« 『不当労働行為性の判断基準』 | トップページ | 銀河戦 »

2023年12月22日 (金)

東野圭吾『希望の糸』

 東野圭吾『希望の糸』(講談社文庫)を読みました。久しぶりの東野本です。悪人が出てこない作品であり,親子とは何かということなどを考えさせてくれます。以下,完全なネタバレはありませんが,少し示唆するところはでてきますので注意してください。

 一人で喫茶店を経営している中年女性(花塚弥生)が刺殺されました。誰も彼女のことを悪くいう人はいません。通りすがりの強盗でもありません。ただ,彼女の周りには,二人の怪しい男性がいました。一人は,最近,彼女の店によく通うようになり,親しそうに話をしていた男性(汐見行伸)です。もう一人は,彼女の元夫の綿貫哲彦です。汐見は,中学生の娘(萌奈)と二人で住んでいます。妻には先立たれていました。汐見が弥生に結婚を申し込んだけれど断られたから殺したという動機は考えられますが,汐見はそんなことをしそうな人には思えません。綿貫は,弥生が殺される少し前に弥生から電話をし,その後二人で会っていました。綿貫はいまでは介護の仕事をしている女性(多由子)と一緒に住んでいます(ただし事実婚です)。ただ,多由子は綿貫が弥生と会ってから様子がおかしくなったと言います。汐見と綿貫はまったく関係がないようですが,実はそうではありませんでした。二人がつながっていたのは,実はおよそ15年前の不妊治療でした。恐ろしい事故があり,それが二人を結びつけていました。そして汐見には,加えて子ども二人を同時に失うという悲しすぎる過去がありました。
 この家族の物語とは別に二本の話も走ります。一つは,多由子の壮絶な過去です。ようやく綿貫との安定した幸せを得ようとしたときに,彼の前に現れたのが元妻の弥生です。多由子は綿貫が元妻とよりを戻すのではないかと疑っていましたが,そこには悲しすぎる誤解がありました。もう一本の話は,この殺人事件の捜査をした刑事(松宮)のことです。松宮は母の克子から父は死亡したと聞いていたのですが,実は生きていて,現在,死の淵にいることがわかりました。父の真次は,金沢の旅館の婿養子であり,いまではその娘の亜矢子が女将となっています。その亜矢子が,父の遺言状をみると(事前に特別に弁護士から見せてもらいました),そこに松宮を認知するという記載があったというのです。亜矢子は一人娘だと思っていたのに弟がいたことになりますし,松宮は自分には異母姉がいて,父はまだ生きていたということを新たに知ったのです。真次と克子は不倫関係であったことになりますが,これは単なる浮気ではありませんでした。その背景には意外な理由があったのです(ちょっと無理があるかなという理由ですが,ないわけでもないかな,という感じです)。

 ということで,肝心のこと(誰が犯人か,萌奈は何者か,何が汐見と綿貫・弥生を結びつけたのか)は書いていませんので,ぜひ読んで確認してください。 

 

 

« 『不当労働行為性の判断基準』 | トップページ | 銀河戦 »

読書ノート」カテゴリの記事