかに,睡眠不足は危険なことだというのは直感的にもそうなのであり,私は1日の労働時間の上限を設けるべきという観点から勤務間インターバルが必要という提言をしていましたし,深夜労働については割増賃金ではなく直接規制をすべきということも述べていました(それぞれ拙著『労働時間制度改革』2015年,中央経済社)195頁と198頁)。労働時間については,その他にも,いろいろ改革提案をしておりまして,その点からは,本書の政策提言(285頁にまとめてあります)は,かなりマイルドであると思いました。でも,それは本書がエビデンスを使った議論をしたからかもしれず,学術的価値は本書のほうが高いのでしょうし,同時に
政策の現場にも受け入れられやすいのかもしれません。 
 ただ,過労事故を防ぐために労働時間規制でできることは限られていると思っています。本書をきっかけに,本書の提言よりも,もっと効果的にやれることがあるということを示す学際的な研究が広がってくれば,それはそれで本書の意義はあったということになるのではないかと思います。やはりデジタル技術が鍵となるでしょう。

 

 

2025年6月 5日 (木)

小泉劇場

 米の値段が最終的にどうなるかはさておき,この騒動で一番株を上げたのが,小泉進次郎農林水産大臣でしょう。米の価格を下げるといっても,備蓄米を放出しただけで,下がるわけではないというのは,あらかじめわかっていたことです。市場で供給が増えても,実際にそれが価格に反映されるまでには時間がかかるでしょう。しかも流通経路が不透明であるし,そもそも米価は単純に市場メカニズムで決まるようなものでもありません。備蓄米が入札でなされていたので,米価は高くなるというところも,供給量の増大の効果を相殺するものになったでしょう。備蓄米を高く売るというのは,国家の財政面からは正しいことですが,そもそも物価高対策として,減税や補助金などという形でお金を使うのであれば,備蓄米を安く放出するのは,それほどおかしいことではありません。小泉氏はそれをやったのです。政府は実質的に直売に近いような形で安価に備蓄米を売り渡し,小売業者は儲けはなくても,宣伝効果は高く,十分に元を取ることができるでしょう。
 こうした政策は,スピード感があるし,メディア映えもします。国民は喜んでいて,次期首相候補として大きく浮かび上がったことでしょう。しかし,入札をしていない分だけ財政の負担はかかっているし,小泉氏に群がった業者をどう選別したのかということも気になります。あとで,しっかり総括してもらわなければ困ります。ついでにいうと,大臣が変わって方針が一変したことにより,農水省の役人の仕事が激増したと想像されます。過労が心配です。しっかりねぎらってあげてほしいですね。

 

 

2025年6月 4日 (水)

長嶋茂雄

 阪神ファンの私にとって,巨人は宿敵です。とくに子ども時代は,ちょうどV9の時期の巨人と重なっていました。阪神からすると,どんなに頑張っても勝てない相手という感じでした。名球会入りしている阪神のエースの村山実は対巨人戦で3955敗,江夏豊も3540敗(江夏はリリーフに転向していた広島時代の4勝を含む)です。エースがこれではどうしようもありません。その巨人の主砲が長嶋茂雄であり,王貞治でした。この二人がいるかぎり,阪神は優勝できないと思っていました。実際,1964年の優勝から遠ざかり,次に優勝したのは長嶋が引退したはるかあとの1985年でした(巨人は王監督の時代)。
 長嶋選手の最後の試合はテレビで観ていました。最後の打席のショートゴロも覚えています。引退セレモニーも記憶しています。すでに衰えていた長嶋は,それでも4番以外の打順はなかったでしょう。1974年にV10が中日に阻止されたとき,長嶋もバットを置きました。そしてすぐに監督となりました。監督の1回目は苦難の歴史でした。1年目は最下位(広島が優勝)。しかし,2年目は張本を獲得するなどの強化策が実って優勝(阪神も健闘したが2ゲーム差の2位)。3年目も優勝。しかし,どちらの年も阪急との日本シリーズは敗退しました。4年目は2位(ヤクルト優勝),5年目は5位に沈み(広島が優勝),6年目は3位(広島が優勝)で,結局,監督を解任されました。当時の巨人は,優勝できなくてはだめで,3年連続優勝を逃すというのは許されなかったのでしょう。
 1993年に13年ぶりに2度目の監督に就任します。2001年までの9年間で,セ・リーグ優勝3回,日本一2回という成績です。選手時代の華やかな実績とは異なり,監督時代の成績は地味ですが,でもなんとなくこのころの監督姿のほうが記憶に残っています。選手をしっかり育てたという印象があります。
 選手時代の話に戻ると,やはり天覧試合のサヨナラホームランが重要です。私の生まれる前の1959年のことで,その瞬間をリアルタイムではみていません。しかし,村山実投手から放ったホームランの映像は何度もみています。村山投手が「あれはファウル」と繰り返し主張してきたことで,村山びいきのファンとして,長嶋はいいところをもっていってずるいという印象をもっていました。ただ,ファウルだったかどうかは,今となっては重要ではないように思います。重要なのは,長嶋茂雄が,両陛下の前でサヨナラホームランを打ったという事実です。あの時代に天皇が観戦しているという特別な試合で,劇的なことをやってのけるというスター性が,日本のプロ野球に待望されていたものだったということです。1960年代は高度経済成長の時代で,新幹線が走り,東京オリンピックが開催されます。敗戦で自信を失った日本人に明るい光をもたらしてくれたのが,巨人の長嶋だったのでしょう(相撲では大鵬)。長嶋は輝く大スター,村山は悲運の大エース。この構図でいいのだと思っています。天国での再会を祈っています。

 

2025年6月 3日 (火)

