令和6年度地域別最低賃金
最低賃金の決め方は,一般の人にはわかりにくいものです。中央最低賃金審議会で決めているのは,目安であり,各都道府県の地方最低賃金審議会を拘束するものではありません。また新聞報道で労使が折り合ったとされる目安についても,まずは中央最低賃金審議会の目安に関する小委員会で審議され(テレビなどで流れているのは,この小委員会のものです),「目安に関する公益委員見解」というものが出され,これが実際上は目安として報道されているものとなります。この公益委員見解については,労使がともに不満を述べて,報告書にも労使の合意がなかったと明記されているので,「労使が折り合った」という報道の意味がわかりにくいのですが,最初から労使は合意に至らず,不承不承(?)「公益委員見解」に従うということがお約束であり,そのうえで,今回でいえば全国すべて50円の引上げという公益委員見解を出すということには承諾したということなのでしょうね(ただ,これは推測であり,このあたりのインフォーマルな部分は,いつか委員として参加している先生から教わることができればと思っています)。これを受けて兵庫県の最低賃金についても,兵庫地方最低賃金審議会での審議がなされ,明日くらいに決まるのではないでしょうか。もし目安どおりであれば,50円の引上げとなり,10月以降,兵庫県の最低賃金は1051円(時給)となります。
最低賃金は,政府の手柄として可視化されやすいので,政策的に引上げ論が出てきやすいのですが,ほんとうは自発的な賃上げの流れが生じるようにするための経済政策こそが必要です。最低賃金の引上げは,低賃金で人を雇っている企業が不正競争をしているという視点から(最低賃金法1条でも,「事業の公正な競争の確保」が最低賃金法の目的の一つに挙げられています),ある程度の引上げは必要でしょうが,今日では低賃金では人が集まらないという状況があり,むしろ最低賃金に関係ない賃上げ競争が繰り広げられているともいえます。
労働力不足時代においては,労働者保護のために賃金を上げるということだけでなく,むしろ賃上げによる人件費に耐えられない企業の廃業が増えないようにすることへの対応も必要です。最低賃金を思い切って上げることは大切としても,どこかに労使合意によるデロゲーション(derogation)の仕組みを設けておく必要がないかも議論したほうがよいように思います。減額特例(最低賃金法7条)だけでは不十分でしょう。うまく最低賃金に柔軟性を盛り込むことができれば,最低賃金設定の自由度は格段に高まるでしょう。
もちろん,以上とは別に,現在の最低賃金の決定方式でよいのかは重要な論点です。現行制度のように,いわば労使の交渉に公益委員がかかわるというような三者構成でよいのか,むしろ,データを用いて適正な最低賃金をAIに設定してもらうことでもよいような気がします。現在の公益委員は,おそらく奉仕の精神でやってくれているのだと思いますが,いつまでもそういう善意に頼ってばかりもいられないでしょう。良い委員人材がみつからなくなる危険性にもそなえた対策が必要でしょう。
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