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2024年10月12日 (土)

東野圭吾『透明な螺旋』

 東野圭吾『透明な螺旋』(文藝春秋)を読みました。ガリレオ(湯川学)シリーズの作品です。私は,あまり湯川学自身に興味があるわけではなく,純粋にストーリーを楽しんでいるのですが,今回は,生まれたばかりの子を捨てなければならなくなった母の物語という面があります。以下,少しネタバレに近いものがありますので,気をつけてください。

 一人の若い女性が,生まれたばかりの子を児童養護施設に預けました。そのときに,子どもにつけるはずであった名前を書いた人形も同時に置いていきました。女性は,妊娠中に夫を脳出血で突然亡くし,生活が苦しく,自分の体調も悪い中,やむを得ない選択だったのです。
 時は経ち,ある男(上辻)の死体が見つかりました。上辻は銃で撃たれていました。上辻は園香という女性と同棲しており,彼女は上辻の行方不明届を出していましたが,その後に姿を消していました。監視カメラには,彼女が,誰かといっしょに外出するところが残っており,旅行にいくような感じでした。
 園香の母の千鶴子は,児童養護施設で育っており,母親と二人暮らしをしていましたが,クモ膜下出血で亡くなっていました。一人になった園香は,母が生前親しくしていて,自分もお世話になっていた絵本作家の松永奈江(ペンネームは,アサヒ・ナナ)を頼りにしていました。警察官の草薙たちは,奈江が何か知っているかもしれないと考え,彼女のことを追っていたところ,彼女の書く絵本のなかで,友人の湯川の本が参考文献にあげられていることをみつけました。そこで,湯川のところに行き,(園香の居場所を知っているはずの)奈江にメールを送ってほしいと頼みます。
 園香は,花屋で働いていましたが,警察は,その店長から,彼女のところに老女が会いに来たことがあるという話を聴きます。一方,上辻の携帯電話歴に銀座のママの根岸秀美とのものがありました。草薙は秀美の店に行き,彼女の写真を得て,花屋の店長に確認したところ,園香に会いに来ていたのは秀美であることがわかります。さらに秀美は園香の家にも何度か行っていることがわかりました。一方,園香といっしょに逃げているのは奈江であり,どうもその裏に警察の捜査状況をリークしている湯川がいることがわかります。園香,奈江,湯川,秀美はいったいどういう関係にあるのでしょうか。園香は,上辻にDVを受けていました。近所の人はそのことを知っており,秀美も奈江もそのことを知っていた可能性があります。犯人は園香かその共犯者という線が強そうですが,ほんとうにそうでしょうか。
 園香が,かつて女が赤ちゃんとともに児童養護施設前に置いた人形をもって撮影された写真が,ネットに流れていました。それをみた女(赤ちゃんの母)が,園香を孫と思ったところから不幸が始まりました。また,奈江にも悲しい過去がありました。二人の女性は,産んだ子と引き裂かれる運命にありました。一人は,児童養護施設に預けたり,一人は未婚の母となることを許されず,子を養子に出すことを強制されたりしていました。それぞれの母の人生も,この事件に絡んできています。
 本書で,湯川の過去(それが何かは読んでお楽しみ)がわかるという点はファンにとっては嬉しい驚きなのでしょうが,やや強引に盛り込んだかなという印象も受けました。ただ湯川の家族やその人間的な面に関する話が出てきたことで,(それが好きか嫌いかはともかく)ガリレオシリーズに新たな味わいが与えられたような気もします。
 なお本書には「重命(かさな)る」という短編もついています。末期がんで命が尽きようとしている男と,その妻との不妊治療がようやく成功して生まれようとしている命の重なりを敵視している者が殺人事件を引き起こします。テーマ自体は,よくある遺産相続をめぐるものですが,面白い作品でした。

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