« 早稲田大学事件を素材に「採用の自由」を考える | トップページ | 「ブキウギ」最終回 »

2024年3月28日 (木)

過半数代表制を超えて

 最近は,自分の過去の業績を振り返ることばかり書いています。昔は,粗い思考でも,いろいろ考えていたなと感慨に浸っているのですが……。
 労働基準関係法制を検討するうえで,過半数代表制が論点の一つに挙げられているようです。過半数代表制については,かつて私も労働者代表法制という観点から論じたことがあります。私は過半数代表者だけでなく,過半数組合も含めて,過半数代表の労働者代表としての正統性という観点から議論をしており,とくに労働条件の不利益変更という具体的な局面を想定して,この制度が機能するために,なかでも少数派も含めた労使コミュニケーションの手段としての機能させるためには,どうすればよいかについても検討しています。その内容は,2007年に上梓した『労働者代表法制に関する研究』(有斐閣)に収められていますが,もとの論文は,2004年に発表した「労働条件の変更プロセスと労働者代表の関与」日本労働研究雑誌527号19頁以下です(書籍収録の際に,加筆・修正しています)。そこでは,「意見聴取手続は,過半数組合は単に過半数を代表する労働組合としての意見を述べるだけでは不十分で,当該事業場の過半数代表として,従業員全員の意見を聞き,どの程度の賛成や反対があったか (修正意見なども含めて)を使用者に伝える場と構成するのが妥当である」と述べています(2004年論文では25頁,2007年本では185頁)。過半数代表者についても同様のことがあてはまるとしています(2004年論文では27頁,2007年本では190頁以下)。
 過半数代表の労働者代表としての正統性という切り口は,私が1997年に神戸法学雑誌で発表した「労働者代表に関する立法介入のあり方とその限界-最近のイタリアの議論を参考にして-」(47巻2号255-310頁)で,すでに比較法的考察から導いていたものであり,個人的には2007年の書籍刊行で研究はひとまず完結しています(その間の2000年度には,労働問題リサーチセンターの委託研究で,私が主査となり,優秀な若手研究者に集まってもらって,比較法の共同研究として「企業内労働者代表の課題と展望 ―従業員代表法制の比較法的検討―」 を発表しています。これは良い報告書だと思いますよ)。
 労働者代表の問題は,その後も散発的に議論されることがありますが,やや物足りないのは,私がこだわってきたような原理論(正統性論)があまり重視されていないからではないかという印象をもっています。
 とはいえ,私の過半数代表論は,実はその先に進んでしまっています。上記の私の提言とは異なり,現実には過半数代表制は労使コミュニケーションとしては機能していません。とくに過半数代表者はそうです。そうだとすると過半数代表者をはさまずに,労働者と使用者との間で直接コミュニケーションをとれるようにするために過半数代表制を活用したほうがよいという発想が出てきます。今日では,使用者側ともメールでやりとりすることが多いという現状もふまえると,間接民主制(代表方式)ではなく,直接民主制(直接方式)をとれないかということです(代表制ではなくなるのですが)。使用者側からいうと,直接労働者に向き合ってコミュニケーションをとるべきということです。現行の過半数代表制では,労働者は過半数代表者の選出のときの形式的な投票という形でしか意思決定プロセスに参加していませんが,重要な決め事は使用者と労働者が直接向き合うべきなのです。そして,そこでの交渉や協議で限界を感じた労働者は,労働組合を結成して,労働組合ルートで交渉・協議をするというのが労働法の本筋の議論なのです。この点は,『人事労働法―いかにして法の理念を企業に浸透させるか』(弘文堂)の29~30頁「思考―労働者代表制論」で論じていますので,この議論に関心がある方は参照してみてください。

 

« 早稲田大学事件を素材に「採用の自由」を考える | トップページ | 「ブキウギ」最終回 »

労働法」カテゴリの記事