労働組合の危機
労働組合の人に,「今年の春闘は楽ですよね,何もしなくても大幅アップでしょうから」と,ちょっと軽口をたたいてみたあと,すぐに思い直して,「でも,普通の賃上げだったら,手柄は政府や経営者のものになってしまうから,労働組合としてはかえって厳しいですかね」というと,その人はうなずいていました。春闘の様相が今年はずいぶんと違っています。労働者にとって良い方向の気もしますが,気になるのは労働組合の存在意義です。今日の日本経済新聞の「複眼」に,立正大学の戎野淑子さんが,労働組合に活を入れるようなことを言われていました。「労働組合は満額回答に満足しているだけではダメだ」ということで,同感です。
また,もう一つ気になる記事がありました。田中陽編集委員の「<経営の視点>相次ぐ不祥事,労組の影薄く 危機訴える声を届けよ」というものです。不祥事を起こした企業が設置した第三者委員会などで,労働組合幹部への意見聴取がなされていないようです。それについて,久保利英明弁護士の労働組合に対するコメントとして,「そもそも御用組合が多く,ガバナンスの一翼を担っていない。だから委員会は『組合に聞いても意味がない』と思っている」というものが紹介されていました。田中氏は「手厳しい」と書いていて,そのとおりだと思いますが,多くの人の大企業の企業別組合に対するイメージはそういうものであり,それは実態とそれほど違っていないのでしょう。
実は公益通報者保護法などにおいても,本来は,企業別組合を内部通報の受け皿とすることが定められてもおかしくないのですが,日本では,企業別組合は,ほんとうに労働者側かどうかが疑わしいという実態もあるのです。学生に出す試験問題として,「企業の不祥事を目撃した労働者としてとるべき行動としては,どのようなものがあるか」といったものを出題すれば,労働組合に相談するとか,労働組合に結成したり,加入したりして,団体交渉をとおして問題解決を図るといった答えを期待したいところですが,実際の社会では空論に近いものかもしれません。
問題は,そんな労働組合でよいのか,ということです。戎野氏も,田中氏も,労働組合への期待を込めているのであり,私もずっと労働組合を応援する法解釈を主張してきたので,なんとか頑張ってもらいたい気もします。ただ労働組合自身が本来の役割をよく考えて行動しなければ,ほんとうに存在意義がなくなってしまいかねません。
今回の春闘は,賃上げでわきそうですが,実は労働組合としては大変なピンチにあるという状況認識が必要だと思います。
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