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2024年6月18日 (火)

復職は4割?

 昨日の日本経済新聞において,「解雇無効で勝訴の労働者,『4割』も復職 厚労省調査」という記事が出ていました。「労務関係者には勝訴後も大半は退職するとの見方が多かったため,復職率の意外な多さが注目を集めている」と書かれていまいた。「労務関係者」は誰を指すのかはさておき,これまでは解雇裁判で労働者が勝訴しても,実際には復職が困難で解決金を得て退職する例が多いので,それであれば,法律で金銭解決制度を導入したほうがよいという主張を私もしてきました。
 では,記事で書かれているように,退職する例が少ないとなると,私の主張の前提が崩れるのでしょうか。まず,記事では,「勝訴後に復職した労働者のうち19%は退職していたことがわかった」とも書かれています。多くの「労務関係者」が退職する人が多いというときには,この復職後の退職を念頭に置いているのであり,結局,全体で3割近くしか復職していないということであれば,解雇の金銭解決の必要性を疑問視しなければならないほどのことではないでしょう。「「4割」も復職」という表現は意外感を与えて読者をミスリードするものであり,気をつけなければなりません。
 また,約3割は復職したままであるという事実についても,評価は難しいところがあります。解雇裁判で労働者が勝訴しても結果的に退職していると考えられていたのは,人的な信頼関係が重視される労働関係において,解雇という極限的なことを企業が行い,労働者が企業を訴えるというこれもまた極限的なことを行ったあと,信頼関係が復元することは困難であるという推察が前提にあり,そのことが,退職例が多いという形で実証されていると考えられてきたのです。上記の推察が正しいとなると,退職例が少ないのは,もっと悲惨なことが起きていることを示唆しています。つまり企業は辞めさせたくても,十分な解決金を払えないので辞めてもらえなかったり,労働者は辞めたくても,再就職は容易ではないなどの理由で,十分な解決金が払われなければ辞められない,ということがあったり,さらにその両方が生じているので,退職が起こらず,仕方なく労働関係が継続している可能性があるのです。そうだとすると,この点からも私たちが提唱する「完全補償ルール」による解雇の金銭解決制度の導入が必要となります。今回の調査の実物を私はみていないので,これらの点はきちんと説明がされているのかもしれませんから,最終的な論評は留保しておきます。
 なお,解雇については,大内伸哉・川口大司編著『解雇規制を問い直す―金銭解決の制度設計』(有斐閣)の冒頭で書いているように,「許されない解雇」と「許されうる解雇」があり,「許されない解雇」は,差別的解雇や報復的解雇のような文字どおりに許されてはならない違法な解雇であるので,解雇無効判決後に退職しない労働者がいても不思議ではありません(たとえば労働組合の役員に対する反組合的解雇が無効となれば退職しないのは当然です)。また,一応「許されうる解雇」の範疇に入っても,解雇事由がそもそも存在しないような解雇などは,実質的には「許されない解雇」であり,やはり退職しない労働者がいてもおかしくありません。こういう解雇も少なくないであろうと予想されることから,復職者が3割程度であれば,それほど違和感はないのです。解雇規制で最も重要なのは「許されうる解雇」をどう扱うかにあり,金銭解決のターゲットは,「許されうる解雇」にあるのです。

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