障害者雇用政策
10月7日の日本経済新聞に「障害者「雇用代行」に賛否 1200社利用,企業にジレンマ」という記事が出ていました。法定雇用率の達成が困難な企業に代わって,障害者が働く場を提供するビジネスが拡大している,ということです。障害者が,私たちの社会の一員として種々の分野の活動に参加できるようにするという「ノーマライゼーション(normalization)」の理念からすると,こうしたビジネスは肯定的には評価できないということになります。しかし,これにより,少しでも障害者が雇用される機会が増えるというのでれば,その点は肯定的に評価できるという意見もあります。
しかし,後者の評価には賛成できません。デジタル化の進展は,障害者というものの概念を変えてしまうかもしれないというのが私の見解です。人間の機能の減退は,他人との比較,個人のなかでの年齢ごとの比較などから出てくるものですが,そのどれであれ,視力の減退には各種の眼鏡を使うのと同様,いろんな機能や能力の減退は,デジタル技術に補ってもらうということになるのです。ノーマライゼーションの強い推進は,事業者側に,デジタル技術を活用した障害者との共生へのインセンティブとなるでしょう。
その一方で,あまりゴリゴリと障害者雇用率の達成に向けて圧力をかけることは望ましくないとも思っています。障害者雇用の基礎にある社会連帯の理念は,強制的な圧力とはなじまないものであり,事業者が自発的にノーマライゼーションを実現していくよう誘導するためには,どうすればよいかということを中心に考えていく必要があります(もちろん障害者を虐待するような悪質な事業者もいるでしょうが,そうした事業者には徹底的に改善に向けた圧力が必要です)。先日も紹介したことがある新経済連盟の「規制改革提言2024」(9月13日)のなかに障害者雇用促進法の見直しという項目があり,「そもそも,法定雇用率の政策的位置づけ(最終目標なのか,他の目標達成のための手段なのか)の再検討が必要ではないか」という記載がありますが,そこには障害者雇用行政に対する事業者の不満が透けてみえるところです。
障害の有無にかかわりなく,自身の適性をいかして社会参加ができるノーマライゼーションの理念の実現に向けて,政府も事業者も,そして国民自らも知恵をしぼっていく必要があります。この問題については,拙著『雇用社会の25の疑問–労働法再入門(第3版)』(2017年,弘文堂)の第16話「障害者の雇用促進は,どのようにすれば実現できるか」も参照してみてください。
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