« 2023年11月 | トップページ | 2024年1月 »

2023年12月の記事

2023年12月31日 (日)

平和の追求と有事への備えを

 今年は,昨年来のウクライナ(Ukraina)の戦争に加えて,ガザ(Gaza)地区の戦争も始まり,悲惨な1年でした。NHKの朝ドラのブギウギでも,東京空襲のシーンがありました。アメリカは,日本の民間人に向けて,空から無慈悲に爆弾を落としました(最後は広島と長崎の原爆でした)。許せないことです。神戸も空襲を受けています。私たちは,その生き残りの子孫なのです。いまウクライナやガザで起きていることは,実際,日本でも起きたことですし,またいつ起こるかわからないことです。他人事と思っていてはいけないでしょう。イスラエル(Israel)という国を理解するのは,かなり難しくなりました。テロの先制攻撃を受けたことは確かとしても,また人質がいるためにその救出が必要であることも確かとはいえ,この事態を口実として,ガザを支配下に置こうとしているのではないかという疑念もあります。ユダヤ人の歴史には気の毒なところは多々あるのですが,中東における現代のイスラエルの動きは,もともとはイギリスに責任があるとはいえ,Palestina人にとっては迷惑以外のなにものでもないのです。現時点では,よく言われる「ジャングルの掟」の世界で,力勝負で決着をつけようとするところがありますが,本来,アメリカの原爆で終わった第二次世界大戦のあとは,国際連合における五大国が国際紛争を抑止する警察官の役割をするということになっていたはずです。それがロシアの戦争で,その枠組みは崩壊し,中東については,アメリカが積極的に和平に向けた介入をしてくれないということで,世界は再び第二次世界大戦時の状況に戻ってしまうのではないか不安でいっぱいです。そうなったとき,日本は,ほんとうにあのときと同じ轍を踏まないと言い切れるでしょうか。これだけ政治が大切となっている時期に,裏金問題などで弱体化した現在の国内の政治状況は危機的でもあります。
 ところで,ウクライナが,大国ロシアとの戦争で持ちこたえているのは,大統領のメディア戦術が巧みで,しかもリアルな被害状況が瞬時に世界に配信され,世界中の共感を得ていることも大きいでしょう。Palestinaへの同情が広がっているのも,同じ理由です。また,1225日の日経新聞の記事で,ウクライナでは高度に電子政府化が進んでいたために,数百万人が住む場所を追われ,パスポートや住民票を失った人が少なくないにもかかわらず,社会がパニックになっていないということが書かれていました。国家の危機を,デジタル技術が救っている面があるのです。もちろんデジタルに頼りすぎることは,サイバー攻撃などにより一気に麻痺してしまう危険もあるのですが,それでも日本の現状は,デジタル化の危険を口にするような段階にまで至っていないような気がします。忍び寄る戦争の危機のなか,戦争を回避して平和を追求する努力は欠かせないのですが,それと同時に,有事の際の市民生活を守るためのデジタル政府化というものも,来年にはぜひとも最優先で取り組んでもらいたいです。私たちは,そういうことができる政府を選ばなければなりません。

2023年12月30日 (土)

年賀状じまい

 今年も残り2日となりました。いつもクリスマスが終わった後の1週間は早いですね。
 ところで,働き方改革のことを昨日書きましたが,自分自身は,どうでしょうか。リモート重視は変わっていませんが,1年で完全オフという日はほとんどありません。研究者というのは,みんな同じだと思います。冬休みの時期は,とくにやることが多いです。年明けは忙しくなるので,いまのうちに期末試験の問題をつくったり,学位論文を読んだり,連載の仕込みをしたり,比較的締め切りが近い単発の原稿の準備をしたりということで,ゆっくりする時間はそれほどありません。それでも1日のなかで休息の時間を確保するのは自分の判断でできますし,また年間をとおしてみると,1週間,1カ月,1年の単位で,どのあたりの時期に仕事を詰めて行い,どのあたりの時期にゆっくりやるかということは比較的調整しやすいので,健康障害に至るような過労にはならずにすんでいます。自分の仕事を自分でオーガナイズできるからなのですが,こういう働き方ができる人は,まだあまり多くないでしょう。真の意味の裁量労働を実現できる人が増えればよいのになと思います。
 ところで,不祥事が続く日大で理事長についている作家の林真理子さんが,日経新聞の夕刊に週に1回エッセイを書いておられました。12月26日の最終回のなかで,「平然とエッセイを書いて」などの悪口が言われたと書かれていましたが,御本人は「私としては一度引き受けた仕事をちゃんと成し終えるのは,プロとして当然のことだと思う」と毅然と述べていました。自分の時間をきちんとコントロールして,引き受けた仕事をやるというのが,まさにプロの働き方です。どんなに日大で不祥事が多くて大変といっても,ご本人は日大と契約した範囲で仕事をすればよいのです。なにかあれば無制限にその仕事に打ち込まなければならないというのは,危険な考え方であり,そういうのが残業地獄につながっていくのです。
 その林真理子さんも,その1週間前の12月19日の回では,年賀状じまいをすると宣言されていました。「今年は忙しくてそれどころではなく,すっぱりとやめた」とのことです。多忙でもなんとか調整して引き受けた仕事をこなすがプロでありますが,同時に,それ以外の時間はできるだけ効率化を進め,仕事の質を高めるのもプロなのです。年賀状のやりとりのようなことは,メールなどでもできるので,最も廃止しやすい事の一つでしょう。そういう私も,数年前に年賀状はやめています(厳密にいえば,数名の方にだけ出しています)。私の書いていた年賀状の枚数は,林真理子さんとは比べものにならないくらい少なかったでしょうが,それでも私にとっては年賀状を書くのはあまり楽しい作業ではなく,その意義にもずっと疑問を感じていたので,年賀状をやめてよかったと思っています。とはいえ,どことなく罪悪感もあったのですが,世間で年賀状じまいがかなり増えてきたようなので,ほっとしています。

 

2023年12月29日 (金)

真の「働き方改革」

 日本ではテレワークが減っているという日経新聞の記事を先日紹介しましたが,アメリカでは逆に出社率が戻らないという記事も出ていました(電子版では1226日「米国、戻る外食・戻らぬ出社 新型コロナ4年で新常態」)。アメリカでも,外出はもちろん増えたそうですが,出社となると違うようです。「いまとなってはオフィス復帰(という考え)は死んだも同然である」という経済学者の言葉も紹介されていました。「在宅勤務に協力的かどうかが,仕事を選ぶ上で大事だ」というカリフォルニアのシステムエンジニアの言葉も紹介されていました。私が想定する今後の働き方はこういうものですが,日本ではどうなるでしょうか。
 私は安倍政権のときの「働き方改革」は,真の「働き方改革」ではないと言ってきましたし,2020年に日本法令から刊行した『デジタル変革後の「労働」と「法」』では,そのサブタイトルを,「真の働き方改革とは何か?」としていました。デジタル変革(DX)に正面に向き合わない働き方改革などありえないという問題意識からのものです。
 でも来年は真の働き方改革が起こるのではないかと思っています。労働力不足が深刻化し,いろんなビジネスで,人手不足が深刻になり回らなくなります。DXは必要ですが,当面はそれだけでは不十分です。最終的にはDXにより人間の労働需要は減っていくでしょうが,そこにいくまえに,まず人間の労働力の確保がある程度は必要となります。そのためには,労働条件を引き上げることが必要です。労働条件のこだわりは,人によっては賃金面のこともあれば,労働時間面のこともあるでしょう。前者の例は,運送業界です。来年4月からの時間外労働規制の強化により歩合給の頭打ちが起こる心配のあるトラック運転手の,インバウンド需要などでかなり稼げるようになっているタクシー運転手への移動が起きているようです。一方,もともとある程度の賃金水準が支払われている業界では,労働時間の削減へのこだわりがあるでしょう。ワーク(W)・ライフ(L)・バランスの意味が,WLの適度のバランスではなく,L優先,ときどきWというバランスの取り方になっていて,今後は,出社型であれば週休3日はマスト,テレワークであれば週休2日というのが,標準的な働き方になるのではないでしょうか(今朝の日経新聞でも,週休3日制が地方公務員などで導入されつつあることが紹介されていました)。さらに年次有給休暇は100%消化,休日労働は原則禁止というのも必要で,これは前から私が法制化を主張してきたことです(たとえば,2011年に明石書店から刊行した『君は雇用社会を生き延びられるか-職場のうつ・過労・パワハラ問題に労働法が答える-君は雇用社会を生き延びられるか-職場のうつ・過労・パワハラ問題に労働法が答える-』,2019年に中央経済社から刊行した『労働時間制度改革―ホワイトカラー・エグゼンプションはなぜ必要か―』(中央経済社)を参照)。 
 少し前までは非現実と考えられていた働き方が,今後は普通になるでしょう。そして,それを実現できない企業は,労働力不足で廃業を余儀なくされるでしょう。もし日本企業の大部分が,こうしたL中心の要求に応えられなければ,人材は海外流出するか,国内の外資系企業に奪われることになるでしょう。こうした事情が,真の「働き方改革」を引き起こすのです。

 

 

2023年12月28日 (木)

