二大政党制は限界あり?
アメリカの民主党はリベラル(liberal)で労働者の味方であり,共和党は富裕層の味方であるというイメージがあります。実際,多くの労働組合は民主党を支持していますし,共和党の大統領候補Trumpは大富豪(のよう)です(ただ,Trumpを大統領候補に指名した先日の共和党大会では,運輸労組のTeamsters の会長が演説しています)。しかし現実には,Trumpを支持しているのは,rust belt の白人男性であり,多くは外国との競争に負けた産業などで働く生活が苦しい人たちです。Trumpの排外主義は,移民を追い出したり,外国製品の輸入を関税で制限したりして,アメリカ人の雇用を守るというものであり,それがかつてアメリカを支えてきたが外国人のために没落してしまったという気持ちのある白人アメリカ労働者の心に刺さっているのでしょう。MAGAの根底には,そういう考えがあるのだと思います。Trumpが副大統領候補に指名したVance氏は,rust belt 地帯のOhio州の労働者階級の出身で,共和党は,この地区の票を狙いに行っていることなのでしょう。Rust Beltには,Wisconsin,Michigan,そしてPennsylvaniaという激戦州(swing state:選挙のごとに結果が揺れ動くくらい民主党支持者と共和党支持者が拮抗している州)があり,とくに選挙人19のPennsylvaniaは,ぜひおさえたいところでしょう。Pennsylvaniaの州知事は民主党のJosh Shapiro氏であり(民主党の副大統領候補に名前があがっています),Trumpは,これに対抗するために,MAGAの強力な推進者のVanceを登用したのでしょう。
ここにみられるのは,労働者の味方のようにみえるTrump・Vanceは,排外主義・差別主義者であり,実は労働者のなかの白人・男性だけがターゲットで,女性差別や非白人差別は平気であるというバランスの悪さです。これでは労働者の味方といっても,リベラルな思想とはとても言えません。これは「働き方改革」をかかげて,労働者保護政策を進めている自民党が,保守的な政策をとっていることとのバランスの悪さと似たものがあります。
ただ,このバランスの悪さは,私のもっている先入観からくるものかもしれず,実際過去の歴史をみても,排外主義にしろ,ファシズムにしろ,雇用を守るかぎりは労働者に支持されるという面があったのです。ただ,これも歴史の教訓ですが,労働者の支持は近視眼的なものであることがあり,長い目でみると,グローバルに開かれた国際協調主義や自由貿易,また差別を排する平等主義といったもののほうが,経済は持続的に成長し,労働者の雇用確保にもつながるのだと思います。
ではアメリカの民主党は,こういう政策なのかというと,必ずしもそうではなく,移民政策では,Trump政権のときとBiden・Harris政権はあまり差がないという評価もあるようです。また民主党は,たしかに人工妊娠中絶に対する立場では,女性票を集められるでしょうし,Harrisの出自から非白人層の支持も得られるでしょうが,逆に白人男性の票を集めることは難航するでしょうし,エリート検事・上院議員出身という経歴は,既得権層の仲間とみられて,2016年の大統領選挙のときにBernie Sandersを支持したような若者からの支持は難しいという面もありそうです(ただし,現在,Harrisのイメージ戦略が成功しつつあり,若者の支持も増えているということが,今朝の日本経済新聞でも書かれていました)。
こうみると,日本人からいえば,民主党と共和党という選択肢しかないアメリカは窮屈に思えますね。第3の立場として,Kennedy大統領の甥であるRobert Kennedy Jr.が無所属で立候補しそうですが,大統領になることは無理としても,やはりこういう動きが出てくるのだなと思います。日本の国政選挙では多くの政党があり,いろんな人が立候補します(しすぎます)が,民主主義という点では,こっちのほうが健全なのかもしれませんね。
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