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2024年9月の記事

2024年9月30日 (月)

「第四銀行」の読み方

 就業規則の不利益変更をめぐる重要判例で出てくる第四銀行事件の「第四」は,1872年に国立銀行条例に基づき各地でできた地方銀行の創立の順番を示しています。つまり,第四銀行は,4番目の国立銀行ということです。渋沢栄一が中心になって設立したそうです。国立銀行は,その後,再編や合併などにより吸収されていったものが多いですが,第四銀行は,北越銀行(第六十九銀行・長岡六十九銀行)と合併して生き残っています。国立銀行のなかには現在の都市銀行になったものもあります。例えば第六十五国立銀行は,その後,神戸岡崎銀行に買収され,その後,同銀行はいくつかの銀行と統合して神戸銀行となり,太陽銀行(前身は無尽会社・相互銀行)と合併して太陽神戸銀行となり,その後,三井銀行と合併して,太陽神戸三井銀行となり,さくら銀行に改称したあと,住友銀行と合併して,三井住友銀行となりました。神戸の名称がなくなって寂しいです。かつてローカル色をなくすことも目的として「さくら銀行」にしたのですが,ここはもう一度,「神戸」の名称をどこかに復活させてもらうことはできないでしょうかね。
 ところで判例の第四銀行は,「だいよんぎんこう」と読む人が多いのですが,国立銀行の順番は「音読み」でなされており,四の音読みは「し」なので「だいしぎんこう」となります(「よん」は,「よ」「よつ」と同様の訓読み)。京都の「四条」も「しじょう」ですね。仙台にまだ残っている「七十七銀行」は「しちゅうじゅうしちぎんこう」となります。七の音読みは「しち」だからです(「なな」は訓読み)。幼児が数の読み方を覚えるときに,とくに四と七をどのように読むかで迷ってしまうことが多いのですが,それは音読みと訓読みの混在のためです。ちなみに,四と七は,一から十に数えていくときは音読み,十から一に数えていくときは訓読みになる傾向がありますが,これは多分何か説明がつく理由があると思いますので,暇なときに調べてみたいと思います。私はとくに意識せずに,気分で使い分けていますが,どちらかというと「し」は言いにくいので,一から数えるときも,四は「よん」,七は「なな」とここでは訓読みを使っているような気がします。

2024年9月29日 (日)

阪神優勝できず

 阪神タイガースが優勝を逃しました。逆転優勝の試算をいろいろしていたのですが,最後になってタイガースの調子が下がってしまいましたね。これまで打てないなかで,9月はよく追い上げたと思いますが,私は優勝を逃すポイントとなったのは,923日の巨人戦だったと思います。
 甲子園の巨人2連戦の初戦に菅野相手になんとか勝って,これで連勝すれば,巨人を相当追い込めたと思うのですが,うまくいきませんでした。グリフィン(Griffin)と髙橋遥人との投手戦でしたが,巨人が先にグリフィンを交代させて,ケラー(Keller)を出してきました。昨年まで阪神にいたケラーです。その代わり端に,大山が2塁打を打って先制のチャンスでした。そこでサトテルが凡フライを打ち上げて進塁させることができず,次の前川もセンターフライ,梅野もたおれて,ノーアウト2塁のチャンスを潰しました。サトテルがチームバッティングをできなかったこと,これに付きます。優勝のチャンスがある大事な試合で,1点を争っているとき,ホームランは不要です。1塁側に引っ張って最低でもランナーを3塁に進めるというのがノルマの場面です。ランナーがいなければ一発を狙ってもいいでしょうが,ここは,とにかく転がすことが求められている場面でした。サトテルの力からすれば,それは決して難しくないはずなのに,何も考えず(?),勢いよくバットを振って,ケラーの球威におされてフライアウトになった瞬間,すでに100球近くになっていた高橋の辛抱の糸も切れてしまったのではないでしょうかね。
 あそこではやはり監督や今岡コーチがサトテルにアドバイスすべきだったと思います。そういうことをしないで選手任せにするという方針なのでしょうが,ほんとうに勝ちたいのなら,サトテルにアドバイスをすべきでした。サトテルはDeNA戦で決勝ホームランを打ち,今回もそういうのを狙うおそれがありました。あそこは,ほんとうは送りバントをさせてもよかったのです。次の前川は浅いセンターフライだったので,もし3塁に大山がいてもタッチアップできたかわかりません。しかしランナーが3塁に行くと,ピッチャーは当然,暴投をしないよう意識して,球威が弱まる可能性があります。それならば前川がもっと深いセンターフライを打てたかもしれません。とにかく,あの回に点が入らず,次に高橋が1点とられたところで,今期の阪神は終わりました。力投の高橋を見殺しにしてしまったことで,終盤戦の救世主として彼がもたらしてくれていた「球運」が逃げていったのです。
 クライマックスシリーズには,あまり関心がありません。始まったら観てしまうかもしれませんが……。

2024年9月28日 (土)

袴田事件に思う

 静岡地方裁判所で,元死刑囚に対して無罪判決が言い渡されました。裁判官は,検察による証拠の捏造を断罪し,袴田さん側に謝罪しました。検察は捏造の根拠が示されていないとして不満を示しており,控訴の可能性もありますが,そういうことをすると、世論の反発が強まることが予想されます。これは,一人の人生(おそらくお姉さんの人生も含めれば二人の人生)を大きく狂わせる,取り返しのつかない出来事となったかもしれないのです。そのことを思うと,冷静にこの事件をみていられません。
 もちろん,事件の真相は依然として不明ですし(誰が犯人かわからない),最も気の毒なのは被害者であることに変わりはありません。しかし,事件の悲惨さから,安易に犯人を特定しようとすることがあってはなりません。刑事裁判には冤罪を生まないための厳格な手続が定められており,それが法的正義を実現するためのものです。いったん判決が確定したあととはいえ,再審手続のハードルが非常に高い現状は,手続的正義としてどうなのかという疑問があります。再審は例外的な手続かもしれませんが,冤罪を防ぐ最後の砦でもあります。
 検察が証拠を捏造したとは信じたくありません。しかし,袴田さんの血痕がついた衣類が,事件発生から1年以上経って発見されたという不自然さは,どうしても疑問を禁じえません。血痕が1年後も残っているかについては専門家の意見が分かれているようですが,発見の経緯も含め,静岡地裁は踏み込んだ判断を下したのでしょう。「捏造」という言葉が使われなければ,検察も人道的な配慮から控訴を断念しやすかったかもしれませんが,裁判長は,裁判が終わらないリスクを理解したうえで,それでも検察を厳しく断罪する必要があると判断したのかもしれません。
 一人の冤罪も許さないという観点からすれば,疑念が残る証拠で有罪判決(ましてや死刑判決)を下すことは,人権の観点からは、当然、許されるべきではありません。過去にも村木事件のように,証拠の捏造が明らかになった事件がありました。検察は,半世紀以上前の事件のことに,いつまでもそのメンツにこだわるべきではなく,人道的な観点からこの事件に終止符を打ったほうがよいと思います。
 昨日の日本経済新聞の社説では,「現行の刑事訴訟法には再審手続きに関する規定がほとんどなく,検察側が持つ証拠の開示がされないため,再審が認められるハードルは非常に高い。これが長期化の要因となっている。再審請求手続きにおける証拠開示の制度化や,検察の抗告禁止を含む法整備を早急に検討すべきだ」と指摘されていました。私もそのとおりだと思います。ただし,政治家に任せきりにしてしまうと,これをきっかけに,自分たちの利益を守るために(再審の問題を超えて)検察権力を制約するようなものができるおそれもあります。有識者の視点を取り入れたうえで,客観的かつ信頼性のある法整備が求められます。

2024年9月27日 (金)

石破総裁誕生

 石破茂が総裁に選ばれました。私は,昨年の1211日に「白が黒に」というタイトルで,次のようなことを書いていました。

「12月になり初秋のような暖かさが続くなか,政治の世界では,激震が起きています。オセロで白が次々に黒に変わるような変化です。 
 石破茂氏が,安倍元首相に徹底的に嫌われて,派閥が弱体化し,最後は解散に思い込まれたとき,もう総理へのチャンスはなくなったと思っていました。ところが,いま派閥という仕組みに逆風が吹き,派閥に関係がなくなっていた彼もノーチャンスではなくなってきました。国民の間で人気が高いのも追い風です。
 少しまえまでは国民に人気があっても,派閥で出世してリーダーとならなければ,総理になることは難しいように思われました。しかし,それが大きく変わりつつあります。派閥があってお金を集めることができれば,派閥で評価され,昇進できるチャンスがあったのですが,その集金システムが停止してしまいました。むしろ派閥の幹部は金にきたないというイメージがついてしまい,総理になるチャンスが大きく遠のきました。こうなると,派閥という組織に頼らずに政策を磨いていた人にチャンスがきます。無派閥の小泉進次郎氏や高市早苗氏も浮上してきました。派閥には属しているが,派閥の幹部ではなく派閥色が薄い河野太郎氏などにもチャンスがあります。さらに,今回の江東区長の出直し選挙で,自民党がすり寄ってきた小池百合子都知事にも,チャンスが巡ってきたのではないでしょうか。
 安倍晋三元首相の強力な影響力で,派閥政治全盛と思われていたなか,急激な評価下落です。現首相が慣例に反して派閥の領袖で居続けたのも,派閥の意味を重くみていたからでしょう。今回の派閥離脱は,派閥と距離をおいたほうがよいという,あきれるくらいわかりやすい行動で,とても彼がなにか主義思想をもって行動しているようには思えませんね。
 面白がってみていてはいけません。しっかりしたリーダーを選ばなければ大変なことになります。これだけ不人気の首相でも,それに挑もうとする若手政治家がいないことが嘆かわしいです。あまりに大きな変化が起こることは望ましいことではありませんが,アンシャンレジームの不満がたまって暴発して取り返しがつかなくなることを避けるためには,いまの段階で大改革により,政治を一新しておいたほうがよいです。高島芦屋市長はまだ若すぎますが,40代くらいで良い人材はいないでしょうかね。」 

 ということを書いていましたが,それから10カ月後に,実際,石破,小泉,高市の争いとなりました(小池氏は都知事選に出て,国政復帰を断念していましたね)。河野太郎氏は,麻生派から離脱せず派閥にこだわったために脱落しました。40代くらいの良い人材として,コバホークが出てきて,まずまず善戦し,今後につないだと思います。岸田首相は,派閥を解散しましたが,実際にはグループの結集は強く,今回は勝馬に乗ったと言われています。
 自民党は派閥があるころは,派閥間での疑似政権交代をやると言われていましたが,自民党から離脱した過去もあるなど,党内では野党的な立場にあった石破氏を選んだというのは,これもまた違った形の疑似政権交代であったといえます。党内では人望がなく,安倍さんも麻生さんも石破嫌いであることは有名です。普通に考えれば,石破総裁の目はないはずです。しかも本人はすでに派閥を解散し,前回の総裁選では自分ではなく河野氏を応援する側にまわっていたくらいです。それくらい自民党主流派から距離があったことが,刷新感を求める自民党からかえって求められたというところが面白いですね。「人間万事塞翁が馬」ということでしょう。
 ということで,石破総裁誕生のストーリーはとても面白いのですが,面白がってばかりはいられません。ほんとうに国のための政治をしてもらう必要があります。とくに経済政策などで,どのようなことをするのか,まだよくわからないところがあります。目先のことではなく,子どもや孫たちのために,どうすべきかをしっかり考えた政治に取り組んでもらえればと思います。

2024年9月26日 (木)

解雇規制の取材ラッシュ(?)

