王位戦第3局
王位戦第3局は,藤井聡太王位(七冠)が,挑戦者の渡辺明九段を下しました。途中までは渡辺九段がやや優勢であったような気がしますが,終盤は両者の対局ではよくあるスリリングな展開ながら,最後は藤井王位が勝つという結末でした。
渡辺九段が飛車を捨てながら,藤井陣の金をとって角が成り込んだ局面では,藤井玉は風前の灯火のようでした。実際,評価値でも渡辺九段の優勢でしたが,最後は藤井王位の華麗な攻めが決まり,渡辺九段が投了に追い込まれました。なんだかギリギリのところまで攻めさせておいて,最後はしっかり逆転するという感じで,渡辺九段にとっては心理的なショックが大きい負け方でしょう。しかも,いまはAIで検証できますから,すぐに最善手は何かわかります。渡辺九段は最善手を指していれば勝っていたので,悔しいでしょう。しかし,少し前までは,渡辺九段くらいのクラスであれば,終盤のギリギリのところになると最善手を発見できるものだと,多くの人は思っていたことでしょう。おそらく渡辺九段も,普通の相手なら,そういう手を指せるのでしょう。しかし藤井七冠は,そこが違うのです。評価値的には少し劣勢でも,相手がミスするような手を指させる勝負術があります。その手を指すと罠かもしれないと相手が疑心暗鬼になり,その時間を削っていき,最後に悪手を指させるのです。羽生善治九段が言ったように,将棋は最後に悪手を指したほうが負けです。その前に悪手や疑問手を指しても,それでへこたれず,最後の最後に相手に悪手を指させるようにすればいいのです。
王将戦の菅井竜也八段相手のような序盤から圧倒して勝つというのも相手には堪えるでしょうが,接戦を最後にひっくり返されるのも堪えるでしょう。渡辺九段は,対藤井戦では,後者のパターンが多いようです。でも,将棋ファンとしては,もう一踏ん張りで勝てそうな渡辺九段に頑張ってもらって,1局でも多くみたいと思います。