愛着理論と社会保障
昨日の愛着理論の続きです。フリーランスの時代においてなぜ社会保障が重要かというと,それはたんに雇用労働者との間に格差があるだけではありません。社会保障は,英語ではsocial security です。Security には,安全や保障という意味もありますが,主観的な安心という意味もあります。乳幼児が親の愛着があってこそ精神的に安定して,より積極的にsocialな活動に踏み出せるという話は,親を政府に置き換えると,フリーランスの社会保障に応用できそうな気がします。国民がさまざまな仕事をしていくうえで,セーフティネットを充実させることは,安心していろんなことにチャレンジしていくうえでの基礎となるのです。これは国の経済政策においても考慮すべきことでしょう。
そもそも雇用労働者の場合には,労働法によってsecurityが与えられていますし,手厚い被用者保険もあるので,フリーランスに対してこそsecurityが大切といえます。独立してやっていくためには,政府による精神的・物的な安心の提供が必要ということです(加えて,地域社会や仲間たちとの共助共済も大切です)。
もちろん,乳幼児ではないので,本人の自助は必要ですが,その自助が実現できるようにするためにも,安心の制度的な保障(セーフティネット)が必要なのです。今日言われている社会保障の見直しに,こういう視点があればよいなと思います。その原点が,乳幼児の愛着にあるというのは突飛な考えでしょうか。
社会保障の中核にある社会保険は,強制保険である点で,しばしば父権主義(paternalism)によるものとも呼ばれ,個人の自己決定や選択の自由を重視する立場から批判の対象となってきました。社会保障を,父権的な強制保険ではなく,母性主義(maternalism)により個人に安心感を与える公的扶助を中核に据えることにしてはどうでしょうかね。もちろん,甘えさせるだけではダメというのは,人間の育児と同じですが,安心をベースにした自助ということであれば,それが理想でしょう。母性主義というと,母親へのサポートという話になりがちですが,ここでは,父権主義との対比で,母性的なアモーレで個人に寄り添うということなので,意味がまったく異なります。
「母の日」の余韻のなかでの「甘ったるい」話かもしれませんが。
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