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2024年3月17日 (日)

年間最高勝率達成か

 将棋界は年度末となり,年間最高勝率の更新が話題になっていました。現在の記録は,中原誠16世名人が五段時代に挙げた855厘(478敗)であり,それに藤井聡太八冠が迫っていました。生涯勝率が8割を超えている藤井八冠でもこの記録を抜くのは簡単ではありません。実は,今年度は,もう一人,18歳の藤本渚五段(最近,C1組へ昇級を決めて昇段)も勝ちまくっていて可能性がありましたが脱落していました。藤井八冠は,今日のNHK杯戦と棋王戦第4局でともに勝てば,477敗となり新記録となるところでした。また今日のNHK杯戦で勝てば,棋王戦第4局で負けても,第5局で勝てば,最高記録タイとなるところでした。
 しかしNHK杯では,2年連続で,決勝でぶつかった佐々木勇気八段が雪辱しました。終盤で評価値では藤井NHK杯(八冠)が勝勢でしたが,一手の緩手で逆転し,最後は佐々木八段がA級棋士の実力を発揮し,藤井NHK杯を投了に追い込みました。これで藤井NHK杯の2連覇を阻止し,また年間最高勝率記録の更新も阻止しました。ちょうどデビューからの30連勝を阻止したときのことを思い起こさせます。

 今回の佐々木八段の優勝については,外野ではちょっとした騒動が起きていました。師匠の石田和雄九段が自身のYouTube番組で,弟子のNHK杯の優勝をにおわせていたからです。テレビ棋戦は事前に収録となりますが,その結果は放映されるまでは秘密にするのが鉄則です。例外は,1000勝とか記録がかかっている場合で,谷川浩司九段も,たしか1300勝は,NHK杯での稲葉陽八段戦であり,事前に結果がわかっていたと記憶しています。しかしこれは例外であり,通常は対局結果は秘密になっています。

 しかも石田九段は,準決勝の羽生善治九段・藤井戦が未放映の段階で,藤井NHK杯が決勝進出することをにおわせていました。このため,この番組をみた人は,準決勝で藤井NHK杯が勝つことが,ほぼわかってしまいました。藤井NHK杯が負けていたら,絶対にしそうしない話をしていたからです。石田九段が結果を知らない純粋な第三者であれば,何の問題もない単なる弟子応援の動画といえたのですが,彼は結果を知りうる立場であったことをふまえれば,結果はやはりわかってしまうような動画でした。石田九段は厳密な意味でのネタバレはしていません。慎重に,言葉のうえでは回避していますが,そこが石田九段の愛すべきキャラなのですが,佐々木八段が優勝したことの嬉しさを,隠したくても隠せていないのです。石田九段を,日本将棋連盟が処分したりはしないでしょうが,今後は,テレビ棋戦に参加する棋士など関係者は,師匠や家族にも結果を言うなという箝口令がしかれる可能性はあるでしょうね。

 ただ,今日の棋王戦の始まる前に,年間最高勝率の話がまったく出てきていなかったことから(メディア関係者は藤井八冠がNHK杯決勝で敗れたことを知っているからでしょう),石田九段がにおわさなくても,私たちは察知することができていました。もしNHK杯戦で藤井八冠が優勝していれば,この対局は,年間最高勝率がかかる最高に盛り上がる対局となるはずなので,メディアがそのことに言及しないはずがないからです。

 ということで今日の棋王戦ですが,藤井棋王が勝って,31持将棋で,伊藤匠七段を退けました。伊藤七段は他棋戦ではほんとうに強いのですが,藤井八冠には歯がたちません。叡王戦でも決勝まで来ているので,次の永瀬拓矢九段に勝てば,もう1回,藤井八冠に挑戦できるのですが,竜王戦,棋王戦に続く3度目の挑戦はあるでしょうか。

 ところで,NHK杯の準決勝の藤井・羽生戦も,素人目でも名局でした。先手の羽生九段が,初心者の模範となるような飛,角,銀,桂を4筋に集めた攻めを展開しようとする一方,藤井NHK杯は,初心者がやってはいけないとされる居玉をずっと続けていました。羽生九段が優勢に攻めているようにみえたのですが,緩手ともいえないような手(3一角)の瞬間,藤井NHK杯の攻めが炸裂して,あっという間に羽生玉は「詰めろ」となります。羽生九段はこれを受けて対応しますが,藤井NHK杯の攻めは的確で,最後は「受けなし」の状態に羽生玉を追い込みます。あとは藤井玉が詰むかどうかです。藤井玉は居玉ですから危ないことこのうえありません。AIの評価値をみれば藤井勝ちなのですが,それは正確に指しきればという条件付きであり,少しでも間違えれば羽生勝ちというところでした。この難局面を藤井NHK杯は乗り切り,羽生九段を投了に追い込みました。1手勝ちを読み切って,ぎりぎりのところを正確に攻めきった藤井NHK杯の強さを改めて感じると同時に,羽生九段が依然として棋界の第一人者であることを感じさせる指しぶりでした。

 そんな藤井NHK杯に勝ったのですから,佐々木八段はお見事です。A級は最終局で勝ってのぎりぎりでの残留でしたが,残留すること自体が難しいA1年目ですから,その結果は見事でした。来年度は,そろそろタイトル戦の舞台に出てきてほしいですね。

 

 

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