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2024年8月30日 (金)

共通善の実現方法

  少し古いエッセイですが,松下良平氏(武庫川女子大学教授)が,TASC Monthlyの第551号(202111月)で「趣味は世界を道徳的混乱から救う」という興味深い随想を書かれていました。
 それによると,道徳には集団や関係に根ざすもの(共通善の尊重など)と,個人に根ざすもの(自由や権利など)の二つがあり,本来,思想や信条が異なる人々が共存する社会では,個人に根ざす道徳が基本となるべきであり,一方,家族や友人関係,地域の互助組織など「仲間」から成る共同体では,集団に根ざす道徳が基本となるべきとします。
  しかし,松下氏は,この二つの道徳が相互にその領域を侵犯しつつあると指摘します。その具体例として,違法も辞さず政府を私物化する「トランプ現象」や,家族や友人関係においても個人の道徳が過度に重視されることを挙げています。そして,こうした状況を回避する可能性を秘めているのが「趣味の共同体」であると主張します。趣味の場で「実践や批評の卓越性を追求しつつ,各人が個性を発揮して自由に競い合いながらも,共同体の共通善を追求することで,二つの道徳はうまく調和する」というのです。
 
ここで思い出されるのが,故安倍晋三元首相がTrump氏と頻繁にゴルフを行っていたことです。思想信条が異なる者同士でも,ゴルフの場では仲良くできるのです。こうしたことが,個人的な道徳を超えて,集団的な道徳を実現する契機となるのかもしれません。もちろん,Trump氏がこれによって共通善の重要性に目覚めることはなかったでしょうが,ともかく個人の道徳が暴走するのを抑えるきっかけが,このような「趣味の共同体」にあるとは言えそうです。かりにもしパレスチナ(Palestine)とイスラエル(Israel)の間で「日本アニメの共同体」が広がれば,共通善の基盤が形成され,和平の可能性が広がるというのは楽観的すぎるでしょうか。日本が果たせる役割として検討する価値があるかもしれません。
 共通の趣味があれば,見知らぬ人との間でも,心理的距離がぐっと近づくというのは,誰しも経験があるでしょう。趣味をもつ人が増えていくことは,とりわけ個人的道徳が強調されがちな国際関係において重要だと思います。オリンピック(Olympics)も,本来はこのような共通善を広げるための場であるはずですが,実際にはどうでしょうか。

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