政治家の逮捕
柿沢未途代議士が逮捕されました。選挙での買収の疑いです。これは,現在問題となっている裏金問題とは別の事件ですが,東京の江東区の区長選で自身の応援する候補のために,区議にお金を配った疑いがもたれています。本人は,区議選もあったので,陣中見舞いという趣旨で配ったとしていますが,それが通用するでしょうか。こちらの逮捕はやむを得ないと思いますが,世間では,裏金問題においても,政治家の逮捕があるのかということに注目が集まっており,大物政治家の逮捕を待望する雰囲気もあるように思います。しかし,こちらのほうの逮捕については,あまり興味本位で言うべきことではありません。もちろん,政治資金規正法違反は,形式犯と言われていますが,贈収賄に近い悪質性があり,民主主義を守るためには,政治家が多額の使途がはっきりしない金を使うことを許容することはできません。きちんと起訴されるべきものは,起訴されるべきだと思っています。ただ,そのことと逮捕とは別の問題でしょう。
刑事訴訟法によると,「検察官,検察事務官又は司法警察職員は,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは,裁判官のあらかじめ発する逮捕状により,これを逮捕することができる」とされ(199条1項本文),「裁判官は,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは,検察官又は司法警察員……の請求により,前項の逮捕状を発する。但し,明らかに逮捕の必要がないと認めるときは,この限りでない」とされています(同条2項)。この最後の,「明らかに逮捕の必要がないと認めるとき」については,「逮捕状の請求を受けた裁判官は,逮捕の理由があると認める場合においても,被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし,被疑者が逃亡する虞がなく,かつ,罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは,逮捕状の請求を却下しなければならない」とされています(刑事訴訟規則143条の3)。逃亡のおそれがなく,証拠隠滅のおそれもないならば,逮捕してはならないのです。
逮捕については,昨日,東京地裁で判決があった大川原化工機事件のことが,どうしても気になります。判決は,「必要な捜査をせず漫然と逮捕した」と認めています(日本経済新聞の今朝の朝刊)。この事件については,日弁連のHPにも出ていますので,詳しくはそれを参照してほしいですが,起訴が取り消されるような事件で,なぜ1年近い拘留がされたのか,捜査機関の問題に加え,裁判官のチェックがどこまで機能しているのかについて疑問が残る事件です。
これは例外的なケースなのでしょうが,国民は,たとえ政治家に対してであれ,逮捕ということを軽々しく口にしないほうがよいと思っています。私は法律家として検察官や裁判官を信用したいと思っていますが,捜査は権力を使って行うものとなる以上,誤りがあったときの影響は甚大です。万が一にも冤罪を生まないようにするために,刑事手続は適正さが何よりも強く求められます。裏金問題についての追及の手は緩めてはなりませんが,大川原化工機事件もあるので,検察には,身柄拘束にこだわらず,適正手続を遵守しながら,巨悪を暴くというプロの技をみせてもらいたいです。
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