 自民党総裁選で解雇規制のことが話題になったことから,突然,私のところにも取材等が増えました。一昨日は大学にTBSから取材依頼があり,昨日,Zoomで取材を受けたのですが,いきなり夕方にNスタという報道番組でインタビュー内容が使われました(関西のTBSでは,私の登場した部分は放映されていなかったようです。そもそもこの番組は関西ではなじみがないですね)。
 実は,取材を受けるときには,テレビに出演するとはわかっておらず,テレビ局の記者が解雇規制のことを勉強したいのかなという程度で,事前に送られていた質問事項もきちんとみていませんでした。直前までポロシャツでいいかなと思っていたのですが,やっぱり前日,1時間だけ着ていて洗濯に出さずにハンガーにかけていたYシャツに着替えたところ,いきなりテレビで使われると言われてびっくりしました。着替えておいてよかったです。
 テレビ用の話となると多少は身構えるので,今回のような不意打ちは困るのですが,解雇のことは最近話すことが増えていたので,なんとか対応できました。途中10分のインタバーバルをはさみ,1時間ちかく話しましたが,実際にテレビで使われたのは,ほんのごくわずかでしたが(これはいつものことです)。
 解雇規制の話は,実に多くの切り口があり,多くの取材やインタビューは,聞き手の関心に応じて,個別に,私との間でいろんなストーリーが作り上げられていく感じです。ただ,中身をみると,法律上の解雇ルールとは何かという初歩的な質問があり,それに対する答えはだいたい定型的です。初歩的とはいえ,日本国民のひょっとすると大多数は解雇に関する法的ルールをわかっておらず,私に取材をしてきた人もわかっていた人は驚くなかれ,皆無です(多少知識があるとしても,解雇には普通解雇,整理解雇,懲戒解雇があるという3分類があるというところから話をしようとする人がいますが,法律家の目からは,厳密性に欠ける分類であり,初歩的な話をするときに邪魔となります。整理解雇の4要素が,あかたかも解雇一般の要件として理解されているのも困ったものです)。そのうえで現在の解雇ルールの問題は何かという話があり,これはかなり難しく,よく説明しなければ理解してもらえません。加えて,金銭解決の話がありますが,こちらは精密に話すとわかってもらえないので,かなり「雑に」話さなければならないというので,これはこれで難しい作業です。
 TBSの取材では,渡邊優子さんの取材を受けました。とくに印象的であったのは,日本の解雇規制は厳しいのかという質問です。これについては,ある意味では厳しいし,ある意味ではそうではないという答えとなり,その理由を丁寧に説明しました(ただ,番組では使われていません)。解雇ルールは曖昧であり,それが実際の裁判では企業に厳しく適用されうること,したがって結果として解雇は厳しいように思えるが,解雇ルールそれ自体は,日本型雇用システムの変化が裁判官にも認識されていき,たとえばジョブ型のようなものが広がっていくと,決して厳しく作用するとは限らないこと,そうなると,むしろ現行ルールよりも,解雇をする際には十分な金銭補償を義務づける私たちが主張している
ルールのほうが労働者にプラスになるというのが,私の説明のエッセンスとなります(これを実際に全部説明したわけではありません)。一方,解雇が厳しくないというのは,解雇と言いながら実は「雇用調整」のことを言っているのであり,つまり希望退職募集などのルートで,合意解約が結構なされているので,その意味で,雇用調整はそれなりに行われており,このことをとらえて「解雇」規制はそれほど厳しくないといっているのだろうと述べました。重要なことは,雇用調整ができるかどうかだとするならば,日本の解雇規制は厳しくないと言ってもよさそうであり,労働法的には,これは厳密な意味での解雇がなされているわけではないし,労働者が納得して退職できているなら問題はないという評価になります。しかし雇用調整ができているから,日本の解雇規制は緩く,見直しの必要性がないという話になると,それは首をかしげたくなります。なお,解雇規制の厳格さを論じる際に,OECDの指標を持ち出すのは適切ではありません。このことは大内伸哉・川口大司編著『解雇規制を問い直す―金銭解決の制度設計』(有斐閣)の第3章(川口,山本陽大執筆)でしっかり説明されていますので,ご覧になってください(忙しい人は,90頁からみてください)。
 また,数日前に受けたJBpress インタビュー記事も,今日掲載されています。ライターの河端里咲さんがまとめてくれました(もちろん,私もかなり手を入れています)。こちらはインタビュアー(interviewer)の問題意識である正社員の安定雇用への疑問という視点が割と出ている内容となりました。上の世代がどうみても自分より仕事ができないのに,でも企業は上の世代の解雇がなかなかできないので,自分たちの可能性が制限されていることへの若い世代の不満です。実力主義で雇ってほしいと思っている若者にとっては,能力不足の解雇が実際上難しい日本の解雇ルールへの不満があるのです。

2024年9月25日 (水)

中国と正しく向き合う必要性

 中国の深圳で起きた児童刺殺事件は衝撃的でした。わがことのように心が締め付けられる思いです。親が一緒にいても狙われるというのは,とてつもなく治安が悪い国だからだという気もしますが,実際の深圳は治安が悪いところではないそうです。これは偶発的に起きた事件では片付けられず,根拠のない推測をすべきではありませんが,国民感情が敵対的であるという土壌から生まれた犯罪と考えられるかもしれません。
 ところで,事件があった日が,93年前に,1931年満州事変が勃発した柳条湖事件と同じであったことは偶然かもしれませんが,気になるところです。この事件も1928年の奉天事件と同様,鉄道の爆破でした。奉天事件で爆殺された張作霖の息子の張学良は,当時,父を継いで奉天地区の実権を握っていましたが,柳条湖事件では日本軍に抵抗しなかったことで有名です。
 中国にとっては,満州事変は,自国の領土内に,日本の傀儡政権である満州国の建設がなされたという屈辱の始まりであったことでしょう。この歴史について中国でどのように教育されているの知りませんが,日本では,淡々と事実を教えているだけのような気もします。しかし,日本のあのときの戦争は,今日では,国土に原爆を落とされて終結したアメリカ相手の戦争という記憶のほうが大きいように思いますが,日本が海外で仕掛けた満州事変以降の日中戦争こそが,あの一連の戦争の始まりであることを忘れてはなりません。私たちは自虐史観に陥る必要はありませんが,誇り高い中華民族が自国を侵略されたことについて,どういう感情をもっているかということに,もう少し注意をしたほうがよいのかもしれません。そんなことは,中国に住んでいる日本人は百も承知なのでしょうが,それでも約1世紀近く前のことであっても,決してアーカイブ(archive)の出来事ではなく,なおアクチュアル(actual)な問題であるということは何度も思い起こす必要があります。
 その意味で,中国で住むということは,いろんな意味で警戒が必要でしょう(私は中国は香港にしか行ったことはありません)が,とくに日本人は気をつけたほうがよいのでしょう。もちろん友好的な中国人はたくさんいるでしょうが,根底に流れている不信感というものは,なかなか払拭できません(私が,個人レベルでアメリカ人と友達になることはできるのですが,マスとしてみたときのアメリカ人には,どこか不信感をもっているのと同じか,それ以上のものでしょう)。こういう状況を変えるためには,中国と,心の底でどう思うかはともかく,うまくやっていくしかないのです。おそらく五百旗頭真先生が生きておられたら,そうおっしゃるでしょう。日本政府が自身の努力不足を,中国の責任にするような論調(中国は覇権主義的であるなど)には気をつけて,等身大の中国を(もちろん,その脅威も含めて)みていく必要があると思っています。

2024年9月24日 (火)

不平等条約

 自民党の総裁選の党主催の那覇での演説会で,石破茂氏が,日米地位協定の見直しに着手すべきと言及したことが話題になっています。那覇に行ったからリップサービスで発言したというような軽いものではなさそうです。石破氏自身,安全保障の専門家を自認しているのであり,日米地位協定のもつ意味や見直しの難しさは十分にわかったうえで,あえて,これまでのような運用の改善だけでは不十分ということで思い切った発言をしたようです。勇気ある発言であり,なお沖縄を苦しめている米軍基地問題について,中央の政治は見捨てていないということを示した点でも意味があると思います。
 日米地位協定17条というのが問題の条文です。私は専門家ではないので,この条文の意義について詳しく解説することはできませんが,はなはだ素人的なコメントとしてあえて言うと,治外法権ではないにしても,日本の司法権がかなり制限されていることは間違いないでしょう。軍の公務中の事故や事件とされたら,実際上手出しができなくなり,アメリカの配慮にすがるということでは,情けない気がします。一応,この点に関する外務省の関連するサイトのリンクを張っておきます。
 次元が違う話かもしれませんが,江戸幕府の末期に,列強から不平等条件を押し付けられたとき,その内容として,関税自主権の喪失と並ぶものとして領事裁判権があったことは,日本史で習うことです。明治政府は,これは日本が欧州のような法治国家になっていないことが原因だと考えて,欧州化を進めていき,ようやく1894年に,陸奥宗光の外務大臣のときに,イギリスとの日英通商航海条約により領事裁判権の撤廃をはたしました。ノルマントン(Normanton)号事件(イギリスの船が和歌山沖で座礁し,イギリス人ら船員は救命ボートで脱出して日本人に救助されたが,日本人乗客25人は全員死亡したという「不自然」な事件で,領事裁判権による裁判で船長は微罪にとどまった)により,日本の世論が条約改正を強く求めたことも後押ししました。イギリスに続いて,アメリカ,フランス,ロシア,オランダとの間でも同様の改正がされました。関税自主権も含め,不平等条約が完全に撤廃されたのは1911年で,明治も終わろうとしていました。半世紀以上,日本は外国と不平等な状況に置かれていたのです。
 明治政府の努力はたいへんなものであったと思います。現在の沖縄の問題は,もちろん世界に展開する米軍との間では,沖縄だけで解決できるものではないのかもしれませんが,絶対に個別の解決ができないものともいえないでしょう。ノルマントン号事件のときに,当時の日本人が味わったであろう屈辱感と同じようなものを,沖縄の人たちがずっと持ち続けているかもしれないのです。しっかりした戦略と理論武装をしなければ打開できないものでしょうが,陸奥宗光がやったような粘り強い外交で,少しでも沖縄の人が納得するような地位協定の見直しが実現できるか,これからの政府の対応に注目してこうと思っています(だからといって,必ずしも石破氏が首相にふさわしいと言っているわけではありません)。

*なお,「日本外交の父」と呼ばれる陸奥宗光については,昨年,日本経済新聞の朝刊で,辻原登「陥穽 陸奥宗光の青春」が連載されていて,愛読していました。現在は単行本になっています。その波乱に富んだ人生(投獄された経験など)は,実に興味深いです。

2024年9月23日 (月)

二大政党制への可能性

 立憲民主党の代表選挙は,予想どおり野田佳彦氏が勝ちました。元首相の野田氏が,政権がやや近くなってきた立憲民主党にとって,党の舵取りを最も託せるリーダーと判断されたのでしょう。ただ枝野氏にしても,野田氏にしても,かつて自公に選挙で負けている党首なので,これでほんとうに勝てるのかということには疑問があります。昔の名前に期待をすると,都知事選の蓮舫氏のような失敗を繰り返すことになるでしょう。とはいえ,自民党は,政治資金問題について必ずしも毅然とした態度をとる候補者ばかりではありませんし,統一教会問題については,どの候補も腰がひけていて,盤石ではありません。この欠点をついて斬り込んでいけるリーダーとして最も期待できるのは野田氏なのかもしれません。
 ただ,しょせんは野党です。私はどこの党の党員でもありませんし,選挙でも,投票先として特定の政党を決めているわけではありません。そうした無党派層の人間としては,自民党のほうが,実質的に総理大臣を選ぶ選挙なので,党員になってみてもよいかなと思ってしまいました。小泉純一郎氏以前は,派閥の領袖の話し合いで総理大臣が決まっているというところがあったと思いますが,今回のように派閥ぬきで誰でも出てよいということになると,党員になって一票を投じるのも面白いような気がします。自民党の党員資格をみると,「わが党の綱領,主義,政策等に賛同される方」となっていますが,特定のイデオロギーで結集している政党ではないので,これはあまり縛りになっていないと思います。たとえば自民党は改憲派の党であると言われていますが,護憲派もいるなど,多様な主義主張の人がいるのが自民党の特徴でしょう。
 自民党総裁選のほうは,小泉進次郎氏の人気が急降下と言われていて,高市早苗氏か石破茂氏が決選投票に残るのではないかと言われています。どちらも,少し前までは総裁選に出ても勝てそうにない候補だったのですが,時代も変わったものです。個人的には,知性と実行力という基準に照らすと,小林隆之氏に任せてよい気もするのですが,どうでしょうか。
 今回の総裁選は,国民に総理大臣を選ぶ方法があるではないかという気持ちにさせる意味があったような気がします。今後,自民党員が増えて,党勢拡大につながるかもしれませんが,それはもしかしたら内部崩壊の始まりになるかもしれません。
 ちなみに維新は,本来,明確なビジョンをもった政党だったのでしょうが,党勢拡大のために異質な人を取り込んだために,早くも崩壊しつつあるようにみえます。兵庫県の問題が,それに拍車をかけています。このままでは,次の選挙で維新は大敗北を喫して,衰退することはほぼ確実でしょう。政策的には支持できるところもあったので残念です。立憲民主党をみても,結局は,自民党的な人と共産党的な人が混在しているので,これが分解して,自民党と共産党の二大政党制になったほうがすっきりしているかもしれません。共産党が中道左派化すると,これが現実性があることは,イタリアの政治をみてもわかるところです(かつてユーロコミュニズムの旗手であったイタリア共産党は,左翼民主党になり,さらに民主党へと中道化していますが,その間に政権をとったこともありました)。

