びっくり仰天の内閣府のアイデアコンテスト
いささか旧聞に属しますが,内閣府の「賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト」で,とんでもないものが優勝したということを,先日,NHKの収録に行った時に,旧知の外部ディレクターの方から聞きました。教えてもらったサイトをみると,「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする。」というものが優勝していました。これは,「名ばかり個人事業主」を推奨するもので,ありえない政策です。いまは削除されていてみることができなくなっているのですが,朝日新聞の7月11日の沢路毅彦さんの「脱法行為?賃上げアイデア「残業時間は個人事業主に」 内閣府が表彰」という見出しの記事から引用すると,「ホームページに掲載された資料によると,まず定時以降の残業を禁止。以前は残業でこなしていた業務を委託契約に切り替え,社員は残業していた時間は個人事業主として働くという。」というものであり,記事では,「このスキームは『脱法行為』とされるリスクがある。個人事業主かどうかは実際の働き方によって判断されるため,残業の時と同じように企業が指揮監督,拘束していれば,労働関連法の規制が及び,残業代や社会保険料の支払い義務が発生するからだ。また,本来なら通算するはずの労働時間がきちんと管理されなければ,過重労働に陥るリスクもある。」と,きちんとコメントされています。労働法を少しでも勉強したことがある人にとっては,まともにコメントすることもバカバカしいくらい,今回の受賞は悪い冗談としか思えません。こんなことができれば,企業はやっているのであり,いまごろになって新しい政策アイデアとして提示するほうも提示するほうだし,それを優勝させてしまう審査側のレベルの低さにも呆れます。
こうした政策が許されるとすれば,これまで残業としてさせていた業務について,仕事のさせ方などを根本的に改め,違法とならないような業務委託形態とする必要がありますが,かりにそういう業務委託形態ができるとしても,残業の部分だけそのようにするなどというのは無理があることであり現実的ではありません。
役人がこういう発想になったのは,自分たちはサービス残業をやっているから,それをせめて業務委託の形でやらせてもらえないか,ということかもしれませんが。いずれにせよ,こういう政策は論外であり,内閣府は,当分は,労働政策に対していっさい口を出すことを控えるべきでしょう。厚生労働省が弱体化しているせいかもしれませんが,労働政策に他省庁が介入してくることが増えているような気がします。ただ,内閣府のレベルがこの程度であれば,やはり(私からすれば頼りない)厚生労働省に頑張ってもらうしかないですね。
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