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2023年12月 3日 (日)

キッシンジャー

 キッシンジャー(Henry Alfred Kissinger)が100歳で亡くなりました。アメリカの最も有名な外交官といってよいでしょう。日本の頭越しで中国との国交正常化を樹立するなど,日本にも多大な影響をもたらしたアメリカ人です(Wikipediaによるとドイツ系ユダヤ人で,ナチスを嫌って渡米して帰化)。
 たまたま高橋和夫さんの『なるほどそうだったのか!? パレスチナとイスラエル』(幻冬舎)を読んでいたのですが,そこでも彼の名前が出てきました。戦後徐々にアメリカ人にとってお荷物となりかけていたイスラエル(Israel)の存在意義を認識させることにキッシンジャーは貢献したというのです。1970年のヨルダン内戦のとき,パレスチナ(Palestina)とシリア(Syria)連合に対して劣勢に立たされていたヨルダン(Jordan)側に,ヨルダン王制の存続を望んでいたアメリカが,ヴェトナム(Vietnam)戦争などの影響による国内情勢から,直接派兵しづらい状況のなかで,イスラエルに援助を頼み,結果としてシリアは撤退し,ヨルダン・イスラエル連合が勝ったということがありました。このときにイスラエルを参戦させるために尽力したのが,当時ニクソン(Nixon)政権の特別補佐官であったキッシンジャーだというのです。この人はほんとうに歴史の重要な局面で顔を出してくる感じがしますが,その評価は難しいところでしょう。なお,田原総一朗氏が語っている,キッシンジャーの原爆容認発言は,日本としてはとうてい承服できないものです(田原総一朗 × オリバー・ストーン & ピーター・カズニック「武力介入は失敗するという歴史をなぜアメリカは繰り返すのか」)。日本人でも元防衛大臣久間章生氏のように,同様の容認発言をする人もいるのですが……。
 前記の高橋さんの本は,なぜイスラエルはアメリカに影響力をもっているのか,なぜアメリカはイスラエルの肩をもつのかについて,とてもわかりやすく説明してくれています。この点だけでなく,パレスチナとイスラエルの紛争の根源はどこにあったのか,という点も説明してくれています。高橋さんは,宗教問題ではないと断言します。問題は19世紀末から起きたものなのです。背景にあるのは,民族主義,帝国主義,社会主義であるというのが高橋さんの主張です。ここはとても重要と思うので,ぜひ実際に読んでみてください。
 イギリスらがオスマントルコを滅ぼすまでは,エルサレム(Jerusalem)はいろんな民族が平和的に共存していました。ところが,欧州由来の民族主義,そして欧州のキリスト教徒によるユダヤ人の迫害(Holocaustがその頂点),さらにイギリスの三枚舌外交などが重なって,ユダヤ人のシオニズム(Zionism)に火をつけ,結果として,いわば母国といえるエルサレムへの帰還を促進することになり,そしてそこに長年住んでいたパレスチナ人に犠牲を強いることになったのです。欧州の責任は,あまりにも大きいでしょう。そのほかにも,エジプトの役割や,なぜノルウェー(Norway)が紛争調整に貢献できているのかということも,本書では説明されています。そして上記のアメリカとイスラエルの関係がでてきます。大統領選挙が近づく中,ユダヤ票を無視できない民主党のBidenがとるべき政策はわかりやすくなります。アメリカが,現在の中東問題にこれからどう関与するのかを,日本もよくみながら,アメリカ特有の事情に左右されず,独自の外交を貫いてもらいたいと思います。高橋さんはノルウェーが,イスラエルとの良好な関係を築きながら,ハマス(Hamas)とも人脈があるという強みがあり,日本もノルウェーを参考にすればどうかということを,最近でもTVなどで語っています。
 高橋さんの本は,2015年刊行ですが,いまの問題を考える際にも必読の書だと思います。

 

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