2024年9月22日 (日)

日曜スポーツ

 大相撲は,大の里が14日目で優勝を決めました。実力は段違いで,素晴らしい大関の誕生です。2場所で大関を通過してほしいですね。ほんとうは,いきなり横綱に推挙してもよさそうなものです。これは相対的にみて,いまの大関が弱すぎるからでもあります。豊昇龍は千秋楽にようやく勝ち越しで,敗れた琴櫻も87敗です。大の里と琴桜が競い合うようにならなければ,場所は盛り上がらないでしょう。
 貴景勝は予想どおり引退となりました。横綱になろうとする気力がなくなったから引退というのは見事な引き際です。もちろん,現在の力では大関に復帰することも難しいというのが引退の直接的な理由でしょう。年寄株がなかなか入手できないので,引退したくてもできないということもあったようですが,元大徹から湊川を譲ってもらったということで,これからは湊川親方になります。ゆくゆくは,奥さんのお父さんである元北天佑の創設した二十山部屋を継承することになるでしょう。28歳と早い引退ですが,これからは貴乃花イズムを継承して,いずれは四股名に「貴」のつく強い力士を育ててほしいです。
 野球では,阪神タイガースが,20日にDeNAに負けて,広島に勝った巨人と3ゲーム差となり,巨人のマジックが6となった時点でジエンドかと思いました。西勇輝はまたやらかしてしまい(打たれ始めたら止まらない),監督秘策のBeasleyの中継ぎも失敗し,勢いが完全に止まったかと思いました。21日もデーゲームで,途中まで巨人は快調に得点を入れて41で広島をリードして8回まできており,一方,阪神は4点リードを逆転されて1点差で8回をむかえていて,逃げ切られそうな流れでした。ここで巨人が勝って阪神が負ければ,ほんとうにジエンドでした。しかし,DeNAの救援陣が不安定で,なんとか同点に追いつきます。その間に広島がまさかの逆転をして巨人に勝ちました。阪神はゲラ(Guerra)と岩崎を投入しましたが,攻撃のほうは点を入れることができず,同点のまま延長です。そこで10回表に,サトテルの豪快な1発が出ました。これがあるからサトテルは見捨てられないのです。ファールにならないか心配でしたが,一直線の弾丸ライナーでした。低めに投げてくれたらチャンスがあると思いましたが,甘い球が来ましたね。その裏は,誰が投げるかと思いましたが,岡留がみごとにおさえました。キャンプの「MVP」だった岡留は,いろいろ苦しんだシーズンでしたが,見事に大役をこなしました。これで阪神が巨人に連勝し,加えて巨人がもう1試合(残りはDeNA3試合,広島,ヤクルト,中日と1試合ずつ)どこかで負けてくれたら,あとは阪神が全部勝つか,1引き分け(残りはDeNA3試合,広島とヤクルトと1試合ずつ)でとどめれば優勝となります。現時点では残り試合は阪神が1試合少ないですが,最終試合は103日のDeNA戦で,その前に巨人は全試合終了しています(雨天中止がないことが前提ですが)。勝つか引き分ければ優勝というような劇的な最終戦となる可能性もあります。
 本日の巨人戦もしびれる試合でした。菅野は125球の熱投で,敵ながらあっぱれでした。阪神はなんとかもぎとった1点を,才木→ゲラ→岩崎で守りきりました。これで勝数で並び,ゲーム差は1となりました。巨人のマジックは6のままで,依然として阪神の自力優勝はありませんが,どちらも負けられないぎりぎりの試合が続きます。
 明日は髙橋遥人です。そのあと3日間の休みがあるので,投手陣を総動員できる態勢にあります(でも高橋は長く投げてくれるでしょう)。明日も今日のような熱戦を期待しています。

2024年9月21日 (土)

新経済連盟の労働政策提言

 新経済連盟の「規制改革提言2024913日に発表されています。労働関係については,すでに613日に発表されていて,このBlogでも紹介した「労働基準法等の見直しに関する提言」に相当する「04労働基準関係」に,新たに「05障害者雇用関係」,「06労働者派遣関係」が追加されています。障害者雇用関係では,法定雇用率の見直し,業務委託スタッフの法定雇用率への算入などが提言されています。法定雇用率の見直しについては,「企業規模・業務を問わず一律であるため,人手不足に苦しむ中小企業を中心に達成のハードルが著しく高い」,「障害者の就労ニーズに関する統計がないため,現在のニーズを踏まえた雇用率となっていない疑いがある(数ありきの雇用率設定?)」,「法定雇用率の政策的位置付けが明らかにされていない(法定雇用率が最終目標?それとも他の目標達成の手段?)」ということが,提言の理由にあるようです。障害者雇用については,個人的には,合理的配慮や差別禁止に関する政策と法定雇用率の政策の併存状況にあるなか,行政が両者をどのように組み合わせて障害者雇用促進政策を進めていて,それが現場にどのような影響を与えているのかということを,もっと知りたいと思っています。
 労働者派遣については,「労働者派遣 ・請負の区分に関する疑義応答集の見直し」に加え,「労働者派遣契約における事前面接の解禁」(特定行為をしない努力義務を定める労働者派遣法26条6項を参照)が挙げられています。後者については,撤廃論も根強いなかで,派遣先による差別的な労働者選別の懸念などから,なかなか実現には至っていません。しかし,派遣労働者側にもメリットとなるところが少なくないと考えられることと,もともとの特定行為の禁止の趣旨に,事前面接をすると,派遣先と労働契約が成立して,労働者派遣の定義から外れ,(職安法で原則禁止されている)労働者供給に該当する蓋然性があるということだったのですが,派遣先が事前面接をしたからといって,ただちに労働契約が成立し,労働者供給に該当する蓋然性が高いといえるのか疑わしいこともふまえると,たとえ努力義務規定であるとはいえ,法律上の義務とされている以上,それを撤廃すべきとする提言は,いまいちど検討する余地は十分にあるように思えます(この義務がそれほど強い要請によるといえないのは,努力義務にとどまっていることに加え,紹介予定派遣の場合には適用除外とされていることからもわかります)。

2024年9月20日 (金)

雇用指針とガイドライン

 解雇のことを基本から話してもらいたいという依頼がいくつか来ています(今日も,解雇規制についてオンライン取材を受けました)。ふと思い出したのが,2013年に国家戦略特区関係で八田達夫先生が座長をしているワーキンググループからの依頼です。東京にまで行ってプレゼンをしました。
 この特区構想については,最終的に雇用に関する部分は,解雇規制の見直し論とはまったく異なり,国家戦略特別区域法37条に基づき福岡に「雇用労働相談センター」が設置され,そこで,個別労働関係紛争の未然防止のための相談を受け助言をし,その際のマニュアル(?)として「雇用指針」が設けられるというもので終わりました。「雇用指針」となっていますが,指針というよりは,労働法の個別法部分の基本的な判例をまとめながら,簡単な解説をしたものです。当時,私が提唱していたのは,解雇ルールについてのガイドライン方式ですが,それは「雇用指針」とは似ても似つかぬものでした。当初のガイドライン方式の狙いは,解雇ルールの明確化にありました。私は,政府がガイドラインで解雇の正当な理由などを示し,企業がそれを参考にして,就業規則に明記し,そのとおりに解雇をすれば解雇は原則として有効となるとすべきであると主張していました(そのエッセンスは,日本経済新聞の201349「(解雇規制の論点(上))ルール作成,企業の責任に」で書いていますし,より詳しくは『解雇改革―日本型雇用の未来を考える』(2013年,中央経済社)で書いています)。
 この提案に対してはガイドラインを解雇の効力に連動させることに反対論があったようで,結局,「雇用指針」となりました。これは,法律家の目からみれば,どれほどの意味があるのかという疑問もあるのですが,判例をわかりやすくまとめることには意味があると判断されたようです。このあたりが法律家と非法律家とでは感覚が大きく違うところです。特区でやる以上は,もっとやることがあったと思うのですが,労働法専攻の大学院生でもつくれるような「雇用指針」をつくってどうなるのだろうかという疑問は,厚生労働省のほうももっていたことでしょう。
 それでいまどうなっているのかと思って検索してみると,「雇用労働相談センター」(EEC)は,福岡以外にも各地にあり,関西にもありました。KECC(関西圏雇用労働センター)というものです。そのサイトには「雇用指針」がリンクされていましたが,どうも内容は改訂されていないようです。10年以上も同じままであれば,これで指針というわけにはいかないでしょう。本気でつくったものではないので,そのアップデートまで面倒をみるつもりはないというところでしょうか。もしそうだったら削除したほうがよいような気もします。
 ということで,解雇ルールについて,せっかくアイデアを出したのですが,特区構想は(私に言わせれば)迷走してしまい,いまなお解雇問題は,何が本筋の議論かはっきりしないままです。
 このガイドラインの構想は,その後の拙著『人事労働法―いかにして法の理念を企業に浸透させるか』(2021年,弘文堂)の基礎になっています。政府が「標準就業規則」(ガイドライン)を策定し,それにデフォルトとしての法的効力を与え,各企業がそのデフォルトから逸脱した就業規則を作成したい場合には,従業員の過半数の支持を得ながら行うなどの所定の手続を踏まなければならないというものです。これはガイドライン方式を,解雇以外のすべての労働条件に及ぼすという意味をもっています。
 解雇については,私はその後,たびたび書いているように,『解雇規制を問い直す―金銭解決の制度設計』(2018年,有斐閣)において完全補償ルール型の金銭解決制度を提唱していますが,それが当面は難しいのなら,次善の策として,ガイドライン方式を,まずは解雇で適用してみたらどうでしょうかね(前掲『人事労働法』では,207頁以下を参照)。

2024年9月19日 (木)

巨人にマジックはでたものの……

 兵庫県知事に関する話題が,連日全国のトップニュースとなっています。不信任決議が全会一致で可決されるという異常事態が発生しました(反対する議員が一人くらいいてもおかしくないのですが)。知事は辞職せず,議会の解散に進みそうです。兵庫県民としては,知事がどうかという問題よりも,このような県政の混乱が連日全国に報道されることが恥ずかしいと感じています。なんとか早急に事態を収束させてほしいものです(県民らも,苦情の電話をかけて県庁職員を困らせるのはやめてもらいたいですね)。
 このようななか,明るい話題は,阪神が残り9試合になっても優勝の可能性が残っていることです。10日ほどまえに阪神の逆転優勝の可能性について少し検討しましたが,その時点では,残り16試合で,巨人と11敗,広島に21敗,DeNA43敗,中日に1勝,ヤクルトに21敗で,106敗くらいでは行けそうだが,結局,巨人に2連勝しなければ(したがって115敗で行かなければ)難しいと書いていました。その後,阪神は7試合進行して,広島に2勝,DeNA 11敗,中日に1勝,ヤクルトに2勝でトータル61敗と順調に勝っていき,残りは巨人と2つ,広島と1つ,DeNA5つ,ヤクルトと1つ試合が残っているという状況になりました。現在,7058敗で,事前の予想では巨人に2つ勝ったうえでの7562敗で優勝の可能性があるかと思っていました。しかし巨人もなかなか強くて,現時点で7155敗で引き分けは阪神より1つ多い状況です。昨日マジック9が出て,今日もDeNAに勝ってマジック8になりました。ただマジックはあまり関係ありません。たしかに阪神が巨人に2連勝を含む全勝をしても7958敗で,巨人が残りの10試合を阪神戦以外すべて勝てば7957敗で,勝率で阪神を上回ります。しかし,巨人が1試合でも阪神以外のチームに負けると,阪神が負けないかぎり,阪神にマジックが点灯します。巨人は阪神以外のチームにすべて勝ちきれるでしょうか。マツダスタジアムでの対広島戦が3つ残っており,そこで広島がどれだけ頑張ってくれるかがポイントとなりそうです。
 もちろん,阪神は9連勝するつもりでいかなければなりません。今後の対戦相手は,20日と21日に横浜でDeNA戦,22日と23日は甲子園で巨人戦,27日はマツダで広島戦,28日は神宮でヤクルト戦,29日と30日に甲子園でDeNA戦,103日に横浜でDeNA戦です。先発は,20日は西勇輝で,21日は青柳のようです。ここでベテラン2人が崩れれば,優勝は消えてしまうでしょう。さらに22日からの巨人戦での連勝は優勝のための絶対条件です。エースの才木と高橋で勝ちに行きます。27日の広島戦は大竹でしょう。28日はBeasley(ビーズリー),29日は村上,30日は才木,103日は高橋でいくでしょう。大混戦のセ・リーグも,いよいよ最後の直線勝負という感じになってきました。

