カスハラについて
「キーワードからみた労働法」の930号(2023年2月号)でも取り上げた「カスタマーハラスメント」(カスハラ)ですが,東京都の小池百合子知事が,2月20日の施政方針演説で,東京でのカスハラの被害が深刻化しているとして,条例でルールづくりに乗り出すと発言しました。罰則は設けないようですが,構成要件を明確にするのが難しいでしょうから,当然でしょう。
カスハラからの保護は,労働法上の問題でもあり,労働施策総合推進法に基づき策定されたパワハラ指針のなかにも,カスハラへの言及があります。ただカスハラは,職場の問題とはいえ,従業員が行うセクシュアル・ハラスメントなどの他のハラスメント(これらについては,民法上も,企業が民法715条の使用者責任を負うことがありうる)とは違い,企業の客や取引先からの行為であるため,企業の責任の程度はやや弱そうな感じです。それでも,企業には,労働者が安全で快適な職場環境で働くことができるよう配慮する義務はありますので,やはりカスハラから従業員を守ることは必要だといえるのですが,労働法学ではやや関心が薄いテーマであったと思います。しかし,労働者のことを思うと,企業が取り組むだけではなく,社会的な関心事として,国や自治体もカスハラ対策に取り組むべきでしょう。またそれは,日本は未批准ですが,ILO190号条約「暴力及びハラスメント条約」の趣旨に則したものでもあります。
カスハラは,40代から50代の高所得者の会社役員,自営業者などによるものが多いと言われています。こういう人は,自分が厳しい環境で仕事をしているため,他人にも厳しく,少しでも問題があると感じられる従業員の態度に,激しく反応してしまうのかもしれません。それに日頃から仕事上の心理的プレッシャーを受けているので,何かあればすぐに爆発(暴発?)するのかもしれません。従業員のほうに非がある場合もあるかもしれませんが,やはり見苦しいです。
欧州にいくと,お客様第一主義などはありません。店員の対応の悪さに腹が立つこともありますが,むこうの人は,店員なんてそんなものと最初から思っているので,別に気にしないでしょう。笑顔の一つでもみせてくれればラッキーという感じです。店員は,労働契約上の義務に含まれていないサービスはしないのです。そう考えると,日本でときおりみられる過剰な接客サービスは,労働契約上の義務に(黙示的に)含まれているのかもしれません。もしそうなら,これはやはり労働法の問題(契約解釈の問題)になりえますし,労働組合が労働者の業務内容の改善という形で要求していくべきことかもしれません。
日本でも過剰サービスのない欧州型のスタイルが広がると,客のほうも良いサービスを期待しなくなり(良いサービスを期待したいなら,それを売りにしている高額の店に行くべき),カスハラも起こりにくくなるという好循環が生まれるでしょう。とはいえ,そのためには,サービスはタダではないということを理解し,無愛想でも最低限のやるべきことをやっていればそれでよしとするという意識が,日本人のなかに根付く必要がありますが,可能でしょうかね。
« 文理融合について思う | トップページ | 岡田スタイル »
「社会問題」カテゴリの記事
- 大学から研究者が消える?(2024.09.02)
- 南海トラフ地震臨時情報とは何だったのか(2024.08.18)
- 国防軍(2024.08.16)
- 兵庫県民として辛い(2024.07.18)
- カスハラ予防と高齢者(2024.06.25)