政治家の逮捕

 柿沢未途代議士が逮捕されました。選挙での買収の疑いです。これは,現在問題となっている裏金問題とは別の事件ですが,東京の江東区の区長選で自身の応援する候補のために,区議にお金を配った疑いがもたれています。本人は,区議選もあったので,陣中見舞いという趣旨で配ったとしていますが,それが通用するでしょうか。こちらの逮捕はやむを得ないと思いますが,世間では,裏金問題においても,政治家の逮捕があるのかということに注目が集まっており,大物政治家の逮捕を待望する雰囲気もあるように思います。しかし,こちらのほうの逮捕については,あまり興味本位で言うべきことではありません。もちろん,政治資金規正法違反は,形式犯と言われていますが,贈収賄に近い悪質性があり,民主主義を守るためには,政治家が多額の使途がはっきりしない金を使うことを許容することはできません。きちんと起訴されるべきものは,起訴されるべきだと思っています。ただ,そのことと逮捕とは別の問題でしょう。
 刑事訴訟法によると,「検察官,検察事務官又は司法警察職員は,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは,裁判官のあらかじめ発する逮捕状により,これを逮捕することができる」とされ(1991項本文),「裁判官は,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは,検察官又は司法警察員……の請求により,前項の逮捕状を発する。但し,明らかに逮捕の必要がないと認めるときは,この限りでない」とされています(同条2項)。この最後の,「明らかに逮捕の必要がないと認めるとき」については,「逮捕状の請求を受けた裁判官は,逮捕の理由があると認める場合においても,被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし,被疑者が逃亡する虞がなく,かつ,罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは,逮捕状の請求を却下しなければならない」とされています(刑事訴訟規則143条の3)。逃亡のおそれがなく,証拠隠滅のおそれもないならば,逮捕してはならないのです。
 逮捕については,昨日,東京地裁で判決があった大川原化工機事件のことが,どうしても気になります。判決は,「必要な捜査をせず漫然と逮捕した」と認めています(日本経済新聞の今朝の朝刊)。この事件については,日弁連のHPにも出ていますので,詳しくはそれを参照してほしいですが,起訴が取り消されるような事件で,なぜ1年近い拘留がされたのか,捜査機関の問題に加え,裁判官のチェックがどこまで機能しているのかについて疑問が残る事件です。
 これは例外的なケースなのでしょうが,国民は,たとえ政治家に対してであれ,逮捕ということを軽々しく口にしないほうがよいと思っています。私は法律家として検察官や裁判官を信用したいと思っていますが,捜査は権力を使って行うものとなる以上,誤りがあったときの影響は甚大です。万が一にも冤罪を生まないようにするために,刑事手続は適正さが何よりも強く求められます。裏金問題についての追及の手は緩めてはなりませんが,大川原化工機事件もあるので,検察には,身柄拘束にこだわらず,適正手続を遵守しながら,巨悪を暴くというプロの技をみせてもらいたいです。

2023年12月27日 (水)

保護からサポートへ

 厚生労働省の「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書では,労働者を「守る」と「支える」の2つの視点が重要とされています。「守る」視点とは,「全ての働く人が心身の健康を維持しながら幸せに働き続けることのできる社会を実現するためには,いかなる環境下においても全ての労働者に対して守るべきことがあるという」視点,「支える」視点とは,「全ての働く人が活躍し,やりがいを持って働ける社会を実現するために,働く人の多様な希望に応えることができるよう,働く人の多様な選択を支援する必要があるという」視点とされています。
 報告書のなかの具体的な検討事項については,厚生労働省のやりたい政策がそれとなく埋め込まれて誘導されている可能性があるので,その適否についてしっかりみておく必要がありますが,それはさておき,これまで私がフリーランスの問題において「保護」という言葉を使わず,「サポート」という言葉を使うよう気をつけてきたのは,まさに「守る」と「支える」の違いに対応したものであったといえます。つまり「保護」は,従属労働者に対して与えるもので,「サポート」は,自営的就労者が,その自立を実現するために与えるものです。今回の報告書の「支える」は,労働者の多様な選択を支援するというものであり,私がいう「サポート」とはやや異なるのですが,「支える」政策を突き詰めると,本来は,従属労働者の議論から徐々に離れ,自営的就労者に関する議論に近づいていくことになると思います(なお,フリーランス新法は,「サポート」よりも,「保護」に近い立法になっています)。いずれにせよ,今後の政策では,伝統的な労働者として想定していた「労働者弱者論」,「企業強者論」とは距離をおくべきであり,もし今回の報告書を受けて,労働基準法制においても,労働者の多様化を軸に,そうした方向での検討がされたらいいですね。せっかく新たな時代の問題に取り組むなら,DXも視野にいれながら,大きな議論をすべきでしょう。なお,私がおよそ10年前に執筆した「労働法は,『成長戦略』にどのように向き合うべきか」季刊労働法24728頁以下(2014年)では,従属性概念を中核とした規制の見直しを提案し,規制内容の決定レベルの分権化と規範内容の明確化を志向する議論をしていますが,この報告書には,これと通じる部分もあると(勝手に)思っています。
 さらに想起されるべきなのは,私の前記の論文よりも,さらに20年前に出されている,菅野和夫・諏訪康雄の共著論文である「労働市場の変化と労働法の課題―新たなサポート・システムを求めて」(日本労働研究雑誌418号)でしょう。そこでは「サポート」という言葉が使われていて,労働者像の多様化や労働市場における必ずしも弱者ではない労働者の登場を前提にした政策提言がなされています。労働者に対しても「サポート」という言葉が使われていますが,意味するところは,私と同じような使い方です。というか,私の用語法も,この論文から学んだものなのです。
 「保護」から「サポート」への移行は,労働法の理論体系を根本的に変えるものです。そして,それは私の頭では,従属性のグラデーション化を通して,従属性の薄い労働者を対象としたデロゲーションを認めることと,従属性はないけれど別の要保護性のある自営的就労者を対象としたサポート・システムを策定することという動きに結びついていくのです。こうした大きな絵を描きながら政策を再構築していくことが必要だと思っています。

2023年12月26日 (火)

経営者は社員に何を示すべきか

 昨日の日本経済新聞の2つの記事が気になりました。一つが,「テレワーク3年半減」というものです。日本生産性本部の最新調査で,テレワークが,20205月の31.5%から,15.5%になったとのことでした。上司が出社しているから在宅勤務を続けづらいとか,自宅の通信環境が悪いといった理由があげられていましたが,どちらも困ったものです。テレワークを本気でやる気のない企業が多いことはわかっていましたが,これは日本経済の未来に暗い影を落とす現象です。昔風の働き方に慣れている人はテレワークをしたくないですし,対面型のメリットを過剰に評価していますし,テレワークのメリットを感じられていないことが多いでしょう。しかし,テレワークは,まずはいろんな意味で弱者である人(育児や介護の負担をかかえている人,障がいをかかえている人など)に大きなメリットとなるのです。対面型推進は,いわば強者の論理なのです。ただ,それだけではありません。もしテレワーク率がこのまま衰退していけばどうなるでしょう。テレワークは,いわば時間的,場所的という面での自由にかぎらず,働き方そのものの自由さを象徴しているのであり,それは独創性の源なのです。テレワークを活用するというのは,そうした独創的な人材に選んでもらうために必要な経営戦略であるということなのです。
 もう一つの記事は,編集委員の太田泰彦さんが書いていた「エンジニアに点火する オープンAI騒動の含意」です。エンジニアは何のために働いているかということを論じています。社会に意味のある仕事がしたいというエンジニアたちは,自分たちにそういう仕事をさせてくれる経営者についていくのです。Altman氏は,現場が胸の踊るような世界観を語っていたので,従業員のなかで信奉者が多く,彼が会社を移籍すれば,ついていくのです。キャリア権の時代は,個人がキャリアを選択します。自身のキャリアは,自身の価値観と密接に関係していて,それに合致する企業が選ばれていくのです。もちろん個人が企業を選ぶためには,それなりのスキルがなければなりません。したがって,個人は,自身で企業の選択ができるようにするために,スキルを磨くのです。そして,企業は,そうしてスキルを磨いた人に選んでもらえるように,よい経営者をトップに据えなければならないのです。政治家との関係や財界団体の活動に熱心すぎて,従業員に向けて世界観を語れない経営者がトップにいる企業は,やがて没落していくでしょう。昨日は,企業と投資家との関係について書きましたが,今日の話は,企業と働き手との関係に関するものです。経営者は,上記のテレワークの話も含め,優秀な人材が何を求めているのかを間違えないようにしなければならないでしょう。

2023年12月25日 (月)

新NISAと労働法

 今年もあと1週間で終わりです。振り返ると,今年も海外へは行きませんでした。もう4年近く行っていません。国際的な会合に出かけるということもなくなりました(たいていの会合は,オンラインでできるのです)。飛行機に乗ること自体,今年は2往復しかなく,JALANAのマイルもほとんどなくなりました。阪神タイガースの日本一のご褒美がハワイということで,とても羨ましいです。
 実は,コロナの間にパスポートの有効期間が切れ,更新をし忘れていたので,パスポートがないという状況に約40年ぶりに陥っていますが,そろそろパスポートを新規に作成し,海外旅行に備えたいと思います(パスポートは,車の免許証がない私にとって,かつては本人証明としても重要でしたが,マイナンバーカードが出てきて,本人証明はこれでできるようになりました)。とはいえ,現在の円安では,ちょっと行く気になれません。せめて1ドル130円,1ユーロ140円くらいにはなってほしいですが,来年中に実現するでしょうか。
 もう少し円が強くなれば外貨預金をして,海外旅行用の貯蓄もしたいところです。もちろん,老後資金を貯めなければならず,新NISAも始まるので,できれば海外旅行用の資金も,これで調達したいところですが,非課税枠を使い切るほどに投資できる余裕はありません。これから長期にわたって投資ができる若い人が羨ましいです。若い人が投資の世界に入ってきて,日本企業の株を買ってくれるようになると,日本の経済にも朗報といえるかもしれません。ただ,投資はリスクがあるので,とくに若い人には,前にも書いたように,「お金の教育」が必要でしょう。投資は,社会勉強であり(政治や経済の動きに敏感である必要があります),また人生そのものであります(損をしたり,得をしたりしながら多くのことを学んでいきます)。
 そういう私も投資のことに,それほど詳しいわけではありませんが,それでも限られた資金のなかで,生き延びていくためには,投資に頼るしかありません。ただ投資は,お金を増やす目的だけでやるべきものではないと思っています(そもそも,うまくお金が増える保証はありませんし)。ESGという言葉をつけるかどうかに関係なく,本来は,社会課題の解決に貢献しようとしている企業に対して,その事業に必要な資金を提供するものなのです。そういう企業が社会に役立つことをして収益を上げ,それが従業員の賃金や株主の配当などに還元されて,お金がまわっていくというのが理想です。
 逆に,大企業であっても,社会課題の解決という目的を忘れてしまったところには,投資をしないよう注意をすることが必要です。不正が明るみでた企業の株価は急落し,その影響で配当金も下がることが多いです。良い企業を選別する目をもった投資家が増えてくると,市場メカニズムを通して企業を規律することができます。労働問題についても,上場企業にはこのメカニズムが機能しえます。投資家としての市民の目で,企業が従業員にブラックなことをしないように監視することができるからです。こうみると,投資家を拡大すると予想される新NISAは,労働法のあり方にも影響を及ぼすかもしれません。

2023年12月24日 (日)