2024年9月18日 (水)

王座戦第2局

 藤井聡太王座(七冠)に,永瀬拓矢九段が挑戦している王座戦5番勝負の第2局ですが,藤井王座が勝って2連勝となり,防衛に王手をかけました。内容は,素人には難解でしたが,先手の藤井王座が5五に桂を打ってからは優位に立ったようにみえました。最後は香の頭に角を打つという,見たこともないようなすごい手で永瀬九段を投了に追い込みました。
 久しぶりに谷川浩司17世名人のことを話しますと,あと4勝1400勝という大記録がかかっています。これまで1400勝以上は,羽生善治九段(1570勝)と大山康晴15世名人(1433勝)しかなく,谷川17世名人は1396勝で,大山15世名人の記録にあと37と近づいています。ただ最近の勝利のペースですと,あと2年はかかりそうです。そんななか,今日は王位戦の予選で,若手の徳田拳士四段に勝ちました。最後は「光速の寄せ」と言えそうな見事な寄せでした。これで1397勝であり,まずは今年中に1400勝,できれば今期中に1410勝あたりにまで伸ばしてもらいたいです。
 A級順位戦は,本日,佐藤天彦九段が,かつて名人位を奪われた豊島将之九段に勝ちました。天彦九段は3連勝,豊島九段は3連敗で,前期の名人挑戦者である豊島九段は大苦戦となっています。このほか,菅井竜也八段,稲葉陽八段も3連敗で,前にも書いたように,関西勢は厳しい状況です。佐々木勇気八段は,中村太地八段に勝って,3連勝で先頭を走っています。
 NHK杯は,注目の藤井七冠(竜王・名人)と西山朋佳女流三冠の対局がありました。結果は,藤井七冠の貫禄勝ちでしたが,これは仕方がありません。ただ,この対局で西山さんが弱かったという印象は受けませんでした。棋士編入試験に挑戦中の西山さんは,福間香奈女流五冠とも,熾烈なタイトル戦を繰り広げています。現在,防衛戦である白玲戦は,11敗です。また女流王座戦には福間女流王座への挑戦を決めています。ただ,西山さんが棋士編入試験に合格したら,西山さんの女流タイトルや女流棋戦の出場資格はどうなるのでしょうかね。女性「棋士」と「女流棋士」の両方を兼ねることになるのでしょうか。何かルールがあるのかもしれませんが,棋士になることを選択したら,女流棋士の資格を失うというほうが,すっきりしている気がします。男女の格差をなくしていくという観点からは,女流棋士が実績をあげて,将来的には女流棋士というカテゴリーがなくなるのが理想でしょう。

2024年9月17日 (火)

日本人のルーツ

 NHKの番組「フロンティア」で採り上げられていた「日本人とは何者か」を観ました(昨年の番組の再放送のようです)。面白かったです。次世代シークエンサという技術が開発され古代DNAの調査ができるようになり,日本人の起源について驚くべき発見があったようです。近年の話題書であった篠田謙一『人類の起源』(中公新書)のなかでも,この解析手法が次々と新たな発見をもたらしていることが紹介されていました。同書でも日本人のルーツについて言及されていて,まず縄文人がいて,その後に弥生人が渡来して融合したという「二重構造説」が盤石ではないことが書かれてたと思います。NHKの番組は,これを発展させ,とくに金沢大学の覚張隆史氏らの「三重構造説」がメインで採り上げられていました。同氏の研究グループのプレスリリースのサイトが見つかったので,重要なところを引用しておきたいと思います。
 「まず,先史時代における文化の転換に伴うゲノム多様性の変遷を評価しました。その結果,縄文人・弥生人・古墳人と時代を追うごとに,大陸における古人骨集団との遺伝 的近縁性が強くなっていく傾向が示されました。つまり,弥生人や古墳人は大陸集団に由来する祖先を受け継いでいると考えられます。一方,縄文人は大陸集団とは 明確に異なる遺伝的特徴を有していることが示されました。さらに,縄文時代早期の上黒岩岩陰遺跡のゲノムデータを用いてシミュレーション解析を行った結果,おおよそ20,00015,000 年前に縄文人の祖先集団が大陸の基層集団から分かれ,その後,少なくとも縄文早期までは極めて小さな集団を維持してきたことが示されました。そして,渡来民による稲作文化がもたらされたとされている弥生時代には,北東アジアを祖先集団とする人々の流入が見られ,縄文人に由来する祖先に加え第 2 の祖先成分が弥生人には受け継がれていることが分かりました。しかし,古墳人には,これら 2 つの祖先 に加え東アジアに起源をもつ第 3 の成分が存在しており,弥生時代から古墳時代に見られた文化の転換において大陸からのヒトの移動及び混血が伴ったことがわかりました。これら 3 つの祖先は,現代日本人集団のゲノム配列にも受け継がれています。以上のことから,本研究は,パレオゲノミクスによって日本人ゲノムの『三重構造』を初めて実証しました。」
 三重構造説は,古墳時代に東アジアの多様な地域から人が渡来し,それが現代の日本人の多くの先祖となっていることを,遺伝子から明らかにしているのです。
 この番組でもう一つショッキングであったのは,縄文人の起源について,実はタイのマニ族との遺伝的な近縁性があるという点です。アフリカから出たホモ・サピエンスは,3手に分かれて移動していくのですが,その一つが東南アジアに到着してホアビニアン(Hoabinhian)となり,そこにあとからやってきた農耕民族に追われて,北海道に到着したのが縄文人だというのです。ホアビニアンの末裔であるマニ族との遺伝的な近さは,こうした歴史を示しているそうです(縄文人の遺伝子は,モンゴルや中国の人の遺伝子との共通性はないそうです)。縄文人とマニ族とは,顔はまったく違うし,外観からは,どこにも共通性を見いだせないのですが,遺伝子レベルでみると近い「親戚」なのです。皮膚の色や顔の形などで人間を区別することの無意味さがわかります。
 縄文人は,決死の覚悟で北上し日本列島にたどりついたのでしょう。私たちも,その遺伝子を一部は引き継いでいるのです。その上に二層にわたる遺伝子が上乗せされているのが現代日本人です。私は,日本人の特徴は,縄文人的な好奇心と冒険心,弥生人的な安定志向,そしてその後の雑多な背景をもつ渡来人が融合するなかでの文化的な弾力性や創造性というのが,私たちの特徴ではないかと勝手に解釈しました。
 日本人が漢字からひらがなやカタカナを創造したことも,あるいは,明治維新のように,和文化どっぶりの鎖国時代から,180度急転換して西欧文化を(ある意味では無節操に,しかし貪欲に)取り込み,その後,独自の日本的な文化をつくりあげたというのも(法文化も実はその一つです),まさに日本人の特性によるものかもしれません。三重構造説は,私たち日本人に,勇気と夢と誇りを与える研究成果だと思います。

2024年9月16日 (月)

所得税の源泉徴収廃止提案について考える

 河野太郎氏が国民全員に確定申告を義務づけ,源泉徴収を廃止する提案をして話題になっています。現在,源泉徴収されている会社員が全員確定申告を行うようになると,税務職員の負担が増すという反対意見もありますが,全員がe-Taxを利用すれば,負担はそれほど増えないのではないかと思います(マイナンバーカードも,もっと広がるでしょう。返納したような軽率な人は後悔しているのではないでしょうか)。むしろ,気にすべきことは,現在の制度における企業の負担です。年末調整の事務料は半端ではないでしょう。今年の定額減税でも,大変だったのではないでしょうか。
 納税者の負担も指摘されていますが,これまで確定申告をしてこなかった普通の会社員であれば,申告はシンプルに行えるはずです。慣れれば,パソコン上で15分ほどで終わると思います。私のように原稿料などの雑所得がある場合は,それを手作業で入力する必要がありますが,手元に源泉徴収票があれば,時間はそれほどかかりません。私はパソコンで申告していますが,スマホを使えばもっと簡単にできるかもしれません(実際には試したことがないので何とも言えませんが)。
 
副業が一般化し,フリーランスになることが増えると予想されるなか,若者は今から確定申告に慣れておいたほうがよいでしょう。確定申告を導入すると,未納者が増えることが懸念されていますが,これは国のサービスを受けるためには税金を支払うことが当然であるという教育を子供のころからしっかり行うことで改善を図るべきことがらです(ちなみに自民党の裏金問題は,所得税の未納問題に関係しています。日本という国のことをほんとうに考える保守政治家であれば,自身の納税がクリアにすることは最低限の義務でしょう)。
 確定申告すると,自分たちの払った税金がどう使われるかに対する意識も向上するはずです。所得控除や税額控除の項目については,その背景にどのような政策的意図があるかを探るのも勉強になるでしょう。政治への関心も高まり,そうなると民主主義の活性化につながるかもしれません。
 もちろん,将来的には,納税が自動的に行われ,確定申告も不要となる時代が来るかもしれません。これについては,費用の控除は自動化できないという意見もありますが,AIが自動的に算定し,異議がある人だけが申告するという方法も考えられます。現在でも,給与所得控除において概算的な費用計算が行われているため,費用計算の自動化はそれほど突飛な発想ではないと思いますが,いかがでしょうか。

2024年9月15日 (日)

ボノボから学ぶこと

 AIについて考えると、最終的には「人間とは何か」という問いに行き着きます。これを生物学的に考えると、ホモ・サピエンスと類人猿の違いに注目することになります。そこで浮かび上がるのが、チンパンジーとボノボです。両者は私たちホモ・サピエンスとは,98%以上同じDNAをもっています。しかし、社会的行動や性格には大きな違いがあります。
 ミツカン水の文化センターのサイトに掲載されていた,古市剛史氏(京都大学霊長類研究所教授)のお話「ヒトが『ボノボ』から学ぶこと 〜コンゴ川を渡った平和主義者たち〜」は、こうした違いに焦点を当てており、非常に興味深い内容です。
 チンパンジーは社会的な動物ですが、その社会構造は攻撃的だと言われています。群れの中で力関係が厳しく、特にオス同士の争いが頻繁です。古市氏によれば、これはメスの発情期間が短いことと関連しています。メスは56年間で約60日間しか発情せず、この限られた期間を巡ってオス同士の競争が激しくなるのです。
 「群れの中で最上位のオスになれば、メスを独占できるため、チンパンジーのオス同士の順位争いは熾烈です。他のオスを殺して競争相手を減らすことさえあります。また、幼いオスが殺されることも多く、1歳前後で突然オスに襲われ、命を落とすこともあります。」
 これは非常に厳しい社会です。このような環境では、協力よりも競争が優先され、対立が生まれやすくなります。
 一方で、ボノボは非常に平和的で協力的な社会を築いています。古市氏によると、ボノボのメスも出産後34年間は排卵が再開しませんが、発情だけは出産から約1年後に再開するそうです。これを「ニセ発情」と呼ばれ、この現象のおかげでボノボはチンパンジーに比べて性交渉が810倍多く可能となります。その結果、オスは他のオスを殺す必要がなくなり、メスに気に入られることこそが重要になります。ボノボの社会はメスが主導し、オス同士の対立が少なく、より平和的な環境が形成されているのです。
 この違いは、チンパンジーがコンゴ川の北の厳しい生存競争がある環境に生息する一方で、ボノボはコンゴ川南の食糧が豊富な地域に住んでいるという環境の違いに起因しているようです。
 古市氏は、ボノボとチンパンジーの社会の違いをみたうえで,ヒトの社会が平和的になるためには、「女性がイニシアティブを握るしかない」と述べています。女性が社会の方向性を決める力を持つようになれば、今とは全く異なる社会が実現するだろうと考えています。
 私たちとほぼ同じDNAをもつボノボが,共感と協力を大切にし、平和な社会を実現していることは示唆的です。もちろん、ボノボ型社会には,たとえば有事に対してはきちんと対応できるかといった懸念はあるのですが、それでも学ぶべき点は多いと思います。もちろんオスやメスという生物学的な分類に意味があるのではありません。むしろ平和な社会を実現するためには,どうすればよいかという観点から,メス型社会の特徴をみることが大切だということです。

