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2024年8月 7日 (水)

株取引と認知バイアスと労働

 日経平均株価の歴史的な乱高下で,とまどっている人も多いことでしょう。余裕資金で運用するようにせよという忠告を聞いている人でも,これだけ急激に下がったり,上がったりということになると,やはり落ち着かないでしょう。余裕資金であるかぎり,何もせずじっとしておいたほうがよいのだと思いますが,何もしないで見過ごすというのは,心理的な負担もあります。
 もっとも,行動経済学でいう「プロスぺクト(prospect)」理論では,むしろ人々は「損切り」をしづらいと言われます。損切りは損害を確定することになり,人々はそうしたことをできるだけ先延ばしにしたがる「損失回避バイアス」があるからです。こうしたバイアスを避けて合理的な判断をするために,一定以上の下落があれば売るというルールを最初から決めておくべきという忠告を受けることもあるでしょう。
 82日と5日の下落では,自身の「損切りルール」を決めていた合理的な人は,とっとと売ってしまったかもしれません。難しいのは,「損切りルール」は,市場の乱高下のようなときにはあてはめるべきではないという点です。「損切りルール」は,個別銘柄において,業績がdownwardになっているような場合には有効なのでしょうが,市場全体が大荒れのときには,嵐が過ぎるのを待つほうがよいのです。ただ,いまが嵐なのかの判断は,普通の場合は難しいので,結局は,投資信託のプロに任せたほうがよいということになるのでしょう。
 ということで,投資信託をつかうのは,合理的な行動といえるのですが,ここでも,なかなか合理的に行動ができないのが人間です。例えば,馬券を買うときに,プロの予想屋の話を聞くのではなく,自分で馬の状態をみたり,いろんな情報を分析したりして,納得して馬券を買うことにしている人がいるように,株も投資信託に任せず,自分で銘柄を選びたいという人もいるでしょう。これは合理的な判断ではないのでしょうが,そこには「コントラフリーローディング(
contrafreeloading)」という認知バイアスが働いている可能性があります。手数料を払っているから完全にfree loadingではないのですが,やっぱり自分で苦労したいという心理が働くことが多いのでしょう。これは「労働」の意味を考えさせるという点でも深い意味がありそうですが,機会を改めてまた考えてみたいと思います。

 

 

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