もう一つの障害者雇用対策
今朝の日本経済新聞では,「ギグワーカー働きやすく 賃金・休日,基準明確に 厚労省が指針 待遇改善,働き方多様に」という見出しの記事が,まず目に飛び込んできました(紙媒体のものなら,いっそうでしょう)。ただ,厚生労働省がどういうことをしたいのか,よく伝わらない記事でもありました。私は実際の施策内容がわからないので,この記事が使っている「みなし」という言葉が,法律用語としての「みなし」という意味なのかよくわかりませんでしたが,たぶん違うでしょう。たぶん労働基準法上の労働者性の判断基準についての新たな通達を出すということなのでしょうが,編集委員の水野裕司さんらによるきちんとした解説記事によって補充してもらいたいですね。
それよりも今朝気になったのは,Yahoo ニュースでみた共同通信の「障害者5000人が解雇や退職 事業所報酬下げで329カ所閉鎖」という見出しの記事です。閉鎖が増えているのは,障害者と雇用契約を結んで事業を行う「就労継続支援A型」で,これは障害者の就労へのサポートのためにも,また一般就労への移行のためのステップという意味もあります。日本経済新聞の5月17日の「沖縄の観光産業,障害者が支え 官民で働く環境整備」という記事では,「沖縄県で積極的に障害者を雇用する企業が増えている。2023年6月時点の障害者雇用率は企業の法定雇用率(2.5%)を大きく上回る3.24%で,2年連続で全国トップだった。雇用に熱心な『ールモデル』」となる中小企業がけん引役となり,障害者でも働きやすい職場づくりが広がっている。」と書かれています。これは成功例ですが,一方で,A型事業所には,補助金目的の悪質な事業者もいるということも言われていて,きちんと事業で稼げておらず指定基準(生産活動からの利益が賃金総額を上まわっていること)を満たしていない事業所もあり,共同通信の記事によると,事業所閉鎖の増加は,「公費に依存した就労事業所の経営改善を促すため,国が収支の悪い事業所の報酬引き下げを2月に発表,4月に実施したことが主な要因」のようです。このほかにも,A型の場合は,最低賃金の引上げなどの影響も受けるし,事業者が増えて競争激化という問題あるなど,経営環境の厳しさもあるようです。この事業分野におけるスタッフの確保の難しさという問題もあります。日本中に広がりつつある労働力不足の影響を最も強く受けそうな分野の一つでしょう(ここでも職員側の業務をデジタル化で効率化できる部分があるのではないかと思います)。さらに無視できないのは,こうした事業所に仕事を発注する企業や個人がどれだけいるかということです。雇用問題というと,事業者と労働者という図式だけで考えがちですが,障害者雇用となると,こうした事業所に発注する側,つまり社会一般のこうした事業所への理解と支援という要素が大切です(この点で労働法の適用領域のなかでも,かなり独特のものではないかと思います)。それが不十分であると,政府の補助金がますます必要となってしまい,そうなると補助金目当てで,制度趣旨どおりの事業をしてくれない業者がどうしても参入してしまいます。この事業には補助金はどうしても必要であるとしても,それ以上に厚生労働省に力を入れてほしいのは,就労継続支援事業というものを,より広く認知してもらうための広報活動をし,社会からの支援を得やすくして,この事業ができるだけ自力で存続できる環境を整備することではないかと思います。これがより効果的な障害者雇用対策(自立支援政策)ではないでしょうか。私が不勉強なだけで,すでにやってくれているのかもしれませんが,私の周りでも,この事業についてはほとんど知られていません。A型,B型といった表現も,一部の専門家や業界の人しかわからないので,見直したほうがよいかもしれません(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則6条の10にある法令用語です)。国民目線は,ここでも必要です。
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