南海トラフ地震臨時情報とは何だったのか
8月17日の日本経済新聞の春秋と社説で,地震情報のことが採り上げられていました。地震予知はできないし,そのために予算を注ぎ込みすぎることへの問題点は,以前から指摘されてきました。島村英紀氏の戦いなどは,その著書『私はなぜ逮捕され,そこで何を見たか。』について,かなり前にBlogでも採り上げたことがありました。また,まだ読んでいないのですが,小澤慧一氏の『南海トラフ地震の真実』(東京新聞)も,どうも南海トラフの地震確率の高さへの疑念を告発したものだそうです(小澤氏の署名記事「南海トラフ地震30年以内の発生確率「70~80%に疑義 備えの必要性変わらないけど…再検討不可欠」もあります)。
いすれにせよ南海トラフは来ることは間違いないので,用心を怠ってはならないのは言うまでもありませんが,今回の臨時情報は,地震のことを忘れるなという警告にはなっても,おそらく想定以上に人々の行動を縛ってしまい,観光業などに大きな打撃を与えてしまったかもしれません。そもそも,南海トラフの西端のほうで起きた地震について,静岡あたりから紀伊半島,四国,そして九州南部まで延びる一連の地域のどこが危ないかはわからないのであり,1週間という期限も地震に対する警戒期間の区切り方としては,あまりにもいい加減ということで,もしかしたら,今回は強すぎる警告であったのかもしれません。
「春秋」では,かつて,統計に基づき50年内に大地震が起こるという予測に対して「浮説」として批判した学者が,実際に18年後に関東大震災が起きたために逆に批判されることになったという話を紹介しています。南海トラフ地震は確率としては,言われているほどは高くないかもしれませんが,明日,起こるかもしれないのです。地震確率の発表は,地震が起きたあとに,だから「言ったでしょ」という政府からの言い訳に使われそうですし,確率が低いとされているところでも,実際に地震は起きているので,その場合は,「地震の予知は難しい」というのであり,結局,確率などあまり当てにならないということです。
社説では,今回の臨時情報について,「危機感を伝え,備えてもらうことで,被害を減らす狙いがある。発表時の記者会見で『普段よりも確率が高まった』と説明しながら『必ず発生するわけではない』と付け加えた。戸惑った人も多いだろう。背景情報を含めて,ていねいに説明すべきだった。」と書いています。そのとおりです。テレビでは,政府の人がそれなりの説明をしていましたが,誰に向けて説明しているのかわからないような,一般市民には伝わらない内容でした。結局,記者会見の内容からすると,政府側も地震の予知などできないことがわかります。しかし,政府は,もともと高い確率を発表しているなかでの「臨時情報」なので,一般市民がそれにより警戒感を高めるのは当然です。そして,1週間過ぎたから解除したとなると,今度は警戒感を弱めることになってしまいます。これこそ,政府の発表が,防災について誤誘導していることにならないでしょうか。いずれにせよ,地震対策は,コロナのときと同様,政府情報に振り回されずに,自分が信じられる情報を自分で見つけることが大切です。ただ,そうなると,何のための政府なのでしょうね。
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