柴田哲孝『暗殺』
柴田哲孝『暗殺』(幻冬舎)を読みました。話題の本でしたので,Kindleで買って読んでみました。寝る前に少し読み始めたら,止まらなくなってしまいました。小説ですが,ノンフィクションの要素もあり,その点では,松本清張の社会ものに近い感じです。以下,ややネタバレありです。
安倍晋三元首相の暗殺事件を素材としたものです。登場人物は,赤報隊の朝日新聞阪神支局襲撃事件に関する部分のような一部実名のところもあります(この部分はノンフィクション)が,登場人物の多くは実名ではなく,ただ実在の人物を推測できるものでした。
安倍元首相(小説では田布施博之)の暗殺は,山上徹也(小説では上沼卓也)の単独犯ではなく,別のスナイパー(sniper)がいたこと(Kennedy大統領暗殺のときと同じで,あれもOswald単独犯ではないと言われている),動機は,右翼の大物が,安倍首相が「令和」という元号を認めたことから「禁厭」という処分(ここでは処刑)を下すことにしたこと,これに自衛隊と警察から協力者がいたこと,さらに自民党(小説では,自憲党)の大物議員である二階氏(小説では豊田)が関わっていること,そこにはオリンピックのときの利権が横取りされたことへの恨みが関係していることなどが出てきます。統一教会(小説では合同教会)の問題などはカムフラージュであるとされ,赤報隊事件との関係などもあり,いろんな出来事が錯綜して大変ですが,読み応えはあります。
ちょうどテレビで,二階氏が超党派の議員団(日中友好議連)を率いて中国に訪問しているところが報道されていましたが,この人が黒幕の一人であったのかと思ってしまうほど(小説と現実とを混同してしまっているのですが),この小説にはリアリティがありました。
いずれにせよ,安倍首相の死因に疑問をもった(これは多くの人が同意すると思います)ということがきっかけとされる著者の執筆意図は,社会への問題提起として重要です。私たちは日本の歴史に残る首相で,当時なお政治的に大きな力をもっていた人が,白昼,国政選挙の応援演説中に暗殺されたという重大事件について,その犯人について疑義が残っているという事実を真剣に受け止めるべきだと思いますが,これはよくある陰謀論に毒されているだけなのでしょうか。著者の仮説は,動機のところがやや弱いような気もしますが,単なるミステリー小説というわけにはいかない日本の闇のような部分も扱っており,ベストセラーになっているのも当然だと思いました。
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