« 低投票率を嘆く前にやるべきこと | トップページ | 東野圭吾『白鳥とコウモリ』 »

2024年5月 6日 (月)

労働新聞に書評掲載

 労働新聞の令和6年5月13日号の「書方箋 この本,効キマス」に,浜田冨士郎先生の『リンカンと奴隷解放』(信山社)について書かせてもらいました。依頼が来た時に,締切日に余裕がなかったので,自身の手元にある本の中から選ぼうと思い,書棚をながめているときに目に飛び込んできたのが,この本でした。2022年刊行の本でしたので,少し古いかなと思ったのですが,個人的にはたいへん勉強になったので,書評というよりも(きちんと書評する能力も資格もありませんので),僭越ながら紹介をさせてもらいたいという気持ちで採り上げました。
 改めて読んでみて,アメリカのことに関心が深まりました。アメリカの州の位置も再確認し,日常のニュースや映画でも,州の名前が出てくると,それはどのあたりかということもわかるようになってきました。奴隷州であった南部諸州は,やはり人種差別は,いまなお大きな問題なのでしょう。
 本書はタイトルにあるようにリンカンが主役なのですが,私は,浜田先生がリンカンの業績を単純な英雄譚とせず,一人の誠実で,信念があり,しかし野心もある政治家かつ法律家のリンカンの英雄らしからぬ人生に深く共感しながら,同時に少し突き放した視線で客観的に描こうとされたのではないかと感じたのですが,それはまったくの的外れな指摘かもしれません。
 いずれにせよ,黒人奴隷という人類史に残る過ちをおかし,まだ贖罪もはたせていないアメリカが,民主主義や平等の理念を声高に掲げることへの違和感をもったり,その偽善性に対する感情的な反発をしたりするのは,誰でもできる非知性的な行為であり,本書のように,なぜアメリカがそうであるのかを冷静に分析していこうとする姿勢こそ,まさに研究者ならではの知性的な業績なのでしょう。とりわけ憲法などの法的背景や政治的な動きが克明に描かれていて法律家にとっては興味深いところが多く,さらに大統領になったあとの南北戦争の前夜から奴隷解放宣言,さらに戦争終結に至るまでのスリリングな展開は,格調高い浜田先生の文体とみごとなハーモニーを奏でていて,サスペンス作品のような面白さもありました(もちろん,前半は奴隷制度の教科書としての意味もある教養書でもあります)。このことを書評に書いたほうがよかったのかもしれませんが,字数の制約もあったので,ここで補足させてもらいます。ぜひ多くの方に読んでもらいたい本です。

« 低投票率を嘆く前にやるべきこと | トップページ | 東野圭吾『白鳥とコウモリ』 »

読書ノート」カテゴリの記事