2024年9月14日 (土)

下山事件

 1949年は,戦後日本の方向性が決まる重要な年であったと思います。194812月に「経済安定9原則」が出され,翌年にアメリカから銀行家のDodgeがやってきて,いわゆる「ドッジ・ライン」(Dodge line)が発表されました。日本経済の安定と自立化が目的とされ,1ドル360円という単一為替レート(円の過小評価による大幅な円安といえるか,実勢を反映したものかは議論があるようです)の設定がその代表ですが,さらに緊縮財政を進め,政府からの財政出動が抑制された影響も大きく,公共事業や政府からの発注に依存していた企業は経営が悪化し,大企業でも人員整理が進められて,社会不安が広がりました。そのようななか,労働組合法の改正がなされています。終戦直後から,ニューディーラー(New Dealer)たちにより進められた労働組合改革は,1948年のマッカーサー書簡に基づく芦田均内閣の政令201号(公務員の争議行為の禁止)あたりから方向転換がなされます。GHQ内のウィロビー(Willoughby)らが率いるG2(参謀第2部)とケーディス(Kades)らが率いるGS(民政局)の対立も関係しており,東西対立による冷戦がしのびより(1949年は,NATOが誕生したり,中華人民共和国が建国された年でもありました),反共を担当するG2の影響力が高まりつつあるなか(ケーディスは,鳥尾鶴代子爵夫人との不倫スキャンダルで失脚します),労働組合法はかなりの改正を受けました。当初の改正案はより抜本的なものを含んでいたので,それに比べれば小粒にはなりましたが,それでも当初の統制的なものから,現在にも続いている内容へと,かなりの改正がなされました。
 1949年は下山事件を始めとする国鉄における3大事件(あとは三鷹事件,松川事件)があった年でもあります。同年75日に,同年6月1日に公共企業体となったばかりの日本国有鉄道の初代総裁の下山定則氏が轢死した事件は,いまなお誰がどのような理由で殺したか(自殺説もあります)がはっきりしていません。国鉄も大規模なリストラを打ち出しており,それに反発する労働組合や左翼勢力が行ったとする説(なお,公共企業体での争議行為を禁止することなどを含む公共企業体労働関係法が,国鉄誕生と同時の同年6月1日に施行されており,労働運動への締付は強まっていました。なお,公共事業体である三公社が民営化した現在でも,この法律は,行政執行法人の労働関係に関する法律として生きながらえています),反共政策に利用するためにGHQG2)が仕組んだとする説,国鉄をめぐる膨大な利権の背後にある贈収賄に批判的な下山氏が利権を守りたい勢力(政治家,経済人ら)によって始末されたとする説など,いろいろあります。
 ところで,先日紹介した,安倍元首相の暗殺事件を素材にした小説『暗殺』(幻冬舎)の著者である柴田哲孝の『下山事件 最後の証言(完全版)』(2007年,祥伝社)は面白かったです。上に書いたことも,この本から得た情報が多いです。下山事件に関する書籍は,松本清張の『日本の黒い霧』をはじめ,汗牛充棟ですが,この本の特徴は,事件の舞台の一つになった亜細亜産業が,著者の祖父が働いていた会社であり,その祖父が下山事件に関与していた疑いがあったということです。柴田氏は,自分の家族の真実を知るためにも,事件の解明に執念を燃やします。いろいろと仮説を立てながら,それを検証するために,自分の母や伯母などの親族へのインタビューを含め,膨大な証言を集めていて,迫力のある内容となっています。
 政治的には,下山事件が起きたころは,G2と近い吉田茂の第3次内閣のときでした。この本を読んでいると,下山事件の背後に吉田茂やその「弟子」であった佐藤栄作がちらつきますし,満州鉄道の関係者もちらつきます。また張作霖が爆殺された奉天事件と下山事件の類似性など,日本史や日中史を知るうえで興味深いことも出てきます。最後には,名前は伏せられていますが,本当の黒幕は誰であったかが示唆されています。私は,それは有名な大物経営者ではないかと推察していますが,そうだとすると,著者も推測だけでは書けなかったのでしょう。
 多くの登場人物が出てきて大変なのですが,それだけ情報が豊富であるということであり,一読の価値はあるでしょう。

2024年9月13日 (金)

自民党の解雇規制論争に望みたいこと

 自民党総裁選に出馬した小泉進次郎氏の「聖域なき規制改革」は,お父さんの小泉純一郎元首相の「聖域なき構造改革」を真似ているだけかもしれませんが,改革という姿勢自体は評価できます。さらに,その勢いで解雇規制に踏み込むことも結構ですが,無謀な斬り込みによってあっさりとかわされ,討ち取られるような結果になっては困ります。
 解雇規制の「緩和」という話になると,これまでの規制改革論が一気にかき消されてしまう可能性があります。私は法学者の中でも解雇規制の「改革」に前向きな論者の一人であると自負していますが,決して規制「緩和」論者や「自由化」論者ではありません。解雇規制の論点はすでに出そろっており,単純な緩和や自由化といった議論にはなりません。政治家にはまず十分に勉強してから議論を進めてほしいと願います。おそらく小泉氏にはそれが難しいでしょうから,少なくとも周囲にいるブレーンたちがしっかり理解し,助言することが求められます。

 解雇の自由化を主張するならば,たとえばアメリカのように原則として解雇を自由とする制度が一応は考えられます(ただし,差別的解雇は除外されます)。もしその立場を取るなら,それは一つの見解ですが,日本ではそのような主張は受け入れられないでしょう。アメリカ型を提案しないのであれば,どのような解雇規制を採用するのか,具体的に示さなければ議論は空回りしてしまいます。金銭解決についても,数日前に書いたように,事前型か事後型かによって制度設計は大きく異なります。解雇の予測可能性が欠如していることが問題であるならば,それは解雇の要件に関することなのか,雇用終了コストに関することなのか,もしくはその両方なのかによって議論が変わってきます。
 また労働力の流動化が求められているのなら,自発的な移動を促す政策をとるべきであり,必ずしも解雇規制を変更する必要はありません。私は,これは政策の一貫性の問題であると考えています。現行の雇用調整助成金と解雇規制は雇用維持型の政策ですが,雇用流動型の政策に転じる場合,雇用調整助成金は緊急時のみに限定し,解雇については差別的・報復的な解雇を除き,一定の金銭補償によれば労働契約を解消できるという解雇規制を採用する必要があります。労働市場の流動化に関しては,岸田政権の改革にも評価できる部分がありましたが,解雇の問題に踏み込まなかった点で腰が引けていたという印象です。
 解雇規制の議論を深めていくと,最終的には私たちが提唱している完全補償ルール型の解雇規制に行き着くと考えています。このルールのもつメッセージは,「不当な解雇は無効」ということではなく,「解雇をしたければ,企業は十分な補償をしなければならない」というものです。これは法的には「十分な補償をしない解雇は無効である」ということと同義ですが,ニュアンスはかなり異なると考えています。
 解雇には「許されない解雇」と「許されうる解雇」があります(これについては,『解雇規制を問い直す―金銭解決の制度設計』(2018年,有斐閣)の序章を読んでください)。後者は,解雇の理由は正当であっても,企業側には「許される」ためにさらに充足すべき要件があるというのです。現在の解雇ルールでは,その要件が明確ではありません。客観的合理性や社会的相当性といった要件は不明瞭であり,とりわけ整理解雇では4要素の総合判断となって,裁判の結果の予測が難しいです。労働者が解雇によって被る損害(逸失賃金)を完全に補償すれば,解雇は可能となるというルール(完全補償ルール)を導入すれば,解雇の要件と雇用終了コストの双方が明確になります(補償額は勤続年数に応じて算出され,政府の統計資料に基づき適宜改定されることが想定されています)。
 現行の制度下でも労働審判などで金銭解決が行われているから,あえて金銭解決制度を導入する必要はないという意見もありますが,これは解雇に関する法的原則と実態との乖離を放置するもので,法律家としては看過できません。こうしたギャップは労働者や中小企業経営者のように交渉力の低い側に不利に働きがちです。中小企業では労働組合が組織されていないことが多いため,従業員が不当に弱い立場に置かれるという意見もあり,そうした実態が完全にないとは言い切れませんが,労働問題に不慣れな中小企業経営者が,戦う労働組合であるコミュニティユニオンに対して交渉力で劣位に立つケースも存在することを指摘しておきたいです(これは,経営者は労働組合法を学ぶべきだ,という話にもつながり,拙著の宣伝となっていくのですが)。
 いずれにせよ,どのような具体的な解雇規制を考えているのかを明確にし,その上で議論を進める必要があります。無責任な規制緩和論がなされていくと,真の解雇規制改革論の展開可能性が潰されてしまう危険があります。かつて日本型ホワイトカラー・エグゼンプションが,野党からの批判にきちんと反論できず挫折し,その後何年もかけて高度プロフェッショナル制度として実現したものの,本来必要とされていた本格的なエグゼンプションとはほど遠いものとなってしまったという失敗を繰り返してはならないのです。

 

 

2024年9月12日 (木)

三菱重工長崎造船所事件・最高裁判決

 後期のLSの授業は,労働時間のところから始まります。労働時間の概念ということで,まずは三菱重工長崎造船所事件の最高裁判決を扱うことになるのですが,これまでは最高裁の事実認定を確認し,判旨の内容(労働者上告と会社上告の判決がありますが,主として前者を扱います)を検討していました。ただ,いつも同じことをやっていたら飽きてしまうので(学生は毎回新しく判決をみるので飽きはしないでしょうが),もっと事実関係に深く迫るようなこともできたらなと思ったりもします。
 言うまでもなく,長崎造船所は,江戸幕府が建設したものを明治政府から三菱が払下げを受け,その後,造船大国日本を支える造船所となりました。そういう歴史的な事業所で起きた労働事件となると,学生の見る目も少し変わってくるかもしれません。
 私の本棚に眠っていた鎌田慧『ドキュメント労働者!19671984』(1989年,ちくま文庫)を引っ張り出すと,そこには「反合理化闘争―三菱重工業長崎造船所」という章があります。長崎造船所の第3組合である三菱重工長崎造船労働組合(長船労組)のことが書かれています。長崎造船所には,このほか全日本造船機械労働組合三菱重工支部長崎造船分会(長船分会・第1組合)と全日本労働総同盟全国造船重機械労働組合連合会三菱重工労働組合長崎造船支部(重工労組あるいは長船支部・第2組合)とがありました。第2組合は,第1組合から1965年に分裂して誕生し,第3組合はそれとは別に1970年に結成されています。第2組合が従業員の圧倒的多数を組織する組合です。上記の最高裁判決は,第3組合の長船労組の組合員が提訴したものでした。ちなみに,私の『最新重要判例200労働法(第8版)』(2024年,弘文堂)では,三菱重工長崎造船所事件が,この労働時間に関する事件(第98事件)以外に2つあります。1つは政治ストの正当性が問題となったもので,これは第1組合(長船分会)の組合員が訴えたものです(第164事件)。もう一つは,ストライキのときの賃金カットの範囲が問題となったものであり,こちらは第3組合(長船労組)が訴えたものです(第168事件)。また計画年休の労使協定の効力が問題となった福岡高裁の事件(第113事件)でも,原告は長船労組(そのときの名称は,全国一般労働組合長崎地方本部長崎連帯支部長崎造船分会)の組合員でした。長船労組は,しっかり日本の労働法の歴史に名を刻んでいるといえるでしょう(その後,2013年に組合員の従業員がいなくなり解散したという情報が掲載されているブログをみつけました)。この判決について,石川源嗣氏の『労働組合で社会を変える』(2014年,世界書院)は,はしがき(10頁)で,次のように書いています。
 「2000年に最高裁が初判断し,確定した『作業着への着替えも,労働時間』との長船労組提訴の判例は『労働者が始業時刻前及び終業時刻彼の作業服及び保護具の着脱等に要した時間が労働基準法上の労働時間に該当するとされた事例』として,いまでも実際に活用している。私たち以外でもこの判例による恩恵を受けている全国の労働者と労働組合は多いと思う。」
 中卒出身者のブルーカラーは,社内では身分差別を受けていました。会社に恭順の姿勢を示すこともできたでしょうが,出世を諦め,労働運動に身を投じて,労働者の権利擁護と地位向上に取り組むことを選択した組合員が,第3組合を支えていました。会社が打ち出した労働時間に関する管理の見直しは合理的なものであったかもしれませんが,組合員らには,奴隷的な労働のなかのささやかな息抜きでもあった従来の緩い労務管理からの決別のように思え,それへの抵抗に全力で取り組んだということでしょう。労働時間だけでなく,就業規則の不利益変更,労使慣行の効力,一般的拘束力の否定などは,法的な概念をまといながら,そのなかには労働者の必死の訴えがあったのかもしれません。
 それはともかく,上記の最高裁判決では,当初は就業規則で,始終業時刻とされる時間に,どのような状況でいなければならないかなどが具体的に定めていなかったときに,現場でこのあたりが妥当であろうという感じで続けられていた運用方法(の一部)が,裁判所の判断する客観的な労働時間概念に照らして妥当であったと認められたものです。そういう観点から見ると,結果としてではありますが,労使自治で決めたルールは,それなりに合理性があったということです(もちろん,これは結果論で,ただちに中核的活動以外の周辺的な部分は合意や慣行で決めてよいとする2分説が支持されるわけではないのでしょう)。こうした労使間の不文のルールを,就業規則で明文化して変更していこうとすると,どうしても紛争が起きてしまうのであり,これは労働委員会に持ち込まれる事件にも,しばしばあるパターンです。
 判例の形成という点では,労働組合が裁判に持ち込んでくれるのは有り難い面があるのですが,そうなると長い時間とコストがかかり,とくに労働者側に多くの犠牲がのしかかるように思います。一般論として,不文であっても既存のルールを変更しようという場合,経営側は労働側としっかり話し合って,できるだけ紛争にならないようにするのがベストだと思います(ストライキのときの賃金カットの範囲については,逆に,労使慣行とは関係なく,賃金2分説という法理論で労働組合は戦い,高裁まで勝っていましたが,最高裁で敗れました)。