全国高校駅伝

 全国高校駅伝は,女子は神村学園(鹿児島)の大逆転でした。留学生ランナーの活躍で,仙台育英が逃げ切るかと思っていましたが,ラストで120秒差を,上村の留学生ランナーのカリバが逆転しました。相手の背中が見えると追うほうが強いですね。追われるほうも,とりわけ高校の最強ランナーと呼ばれるカリバに追われるとなると,たとえ120秒という大差があっても,心理的なプレッシャーは大変なものだったでしょう。競技場に入ったとき,まだ50メートルくらい差があったのですが,残り400メートルで逆転されてしまいました。兵庫県からは須磨学園が男女出場しています。女子は,入賞ぎりぎりのところで走っていましたが,最後は6位でした。2区の選手が区間3位の快走した以外は,いずれも区間2桁の10位台ですが,大きなブレーキがなく,アンカーは競り勝つ強さがあり,そうすると入賞できるということですね。女子はいつも出場すれば安定した成績を残しており,今年も見事でした。留学生ランナーのような大砲がいないなかで,頑張っていると思います。近畿では,3位に立命館宇治,4位に大阪の薫英女学院が上位に入っています。
 男子は,佐久長聖(長野)が評判どおりの強さで勝ちました。連覇を狙った倉敷は1区の出遅れがひびき,留学生ランナーも爆発的な挽回ができず,2連覇とはなりませんでした。それでも2位となり実力をみせました。兵庫代表の須磨学園は男子には大砲がいました。日本人最強ランナーの折田選手が1区で,評判どおりの力を見せてくれました。自分でレースを作って先頭で引っ張り,ラストで競り勝って,日本人の区間最高タイという快走でした。これでよい流れができて,ずっと上位で走りました。そういえば,昨年も兵庫県代表は西脇工業の長島選手(現在は旭化成)が同じようにトップで走りきりました(最終順位は6位)。もちろん優勝するためには,もう23枚準大砲クラスの選手が必要ですが,女子と同様,誰もブレーキにならずに安定した走りで,見事に4位入賞です。応援していた2年生の長谷川君もアンカーで頑張りました。八千代松陰の区間賞をとった選手に抜かれましたが,彼自身はきちんと走り抜いて区間8位でしっかり仕事をし,学校最高順位(これまでは5位)を達成しました。須磨学園は,2区と5区という短距離のところで,もう少し頑張ることができて,6区がもう少し粘っていたら3位に入れたような気がしますが,来年に期待です。もちろん,まずは激戦が必至の兵庫県大会に勝つことが目標となるでしょう。

2023年12月23日 (土)

銀河戦

 藤井聡太八冠(竜王・名人)は,タイトル戦だけでなく,一般棋戦でも勝ちまくっていて,昨年は4棋戦制覇のグランドスラム(Grand Slam)を達成し,今年も2年連続グランドスラムかと言われていました。一般棋戦はトーナメントなので,前年優勝でも,シードはあったとしても,ある程度,勝ち抜かなければなりません。一般棋戦は連覇それ自体難しいですし,それを4期戦すべてというのは,至難の業です。そんな藤井八冠ですが,4棋戦の一つ銀河戦も順調に決勝まで進んでいましたが,決勝でまさかの敗北を喫しました。藤井八段に勝ったのは,若手バリバリの棋士ではなく,名人経験者で,竜王戦も1組ですが,順位戦はB2組という53歳のベテラン棋士でした。丸山忠久九段です。銀河戦は初優勝です。これは将棋界では驚きのニュースではないかと思いますし,ちょっと夢のある話です。時間の短い勝負ですので,何があるかわからないとはいえるのですが,対局前の予想で,丸山九段が勝つとした人はほとんどいなかったでしょう。先手番で,十八番の角換わり戦法で臨み,相手の緩手を鋭くついて,勇気を持って攻め倒したという将棋でした。ジャイアント・キリングというと丸山九段に失礼でしょう。ただ藤井八冠の快進撃を止めて,将棋界に与えた衝撃は大きいのではないでしょうか。
 その藤井八冠のもつ名人位への挑戦を決める順位戦のA級は,6回戦が終わりました。先週書いたこととあまり変わりありませんが,永瀬拓矢九段が渡辺明九段に勝ち,挑戦権争いに残りました。豊島将之九段が6連勝でトップ,菅井竜也八段が51敗,続いて永瀬九段が42敗で追います。B1組は,10回戦が終了しました。こちらは成績上位陣がそろって敗れる波乱で混戦状況となりました。トップを走る増田康宏七段が敗れて2敗(8勝)となりました。勝てば昇級が決まっていたのですが,順位が最下位なので,残り2局は負けられなくなりました(残る相手は,大橋貴洸七段,屋敷伸之九段)。1勝して9勝に到達すればA級への昇級確定ですが,逃げ切れるでしょうか。増田七段を追うのが63敗の千田翔太七段と64敗の澤田真吾七段となりました。千田七段は,今回は抜け番で,残りの相手は羽生善治九段,屋敷九段,大橋七段となっています。昇級は2名ですが,順位が8位なので,8勝でとどまると,澤田七段が残り連勝をすれば,順位が4位ですので頭ハネとなります。澤田七段の残りの相手は,今期は不調で16敗の横山泰明七段と,まだ降級の可能性が残っている45敗の佐藤康光九段です。また昇級ラインが8勝にまで下がると,現在54敗の棋士にもチャンスがあります。千田七段より順位が高い,1位の糸谷哲朗八段,6位の羽生九段,7位の山崎隆之八段の逆転昇級の目もないわけではありません。実は9回戦までは,糸谷八段,羽生九段が3敗で成績も上位であり,このまますんなり6勝3敗となると,有力な昇級候補でした。しかし,糸谷八段は,これまで負けたことがなかった屋敷九段に敗れ,羽生九段は,ここまで全敗(8敗)で降級がすでに決まっていた木村一基九段に敗れるという波乱が起きました。一方,降級候補は,木村九段以外に,横山七段が決まりましたが,3人降級なので,残り一人が熾烈な戦いとなっています。通常は5勝(7敗)すれば安全圏ですが,今期は5勝でも降級する可能性が出てきました。最終局までもつれるでしょう。鬼の住処といわれるB級1組のこれからの3局から目が離せません。

2023年12月22日 (金)

東野圭吾『希望の糸』

 東野圭吾『希望の糸』(講談社文庫)を読みました。久しぶりの東野本です。悪人が出てこない作品であり,親子とは何かということなどを考えさせてくれます。以下,完全なネタバレはありませんが,少し示唆するところはでてきますので注意してください。

 一人で喫茶店を経営している中年女性(花塚弥生)が刺殺されました。誰も彼女のことを悪くいう人はいません。通りすがりの強盗でもありません。ただ,彼女の周りには,二人の怪しい男性がいました。一人は,最近,彼女の店によく通うようになり,親しそうに話をしていた男性(汐見行伸)です。もう一人は,彼女の元夫の綿貫哲彦です。汐見は,中学生の娘(萌奈)と二人で住んでいます。妻には先立たれていました。汐見が弥生に結婚を申し込んだけれど断られたから殺したという動機は考えられますが,汐見はそんなことをしそうな人には思えません。綿貫は,弥生が殺される少し前に弥生から電話をし,その後二人で会っていました。綿貫はいまでは介護の仕事をしている女性(多由子)と一緒に住んでいます(ただし事実婚です)。ただ,多由子は綿貫が弥生と会ってから様子がおかしくなったと言います。汐見と綿貫はまったく関係がないようですが,実はそうではありませんでした。二人がつながっていたのは,実はおよそ15年前の不妊治療でした。恐ろしい事故があり,それが二人を結びつけていました。そして汐見には,加えて子ども二人を同時に失うという悲しすぎる過去がありました。
 この家族の物語とは別に二本の話も走ります。一つは,多由子の壮絶な過去です。ようやく綿貫との安定した幸せを得ようとしたときに,彼の前に現れたのが元妻の弥生です。多由子は綿貫が元妻とよりを戻すのではないかと疑っていましたが,そこには悲しすぎる誤解がありました。もう一本の話は,この殺人事件の捜査をした刑事(松宮)のことです。松宮は母の克子から父は死亡したと聞いていたのですが,実は生きていて,現在,死の淵にいることがわかりました。父の真次は,金沢の旅館の婿養子であり,いまではその娘の亜矢子が女将となっています。その亜矢子が,父の遺言状をみると(事前に特別に弁護士から見せてもらいました),そこに松宮を認知するという記載があったというのです。亜矢子は一人娘だと思っていたのに弟がいたことになりますし,松宮は自分には異母姉がいて,父はまだ生きていたということを新たに知ったのです。真次と克子は不倫関係であったことになりますが,これは単なる浮気ではありませんでした。その背景には意外な理由があったのです(ちょっと無理があるかなという理由ですが,ないわけでもないかな,という感じです)。

 ということで,肝心のこと(誰が犯人か,萌奈は何者か,何が汐見と綿貫・弥生を結びつけたのか)は書いていませんので,ぜひ読んで確認してください。 

 

 

2023年12月21日 (木)

『不当労働行為性の判断基準』

 弁護士法人高井・岡芹法律事務所編『裁判例・労働委員会命令にみる不当労働行為性の判断基準』(経営書院)をいただきました。不当労働行為性の判断基準に関連する判例や労働委員会命令を整理したものです。不当労働行為事件は,労働法のなかでも最も難しい分野であり,わかりやすい解説書が求められています。本書は,論点ごとにわかりやすく分類されているので,実務において大いに役立つでしょう。昨年のUber Japanほか1社事件の都労委命令(2022104日)など,最新の情報も含まれています。もっとも,Uber Japanの使用者性を認めた部分(26頁)については,どう評価されているか知りたかったですが,書籍の性質上,そういうことは書かないということだったのでしょう。なお,この論点(Uber Eatsだけでなく,Uber Japanの使用者性まで認めたこと)については,季刊労働法の最新号で,これを疑問とする評釈が掲載されています(松田朋彦氏の執筆)。都労委命令の結論はともかく,命令の理由づけで十分かは,理論的な観点から議論があるところでしょう。
 ところで,高井・岡芹法律事務所には,これまで個人的にも大変お世話になりました。高井伸夫先生が主催されていた,諏訪康雄先生が提唱されているキャリア権に関する研究会の仲間に加えていただき,大変勉強をさせてもらいました。高井先生のいろんな人をつなげる力はすごかったと思います。その高井先生が亡くなられていたことを,つい最近知りました。謹んでご冥福をお祈りします。
 同事務所は,岡芹先生を中心に,今後も揺るがず発展されるでしょう。実は,同事務所の弁護士の方々には,10年以上前のことになりますが,私が編著者となった『労働法演習ノート』(2011年,弘文堂)の刊行時に,事前に原稿を読んでもらい貴重な意見をいただいたことがありました(同書の「はしがき」も参照)。優秀な弁護士がそろっているのだと思います。今回の書籍も,同事務所の成果の一つでしょう。

