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2024年10月10日 (木)

クリスチャン石破

 石破茂首相はプロテスタントだそうです。先日のBSフジの「プライムニュース」で,佐藤優さんが宗教家としての視点から石破首相について語っていました。彼によれば,石破首相に対して変節を指摘する声もありますが,その根底にある「国民目線」は変わっていません。具体的な政策推進においては,状況に応じた対応を取っているため,一見変わっているように見えるかもしれませんが,基本的な信念は一貫しているということです。 私はこの見方に深く納得しました。むしろ石破首相は,その根底にある信念を実現するためには,必要な妥協も厭わない柔軟な政治家なのだと言えるでしょう。佐藤氏は,「君子豹変」(本来は良い意味で使われる)することが重要だと言います。信念を持ちながらも,現実社会でその信念を実現するための戦術は,必要であれば柔軟に変更すべきだというのです。 信念に固執して猪突猛進するタイプの政治家よりも,状況に応じて戦術を変えながら信念を貫く「君子豹変」型の政治家のほうが,安心できる面があると感じます。
 石破首相が自身の政治目標を実現するためには,まず総理大臣になる必要がありました。そのためには,総裁選を勝ち抜かねばならず,勝利するためには,どのような政策を訴えることが最も効果的かを考えた戦略が不可欠です。そして,総理大臣に就任した後は,今度は自分の政策を実行するために,党内基盤を強化し,選挙で勝利することが重要です。そうした状況下で,今回のいわゆる裏金議員の非公認は,当然の対応だと言えるでしょう。比例重複禁止についても,小選挙区で落選しても比例で復活するという現行制度が批判の対象となっている点を考慮すれば,世論的にはこの方針が全面的に支持される可能性があります。たとえ旧安倍派を中心とする裏金議員からの反発があったとしても,裏金議員を排除することのほうが,多くの有権者の支持を集められる上に,自身の政策実現の障害となりそうな議員を減らすことができるという点で,戦略的に得策だと言えるでしょう。
 先日の日本経済新聞の中外時評で,上級論説委員の斎藤徹弥氏が「クリスチャン石破首相が挑む衆院選 歴史に学ぶ『王道』」という記事の中で紹介していたことですが,石破首相は「首相になるのは目的ではなく,しなくてはならないことをするための手段。なれるかどうかは天命だ」と語っていたそうです。 もし総理大臣になることが手段であるならば,総理としての行動もまた手段です。馬が合う野田佳彦氏が党首に就任した立憲民主党との大連立というシナリオも,あり得るかもしれません。同じ番組に出演していた山口二郎氏も,その可能性を示唆していました。
 
ただ,心配がないわけではありません。石破首相の根底にある国民目線は重要ですが,それに基づいて打ち出される政策が的を射たものであるかどうかは,また別の問題です。信念があっても,たとえば素人感覚で雇用政策が進められたら困ります。アメリカとの地位協定の見直しについても,佐藤優氏が指摘していたように,専門家に任せなければ失敗に終わるでしょう。
 
それでも岸田前首相より石破氏に好感が持てるのは,総理大臣になることが目的であった人と,それを手段としかとらえていない人との違いかもしれません。もちろん,目的の中味が最も大事であり,総理大臣の地位を手段として悪事目的で利用するようでは最悪です。しかし,クリスチャンとしての石破氏は,その点において信頼できるのではないでしょうか。ただし,良き目的を持っていても,誤った政策を行えば,国民に災厄をもたらす可能性があります。首相は小さな村の村長ではなく,国家のリーダーです。国家のリーダーとしての器であるかが問われます。とくに石破氏は得意分野が限られているため,優秀なブレーンを揃え,必要に応じて「君子豹変」する柔軟さが求められるでしょう。
 
今回の選挙では,自民党は票を減らすと予想されていますが,それは岸田前政権の影響もあり,石破氏に全ての責任を負わせるのは不適切です。まずは彼がやりたいことを実行してもらい,彼の首相としての評価は,その後にすべきでしょう(少し甘いのは,現在は,就任直後のハネムーン期間だからです)。
 
なお,佐藤氏は公明党の勢いにも触れており,とくに大阪の選挙区が注目だと述べていました。大阪では,日本維新の会と公明党が協力関係にあり,公明党が候補を擁立した選挙区では維新が候補を出さないという状況が続いていました。しかし,今回の選挙では,維新がすべての選挙区に候補を立て,全面対決となります。前回は大阪で自民党が維新に全敗しましたが,今回はどうなるでしょうか。新たな公明党対維新の対決も注目です。兵庫では第2区(神戸市兵庫区・長田区など)と第8区(尼崎市)が新たに激突する選挙区となります。ちなみに,第9区では西村康稔氏が前回圧勝しましたが,今回は公認されていないため,その動向にも注目です。

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