2024年9月11日 (水)

生成AIの限界と人間の素晴らしさ

 ChatGPTなどの生成AIの発展は目覚ましいですが,エネルギー効率の点では,人間の脳にはかないません。日本経済新聞のやや昔の記事で,「脳にある神経細胞の動作を模した機械学習モデルをシミュレーションすると,コンピューターは約800万ワットの電力を消費するが,人の脳は約20ワット,つまり40万分の1の電力消費で済む」ということが紹介されていました。20ワットというのは,ご飯1杯か2杯分のエネルギー量で,これだけで脳は高度な情報処理を行っているのです。
 AIが膨大な電力を消費することは明らかで,その点ではエコとは言えません。もちろん,AIは節電などの効率向上に役立つのですが,やはり生成AIの莫大な電力消費量は大きな課題です。再生可能エネルギーの拡大や核融合発電の実用化が進まなければ,AIの大規模な導入は環境に負の影響を与える面がどうしても気になり,手放しでは賛同しにくいことになります。
 このことは,人間の脳の素晴らしさを浮かび上がらせることにもなります。やはり人間の能力は凄いのです。もちろん,AIと人間の間には情報処理量という点で大きな差があります。AIはインターネット上の膨大な情報を高速に処理できるため,その点では人間より圧倒的に優位です。しかも,AIの欠点とされる,そのエラーも,多くの場合,人間のエラーを反映したものです。人間は誤解,見間違い,聞き間違い,言い間違い,記憶違いを頻繁に起こします。AIのエラーも,人間のエラーを反映したデータで学習したものといえるのです。特に人間は高齢になるとエラーが増えますので,AIのことを批判はできないでしょう。本当に重要な作業はAIに任せるべきではないのですが,それは人間の高齢者に責任ある作業を任せるべきでないのと同じです。
 このようにみると,AIは人間を凌駕する面もありますが,人間の不完全性を投影した存在でもあるし,また人間の素晴らしさを再発見させてくれる存在でもあります。私たちの課題は,こうしたAIとどのように付き合っていくかです。電力問題は,AIと人間の協働の未来を切り拓いていくうえで,とても重要な意味をもっているように思えます。

2024年9月10日 (火)

いろいろ(将棋,相撲,阪神)

 西山朋佳女流三冠の棋士編入試験が始まりました。棋士番号が大きい,四段に成りたてのバリバリの若手棋士5人が試験委員です。3勝したら合格です。初戦は,高橋佑二郎四段との対局でしたが,見事に勝利をおさめました。西山女流三冠は振り飛車一本です。後手番でしたが,最後は角捨ての強気の攻めで切り込み,相手も必死の防御で反抗しましたが,追いつきませんでした。史上初の女流棋士の誕生の予感をさせるような勝利でした。次の日曜には,NHK杯では藤井七冠とも対局しています。収録は終わっているはずですが,その対局も楽しみです。
 大相撲の九月場所が始まりました。関脇に陥落した貴景勝は,力なく2連敗で今日から休場です。このまま引退になる可能性が高いのではないかと思います。よく頑張ったので,ゆっくり身体を治して,第2の人生を歩んでほしいです。大の里は順調に3連勝です。他の力士とは実力が違う感じがします。ところで今日の結びの一番の琴櫻と猿飛の対戦は疑惑の一番となりました。最初は両者同体ではないかと思いました。猿飛の身体も飛んでいましたが,Videoでは琴櫻のほうが早く落ちていました。猿飛が死に体であったわけでもありません。少なくとも物言いがつくべき一番だったでしょう。照ノ富士の引退が近く,新しい横綱をつくりたいという協会の気持ちはわかりますが,露骨なことをやると,ファンが減るでしょう。辛口コメントで有名な貴闘力がどう言うか楽しみです。
 阪神は,勝負の7連戦が始まりました。まずはDeNAとの3連戦です。予想どおり,青柳と東の先発でした。途中でスコールがあって足場が悪くなった青柳が打たれて逆転されたときはいやな予感がしましたが,今日の阪神は粘り強かったです。ムードメーカーの森下が打って雰囲気が変わり,最後はゲラと岩崎を温存しながら快勝しました(森下は,守備でも好返球でチームを救いました)。もちろん油断ができるわけではありませんが,まずは今シーズン12勝2敗の東を打ったことで,一つの山を超えました。巨人と広島の首位決戦は,巨人が先勝しましたので,首位巨人とは2.5ゲーム差のままで,2位の広島とは0.5ゲーム差となりました。広島は息切れ気味ですが,ここから盛り返せるでしょうか。4位のDeNAと阪神の差は3ゲームとなりました。

2024年9月 9日 (月)

公益通報者保護法の精神

 全国ニュースでも報じられているように,兵庫県の斎藤元彦知事に関する問題が大きく取り上げられています。前回の選挙で知事を支援した日本維新の会も,辞職勧告を行う方針のようであり,政治的には知事はかなり危機的な状況にあると思われます。しかし,不信任決議までは至っていないため,県議会が本気で知事を追い詰める意図があるのか,単に抗議のポーズを取っているだけなのかは明確ではありません。いずれにせよ,来年には知事選が控えているため,県民の関心は次の知事が誰になるかという点に移っていることでしょう。斉藤知事も候補に挙がるでしょうが,現在の県民の大多数は新たな知事の誕生を求めているのではないかと思います。名前が挙がっている人物としては,前明石市長の泉房穂氏,加古川市長の岡田康裕氏,芦屋市長の高島崚輔氏,西宮市長の石井登志郎氏などがいます。さらに,神戸市長の久元喜造氏や,前回の選挙に出馬した元副知事の金沢和夫氏も候補になるかもしれませんが,斎藤知事誕生の背景には井戸県政への批判があったため,井戸氏に近かった久元氏や金沢氏はやや厳しいかもしれません(本人たちも,その気はないでしょう)。
 斎藤知事に関する問題では,最近,公益通報に焦点が当たっているようです。実はちょうど1カ月前,某国営放送の取材で公益通報者保護法についてテレビカメラの前でインタビューを受けましたが,まだ放映はされていません。もしかしたらお蔵入りになるかもしれませんので,その際に私が話した内容を少しだけ共有したいと思います(以前に,このテーマでは,公務員の公益通報という観点から,少し書いたことがあります)。
 
公益通報者保護法は,世間ではあまり理解されていない法律の一つです。マスコミもこの法律について十分な知識がないまま報道しているように見えますし,県の関係者や百条委員会で追求している議員たちも当初はあまり理解していなかったように思えます。この法律は内閣府(消費者庁)の所管ですが,消費者行政に限定されないコンプライアンス全般に関わるものであり,かつその内容は,労働者保護が中心となっています。そのため,どの分野の研究者が,この法律の専門家であるのかわかりにくく,マスコミも誰に話を聞けばよいのか,よくわかっていなかったようです。
 
公益通報者保護法は,労働者等が公益通報をしたことによる報復的な不利益扱いを禁止する法律です。もちろん解雇や懲戒などの人事上の不利益があれば,通常の労働法の法理が適用されるので,それによって通報者は保護されます。公益通報者保護法の存在意義は,通報者に対して,どのように通報すれば確実に保護される(されやすい)かを明確に示す点にあります。企業内の就業規則(秘密保持義務など)に違反するリスクがあっても,保護の要件が明確になっていることで,通報者が安心して通報できるよう背中を押す効果が期待されているのです。
 
この法律の最も重要な点は,通報先に応じて保護要件が異なるということです。組織内への通報(内部通報)は要件が緩く,組織外への通報(外部通報)は厳格になります。これにより,労働者が内部通報を選ぶよう誘導されているのですが,組織が適切に対応しない場合には,外部通報も保護される仕組みになっています。このように,組織がその違法行為に対して自浄作用を発揮し,自分たちでコンプライアンスを実現できる態勢を整備するよう促すのが,公益通報者保護法の最も重要な目的なのです。
 そのことを踏まえると,通報を受けた組織は,まず通報内容を精査し,コンプライアンス向上に生かすべきです。外部通報した通報者を処分するかどうかは,公益通報が法の保護要件に該当せず,一般の解雇法理や懲戒法理などの要件にも合致しないことを確認して,最後に考慮すべき事項です。少なくとも図利加害目的がなく,組織の改善につながるような通報であれば,公益通報者保護法の要件に充足するかどうかに関係なく,一定の保護はされるべきでしょう(懲戒処分をするにしても,軽い処分にとどめるなど)。
 今回の事件については,インタビュー時点では事実確認が不十分であり,私自身の発言はあくまで一般論として断って語っていますが,県の対応に疑問の余地はありうるということは語っています。少なくとも真実相当性(外部通報の場合の保護の要件の一つ)は,組織側のことではなく,通報者側のことであり,うわさ話を集めたというのは,発言の所在をぼかすために述べたものにすぎず,それだけで通報者に真実相当性がなかったと即断するのは不適切です。
 そもそも,公益通報者保護法については,通報者が保護要件に満たされる通報をしたかどうかが問題なのでありませんし,保護要件を満たさない通報者を処分するための法律でもありません。条文だけみるとそうみえなくもないのですが,法の趣旨はそういうことではなく,通報を受けた組織がコンプライアンスのために対応をすることにこそ主眼がある法律なのです(直近の法改正で,公益通報対応業務従事者の設置を義務づけているのも,このような趣旨です)。インタビューでは,このような公益通報者保護法の「精神」を強調しました。

2024年9月 8日 (日)

