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2024年3月21日 (木)

橋本陽子『労働法はフリーランスを守れるか―これからの雇用社会を考える』

 橋本陽子さんから『労働法はフリーランスを守れるか―これからの雇用社会を考える』(ちくま新書)をいただきました。どうもありがとうございました。私も15年前に,ちくま新書からを出したことがありますが,ちくまの労働法関係の新書というのは,それ以来ではないでしょうか(私の本は自信作でしたが,全然売れませんでした)。
 テーマは,彼女の研究テーマである「労働者」概念の話と最近のフリーランス法をめぐる議論を扱ったもので,とくに前者についての研究成果を一般人向けに書いたものといえるでしょう。タイトルでは疑問形ですが,橋本さんの提案は,労働者性の推定規定を導入するなど,労働法を拡大してフリーランスにも最低労働基準を及ぼそうとする発想だと思われます。こうした提案に共感する人は多いでしょう。
 ただ私見では,労働者性にこだわっていては,新しい社会に対応できないのではないかと考えています(これは先日の日本経済新聞の経済教室でも書いたことでした)。裁判実務では,現段階では,フリーランス関係の紛争は,労働者性の問題として争われることが多いので,労働者性の概念や判断基準にこだわることには意味がありますが,政策論としては,フリーランスを自律的な働き方としてとらえて発展させるにはどうすればよいかということを考えていくべきであり,そのほうが,フリーランスの多くのニーズに合致するし,日本の経済の発展のためにも必要と考えています。そうなると,労働法の枠には,おさまりきらないことになります。
 もっとも,これは,現在の問題を論じるか,近未来の問題を論じるかの違いからくるもので,現在の問題を論じるならば,労働者性の判断を軸に,ドイツ法を中心とした欧州の動きをとらえて比較法的分析を展開するのは,申し分のないアプローチであり,それを新書の形で世に出したことの意義は大きいと思います。
 ただ,あえて言うと,本書における労働者性をめぐる議論は,新書の読者には難しいような気がします。たとえば,ドイツの学者であるWank(ヴァンク)の議論に基づいて,労働者性判断の再検討をしようとすることは,前からの橋本さんの主張ですが,「目的論的概念形成」や「存在論的概念形成」というような堅苦しい表現は,新書には合わないような気がします(ただ編集者がOKを出したということは,そこは問題がないということだったのでしょうが)。
 労働者性の研究にはあまり未来がないと思って(その認識はいまでも基本的に変わっていないのですが),早々に見限って,労働法の適用対象の問題として論じるべきだという方向にシフトした私としては,良い意味で愚直にこのテーマの研究をやり続け,立派な研究書を出し,新書にまでたどりついた橋本さんは,研究者としてたいへん立派だと思います。彼女の今後のさらなる活躍を期待したいと思います。

 

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