 

2023年12月20日 (水)

政治家のキャリア

  小泉龍司法務大臣が二階派を離脱するという話には唖然としましたね。二階派を離脱しても,それは形だけで,二階派との関係が切れるとはとても思えないのであり,そうした人が法務大臣についているだけで問題なのではないでしょうか。これで乗り切れると本気で思っているとすれば,本人も岸田首相も,その感覚にあきれてしまいます。この大臣は罷免すべきでしょう。Wikipediaでみると,小泉大臣は,東大法学部卒・大蔵官僚というエリートですが,自民党を途中で離党した経験があり,二階派には恩があるかもしれませんね。そうなると,いっそう検察の強制捜査が入った二階派の推薦により法務大臣になった小泉氏を,その任務に継続して就かせることはできないでしょう。この方も,志をもって政治家になったのでしょうし,当選回数も7回と実績もあり,年齢も71歳と高齢になるなか,初めての入閣ということで,そう簡単に大臣ポストを手放すことはできないのかもしれませんが。後任には,非政治家のほうがよいのではないでしょうか(かつての三ヶ月章先生のような)。
 西村康稔前経済産業省大臣は,安倍派バッシングのなかで,今回の辞任はつらいでしょうが,やむを得ません。本人のキックバックの問題だけでなく,派閥の事務総長として,多額の政治資金の裏金化を主導していたということであれば,政治家としての資質を問われるのは当然です。ただ,この方は,地元に近い選挙区(兵庫9区)で,年齢も近いため,個人的には気になる存在です。もちろん個人的なつきあいはありませんが,前にも書いたことがあるように,西村さんが経済再生大臣であったときの2020年10月,「選択する未来2.0」という内閣府のリモート会議で,1回プレゼンをしたことがあり,そのとき西村大臣もおられてコメントをくださり,それに応答したことがありました。また今年も経産省の役人から話を聞きたいと言ってきたときに,その役人が,西村大臣から私の名があがったと言っていたので,むこうもこちらのことを覚えてくれていたのかもしれません。
 西村さんも小泉大臣に負けない,東大法学部・通産官僚というエリートで,しかも総理への野心を隠さず,あともう一歩というところまで来ていました。今回のことで,総理・総裁への道は,大きく遠のいたことは確かでしょう(女性秘書官の話まで出てきたので,大ピンチでしょう)。ボクシング部だったそうなので,これくらいのパンチでは倒れないかもしれませんが,ノックアウト寸前かもしれません。これで政治家生命が終わってしまうのか,それとも不死鳥のごとく這い上がってくるのか。同世代の一人の政治家が,そのキャリアの終着点がどうなるのかを,注目してみていきたいと思います。

2023年12月19日 (火)

佐藤博樹ほか『新しい人事労務管理』

 佐藤博樹・藤村博之・八代充史『新しい人事労務管理(第7版)』(有斐閣)をいただきました。いつも,どうもありがとうございます。人事労務管理のテキストとして「鉄板」のものです。拙著『人事労働法』(弘文堂)でも,同書の第6版を参照しました(略語一覧に挙げた限定された本のなかの一つです)。労働法の授業でもサブテキストに使用できますし,学部のゼミであれば,こちらのほうをテキストにして,法律の本をサブにしてもよいくらいです。4年ごとの改訂だそうですが,新しい情報もきちんと含まれています(フリーランス新法など)。とくにここで推奨しなくても,間違いなく労働分野に関心をもつ人は,必ず購入するでしょう。
 ところで,筆者の一人の佐藤さんから,前にこのBlogで,無期転換ルールのことについて書いたことに対するコメントを個人的にいただきました。無期転換ルールは,少なくとも派遣労働者の無期化には影響を及ぼしていると教えてもらいました。
 思うに,これは,派遣元において無期雇用である場合(無期雇用派遣)には,派遣可能期間の制限がなくなったことが関係しているのではないでしょうか。派遣先のほうは,有期雇用派遣だと3年の制限がかかってくるので,3年を超えて働いてもらいために無期雇用の派遣労働者を望むので,派遣元もそれに対応しているということはありえます。これとは別に,派遣元では,優秀な派遣労働者は長期的に抱え込みたいので,5年で無期転換があるのなら,労働者の無期転換の申込みがなくても(つまり労働契約法18条の規定によらなくても),自発的に無期に転換するかもしれません。こういう自発的な無期転換が起こることは,本来望ましいので,まったく問題はありません。私がわからないのは,そうした無期転換が起こらず,かえって雇止めが増えたということがあるのではないかという点です。無期転換ルールの導入前から雇止めはあったことはたしかですが,でも無期転換ルールの導入が雇止めを増加させた可能性がないかという疑問はあるのです。

 

2023年12月18日 (月)

一周忌

 父が亡くなって1年経ちました。早いものです。還暦になるような年齢になっても,両親がいないことの悲しみは深いです。いまでも,もっと親に対してこんなことをしていたらよかったという後悔で,夜中に目が覚めることもあります。とくに3時から5時くらいの時間帯は脳が悲観的になっているので,こんな思考になるのでしょう。おそらく脳がネガティブな情報を整理している時間帯なのでしょう。目覚めなければそれほどでもないのでしょうが,年齢のせいか,小用で目が覚めることが増えてしまい,どうしても眠りが浅くなるのは困ったものです。
 ところで,数日前までの暖かさから一変して,寒い気候になりました。在宅中心にしているので,寒さの影響はそれほどでもありませんが,暖房費の節約は考えていますから,できるだけ着込んで過ごそうと思っています。
 ここ数年は,在宅時間が長い生活が続いていますが,忙しさは以前より増しました。WLBWork-Life-Balance)という点では,圧倒的にL中心ではあるのですが,それでも,やらなければならない仕事量は結構多くて,結局のところ,Wの比重も高まっています。削れているのは,移動時間です。これがないために,時間を捻出できています。たまに歩くと頭の刺激になって,新しい発想も湧くので,移動の効用は軽視できないのですが,それでも移動しないことのメリットのほうが大きい気がしています。自宅にいれば,様々なLの面への配慮がし易いですし,慣れればWにも集中しやすくなります(Lの時間のために,限られた時間をWに集中することもできている感じがします)。ということで,いつものように「テレワークのすすめ」です。

2023年12月17日 (日)

「そがれる研究時間」 

 今日の日経新聞の電子版の「Inside Out」で,「多忙な日本の学者,そがれる研究時間 科学力低迷の必然」という記事が出ていました。このBlogでもよく書いていますが,大学の研究者が研究以外に割かれる時間数はきわめて多いのです。記事のなかにも出てきますが「評価」関係のものがとくに深刻です。研究費の申請書も手間がかかります。ちなみに,研究費の申請をすることについては,大学側から強い圧力がかかります(科研費の間接経費が重要であるため)。いまはそれほど資金をかけずに研究ができるから申請をやめておこうというようなことは基本的に許されない雰囲気があります(私たちの研究は,理系などのように巨額の資金がなければ研究ができないということはありません。もちろん,ある程度の研究費は必要ですが)。そして使途については,国会議員と違って厳しいチェックがあるし(そもそも事務を通しますので,ガラス張りです),この書籍はちょっと研究費の申請テーマから遠いかもしれず,あとからクレームが来ないかというようなことを気にして自腹で買うこともよくありました(いろんな本を読むことが発想の源泉なのですが)。以前に大学の図書館にある書籍の発注をかけたとき,図書館の人からこの書籍は研究テーマにどう関係しているのかと問われて,面倒に思った経験があったことが影響しています(別に高額の図書ではありません。もちろん説明はできますが,7~8年前くらいは法学の研究者がAI関係の書籍を買うことが異様に思えたのかもしれません。しかし,そういう説明を専門家でもない人相手にさせられること自体が煩わしかったのです。もちろん,その図書館の人は,あとの審査にそなえて,私のことを気遣って言ってくれていたのですが)。
 とにかく教育にある程度の時間が取られるのは当然ですが,それ以外の大学の「雑務」(研究と教育以外のことを,あえてこう呼びたいと思います)が多すぎるのです(雑務が入ると,そこで集中がとぎれたり,前後の時間が使えなくなったりするので,短時間の雑務でも影響は大きいです)。そういう私は,いまはそういう雑務的な仕事はほとんど割り当てられず,担当しているのは比較的若い研究者です(こちらはやろうにも,老眼で書類のミスをしたりして,かえって迷惑をかけてしまうのです)。おそらく理系でも同じようなことであると推察され,それが日本の科学研究の将来に深刻な悪影響を及ぼすのではないかと心配になります。
 雑務系の業務は,たとえば大学の運営などに関わり,政府からくるものが多く,どうしても必要であればやらざるをえないのでしょうが,それが研究の邪魔になれば本末転倒なのです。できるだけ研究を阻害しないように,雑務を効率化することを最優先事項にしてほしいです。現在はその真逆で,雑務こそ最優先となっています。税金で研究をしているのだから当然と言われると反論はしにくいですが,国会議員への腰の引けた対応との違いが大きすぎないでしょうか。どういうお金の使い方が望ましいのかということを大局的に考える政治であってほしいですが,無理でしょうね……。

2023年12月16日 (土)