阪神の逆転優勝はあるか

 1週間前には,阪神タイガースの優勝は無理だろうと諦めていたのですが,1週間経つと,首位巨人と2.5ゲーム(2位広島と1.5ゲーム差)となり,射程圏内に入ってきました。こういうことを書いていると,今日は阪神は負けてしまいましたが……。
 残り試合は巨人より3試合少なく,広島より6試合少ないので,実際には,巨人とは4ゲーム,広島とは4.5ゲーム差くらいに考えておいたほうがよいのかもしれませんが,広島の対戦相手をみると,何ともいえないところがあります。少なくとも9月に入っても期待できる状況があるというのは,暗黒時代を知っているファンとしては,幸福なことです。
 残り試合をみると,阪神は巨人とは2試合,広島とは3試合しかないので,直接対決で逆転をめざすのは難しい状況です。DeNAとは7試合,中日とは1試合,ヤクルトとは3試合ということで,今期ほぼ五分の戦いをしているDeNA戦が鍵となります。阪神側の都合良い星勘定をすると,巨人と11敗,広島に21敗,DeNA43敗,中日に1勝,ヤクルトに21敗で,106敗あたりは期待してもよいでしょう(7463敗)。
 一方,巨人は,広島と6試合,阪神と2試合,DeNA5試合,中日と3試合,ヤクルトと3試合です。広島と33敗,阪神と11敗,DeNA32敗,中日と21敗,ヤクルトと21敗となると,118敗となります(7661敗)。これでは阪神は届かないので,やはり阪神は巨人に連勝しなければならなくなります。そうなると,7562敗で並び,直接対決の戦績から阪神が上回ります。
 問題は広島で,残りは,巨人と6試合,阪神と3試合,DeNA3試合,中日と3試合,ヤクルトと7試合となっています。巨人と33敗,阪神に12敗,DeNA21敗,今期苦手の中日に12敗,一方,今期お得意様のヤクルトに52敗とすると,1210敗となります。そうなると7563敗となります。
 阪神は,910日から甲子園7連戦があります。DeNA3試合,広島と2試合,ヤクルトと2試合です。中6日で先発を回すとすると,10日のDeNAの初戦は青柳を1軍に上げて先発させるでしょう。11日は村上,12日は大竹,13日は高橋(おそらく相手投手は床田でしょう),14日は才木(おそらく相手投手は大瀬良でしょう),15日は西勇輝(今日の敗戦で微妙ですが)とくるでしょう。問題は16日の先発です。足の状態が大丈夫ならビーズリー(Beasley)でしょうが,もし無理なら,伊藤将に賭けるか,門別,及川で行くか。あるいは先発もできる富田蓮で行けるとこまで行って早めの継投作戦をとるか,ですね。18日のバンテリンドームでの中日戦も重要で,ここで今期中日戦で勝利を挙げている青柳で勝負でしょう。20日と21日は横浜でDeNA戦ですが,高橋は次の巨人戦にとっておいて,10日の内容次第ですが,大竹,村上で行きましょうか。大竹を先にするのは,広島戦で投げてもらうためです。22日と23日に巨人と甲子園で最後の直接対決です。高橋と才木の左右の両エースで勝負です。そこから3日空いて27日にマツダで広島戦です。ここは相性のいい大竹の投入です。28日は神宮でヤクルト,29日は甲子園でDeNA103日の横浜でのDeNAが最終戦です。最後の3戦では,才木,高橋の2人は投げるでしょう。もう一人は熱血ビーズリーに期待したいです。もっとも,この間はドームでの戦いはほとんどないので,雨の影響はあるでしょうから,それに応じた修正は必要となるでしょう。リリーフ陣は,勝ちパターンで,石井,桐敷,ゲラ,岩崎を使い,それ以外は,島本,岡留,富田,漆原というわかりやい役割分担ができています。岩崎はしっかり休ませれば大丈夫で,桐敷は登板過多で岡田監督に潰されるという批判もあるようですが,うまく肩をケアして,なんとか頑張ってもらいたいです。
 上しかみていませんが,実は4位のDeNAも迫っています。今日,首位巨人に勝ってゲーム差は4.5となっています。残り試合も広島と同じ22試合と多く,阪神戦と巨人戦の試合も多いので,大逆転の可能性もあります。10日からの甲子園の阪神3連戦はDeNAにとっても,大勝負となるでしょう。初戦はエース東で来るでしょうし,岡田監督はここで1敗は仕方がないと覚悟しているかもしれませんが,もし彼を打って勝ててれば,阪神にとっても大逆転への足がかりとなるでしょう。

2024年9月 7日 (土)

自民党の次期総裁に期待すること

 自民党の総裁選の候補者のうち,河野太郎氏が解雇の金銭解決に言及し,さらに小泉進次郎氏が,解雇規制と労働時間規制の改革に言及したことには驚きました。労働市場改革は解雇改革をしなければいけないという点については,昨年4月に日本経済新聞の「経済教室」の「失業給付見直しと雇用流動化() 政府、人材育成に積極関与を」で,「政府が現在検討している金銭解決制度は労働者からの申し出によるものしか認めていないため、根本的な改革からは程遠い。企業の申し出によるものを認めないのは解雇誘発への懸念からだが,デジタル化に起因する雇用調整が不可避なことを無視したものだ。流動化を想定した労働市場改革論で、解雇規制改革に言及しないのは画竜点睛(がりょうてんせい)を欠くと言わざるを得ない」と書いていた私としては,論点になることは望ましいことです(さらに経済セミナー738号での太田聰一さんとの対談のなかでの私の発言も参照)。
 さらに振り返ると,いまから10年前の201465日にやはり「経済教室」の「(雇用制度改革の視点(上))経済変化踏まえ見直しを」で,解雇改革と労働時間制度改革についての提言をしています。小泉氏が,解雇と労働時間に言及したのは,10年遅れとはいえ,その間に十分に政策が進んでいなかったことからすると,むしろ必要かつ当然のことを言ってくれたという気がしています(だからといって小泉氏が総理になることを応援できるかというと,それは別の問題です)。なお,この10年間で,私の改革論はさらに「進化(?)」しており,解雇については,金銭解決について以下にみるように「完全補償ルール」を提唱し,労働時間については,労働時間規制からデジタルによる自己健康管理へという政策提言に移行しています(労働時間についての近時の私見については,さしあたり,ジュリスト1595号の拙稿労働時間規制を超えて―働き方改革関連法の評価と今後の展望を参照してください)。
 それはさておき,解雇の金銭解決については,せっかく議論をしてくれるとしても,十分にその内容がわかったうえでやってもらわなければ困ります。この議論は法的にも複雑なところがあり,政府が意図的に議論を操作誘導している面があるので,よく理解し整理したうえで議論をする必要があるのです。若干説明をしておきます。
 まず解雇の金銭解決の議論には,次の2つ(ないし3つ)のものがあることをふまえておく必要があります。
 第1は,現在の労働契約法16条について,解雇が権利濫用となった場合(正当でない場合)の効果を無効とするという部分を,使用者の一定の金銭補償を条件として,労働契約の終了を認めるというものです(事後型の金銭解決)。事後型には,労働者申立てしか認めないパターンと,使用者の申立ても認めるパターンがあり,厚生労働省は,労働者申立てしか認めないパターンについて検討しています。一方,ドイツは,労働者からだけでなく,使用者からの申立ても認められています。もちろん,申立てだけで金銭解決がなされるわけではなく,いろいろな要件が追加されます(とくにドイツでは裁判所による解消判決がなされる必要があります)。
 もう一つは,使用者が一定の金銭補償をすれば,解雇の他の要件(正当理由)を問わずに解雇ができるというものです(事前型の金銭解決)。これは言葉を換えれば,一定の金銭補償があれば解雇は正当だとするものです。たとえば,借地借家法において建物の契約更新の拒絶には正当事由が必要とされていますが,判例上,相当な「立ち退き料」が支払われることを正当事由の有力な事情としていることと似ています。
 解雇法制については,その予測可能性の低さが問題点と指摘されます。その意味は,まず労働契約法16条の解雇要件の不明確性(客観的合理性,社会的相当性)について言われるのですが,事後型はその点については直接には問題としません。ただし,金銭補償基準を明確化すれば,少なくとも雇用終了のコストの予測可能性の低さのほうは改善されます。
 一方,事前型は,解雇要件の不明確性と雇用終了コストの予測可能性の双方を解決すべく,解雇要件を金銭の支払いに置き換えようとするものです。私は2013年に発表した『解雇改革―日本型雇用の未来を考える』(中央経済社)では,要件論における明確化(事前に解雇事由を開示させ,それに則した解雇であれば基本的には有効とすることなど)と効果面における金銭解決の導入とその基準の法定を提唱していましたが,2018年の川口大司さんとの共編著『解雇規制を問い直す―金銭解決の制度設計』(有斐閣)では,事前型の金銭解決を提唱しています。そこでは,金銭補償額を,本人の将来の逸失利益(賃金センサスから推計されるもの)の全額とする(その意味で完全補償)という形で明確にするもので,さらに中小企業の負担を考えて労災保険と類似の解雇保険の創設を提唱しています。解雇規制の不明確性を取り除く一方で,労働者の生活保障のために,企業に重い補償責任を負担させ,その負担は集団保険によってカバーするという構想です。
 なお,6月21日に閣議決定された規制改革実施計画では,政府の事後型でかつ労働者申立てのみ認めるタイプの金銭解決について,反対論をふまえた調査の開始とその後の検討が書かれています。このタイプの金銭解決が認められても,実際には解決金の相場が明らかになる程度の効果しかないでしょう(その効果を過小評価はできませんが)。ただ,これは事前型の完全補償ルールとはまったく異なるもので,こちらのほうの金銭解決については,議論されそうな感じはありません。これは厚生労働省が,金銭解決の議論を勝手に(あるいは労働組合側を忖度しすぎて)矮小化し,誘導しているからです。自民党の次期総裁が,政治のリーダーシップで正面からこの問題に取り組んでもらえればと思います。生成AI後の大きな雇用改革が予想されるなか,望ましい解雇法制を用意するためには,あまり時間は残されていません。いますぐに導入できなくても,何が問題であり,どのような政策的チョイスがあるかを明らかにするだけでも,政策論義としては意味があると思います。
 なお,解雇の金銭解決について,ドイツ法の内容や日本法における客観的な議論状況について詳しく知りたい方は,山本陽大『解雇の金銭解決制度に関する研究─その基礎と構造をめぐる日・独比較法的考察』(2021年,労働政策研究・研修機構)が大変参考になります。

2024年9月 6日 (金)

王座戦

 王座戦(将棋)が開幕しました。藤井聡太王座に永瀬拓矢九段が挑む5番勝負です。永瀬九段はこれまで王座戦と相性が良く,藤井聡太が八冠を達成した際,最後の一冠が永瀬九段の保持していた王座でした。二人はよく「VS」(1対1の練習将棋)を指しているそうで,永瀬九段は年下の藤井王座を深く尊敬している様子です。永瀬九段の真摯な将棋に対する姿勢は広く知られており,年下の藤井王座(七冠)から少しでも何かを学ぼうとしているのでしょう。
 ですが第1局では,藤井王座が圧倒的な強さをみせました。先手の永瀬九段も終盤で際どい受けを繰り返しましたが,AIの評価値では藤井王座が優勢を保っていました。終盤でもAIが示す最善手を指し続ける藤井王座の姿をみると,もはや人間離れした域に達しているように思えます。
  一方,藤井名人(七冠)への挑戦権を争うA級順位戦では,関西勢が不振に陥っています。豊島将之九段は2連敗,菅井竜也八段と稲葉陽八段はそれぞれ3連敗中です。現在2連勝なのは佐藤天彦九段,佐々木勇気八段,増田康宏八段で,永瀬九段も2勝1敗とまだ挑戦者戦線に残っています。とくにA級2年目で,次の竜王戦の挑戦権をすでに獲得しており,さらに王将戦のリーグ入りも決めた佐々木八段の活躍に期待したいです。昨年は伊藤匠現叡王が大躍進しましたが,今年は佐々木八段がその役を担うかもしれません。
  B級1組では第5局が終わり,糸谷哲郎八段が4勝1敗で好調です。空き番があって3勝1敗で,近藤誠也七段と昇級組の石井健太郎七段が追っています。斎藤慎太郎八段は佐藤康光九段に敗れ,痛い2敗目(3勝)を喫しました。佐藤九段も3勝2敗で並んでいます。石井七段に敗れた羽生善治九段は2勝3敗と厳しいスタートですが,残り全勝すれば昇級の可能性はまだあるでしょう。一方,降級争いでは三浦弘行九段が1勝4敗と苦戦し,山崎隆之八段も1勝3敗と苦しい状況です。棋聖戦で藤井棋聖に3連敗してから調子を崩している感じもします。さらには,毎年昇級争いをしていた澤田真吾七段も1勝3敗と出遅れていますが,これから盛り返すでしょう。

