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2023年12月14日 (木)

無期転換ルール

 小嶌典明先生が文部科学教育通信という,ちょっとマニアック(?)な雑誌に連載されている「新・現場から見た労働法 第7回 カレント・ケース 大学編(2)」(535号,2022年)15頁で,厚生労働省が,無期転換ルールに基づき,無期転換した労働者が約118万人いると推計していることについて,その数字に疑問を提起されています。推計の基礎となるサンプル回答数が少なすぎることと,総務省の労働力調査における無期契約の増加数との整合性がないことが理由として挙げられています。
 私は統計の専門家ではありませんし,役所では専門家が推計をしているのでしょうから,間違いはないと信じたいところですが,ほんとうに100万人も労働契約法18条により無期転換したのかというのは,正直なところにわかには信じられません。直感で議論をしたらダメで,エビデンスが大切と言われていますし,エビデンスの重要性を否定するつもりはまったくありませんが,統計不正ということもあったのであり(今回がそうだと言うわけではありません),出された数字を鵜呑みにせず,少しでも疑問を感じればそれをぶつけて,疑問を解消することができれば,安心して議論ができると思っています。
 もちろん,正直にいつと,それは,私が無期転換ルールに批判的であることとも関係しています。いずれにせよ実証面は専門家に任せながら,私は理論的な面で,ほんとうに無期転換ルールは正当化できるのかということについて,もう少しこだわっていきたいです。
 ところで,無期転換ルールの見直しについては,118万人もの無期転換が生じたのだから,そのルール自体は見直す必要がないとされ,むしろ労働条件明示に関して無期転換に関するものを追加するなどの強化策をとる結果になってしまったようです。
 しかし,私が知るかぎりでも,無期転換ルールがあるがゆえに,これがなければ長期的に有期労働契約で働けただろうにもかかわらず,5年以内で雇止めされることになったという人がいます。ただ,全国で,実際にどれくらい,こうしたケースがあったかは,よくわかりません(やむなくクーリング期間をつかって,無意味に休ませることにしたケースもあったかもしれません)。
 どうせ調査をするのならば,雇止めをした企業に,無期転換がなければ有期労働契約で雇い続けたか,という質問事項を入れてもらいたいです。無期転換ルールに不利なデータも集めてきて,そうした情報をふまえながら政策論義をしてもらいたいですね。
 なお無期転換ルールができる前から,3年で雇止めをする慣行が広がっていたという指摘もありますが,無期転換の威力が軽視されているのではないかと思います。無期転換は労働条件が同一でよいとしても,解雇規制がかかる雇用に変わるという点で雇用が質的に違ってくる(と企業は考える)ので,よりいっそう雇止めを誘発する効果をもつことが見落とされていたのではないかと思います。もちろんこうした効果も仮説にすぎないので,この点も調査に含めてもらいたいですね。
 まあ,こういろいろ書いても,私のような無期転換反対論は,労契法旧20条や短時間有期雇用法8条の訓示規定説などと同様,学説としては存在しないような扱いであり,政府もまともに相手にしなくてよいと考えているのかもしれません。もちろん,相手にしてもらわなくてもよいのですが,ただ,国民のためにならない政府の独善的な政策になっていないかを自己点検をしてもらえればと思います。

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