銀河戦
藤井聡太八冠(竜王・名人)は,タイトル戦だけでなく,一般棋戦でも勝ちまくっていて,昨年は4棋戦制覇のグランドスラム(Grand Slam)を達成し,今年も2年連続グランドスラムかと言われていました。一般棋戦はトーナメントなので,前年優勝でも,シードはあったとしても,ある程度,勝ち抜かなければなりません。一般棋戦は連覇それ自体難しいですし,それを4期戦すべてというのは,至難の業です。そんな藤井八冠ですが,4棋戦の一つ銀河戦も順調に決勝まで進んでいましたが,決勝でまさかの敗北を喫しました。藤井八段に勝ったのは,若手バリバリの棋士ではなく,名人経験者で,竜王戦も1組ですが,順位戦はB級2組という53歳のベテラン棋士でした。丸山忠久九段です。銀河戦は初優勝です。これは将棋界では驚きのニュースではないかと思いますし,ちょっと夢のある話です。時間の短い勝負ですので,何があるかわからないとはいえるのですが,対局前の予想で,丸山九段が勝つとした人はほとんどいなかったでしょう。先手番で,十八番の角換わり戦法で臨み,相手の緩手を鋭くついて,勇気を持って攻め倒したという将棋でした。ジャイアント・キリングというと丸山九段に失礼でしょう。ただ藤井八冠の快進撃を止めて,将棋界に与えた衝撃は大きいのではないでしょうか。
その藤井八冠のもつ名人位への挑戦を決める順位戦のA級は,6回戦が終わりました。先週書いたこととあまり変わりありませんが,永瀬拓矢九段が渡辺明九段に勝ち,挑戦権争いに残りました。豊島将之九段が6連勝でトップ,菅井竜也八段が5勝1敗,続いて永瀬九段が4勝2敗で追います。B級1組は,10回戦が終了しました。こちらは成績上位陣がそろって敗れる波乱で混戦状況となりました。トップを走る増田康宏七段が敗れて2敗(8勝)となりました。勝てば昇級が決まっていたのですが,順位が最下位なので,残り2局は負けられなくなりました(残る相手は,大橋貴洸七段,屋敷伸之九段)。1勝して9勝に到達すればA級への昇級確定ですが,逃げ切れるでしょうか。増田七段を追うのが6勝3敗の千田翔太七段と6勝4敗の澤田真吾七段となりました。千田七段は,今回は抜け番で,残りの相手は羽生善治九段,屋敷九段,大橋七段となっています。昇級は2名ですが,順位が8位なので,8勝でとどまると,澤田七段が残り連勝をすれば,順位が4位ですので頭ハネとなります。澤田七段の残りの相手は,今期は不調で1勝6敗の横山泰明七段と,まだ降級の可能性が残っている4勝5敗の佐藤康光九段です。また昇級ラインが8勝にまで下がると,現在5勝4敗の棋士にもチャンスがあります。千田七段より順位が高い,1位の糸谷哲朗八段,6位の羽生九段,7位の山崎隆之八段の逆転昇級の目もないわけではありません。実は9回戦までは,糸谷八段,羽生九段が3敗で成績も上位であり,このまますんなり6勝3敗となると,有力な昇級候補でした。しかし,糸谷八段は,これまで負けたことがなかった屋敷九段に敗れ,羽生九段は,ここまで全敗(8敗)で降級がすでに決まっていた木村一基九段に敗れるという波乱が起きました。一方,降級候補は,木村九段以外に,横山七段が決まりましたが,3人降級なので,残り一人が熾烈な戦いとなっています。通常は5勝(7敗)すれば安全圏ですが,今期は5勝でも降級する可能性が出てきました。最終局までもつれるでしょう。鬼の住処といわれるB級1組のこれからの3局から目が離せません。