棋戦情報

 藤井聡太名人への挑戦権をめぐって争うA級順位戦は,豊島将之九段が6連勝で,これを王将戦の挑戦を決めている菅井竜也八段が51敗で追いかける展開です。この両者は最終戦で対局するので,このまま勝ち進んで,将棋界の一番長い日(2024年2月29日)に大勝負ということになるかもしれません。渡辺明九段(前名人)と永瀬拓矢九段が32敗で追いかけていて,次に対戦します。負けると挑戦者レースから脱落でしょう。降級争いは,広瀬章人九段(11月に昇段しました)が15敗と苦しい状況です。順位がいいとはいえ(2位),残りを21敗で切り抜ける必要があるでしょう。豊島九段や渡辺九段との対局が残っているので苦しいかもしれません。そのほかに,24敗で,斎藤慎太郎八段,稲葉陽八段,佐藤天彦九段,中村太地八段が並んでいます。中村八段は,渡辺九段と永瀬九段との対局が残っており,順位が最下位であるだけに,この両者に勝たなければ残留は難しくなるでしょう。
 広瀬九段は,順位戦は不調ですが,実は竜王戦では,1組のランキング戦では,豊島九段をくだして順調にスタートしました。また,棋王戦では,挑戦者決定戦に進出しています。相手は伊藤匠七段です。棋王戦独特のルールにより,ベスト4以上は,2敗しなければチャンスがあります。広瀬九段は,準決勝で伊藤七段に勝っています(この勝利で広瀬九段は昇段を決めました)が,伊藤七段がその後,2連勝して,挑戦者決定戦に上がってきました。広瀬九段に連勝すれば逆転挑戦です。広瀬九段は1勝すれば挑戦決定です。伊藤七段は竜王戦で藤井竜王に完敗しただけに,雪辱をはたしたいでしょうし,広瀬九段にとっても,2期前に竜王位を奪われたのが藤井竜王だけに,やはり雪辱をはたしたいでしょう。
 伊藤七段はこれだけ活躍しているのですが,順位戦はC1組で順位1位ながら,52敗で現在4番手です。昇級は3人であり,すでに自力での昇級は期待できなくなっています。伊藤七段くらいの活躍をしていても,C1組から簡単に脱出できないというのが順位戦の怖さです。ただ,それをいうと,今年の前半,藤井八冠(竜王・名人)とのタイトル戦に連続で登場した佐々木大地七段は,なんと最下位のクラスであるC2組から脱出できていません。毎年,高勝率をあげており,今年大きくブレイクしましたが,すでに実力は折り紙付きです。しかし,今期も順位戦では苦戦しています。順位は3位とよいのですが,現時点で,52敗で8番手です。こちらも自力での昇級はなくなり,今期も昇級は厳しそうです(C級2組は,全勝か,順位上位者でも1敗まででなければ昇級は難しいです)。 順位戦,恐るべしです。伊藤七段も佐々木大地七段も実力的にはA級にいてもおかくないと思います。先月のNHK杯で,伊藤七段が完璧な指し回しで,A級棋士の稲葉八段に圧勝した将棋は,そのあまりの強さに,素人の私でも驚いてしまいました。ただ,その伊藤七段でさえ,先の竜王戦では藤井八冠に4連敗と手も足も出なかったのです。藤井八冠の強さは異次元なのです。

2023年12月15日 (金)

メディアの責任

 ヤメ検で政治家になって,いまは弁護士をしている若狭勝氏がテレビで,政治家を長くやっていると,世間の常識に鈍感になってしまうという趣旨のことを言っていました。政治家の世界は独特の村社会であり,それだけ一般の人にとっての参入障壁が高いし,そこに馴染むためには,一般社会の常識を捨てなければならないのでしょう。パーティなるものをして,政治資金を集めなければならないというのも,やはりこの村社会独特のしきたりのようです(ノルマで社員を追い立てるブラック企業のようだとも言えそうですが)。自分たちのつくった政治資金規正法では,きちんと記載をしていれば問題がないはずだったのに,それを記載せず,裏金にしてしまうというのが,安倍派を中心にやっていたことです。表に出ない金で,政治家が政治活動をしているというのは不気味です(もちろん個人的に使っていたとなると別の倫理的問題がありますし,税法上の問題もあります)。最初は,違法かもしれないけれど,みんながやっているのだからということで,徐々にそれがその組織での常識となり,異を唱えることが難しくなっていったのかもしれません。安倍派の政治家のなかには,派閥の指示でやったことだとして保身に走り始めた人がいます。気持ちはわからないではないですが,政治家としては情けないですね。上から言われたら,おかしいことでも従うという主体性のない政治家なんて頼りなさすぎます。
 これがただの村社会なら,どうでもよいことなのですが,権力をもっている集団が勝手なことをしているのですから,世間の目でチェックすることが必要です。本来はそれをやるべきマスメディアが,すっかり政治の常識のほうにとりこまれてしまって,批判的な能力を失っていたのではないかと思えます。裏金問題をスクープしたのが赤旗であるという事実を忘れてはなりません。共産党は,党内体制があまり民主的にみえない点では世間の常識から離れていると思います(それゆえ多くの支持は集められないでしょう)が,金銭的にきれいなので,政治とカネというテーマでは,期待できるところがあります。赤旗のスクープの後も,それを後追いをする他のメディアがなかったようなので,それはどういうことなのでしょうか。一般の政治報道記者は,どうしても政治家と近くなりすぎて,どうしても彼らの常識に影響されてしまうのかもしれません。それに,もし影響されなければ,政治家から「君は頭が悪い」などと言われてしまうのでしょう。どちらのほうが頭が悪いか,勝負しよう,と言えるくらいの気概をもったジャーナリストに出てきてほしいです。
 いずれにせよ,いまいちどメディアは,自身のレゾン・デートルを問い直すべきでしょう。これはジャニーズ問題も同じです。みんなが黙っているから,報道しないことにしようというようなメディア人は,職業倫理的に大きな問題があり,不要であるどころから,有害です。ジャニー氏や裏金政治家たちと同罪なのです。
 結局,私たちがフェイクであるリスクも感じながら,YouTubeなどで発信される情報に頼ることが多いのは,既存メディアに対する不信からです。労働問題であれば,その情報提供の不正確さや偏りについては,私自身も多少の専門知識がありますから,疑問に思うことはブログで発信しますし,価値観に関わることは,そのことを断ったうえで私の見解を述べますが,専門領域でないことになると,一般社会人のレベルでのコメントしかできません。しかし,それでもできるだけ何かおかしいと思われることは発言したほうがよいと思っていますし,日頃からそうしたアンテナを張って,自分の感覚を研ぎ澄ます訓練をしておこうと思っています(それは,まずは読書から始まるのですが)。
 いまやメディア(元は,「媒介」という意味)というものを通さなくても,国民がみんな言論フォーラムで自由に政治的な意見を戦わせることができます。これにはいろいろリスクもあるのですが,いずれにせよ従来型の報道メディアの役割は終わりつつあるのかもしれません。

2023年12月14日 (木)

無期転換ルール

 小嶌典明先生が文部科学教育通信という,ちょっとマニアック(?)な雑誌に連載されている「新・現場から見た労働法 第7回 カレント・ケース 大学編(2)」(535号,2022年)15頁で,厚生労働省が,無期転換ルールに基づき,無期転換した労働者が約118万人いると推計していることについて,その数字に疑問を提起されています。推計の基礎となるサンプル回答数が少なすぎることと,総務省の労働力調査における無期契約の増加数との整合性がないことが理由として挙げられています。
 私は統計の専門家ではありませんし,役所では専門家が推計をしているのでしょうから,間違いはないと信じたいところですが,ほんとうに100万人も労働契約法18条により無期転換したのかというのは,正直なところにわかには信じられません。直感で議論をしたらダメで,エビデンスが大切と言われていますし,エビデンスの重要性を否定するつもりはまったくありませんが,統計不正ということもあったのであり(今回がそうだと言うわけではありません),出された数字を鵜呑みにせず,少しでも疑問を感じればそれをぶつけて,疑問を解消することができれば,安心して議論ができると思っています。
 もちろん,正直にいつと,それは,私が無期転換ルールに批判的であることとも関係しています。いずれにせよ実証面は専門家に任せながら,私は理論的な面で,ほんとうに無期転換ルールは正当化できるのかということについて,もう少しこだわっていきたいです。
 ところで,無期転換ルールの見直しについては,118万人もの無期転換が生じたのだから,そのルール自体は見直す必要がないとされ,むしろ労働条件明示に関して無期転換に関するものを追加するなどの強化策をとる結果になってしまったようです。
 しかし,私が知るかぎりでも,無期転換ルールがあるがゆえに,これがなければ長期的に有期労働契約で働けただろうにもかかわらず,5年以内で雇止めされることになったという人がいます。ただ,全国で,実際にどれくらい,こうしたケースがあったかは,よくわかりません(やむなくクーリング期間をつかって,無意味に休ませることにしたケースもあったかもしれません)。
 どうせ調査をするのならば,雇止めをした企業に,無期転換がなければ有期労働契約で雇い続けたか,という質問事項を入れてもらいたいです。無期転換ルールに不利なデータも集めてきて,そうした情報をふまえながら政策論義をしてもらいたいですね。
 なお無期転換ルールができる前から,3年で雇止めをする慣行が広がっていたという指摘もありますが,無期転換の威力が軽視されているのではないかと思います。無期転換は労働条件が同一でよいとしても,解雇規制がかかる雇用に変わるという点で雇用が質的に違ってくる(と企業は考える)ので,よりいっそう雇止めを誘発する効果をもつことが見落とされていたのではないかと思います。もちろんこうした効果も仮説にすぎないので,この点も調査に含めてもらいたいですね。
 まあ,こういろいろ書いても,私のような無期転換反対論は,労契法旧20条や短時間有期雇用法8条の訓示規定説などと同様,学説としては存在しないような扱いであり,政府もまともに相手にしなくてよいと考えているのかもしれません。もちろん,相手にしてもらわなくてもよいのですが,ただ,国民のためにならない政府の独善的な政策になっていないかを自己点検をしてもらえればと思います。

2023年12月13日 (水)

