柔道と誤審
先のパリオリンピックで,柔道について,審判の誤審問題が連日採り上げられていて,非常に不愉快な気持ちになったのですが,よく考えると,これまでもシドニーのときの篠原の勝負の例をはじめ,誤審はよくありました。全然改善されていないのか,それとも,実は誤審ではなかったということなのでしょうか。
柔道の難しさは,日本流の正しい柔道というものが,国際スタンダードと違っており,しかもそれはルール化が難しいということでしょう。そもそも,「指導」をどのタイミングで出すかということについても,大会ごとに微妙に違っており,大会当初は審判員の間でもばらつきがあり,やがて統一されていくこともあると言われています。審判員の癖をしっかり調べたり,その大会での審判の方針を早期に分析したりしなければならず(当然,やっているでしょうが),観ているほうも,前の大会での基準で,審判員の判定を批判するということはしてはならないのでしょう。
柔道については,反則にならなければ何をしてもよいということは当てはまらないのかもしれません。上記のような日本流の正しい柔道があるということを,素人の観戦者は柔道経験者のコメントからうかがい知ることができます。しかし,実際に,日本人だから正しい柔道をしてきたといえるのでしょうか。
かつて絶対王者であった山下泰裕が全日本の選手権で遠藤純男の蟹挟みで骨折して試合続行不可能となり,引き分けとなったことがありました。現在では反則技となっていますが,当時は反則とされておらず,柔道における普通の技であったようです。ただ,遠藤が変則的な技で山下を骨折に追い込んだとして,そこまでして勝ちたいのかなという印象をもったことがあります。遠藤は,山下に勝つために,ルールの範囲内で必殺技を考えていたようです。今振り返ってみると,禁止されていないルールで勝つのは問題ないのであり,これは私たちがしばしば不満を抱く外国人選手の柔道にもあてはまるものでしょう。後に反則技になるとしても,そうならないうちは自由です(朽木倒など,組み合わずに足を狙う技などは,日本人選手からすると邪道かもしれませんが,反則にならないうちは,くらうほうが悪いというべきでしょうが,かつては外国人選手がオリンピックなどでこの技を使うことに,日本人側から批判的な意見があったと思います)。遠藤が山下に蟹挟みをしたように,ルールに反しない以上,技として認められているものはかけてよいのです。
山下・遠藤戦は,それ以外にも考えさせられることがありました。この勝負で山下は骨折して試合続行不可能とされました。負傷したのは山下なので山下が負けのはずですが,引き分けになり,山下の連勝記録(203)は,引退まで続きました。なぜ山下は遠藤戦で敗戦とならなかったのはよくわかりません。審判員は,やはり山下に負けてほしくなかったのではないかと思います。現在の絶対王者であるフランスのRiner(リネール)には,消極的な姿勢でも,なかなか指導が出ないのも,やはりRinerに,こんな相手との勝負で負けてほしくないという思いが審判員の間にもあるのかもしれません。勝手な想像ですが,柔道競技とは,そういうものかもしれません。
素人がこういうことを言うと柔道関係者に怒られてしまうかもしれませんが,専門の解説者らが審判員の問題点を指摘するのは,あまり聞いていて良い気分はせず,かえって柔道の面白さを損なっているということを関係者はわかったほうがよいでしょう。柔道は,国際大会とかに出ずに,国内の大会だけにして,日本流の正しい柔道を純化してやればよいのかなという気もしますが,いかがでしょうか。
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