民意とは
テイラー・スウィフト(Taylor Swift)を知らないというのが,どれくらい恥ずかしいことかわからないのですが,アメリカの大統領選挙を左右するくらい影響力があると聞き,YouTube で数曲聞いてみました。聞いたことがある曲もありましたが,「ああ,アメリカ人が好きそうな曲だな」というくらいの印象で,良さはよくわかりませんでした。それはともかく,こういう人気歌手がとくに若者に影響力をもち,それが民主党や共和党のコアな支持層よりも多くの票を動かすというのは,すごいことです。
でも,これはアメリカだけのことではないでしょう。前の参議院選挙で,ガーシー氏が当選したことを忘れてはなりません。暴露系YouTuberと言われている彼が当選してしまったことの意味をよく振り返っておく必要があるでしょう。
参議院は,非拘束名簿式で,名簿順位ではなく,個人票で決まりますが,特定枠の人だけは優先的に当選する(順位が上位となる)という仕組みが採用されています。島根・鳥取,高知・徳島が合区になったので,どちらかの県からは立候補できない人が出てくるため,その救済策として設けられたそうです。自民党ではこの枠を使っており(もともと自民党が要求して実現したものです),実質的には無選挙で当選できる人が2人います。これは自民党の出世で考慮される当選回数に含まれるのでしょうかね(そういう当選回数主義をなくすという声もでていますが)。先回の選挙でも自民党の2名が特定枠で,その他にれいわで1名特定枠当選者がいました。特定枠では個人名で投票されても政党への投票とカウントされます。昨年は自民党の特定枠の当選者が,徳島県の知事選に立候補するために辞職して,徳島とは関係のない地域の人が繰り上げ当選したということがありました(ちなみに知事選に立候補した人は落選しました)。これでは徳島からの参議院議員がいなくなり,特定枠を設けた意味がなくなってしまいます。小さい政党であれば,知名度が高い人が個人票でかせいで,特定枠の人に議員になってもらうという戦略もあるのかもしれませんが,いずれにせよ特定枠は,有権者にはわかりにくい制度のように思えます。
ところでガーシー氏は約29万票を獲得していました。自民党の大口支援団体のあるような人は別としても,一般個人ではきわめて高い集票力をもっていたことになります。ガーシー氏でこりた有権者も多いかもしれませんが,インフルエンサー(influencer:和製英語っぽいですが,英英辞典に掲載されています)たちが呼びかければ,それに反応する有権者は多いと思われ,第2,第3のガーシーが出てくる可能性もあります。浮動票というのは,既成政党側の言い分で,これこそがほんとうの民意なのかもしれません。コアな支持層がいる政党は,安定しているともいえますが,知らぬ間に社会の変化から取り残され,民意と乖離している可能性があります。とはいえ,政治的なメッセージを発するインフルエンサーがどれだけの見識をもって発言しているかわからないのがネット社会の怖さであり,有権者の政治リテラシーが問われるところでしょう。
衆議院のほうは,比例代表は拘束名簿式ですので順位に縛られますが,選挙区との重複立候補が認められているので,選挙区で敗れても,比例の名簿での順位と政党の獲得した票(比例代表は政党名のみ記入する)によっては比例復活ということがあります。これは評判が悪いものです。選挙区で敗れたということは,民意としては不適格としたということなので,政党の票で,復活するというのは,同一順位の場合には惜敗率が考慮されるとしても,釈然としないものがあります。小選挙区の問題点である死票を少なくできるというメリットはありそうです(接戦で落選した人も,復活当選することは,民意の反映という点ではプラスになりうる)が,それは比例名簿の順位の決め方という政党の都合によっても左右されます(低い順位なら復活当選できないことが多いでしょう)。やはり小選挙区で立候補するのなら,比例代表では立候補しないのが政治家としての心意気でしょう。
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