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2024年9月15日 (日)

ボノボから学ぶこと

 AIについて考えると、最終的には「人間とは何か」という問いに行き着きます。これを生物学的に考えると、ホモ・サピエンスと類人猿の違いに注目することになります。そこで浮かび上がるのが、チンパンジーとボノボです。両者は私たちホモ・サピエンスとは,98%以上同じDNAをもっています。しかし、社会的行動や性格には大きな違いがあります。
 ミツカン水の文化センターのサイトに掲載されていた,古市剛史氏(京都大学霊長類研究所教授)のお話「ヒトが『ボノボ』から学ぶこと 〜コンゴ川を渡った平和主義者たち〜」は、こうした違いに焦点を当てており、非常に興味深い内容です。
 チンパンジーは社会的な動物ですが、その社会構造は攻撃的だと言われています。群れの中で力関係が厳しく、特にオス同士の争いが頻繁です。古市氏によれば、これはメスの発情期間が短いことと関連しています。メスは56年間で約60日間しか発情せず、この限られた期間を巡ってオス同士の競争が激しくなるのです。
 「群れの中で最上位のオスになれば、メスを独占できるため、チンパンジーのオス同士の順位争いは熾烈です。他のオスを殺して競争相手を減らすことさえあります。また、幼いオスが殺されることも多く、1歳前後で突然オスに襲われ、命を落とすこともあります。」
 これは非常に厳しい社会です。このような環境では、協力よりも競争が優先され、対立が生まれやすくなります。
 一方で、ボノボは非常に平和的で協力的な社会を築いています。古市氏によると、ボノボのメスも出産後34年間は排卵が再開しませんが、発情だけは出産から約1年後に再開するそうです。これを「ニセ発情」と呼ばれ、この現象のおかげでボノボはチンパンジーに比べて性交渉が810倍多く可能となります。その結果、オスは他のオスを殺す必要がなくなり、メスに気に入られることこそが重要になります。ボノボの社会はメスが主導し、オス同士の対立が少なく、より平和的な環境が形成されているのです。
 この違いは、チンパンジーがコンゴ川の北の厳しい生存競争がある環境に生息する一方で、ボノボはコンゴ川南の食糧が豊富な地域に住んでいるという環境の違いに起因しているようです。
 古市氏は、ボノボとチンパンジーの社会の違いをみたうえで,ヒトの社会が平和的になるためには、「女性がイニシアティブを握るしかない」と述べています。女性が社会の方向性を決める力を持つようになれば、今とは全く異なる社会が実現するだろうと考えています。
 私たちとほぼ同じDNAをもつボノボが,共感と協力を大切にし、平和な社会を実現していることは示唆的です。もちろん、ボノボ型社会には,たとえば有事に対してはきちんと対応できるかといった懸念はあるのですが、それでも学ぶべき点は多いと思います。もちろんオスやメスという生物学的な分類に意味があるのではありません。むしろ平和な社会を実現するためには,どうすればよいかという観点から,メス型社会の特徴をみることが大切だということです。

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