見習い労働

 近所のスーパーのレジでは,客が少ない時間帯(夕方など),若い店員が「研修中」というプレートを胸につけて働いています。こういう風景は昔からよく見かけます。あえて「研修中」ということを示しているのは,サービスが不十分でもご容赦くださいという意味でしょうかね。スーパーのレジくらいなら,それでよいでしょうが,職種によっては研修中の人のサービスを受けたくない,研修中の人にサービスをさせるならば料金を値引きしてほしい,と言うような人もいるかもしれません。研修医の治療を受けたくないという人もいるかもしれません。私も若いころなら,そんなことを口に出さないまでも,心のなかでつぶやくことがあったかもしれませんが,いまは日本の未来を支える若い人が経験を積むことが大切だと思うので,少なくともベテランがサポートしているなら問題なしという前向きな気持ちになっています(レジくらいなら当然そうですが,医療の外科手術となるとちょっと心配ですが)。
 労働法の世界では,試用期間中であっても「労働者」として扱われることは当然ですし,通常は,特別な解約権が留保されていると解されるものの,労働契約それ自体は普通に成立していると判断されます。試用期間中の賃金については,特別の規定はありませんが,最低賃金の減額特例が認められる可能性はあります。
 ところで日本では試用期間が,実質的には研修期間としての意味をもっていることが多いと言われています。留保解約権の行使は実際には容易ではない(あるいは有効性の判断についての予測可能性が低い)こともあり,試用期間は,実際には,雇用継続を前提としたうえでの見習い的な期間という位置づけになっていると思われます。そうした見習い期間の賃金を多少なりとも低くすることは,期間はそれほど長くないはずなので,企業の教育コストを考慮し,かつ,本人のスキルアップの利益も考慮すると,通常はとくに問題がないと思われます。
 一方,イタリアでは,見習い労働者(apprendistato)は,労働協約上の賃金等級が引き下げられています(イタリアの労働者は職務給ですが,同じ職務に従事していても,見習い労働者であれば,賃金が低くてもよいのです)。情報が古くなっていますが,拙著『イタリアの労働と法―伝統と改革のハーモニー』(2003年,日本労働研究機構)で,2003年当時の見習い労働の規制内容を比較的詳しく紹介していますので,関心がある人は読んでみてください(44頁以下。現在では,見習い労働は,2015615日委任立法8141条以下で規制されており,時間ができればしっかり勉強したいと思っています)。
 日本において,見習い労働をめぐる明確な法制度はありませんが,研修や見習いの期間は,労働契約の期間であるとはいえ,通常の労働契約とは違う面があると考えて,これを解釈論に反映させることはできるでしょうか。そんな問題意識は前から持っていたのですが,改めてKLM国際航空の東京地裁判決(2022117日)をみて,気になってきました。いまこの会社は,日本人客室乗務員との間でいくつかの訴訟が起きていますが,この事件は,無期転換ルールの5年要件において,当初の訓練のための契約2カ月分が算入されるかが問題となっています(算入されるかどうかで無期転換が生じるかどうかが決まります)。裁判所は,訓練契約が労働契約であるかどうかは,労働者性の問題であるとし,結論として,これを肯定しました。現在この会社では,訓練は訓練契約ではなく,通常の労働契約の期間内で行われているようなので,今後こういう紛争が起こらないのかもしれませんが,この事件では,過去の訓練契約の期間の法的な性質が問題となっています。東京地裁のように労働者性の問題としてみれば,それを肯定する結論になるのは自然なように思えます。この事件を,学生のリクエストで大学院でとりあげたときに,私が論点として指摘したのは,労働者性の問題よりも,無期転換ルール(労働契約法18条)の問題ではないか,ということです。たとえば,大学教員任期法では,TATeaching Assistant)らは,学生として在籍している期間は,年数要件に算入されないと明記されています(72項)。このほか,年数要件には10年の特例があるなど,そもそも形式的な年数で無期転換申込権を付与することに無理があることがわかるのですが,試用期間についても,本来はTAなどと同様に,通算契約期間から除外することがあってよさそうです。今後,技能育成について企業に一定の負担をしてもらうという政策をとるならば,研修や見習い段階の労働の法整備をきちんとして,企業への訓練の義務づけと合わせて,その期間内は労働法や社会・労働保険の特例を定めるというような見習い労働法の制定を考えてみたらどうでしょうか(トライアル雇用など,散在する既存の仕組みを整理することも含みます)。そのなかには,無期転換の特例を組み入れることも当然含まれてくるでしょう。

2023年12月12日 (火)

生成AI元年

 久しぶりにHPのリンクページをアップデートしました。自分でもあまり活用していない厚生労働省のデータは,知らぬ間に古くなっていました。職安指針も昨年改正があった令和4年版ですが,今回,新規にアップしました。
 いろんな情報がネットで入手できるのはありがたいですが,情報の洪水のような感じで,それに溺れないようにする必要があります。最新の情報はビジネスガイド(日本法令)などで次々と紹介されているので,研究者はそれをじっくり分析することが仕事となります。
 もっとも,データの単なる分析であれば,人間の専門家であっても,AIに太刀打ちしづらくなっていくかもしれません。現在は,まだ人間が優位に立っているでしょうが,それがいつまで続くかはなんとも言えません。それのみならず,生成AIの発展は,創造性の領域にまで進出しつつあります。今朝の日本経済新聞のオピニオンで,中山淳史氏が「アイデア生産性」の低下のことを紹介していました。人間のアイデアが枯渇するなか,生成AIが助けとなるということです。
 振り返ると,今年は生成AI元年でした。私も生成AIをテーマとした原稿をいくつか書きました。かねてより,DXの進展は,人間から定型的な労働を奪っていく(観点を変えれば,人間が定型的な単純労働から解放される)ので,これからの職業キャリアでは,知的創造性を発揮していくことを考えていかなければならないという主張をずっとしてきました(たとえば拙著『会社員が消える―働き方の未来図』(文春新書))。しかし,その知的創造性の領域にもデジタル化の波が及んできているのです。これは予想できたことです。DXの行き着く先は,人間が労働そのものから解放されるところになりますが,そこに至るまでのスピードが予想をはるかに上まわっているのです。これは今年,何度も書いたことです。
 拙著『AI時代の働き方と法―2035年の労働法を考える』(2017年,弘文堂)の最後のほうでは,脱労働時代のことに言及し,エピローグでは,要するに人間はどのような生き物であるのか,という問いかけで話は終わっています。これは,2016年くらいから数年間,盛んに書いたり,話したりしていたテーマで,そのときの問題意識は,その後しばらくは脳の奥に格納していましたが,そろそろ引っ張り出して,またしっかり考えなければならないと思っています。
 上記の記事では,中山氏は,「人間がAIに依存し切るのではなく,上手に管理し切る」という方向性に言及しています。人間とAIの共生が今後の重要なテーマで,それについてくらいは,人間自身で考えたいのですが,それもうまくAIを利用して模索するということになるのかもしれません。とにかく頭を柔軟に,そして変化に機敏に対応できるようなマインドセットをしておかなければいけません。これは,日本社会のエスタブリッシュ層に広がる先例踏襲主義とはまったく違うものであることは言うまでもありません。

2023年12月11日 (月)

白が黒に

 12月になり初秋のような暖かさが続くなか,政治の世界では,激震が起きています。オセロで白が次々に黒に変わるような変化です。 
 石破茂氏が,安倍元首相に徹底的に嫌われて,派閥が弱体化し,最後は解散に思い込まれたとき,もう総理へのチャンスはなくなったと思っていました。ところが,いま派閥という仕組みに逆風が吹き,派閥に関係がなくなっていた彼もノーチャンスではなくなってきました。国民の間で人気が高いのも追い風です。
 少しまえまでは国民に人気があっても,派閥で出世してリーダーとならなければ,総理になることは難しいように思われました。しかし,それが大きく変わりつつあります。派閥があってお金を集めることができれば,派閥で評価され,昇進できるチャンスがあったのですが,その集金システムが停止してしまいました。むしろ派閥の幹部は金にきたないというイメージがついてしまい,総理になるチャンスが大きく遠のきました。こうなると,派閥という組織に頼らずに政策を磨いていた人にチャンスがきます。無派閥の小泉進次郎氏や高市早苗氏も浮上してきました。派閥には属しているが,派閥の幹部ではなく派閥色が薄い河野太郎氏などにもチャンスがあります。さらに,今回の江東区長の出直し選挙で,自民党がすり寄ってきた小池百合子都知事にも,チャンスが巡ってきたのではないでしょうか。
 安倍晋三元首相の強力な影響力で,派閥政治全盛と思われていたなか,急激な評価下落です。現首相が慣例に反して派閥の領袖で居続けたのも,派閥の意味を重くみていたからでしょう。今回の派閥離脱は,派閥と距離をおいたほうがよいという,あきれるくらいわかりやすい行動で,とても彼がなにか主義思想をもって行動しているようには思えませんね。
 面白がってみていてはいけません。しっかりしたリーダーを選ばなければ大変なことになります。これだけ不人気の首相でも,それに挑もうとする若手政治家がいないことが嘆かわしいです。あまりに大きな変化が起こることは望ましいことではありませんが,アンシャンレジームの不満がたまって暴発して取り返しがつかなくなることを避けるためには,いまの段階で大改革により,政治を一新しておいたほうがよいです。高島芦屋市長はまだ若すぎますが,40代くらいで良い人材はいないでしょうかね。

2023年12月10日 (日)

国会でのスマホ使用

 少し前に,河野太郎デジタル大臣が,参議院の予算委員会で辻元議員の質問に,スマホで検索をして内容を確認しながら返答しようとしたところ,議長から注意されたことが話題になりました。どうも審議中のスマホの使用は認められていなかったようです。 
 一昔前までなら,スマホの持ち込みや使用の禁止はわからないではないですが,いまはどうでしょうか。スマホはネーミングがミスリーディングで,実は電話ではなく,超小型コンピュータのようなものです(私も電話として使用することはほとんどありません)。スマホでの検索は時間がかかるので,質問時間が減らされるという批判もありますが,その場でわからないという返答よりも良いという見方もありえます。
 スマホをみながら授業中に報告をする学生は,私の経験では何年か前から現れ始めました。授業での報告は,紙媒体でなくてもよいとしており,本人が事前にメールで送った資料を,こちらは授業中ノートパソコンでみて,本人はスマホをみながら報告するということもありました。何も問題を感じませんでした(いまではスマホよりも,ノートパソコン持参学生がほとんどなので,学生はそれをみながら報告することになります)。スマホの利用は,人々がメモをみながら話すのと同じで,しかも通信機能をつかって内容を確認できるという点では,メモより優れているのです。
 単に相手をやりこめるということだけを考えていれば,スマホの検索で一呼吸を置かれるのはいやかもしれませんが,いまや世間では利用が当たり前の道具です。私もよく考えると,テレビや日常の会話で少しでも何か不明な点があれば,机の前ならPC,居間などであればiPad,それ以外であればスマホで,すぐに調べて解決を試みます。よほど時間がないときでないかぎり,あとで調べて確認するということはしません。それに単純なことであれば,Siriに聞けますし,少し複雑になっても,ChatGPTの利用で,迅速に解決ができます。いずれにせよ,近くにPCなどがないときに,スマホを使えないとなると,とても困ります。どんな会議であっても,きちんと議論をするための道具としてのスマホの活用を制限したりしているようではいけません。これでは,ますますデジタル後進国になるでしょう。

2023年12月 9日 (土)