棋聖戦第1局

 藤井聡太棋聖(永世棋聖)に,杉本和陽六段が挑戦する棋聖戦第1局は,藤井棋聖が勝ちました。杉本六段の三間飛車・2九玉型(ミレニアム)と藤井棋聖の穴熊の対決となりました。杉本六段の振り飛車ミレニアムは得意戦法で,日本将棋連盟のサイト「玉の囲い方」でも解説しています。この勝負では藤井棋聖にうまく攻められて,結局,飛車と角を使えないままに終わってしまいました。藤井棋聖に振り飛車で勝つのはたいへんそうですね。

2025年6月 2日 (月)

ソクラテス

 LSでは,ソクラティック(ソクラテス)・メソッド(socratic method)を使っているのですが,この言葉について,広島大学の法科大学院のHPに説明がありましたので,引用させてもらいます。「ソクラテスが,古代ギリシアにおいてアテナイの市民,特にソフィストを相手にその意見を引きだしその説明をさせながら,それを吟味し,行き詰まらせ,その無知を告白させるに至る問答法です。」
 趣味の悪い問答法のようにも思えます。ソクラテスは,アポロン神殿で弟子が「ソクラテスより賢い者はいない」という神託を受けたと聞いて,そんなはずがないと考えて,賢人と目されている人たちを訪ねてまわったとされますが,普通の人はそんなことはしないでしょう。
 ソクラテスは賢人と言われている「ソフィスト(知恵ある者)」も,実は何も知らないことを知り,そして自分は自分が何も知らないことを知っているだけ彼らとは違うと考えます。ただ,賢人が何も知らないことを知ったという判定をするためには,ソクラテスに知識がなければできないので,その点で,ソクラテスは何も知らない人ではないことになりそうです。
 ところで,LSの授業では,私自身よくわからないことがたくさんあって,質問されても自信満々で答えられることなどあまりありません。それでも,学生に質問をして,いかにわかっていないかを理解してもらうようなことはできると思っています。法学の議論は,それを通じて,どこがわからないことか(論点か)を互いに知るということにあります。研究会ではそういうことをしています。研究会では,誰かに教えてもらおうという気持ちで参加していてはダメです。研究会の開催頻度が下がるなか,最近では,ChatGPTを話し相手にすることも増えていますが,ただ法律のしっかりした議論は,まだ無理です。
 ところで,ソクラテスの妻は悪妻で有名です。しかし,ほんとうに悪妻であったかについては論争があるようです。でも,「あなたはほんとうに賢いのか」ということを問いまわるような「奇人」を夫にもてば,悪妻になるのも仕方がないという説に一票入れたいです(佐藤愛子説)。

2025年6月 1日 (日)

首位で交流戦に入る

 阪神タイガースは交流戦前で,30勝20敗2分けで首位。2位のDeNAと2.5ゲーム差で交流戦に臨むことになりました。巨人と広島を突き放し,ヤクルトは底のほうで苦しんでいます。DeNAと中日には今期はなかなか勝てませんが,実力的には阪神のほうが上でしょう。
 月別でみると,3月は2勝1敗1分 4月は12勝10敗 5月は15勝9敗1分 6月は1勝で,月間負け越しがない安定した状況です。ファンとしては,あまり勝てている感じはしないのですが,投手戦をなんとかしのいで勝ちきる試合が多いです。それでも今日もホームランを打ったサトテルは,ホームランと打点でトップです(DeNAの牧が追い上げていますが)。サトテルが安定したために,貧打戦になっても,なんとかしてくれるという期待感を最後までもつことができます。打撃陣はサトテル以外にも,近本,中野,森下,サトテルの4番まで,280以上の打率をコンスタントにあげていて好調です。懸案の6番打者問題は,前川の登場で解決したと思ったところ,突然急降下して2軍に落ちたことから,誰がその穴を埋めるかで激戦となりました。現在はヘルデンスが入っていて,彼がサードに入り,サトテルはライトに,森下はレフトにと守備位置が変更になっています。こういう変更は打撃に影響を及ぼすのではないかと監督を批判する声もありましたが,とくに問題はなさそうです。藤川監督の柔軟な発想は見事です。前川は復活してくると思いますが,守備の不安があるので,ヘルナンデスがそこそこ打つとなると,前川は代打の切り札くらいに格下げになりそうです。現在の代打は右の豊田と左の糸原が切り札となっていますが,豊田はいつまで続くでしょうか。ショートは,小幡がせっかくレギュラーをつかんだと思ったときにケガで脱落しましたが,木浪がいますので,大きな穴にはなっていません。打撃陣の課題は,苦手投手が多すぎることです。とくにDeNAのバウアー,ケイ,ジャクソンを打てません。広島の床田,中日の大野あたりも以前から苦手です。ケイをみていると,かつて阪神打線を苦しめたヤクルトの安田猛や中日の松本幸行を思い出しますね。
 投手陣は,きわめて安定しており,村上と才木という2枚看板がほぼ盤石で,新戦力の伊原とデュプランティエもローテーション入りし,これに門別と大竹が加わって,大崩れはしない形がつくれています。中継ぎ・抑えは,6回最後まででリードしていれば勝ちきれるような感じになっています。岩崎は少し不安定なところがあるものの,石井と及川がしっかり抑えてくれているので安心です。湯浅の復活も大きいです。
 阪神は,交流戦はあまり得意ではないですが,なんとか5分で切り抜けてくれればと思っています。最初の対戦相手は,パ・リーグの首位の日本ハムです。DHでは豊田か糸原を使うような気がしますが,豊田が外野に入るなら,サトテルをサードに戻して,ヘルナンデスがDHということもありそうです。

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