2024年9月 5日 (木)

東亜ペイント事件・最高裁判決の先例性

 今年4月の滋賀県社会福祉協議会事件に関する最高裁判決は職種変更の事案でしたが,この判例評釈において,東亜ペイント事件の最高裁判決(拙著『最新重要判例200労働法(第8版)』(弘文堂)の第33事件)が先例として挙げられています。たとえば,ジュリスト1600号に掲載された橋本陽子さんの論考がその一例です。いくつかの有力な教科書をみても,職種変更と勤務場所の変更が「配転」として扱われ,東亜ペイント事件は配転の事案であるため,職種変更の場合にも適用可能とされているように読めます。しかし,「A」という上位概念が下位の「B」と「C」という各概念で構成されている場合,B概念に関する判例がA概念に関する判例と位置づけられ,C概念にも適用されるとするためには,やはり説明が必要でしょう。なぜなら,この場合,A概念がB概念とC概念で構成されるという整理自体が,どのような理論的根拠に基づいているのかが,必ずしも明確ではないからです。
  東亜ペイント事件の最高裁判決は,勤務場所の変更,つまり転勤に関する事案に関するものです。なかでも住居の変更を伴う転勤について下された事例判決です(なお,判決内ではこの会社の就業規則に「配置転換」という言葉は出てくるだけで,その他は「配転」という言葉は登場せず,「転勤」という言葉しか出てきません。また,事案としても営業職からの変更はないという意味で職種変更の要素がない事案で,勤務場所の変更だけが問題となっているのです)。私は,東亜ペイント事件判決は,滋賀県社会福祉協議会事件とは本来は無関係であり,もし私が答案を遠慮なく採点するなら,滋賀県社会福祉協議会事件に関する検討で何の説明もなく東亜ペイント事件を先例として持ち出すと不合格としたくなります(実際には不合格とはしませんが)。
  配転に職種変更と勤務場所の変更(転勤)が含まれるとする概念整理そのものの妥当性は否定しませんが,だからといって職種変更と転勤のもつ意味が大きく異なることは忘れてはなりません。職種変更は現代ではジョブ型やキャリアといった観点から論じられることが多く,企業の人事上の必要性と考量される不利益性の内容もそれに関するものが多いです。一方,転勤では,ワーク・ライフ・バランスなどが問題となり,考慮される不利益性の内容が職種変更の場合と質的に異なります。企業が人事異動に関する大きな権限を保有し,職種や勤務場所の決定について広い裁量をもっているのですが,法的な視点からは両者の異質性をしっかりと見極めたうえで(とくに権利濫用性についての)判断をする必要があります。
 そもそも配転に限らず,人事上の権限行使については,就業規則の(合理的な)根拠が存在するか,特約により制限されていないか,そして当該権限行使が就業規則に則して行われているか,さらにはそれを基礎づける業務上の必要性と労働者の不利益性を考慮し,権利濫用がないかなどを判断すべきものです。この判断構造は基本的にすべての人事権に共通します(もちろん,私の「人事労働法」の立場からは,納得規範を適用するため,やや異なった判断構造をとります)。そのなかで,たとえば解雇であれば解雇の特質に応じたアレンジがなされ,懲戒や出向なども同様です。職種変更と転勤も,それぞれの特質に応じたアレンジが必要です。職種変更と転勤を配転として単純に一括りにすることには,理論的な疑問が残ります。
 拙著『人事労働法』(弘文堂)では,住居の移転に伴う転勤をその他の配転とは区別し,第5章「人事」ではなく,第7章「ワーク・ライフ・バランス」の中で,労働時間や休息,育児・介護と並ぶ項目として扱っています。
 LSの授業では,学生の司法試験の受験のことを考慮して通説から離れることはできるだけ回避していますが,職種変更と転勤の違いについては私としては看過できないので,その点については説明し,東亜ペイント事件の位置づけについても私見を述べました。もちろん,司法試験では通説に基づいて記述するようアドバイスしています。
  このことは以前にも触れた内容ですが,少し気になったので,改めて書きました。

2024年9月 4日 (水)

ネットが使えない恐怖

  自宅でテレワークを行う上では,電力,Wi-Fiルーター,プロバイダー,パソコンが不可欠となっています。特に懸念しているのは電力であり,停電が発生すると非常に困りますが,数時間は電力を維持できる機器を一応備えています。ただし,実際に使用したことがないため,いざという時に使いこなせるかは不安です。大学の研究室やホテルの部屋など信環境が整ったところへ移動することは可能ですが,できればそのような事態が発生しないことを祈るばかりです。
 これまでにモデムやWi-Fiルーターが故障した経験がありますが,有線接続が可能なため,それほど心配していません。パソコンに関してもスペアがありますし,iPadやスマホも複数台持っているため,こちらも大きな懸念材料ではありません。
 先日,プロバイダーのトラブルが発生しました。原因は不明ですが,土曜と日曜はプロバイダー経由のインターネットが使えませんでした。月曜の朝に復旧しましたが,その間は非常に不安でした。プロバイダーの会社は,土日にはサポート担当に連絡できないため,この点は大変困ります。働き方改革は労働者の労働時間を確保する上で重要ですが,エッセンシャル・サービス(現代社会では,通信会社もこれに該当するでしょう)に関してはシフト制などで対応してもらわないと,利用者からするとたいへん困ります。結局,現時点でも,まだプロバイダー会社からの説明はありません。
 プロバイダー回線が使えなくても,スマホのテザリングでネット接続は可能です。しかし,NHK+やYouTubeをテレビで視聴することはできませんでした。また,4G5Gには通信量の制限があり,長時間の使用には向いていません。このような状況を考えると,Elon Muskのスターリンク(Starlink)をバックアップ用に契約すべきかと考えています。これは災害対策にもなりますが,もう少しコストが安ければありがたいです。それに,「X」(旧Twitter)には少し不信感があるため,Muskに頼るのは悔しい気もしますが,彼が良いビジネスの機会を見つけていることは間違いないのでしょうね。

2024年9月 3日 (火)

活動報告

 リクルートワークス研究所の「働き方改革後の法制度の論点を検証する」という企画における「専門家に聞く 労働に関する法制度のこれまでとこれから」というテーマのインタビューで登場しました。
 いつものように,いろんなところに展開する私の話を,ライターの方が苦労してまとめられたようです。タイトルは,「労働政策には『デジタルファースト』の発想が不可欠 AIの活用で規制から解放を」とされていました。このタイトルに示す内容が,私の話したなかで印象的だったのでしょうね。内容の細かいところは異論もあるでしょうが,これからの労働政策に関するポイントとなるところが伝わればよいなと思います。
 もう一つ,日経クロステックの電子版に本日アップされた「日本IBMと労組がAI賃金査定で和解,人事評価の在り方に一石投じる「4つの合意」」という記事のなかに,私のコメントがでてきます。詳しい私の見解は,前にも書きましたように「ビジネスガイド」に連載中の「キーワードからみた労働法」で解説するつもりです。
 またこれも前にも予告していたように,社労士TOKYOの最新号(525号)で,「職種限定合意の配転をどうするか―滋賀県社会福祉協議会事件の最高裁判決と実務への影響」が掲載されています。こちらのほうも,さらに詳しい解説は,「キーワードからみた労働法」でとりあげるつもりです。
 9月に入って暑さは少しだけやわらぎましたが,いまは湿気に苦しめられていて,不快指数は高いです。快適に仕事をする環境をどう確保するかが大切です。やはり少しでも外出する仕事があると,その日は疲れてしまい,時間が多少残っていても,何もやる気になりません。できるだけ自宅で仕事をし,運動不足はテレビ体操などで補うという生活をしていきたいと思います。

2024年9月 2日 (月)

大学から研究者が消える?

 今朝の日本経済新聞の社説に,「若手が研究に専念できる時間を増やせ」というものがありました。これまでも大学研究者の多忙ぶりは何度も記事になっています。今回の記事では,とくに医学部のことを念頭においたことが書かれていますが,文科系にも多くの部分が該当します。大学では無駄な作業が多すぎるので,効率化や外部委託などを真剣に考える必要がありますが,現状ではマネジメントのセンスが欠如しています。最も重要なのは,研究者に必要な資源(カネ,時間など)をどのように提供するかです。研究者はもともと高いモチベーションをもっており,インセンティブをあえて提供する必要はありません。むしろ,そのインセンティブを損なうようなことを避けることが,大学の人事管理において重要です。このような視点をもつ大学がどこまで存在するでしょうか。
 現在,東大法学部の学生でも,官僚を志望する人が減っているといいます。東大卒の官僚や官僚出身の政治家が,知性のない(きつい表現で申し訳ないですが)首相に振り回されている姿をみると,官僚になる意欲を失ってしまうのも理解できます。つまり,官僚ブランドが低下し,民間企業で活躍したいと考える若者が増えているのです。知的エリート層に国を思う気持ちがないわけではないでしょう。ただ,自分が国のために何ができるかを考えたとき,官僚になることがプラスにはならないと考える人が多いということでしょう。知的エリート層が政治や行政に目を向けなくなる社会の未来は暗いものです。
 同様に,博士課程の進学者らが,大学の研究者となることを避ける可能性も危惧されます。たとえば民間の研究所やシンクタンクのほうが自分の能力を発揮できると感じる人が増えることが予想されます。これは大学教授ブランドが低下していることと関係しています。数年前から,国立大学での就職を望む研究者のなかには,「大学のセンセイになる」ことが目的で,必ずしも研究を行う動機をもたない人が増えているように思えます。国立大学が教育機関としの役割を強化すること自体は悪いとは言えませんが,それだけなら,学費の安い学校ということになるだけで,私立大学でも奨学金を充実させるよう国が助成すればよいともいえます。ましてや,国立大学で教える教授陣の研究能力が下がり,質の低下が進むと,その存在意義が失われるおそれもあります。そうなると,研究の志のある若者はますます大学の研究者になることを希望しなくなるでしょう。
 こうした動きは,もはや避けられないかもしれません。研究者を希望する人にとって魅力的な環境をどのように整備するか,それを文部官僚が頭で考えても答えはでないでしょう。研究者目線での取り組みが求められますし,文科系と理科系では状況がかなり異なることも考慮すべきです。早急にこの問題に手を付けなければ,(真の意味での)研究者が大学から消えてしまいかねません。

2024年9月 1日 (日)

「来る来る詐欺」とAIとの向き合い方

 9月になりました。明日から幼稚園,小中高は,新学期でしょう。夏休みの最後は,天気に振り回されて,宿題の完成に専念できたでしょうか。 今回の台風について,飲食店では「来る来る詐欺」と呼ばれているようです。台風が来るとの予報のせいで,次々と予約がキャンセルされ,私のよく行く飲食店のインスタグラムでも困惑する様子が見受けられました。昨日は,そんな店に行って,感謝されました。
 先週の火曜日に台風が関西に直撃すると予想されていましたが,結局,台風どころか,大雨さえも降りませんでした。九州にいったん上陸した台風が,なぜか関東に大雨をもたらせています。これだけ予報が外れると,先手を打つ対応が難しくなりますね。入学試験も影響を受けています(このため,オンラインが中心であるべきであるという,私のいつもの主張となります)。
 天候予測にはAIが活用されていると思いますが,台風に関してはデータが十分でないのかもしれません。台風の進路予測には多くの変数が関与しており,それらのデータがまだ十分でないために予測精度が上がらないのでしょう。AIに頼りすぎるのではなく,あくまでも参考資料として,様々な可能性に備えることが,AIとの正しい向き合い方なのかもしれません。これは台風に限ったことではないでしょう。
 ところで9月に入ってからの阪神タイガースの反攻は可能でしょうか。ドーム球場を本拠地としないチームは,雨天中止の試合が多く,残り試合数が増えていく傾向にあります。しかし,阪神には甲子園だけでなく,京セラドームでのホーム試合もあるため,雨の影響をある程度緩和できています。シーズン終了の日は決まっているため,最近ではほとんど見られないダブルヘッダーが行われる可能性も考えられます。投手陣に余裕のあるチームが有利となるでしょう。阪神の逆転優勝へのわずかな期待は,ここにあります。 

 

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