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2024年5月10日 (金)

みなし労働時間制に関する判例についての拙著の追記・訂正

 協同組合グローブ事件の最高裁判決が416日に出たこともあり,次のビジネスガイド7月号の「キーワードからみた労働法」の第204回では,「事業場外みなし労働時間制」をテーマに取り上げています(すでに脱稿済み)。
 その執筆のために,事業場外みなし労働時間制をめぐる裁判例を,もう一度,調べていたら,基本的には,阪急トラベルサポート〔第2〕事件判決以降は,同判決を明示的に参照するかどうかはともかく,それを意識した判断をするものが多く,とくに業務内容の事前の特定があり労働者の裁量が限定され,業務遂行中の指示などが可能で,事後に日報などの提出で業務内容や遂行方法が把握できる場合には,「労働時間を算定し難いとき」には該当しないとする傾向にありました。今回の協同組合グローブ事件の1審判決(おそらく高裁判決)も,この傾向に乗ったように思えますが,日報が重視されすぎていて,事案としては,阪急トラベルサポート事件判決やこれまでの下級審裁判例との比較でも,「労働時間を算定し難いとき」に該当するかどうか微妙であったと思います(最高裁は,日報の正確性の担保についての検討が不十分としていますが,そもそも日報があるということで勤務の把握が可能と判断してよいのかという問題もありそうです)。とりあえず,『労働法実務講義(第4版)』の読者の方は,情報をアップデートするために,666頁の阪急トラベルサポート〔第2〕事件の最高裁判決を紹介している部分の最後(下から12行目の文末)に,次の1文を挿入しておいてください。

「その後の裁判例でも同様の判断がされていますが,企業コンサルティングの営業職において,業務内容について労働者側の裁量により決定ができ,業務中の個別の指示や業務後の報告も簡易なものである事案では,「労働時間を算定し難いとき」に該当するとした裁判例があり(ナック事件・東京高判2018.6.21),さらに,外国人技能実習者の指導員のように,業務内容が多岐にわたるもので,業務中に随時具体的な指示があったり報告をしたりされておらず,事後に提出される日報についても客観的な正確性の担保ができていない場合には,「労働時間を算定し難いとき」に該当しない可能性があります(協同組合グローブ事件・最3小判2024.4.16を参照)。」
 裁判例としては,医薬品会社のMRに関するセルトリオン・ヘルスケア・ジャパン事件のように第1審と控訴審との判断が分かれるものもあり,今回の最高裁判決だけでは,今後の見通しは不透明です。「おこなわれている労働法」の解説を中心とする『労働法実務講義』では,現時点で,この論点に関する判例の動向について書けることには限界がありそうです。
 なお,ここで言及したナック事件については,667頁の1行目の「ただし,」から始まる文章で引用しており,そこでは,携帯電話使用の場合についても経済的負担がある場合などには,なお「労働時間が算定し難いとき」にあたるとした裁判例として紹介していますが,これは1審に関するもので,控訴審の判断として紹介すべきではないので削除をお願いします。
 「キーワード」の原稿では,テレワークへの事業場外みなし労働時間制の適用に関する若干の私見も,最後に述べています。
 協同組合グローブ事件・最高裁判決は,もし『最新重要判例200労働法(第8版)』(弘文堂)で情報をアップデートするとすると,102頁の101事件(阪急トラベルサポート〔第2〕事件)の解説の第2段落の最後に,次の1文を追記することになると思います(本の性質上,若干,『労働法実務講義』と内容を変えています)。
 「その後の裁判例も同様の判断をする傾向にあるが,業務内容が労働者側の裁量により決定でき,業務中の個別の指示や業務後の報告も簡易なものである事案では,みなし労働時間制の適用を否定した裁判例があり(ナック事件・東京高判平成30621日),さらに,外国人技能実習者の指導員において,業務内容が多岐にわたり,業務中に随時具体的に指示を受けたり報告をしたりしていなかったことから,使用者の勤務状況の具体的把握が容易でなかった事案で,業務日報による確認に基づき「労働時間を算定し難いとき」に該当しないとした原審について,業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情の検討が不十分であるとして,破棄・差戻しをした最高裁判決がある(協同組合グローブ事件・最3小判令和6416日)。」
 『最新重要判例200労働法』の次版では,協同組合グローブ事件の差戻審の上告審が登場すれば,その判断しだいでは,阪急トラベルサポート〔第2〕事件との判例の入れ替えも検討し,解説もテレワークなどについての記述をもっと拡充して,政策へのインプリケーションを追記できればと思っています。
 なお同書でもナック事件について,上記と同様の記述がありましたが,携帯電話使用等の場合の経済的負担等を考慮するという考え方はありえるので,完全に削除はせず,次のように訂正したいと思います。よろしくお願いします。
  同頁(102頁)の解説における第4段落の2行目の「裁判例には,」を削除,7行目「ものもある」⇒「考え方もある」とし,「(ナック事件・東京高判平成30621日)」を削除。

 以上の情報は追記・訂正の情報は,私のHPにも掲載しています。
 

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