政治への絶望と希望

 自民党安倍派のパーティ券問題の影響は,燎原の火のごとく,あっというまに広がりましたね。官房長官は,野田佳彦元首相が言ったように,まさに「任にあらず」です。自分が責任者となって派閥の資金を扱っていて,自身へのキックバックの疑惑もあるのに,まともな答弁がなにもできないようでは,どうしようもありません。
 派閥は政策集団という建前となっていますが,現実には,政策よりもパーティでの集金のための集団であったようです。二階派の元大臣が,パーティ券のノルマが果たせないから派閥を離脱すると言っていたことが,まさに派閥の本当の機能を物語っています。
 官房長官の問題は,首相の問題でもあります。そもそもこの政権は,首相も官房長官も,大切なことでも抽象的な説明に終始し,官僚のつくった文章を読むだけのような感じでした。政治家として,国民に真摯に向き合って説明をするということができていませんでした。岸田氏は,首相になるまえに,どこまで政策の準備をしていたのでしょうか。いま世界は大変な時期で,日本の将来にかかわる重要な政策的課題が数多く横たわっています。政策よりもパーティ券ノルマに追われる議員たちが支える政党から,まともな首相が出てくることを期待するほうが無理なのでしょうね。絶望的です。
 一方で,野党への不満は,政権をとったときに,どういう国家像をもって,どういう政策を実現したいのかが,あまり見えてこないことです(とくに外交面)。立憲民主党は,せっかく「次の内閣」を公表しているのですから,ネクスト大臣がもっと政策を出し,それを泉代表がきちんと国民に伝えるということをしてほしいです。自民党は自己崩壊しつつありますが,だからといって立憲民主党に大きな風が吹きそうにないのは,彼らがどのような政治をするのかについてのイメージがわかないからでしょう。自民党の失策で転がり込んできた票を集めただけでは,政権をとれないと思います。
 世の中では,年功序列が崩れつつあります。政策をしっかり磨き,国民に伝えられるだけの力をもつ政治家がいれば,政治家の経験年数などに関係なく,国民は,思い切ってその人に託したいと考えるのではないでしょうか。自治体レベルでは,芦屋市の20代の高島崚輔市長が注目されています(教育委員の人事が議会で否決されるなど苦戦しているようすが,これも勉強でしょう)。彼は自分の言葉で自分の政策を語っています。何をしたいのか伝えてくれるリーダーです。こういう若者がどんどんでてきて,経験を積んで,国政で日本の救世主になってくれたらよいなと思ってています。

2023年12月 8日 (金)

真珠湾攻撃の日におもう

 今日は82年前に真珠湾攻撃により日米が開戦した日です。今日にいたるまでの対米隷属状態を生み出した根本的原因を遡ると,この日の攻撃にあります。いまでは,私も含め,日本人が大好きなハワイですが,アメリカにとっては,ハワイへの攻撃はその歴史に消えないものであり,その意味で,日本は永遠の敵国なのです(とはいえ,ハワイも,アメリカが併合した国なのですが)。日本は今後もこの重い十字架を背負っていかなければなりません。愚かなことをしたものであります。
 NHKの朝ドラのブギウギは,ちょうどこの日に合わせていたのでしょうか,今週,日米開戦の日のシーンが出てきました。福来スズコ(笠置シヅ子)は,弟の戦士の報に接し,悲嘆にくれます。父の梅吉は,息子の死は誤報であると思いこんでいます。信じたくないのです。朝の番組にしては重いテーマですが,よかったと思います。
 開戦の報に,みんなが喜ぶシーンが出てきます。日中戦争が泥沼化し,国内でも戦時体制で締め付けが強くなり,スズコらのやっているようなエンターテインメントの部分が最も当局から睨まれるものとなりました。ジャズのような敵性音楽を歌ったり演奏したりするとなると,いっそうです。日本全体が戦争のために重苦しい雰囲気になっているなか,真珠湾攻撃は,閉塞状況を打破してくれる快挙だと思った人が多かったのでしょう。すでに家族から戦死者が出ている人であっても,自分の家族の死が報われるために,戦争勝利を願ったかもしれません。完全に洗脳されていたのです。メディアの多くは,大本営発表の垂れ流しで,国民の戦争支持の世論を形成し,国民の洗脳に貢献しました。
 現実は,勝つ見込みのまったくない絶望的な戦争に突入していたのです。何も知らずに無邪気に日本の勝利を期待している82年前の国民を,現在の国民の目から見ると哀れに思います。でも,いつ私たちも同じような立場になるかわかりません。
 シズコの弟の六郎が徴兵検査で甲種に合格したことに大喜びし,赤紙が実際に来た時にも喜ぶ姿が悲しいです。自分も一人前の男と認められたという喜びでしょうが,それは死地に行く地獄への切符でした。六郎もそのことはわかっているのです。姉のスズコには死への恐怖を語っていました。実際にも,多くの若者がこんな気持で戦地に飛び立っていったのでしょう。両親の無念ははかり知れません。せめて生きて帰ってきてくれという思いで,見送るのです。周りがバンザイと行って送り出してくれることには,感謝と悲しみが合わさった複雑なものだったでしょう。
 私は近い親戚では,父型の一人の兄だけが戦争に行っています。戦後数年して帰還しましたが,戦争のことについては何も語らず手記だけを残して亡くなりました。その手記を父から生前に見せてもらいましたが,それはとてもつらい内容で,とても読みとおすことはできませんでした。
 それでも戦争はなくなりません。UkraineでもGazaでも出口のない愚かな戦争が続けられています。日本の周りにも,戦争の種がたくさんあり,政府はそれに対抗するために防衛力を強化し,そのための増税も視野に入っています。
 私は公明党のような宗教がバックの政党が与党にいることには大いに疑問を感じています。ただ,この政党が平和第一ということにこだわってくれるならば,投票はしないでしょうが,応援はしたい気持ちになります(ただし,実際に自民党をおさえられるかは,イラク派兵のときのこともあるので疑問はあります)。その他に平和を本気で考えてくれる政党はあるでしょうか。

2023年12月 7日 (木)

日経新聞に少し登場

 本日の日本経済新聞の紙面(電子版は昨日)に,少し登場しました。「会社と社員 変わる力学(下)」の最後に,「あらゆる働き手がスキルを磨いてプロ人材を目指す社会になる」というコメントが掲載されました。「あらゆる働き手」と言った記憶はないように思うのですが,これから社会に出る人は,それくらいの気持ちをもつ必要があるということで,そういう表現を使ったかもしれません。
 この連載は興味深くみていたのですが,インタビューを受けたのは,もう何週間も前でしたので,ここで使われるとは思っていませんでした。いつものように話した内容は,この何十倍もありましたが,その一部だけ切り取って使われるのは想定内ですし,あらかじめそうなるかもしれないと言われていました。
 インタビューのなかでは,むしろDXのことを中心に話した記憶がありますが,松井さんは非常に的確にこちらの発言を理解したうえで,質問してくださるので,驚きました。事前に私の書いたものを読んで準備されていたことは,当然とはいえ,あまりそういう記者はいないので,やりやすかったです。インタビューのなかで,これからのテーマとして,デジタルツインがありますよと言うと,関心をもたれたようなので,今後はそういう話題も採り上げてくれるかもしれません。
 ビジネスガイドで連載中の「キーワードからみた労働法」の最新号は,古典的なテーマの「賞与の支給日在籍要件」です。今年は退職金を2度とりあげており,その延長上で賞与もふれておきたいと思って,このテーマを採り上げました。今回が連載198回で,すでに199回分も脱稿しています。200回がいよいよ近づいてきました(勝手に記念号と思っています)。どんなテーマとなるでしょうか。未来志向が強い私ですが,最近は過去にも関心があるので,そういうテーマとなる予定です。

2023年12月 6日 (水)

新語・流行語大賞は「アレ(A.R.E)」

 コロナ後は対面型授業を少しずつ復活させているのですが,コロナ中にこちらも頭がすっかりリセットされていて,あまり意識していなかったことがあります。よく考えると,学生全員がノートPCを持ち込んでいて,私も教室にはノートPC1台をかかえるだけで向かっていて,そういうのは,数年前までには考えられないことでした。それだけでなく,Google ClassroomGC)の活用により,授業時間以外でも,ネットで学生と常に接触できるようになっており,資料の配付などもGCで行い,注意事項やその日の授業の補足なども必要に応じてGCで連絡しています。
 六法も紙媒体のものは使わないし,判例もその場で検索できます。のみならず,学生がゼミのなかで展開していく議論にあわせて,その場で検索したサイトの情報なども参考にしながら発言するというのも,昔なら考えられないことです。議論がどの方向に行っても,つねにネットにつながっている状況であれば,すぐに情報の確認ができるので対応できます。もちろん,こちらに一定の知識があるから,すぐにネットを活用しながら誘導できるのですが,いずれにせよネットがない状況と比べると,こちらが教えることができる情報が大幅に増加している感じがします。それのみならず,学生がネット情報を鵜呑みにして不正確なことを言った場合には,その場でその問題点を指摘することもできます(ネット上では,労働問題については怪しい情報が飛び交っています)。これも偽情報に踊らされないようにするための大切な教育でしょう。LSでは,かなり前から学生はPC持参でしたが,学部では比較的最近の現象です。でも,これからは,これが当たり前となるのでしょう。生成AIなども活用しながら,どのような授業ができるか,神戸大学で私が試行錯誤する時間はあまり残っていませんが,来年の授業ではもっと何ができないか,いまから考えていきたいと思います。
 話は変わりますが,ユーキャンの新語・流行語大賞に「アレ(A.R.E)」が選ばれたことについて,異論がでています。阪神ファンとしても,別に選ばれたからと言って嬉しくはありません。関西では「アレ」は大盛りあがりで(野球には何も関係のない六甲山牧場に入るとすぐに「A.R.E」という看板があったのにはびっくりしました),私も面白がって使っていましたが,これは関西ローカルの話でしょう。野球関係の言葉に興味があるのは,年齢層からすると比較的上のほうでしょう。新語や流行が何かという感度を,年齢の高い選考委員がどれだけもっているかが疑問視されているのです。野球が国民的なスポーツであった時代は終わりつつあります。いまやスポーツと言えば,Eスポーツという時代です。
 私は大学をとおしてしか世間をみることはできませんが,それでもこの間の変化の大きさをみると,新語・流行語を選ぶことが難しくなっているのではという気もします。とくに多様性の時代であり,みんなが同じように新しいと感じられるものが減ってきているはずです。個人にとっての1年ということはあっても,世相を映すというような感じの新しさや流行はとらえにくくなっているように思います。
 おじさんたちが,自分たちの感覚で今年の新語・流行語を選んでも,あまり共感は得られないでしょう。もちろん,おじさんの感覚で何が悪いと開き直ることができるのも,おじさんたちの特権かもしれませんし,私にはその感覚はよくわかります。
 それで,おまえにとっての新語・流行語大賞は何なのかと聞かれると,やっぱり「アレ(A.R.E)」と答えます。

