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2024年3月10日 (日)

労使自治について

   3月9日の日本経済新聞の「真相深層」の「非正規も賃上げの大波 合同労組は2桁要求 連合上回る水準 スト辞さず,発言力増す」という記事が出ていました。合同労組が非正社員の賃上げ交渉で,連合を上回る高い水準の要求をしているということです。まだ組織されている人数は少ないのですが,存在感が高まっているということが報道されていました。合同労組の存在感が高まっていることは,10年以上前から,労働委員会の実務においては広く知られていたことで,中小企業では労働組合がないから従業員の権利が損なわれているという誤った「常識」は,このBlogでも,たびたび是正を求めてきました。十分な保護があるとはいえないとしても,労働組合によるサポートがないから弱い立場にあるというのは,少なくともコミュニティユニオンがある地域の従業員にはあてはまらないのです。企業別組合がないとしても,合同労組がいったん介入してくると,労働問題の「素人」である中小企業経営者は守勢に回ることがしばしばあり,ときには法的に問題のある対応をしてしまうこともあります。そうしたなか合同労組に対抗するための「社長を守る」というビジネスが出てきたりしていました。そこで私は,経営者に労働組合法の知識をもってもらいたいという思いから,経団連出版から,『経営者のための労働組合法教室』を出しました。現在,第2版が出ています。書名からは,対策マニュアル本のような印象もあたえそうですが,内容はそうではなく,正面から労働組合に向き合うことが重要で,それが経営者のためにもなるというメッセージを込めています。
 ところで,非正社員の組合活動ということでいえば,2002年に開催された日本労働法学会第103回大会のミニシンポ「労働法における労使自治の機能と限界」のことを思い出します。西谷敏先生の司会で,土田道夫先生と私が報告しました。3人は,それぞれ異なるスタンスで労使自治や自己決定のことを捉えており,でも互いに認めあえているような関係であったと思います。西谷先生については,第100回の記念大会での先生の報告にコメンテータとして参加させてもらったこともあります(20年以上前の懐かしい思い出です)。
 私は,103回大会での報告で,非正社員と労使自治にも言及しました。非正社員であっても,他律的介入はすべきではなく,現行法上は,自助の可能性を前提とした議論をすべきだと述べています(「労働者保護手段の体系的整序のための一考察-労使自治の機能と立法・司法の介入の正当性」日本労働法学会誌10023頁以下(2002年)を参照)。その後,他律的介入については,「同一労働同一賃金」のような誤った法的介入がされてしまいましたが,労使自治との関係は十分に整理されていないままでした(労使間の交渉内容を,短時間有期雇用法8条の「その他の事情」で考慮して格差の不合理性の判断をするといった解釈もありますが)。
 当時は労使自治論そのものについて否定的な意見が多く,だからこそミニシンポのテーマにもなったと思います。報告後も,非正社員の労使自治などありえないという反発があり,たしか「労働判例」の遊筆だったでしょうか,どこかの弁護士が,研究者が勝手なことを言うなという趣旨の批判をしていました。しかし,非正社員の自助努力の可能性は,決して空理ではないことが,近時の合同労組の活動などをみると,徐々に明らかになってきているのではないかと思います。
 話は少し変わり,最近「労使自治」という言葉が,新たな文脈で話題になっています。厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」で労使コミュニケーションが採り上げられ,そのような動きをみながら,経団連が,「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を出し,日本労働弁護団はこれを批判する幹事長談話を発表していますね(デロゲーション批判)。私は現行法の下で労働組合と機能的に重複する従業員代表法制の構築を目指すことには反対という立場をずっと主張し続けています(『労働者代表法制に関する研究』(2007年,有斐閣))。その一方で,労働者代表制のあり方において,現在の労働組合法制でよいかということにも疑問をもっています。これらもふまえた労働者代表に頼らない現行法の再構築は,労働者個人の納得を重視した労働条件の決定・変更を軸だと思っています(詳細は,拙著の『人事労働法』(2021年,弘文堂)を参照)。さらに,そのさきのデジタル労働法への動きについては,明後日に新聞で短い論説を書いていますので,参照してください。近未来の労働社会を考えると,労使自治というような問題設定は,時代に合わなくなっていることが,おわかりになると思います。

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