2023年12月 5日 (火)

選ばれる企業

 昨日書いた「プロの力」というのは,最近,政府が力を入れている「人への投資」にもつながる話です。日本では企業の「人への投資」が遅れていると言われてきましたが,たとえば企業に入るまでの基礎能力の平均は,日本人の労働者は外国人より高いので,企業が基礎的な能力に投資する必要性は小さかったという理由は考えられないでしょうか。一方で,職業スキルについては,専門学校などを除くと,学校では教えていないので,OJTで鍛えるというのが日本的なやり方です。これも本来は「人への投資」にカウントできるとすると,おそらく日本企業の「人への投資」は過小評価されていた可能性もあるように思えます。日本では,こうした人的資本投資が,正社員と非正社員との間で格差があるから,法律は教育訓練の均等や均衡ということを求めてきたのです(現在の短時間有期雇用労働法11条。もっとも,同条でいう教育訓練にOJTまで含まれるのかは,よくわかりません)。
 とはいえ,今日求められている教育訓練は,デジタル対応のためのリスキリングです。これは企業内のOJTでは難しいので,これからはOff-JTがいっそう重要となるでしょう。企業が社員のデジタル教育に投資するのは,事業のDXを進めるうえで不可欠のように思いますが,外部人材の活用とどちらが効率的かということの比較はされるでしょう。大企業では,転職可能性が低いと考えれば,思い切って教育費用を投入しても,回収できるという判断ができるかもしれません。長期雇用を保障する人材である以上,長期的な活用のためのメンテナンス費用という見方もできるかもしれません。しかし,労働者には退職の自由があり,今後転職を推進する政策が進められていくと(たとえば退職所得課税の変更),大企業の正社員の間でも転職が広がっていき,そうなると,どこまで企業がデジタル教育に費用を投入できるかは,はっきりしなくなります。とはいえ,働く側からすると,教育に力を入れてくれる企業は魅力的です。そうすると,企業は転職されることは覚悟のうえで,良い人材を集めるために教育に力を入れるかもしれません。教育をして,そこから次々と巣立っていく優秀な社員が多いという評判が立つこと自体が,優秀な人材を集めることにつながり,企業の成長を支えることになります。こういう形の流動化が,労働市場の理想的な状況だとも思えます。
 状況は全然違うのですが,法学者の世界でも,すごろくの「あがり」のような大学があり,そこに行くまでのステップになる大学もあります。後者のタイプの大学は,「あがり」やそれに近い大学に移籍することを折り込みずみで,受け入れるのです。結果として,よい研究者を集めることができ,大学間での競争力を高めることができます。
 一般の労働者にとっては,なにが「あがり」の職場かは個人の判断によりますが,自分のキャリア計画において,ステップアップしていくために,よい教育や経験をつませてくれる企業を選び,次につながるようにすることが大切です。そういう教育を施してくれて,自社に縛らないという意味の流動性とを兼ね備えている企業が,これから選択されることになると考えています。 

2023年12月 4日 (月)

プロの力

 OpenAIAltman氏が,CEOを解任され,同社に多額の出資をしていたMicrosoftに入社すると決まったと報道され,4日後に電撃的にOpenAIに復帰するという報に接して,多くの人は驚いたでしょう。私もそうです。展開が速すぎます。復帰劇の背景には,Altmanがいなければ,社員の大多数がMicrosoftに移籍すると言い出したことがあったようです。いったい,この会社のガバナンスはどうなっているのかという疑問も提起されていますが,いずれにせよ社員の力が重要ということがよくわかる出来事でした。生成AIなどのように,知的独創性が求められている最先端の企業を支えているのはプロ人材であり,彼ら・彼女らは自分の働きやすい環境を求めて企業を移っていくのです。AltmanのいないOpenAIは,彼ら・彼女らから選択されず,Microsoftを選択するという意思表明をしたことで,OpenAIは譲歩せざるを得なかったようです(経営陣は刷新されました)。
 プロの時代とは,キャリアに対する自己決定権を取り戻す時代でもあります。自分の能力を最大限に発揮できる企業を,自分で選ぶ時代です。そこでは,雇用という選択肢以外のものも視野に入っているのであり,自営で取引する発注者を選択するというフリーワーカーとしての働き方もあるのです。今後は後者の働き方が増えていくでしょう。
 今回のOpenAIの騒動をみて,経営者が,プロ人材を引き留めることがいかに大切かがよくわかったと思います。働く側は,プロ人材になることができれば,自分のキャリアの自己決定ができるということです。みんなが高いレベルのプロ人材になれるわけではありませんが,経営者との関係を逆転させるには,どうすればよいかということを考えるためのヒントをくれそうな出来事であったと思います。
 なお,私は,今年の4月13日の経済教室(日本経済教室)で,「個人がその能力や適性にあったスキルを磨き,多様なジョブや複数の企業にまたがり,職業キャリア(雇用労働だけでなくフリーランスなども含む)を自律的に実現することこそが優先的な価値となる。諏訪康雄・法政大名誉教授が提唱したキャリア権の保障は,こうした価値を実現する政策の基本理念となる。」と書いていますが,その論考も参考にしてください。

 

2023年12月 3日 (日)

キッシンジャー

 キッシンジャー(Henry Alfred Kissinger)が100歳で亡くなりました。アメリカの最も有名な外交官といってよいでしょう。日本の頭越しで中国との国交正常化を樹立するなど,日本にも多大な影響をもたらしたアメリカ人です(Wikipediaによるとドイツ系ユダヤ人で,ナチスを嫌って渡米して帰化)。
 たまたま高橋和夫さんの『なるほどそうだったのか!? パレスチナとイスラエル』(幻冬舎)を読んでいたのですが,そこでも彼の名前が出てきました。戦後徐々にアメリカ人にとってお荷物となりかけていたイスラエル(Israel)の存在意義を認識させることにキッシンジャーは貢献したというのです。1970年のヨルダン内戦のとき,パレスチナ(Palestina)とシリア(Syria)連合に対して劣勢に立たされていたヨルダン(Jordan)側に,ヨルダン王制の存続を望んでいたアメリカが,ヴェトナム(Vietnam)戦争などの影響による国内情勢から,直接派兵しづらい状況のなかで,イスラエルに援助を頼み,結果としてシリアは撤退し,ヨルダン・イスラエル連合が勝ったということがありました。このときにイスラエルを参戦させるために尽力したのが,当時ニクソン(Nixon)政権の特別補佐官であったキッシンジャーだというのです。この人はほんとうに歴史の重要な局面で顔を出してくる感じがしますが,その評価は難しいところでしょう。なお,田原総一朗氏が語っている,キッシンジャーの原爆容認発言は,日本としてはとうてい承服できないものです(田原総一朗 × オリバー・ストーン & ピーター・カズニック「武力介入は失敗するという歴史をなぜアメリカは繰り返すのか」)。日本人でも元防衛大臣久間章生氏のように,同様の容認発言をする人もいるのですが……。
 前記の高橋さんの本は,なぜイスラエルはアメリカに影響力をもっているのか,なぜアメリカはイスラエルの肩をもつのかについて,とてもわかりやすく説明してくれています。この点だけでなく,パレスチナとイスラエルの紛争の根源はどこにあったのか,という点も説明してくれています。高橋さんは,宗教問題ではないと断言します。問題は19世紀末から起きたものなのです。背景にあるのは,民族主義,帝国主義,社会主義であるというのが高橋さんの主張です。ここはとても重要と思うので,ぜひ実際に読んでみてください。
 イギリスらがオスマントルコを滅ぼすまでは,エルサレム(Jerusalem)はいろんな民族が平和的に共存していました。ところが,欧州由来の民族主義,そして欧州のキリスト教徒によるユダヤ人の迫害(Holocaustがその頂点),さらにイギリスの三枚舌外交などが重なって,ユダヤ人のシオニズム(Zionism)に火をつけ,結果として,いわば母国といえるエルサレムへの帰還を促進することになり,そしてそこに長年住んでいたパレスチナ人に犠牲を強いることになったのです。欧州の責任は,あまりにも大きいでしょう。そのほかにも,エジプトの役割や,なぜノルウェー(Norway)が紛争調整に貢献できているのかということも,本書では説明されています。そして上記のアメリカとイスラエルの関係がでてきます。大統領選挙が近づく中,ユダヤ票を無視できない民主党のBidenがとるべき政策はわかりやすくなります。アメリカが,現在の中東問題にこれからどう関与するのかを,日本もよくみながら,アメリカ特有の事情に左右されず,独自の外交を貫いてもらいたいと思います。高橋さんはノルウェーが,イスラエルとの良好な関係を築きながら,ハマス(Hamas)とも人脈があるという強みがあり,日本もノルウェーを参考にすればどうかということを,最近でもTVなどで語っています。
 高橋さんの本は,2015年刊行ですが,いまの問題を考える際にも必読の書だと思います。

 

2023年12月 2日 (土)

政治と金

 政治資金のことが再び話題になっています。政治家というのは,いつもお金のことを気にしているような感じがして,ある意味で気の毒になってきました。政治家といえば,利権の匂いに敏感というイメージもあります。無意味な(?)パーティを開き,券のノルマを課され,ノルマを超えれば自分の懐に入れてよいという人参をぶらさげられて,必死に企業に「寄付」(パーティ代)をお願いをするというようなことで,きちんとした政治に取り組む時間や精神的な心構えができるのでしょうか。まともな政策論争ができる人など限られているでしょう。労働政策となると,なおさらです。
 税金の使い方という点では,国立大学にいると,研究費の使い方が窮屈で仕方がないのですが,そういうものだと諦めています。少なくとも私の場合は,研究費の使用は,すべて大学をとおしており,自分で契約をしたり,金銭の授受をしたりすることはありません。かつて出張をしていたころは,交通費や宿泊代は自分で立替えをして,大学から費用が振り込まれることはありました(認められていたやり方です)が,ここ5年ほどはまったく出張もしていないので,そういうこともなくなりました。いずれにせよ1円単位でガラス張りです。政治家は,かつての文書交通費,現在の調査研究広報滞在費が,年間1200万円,月100万円もあるのに,使途を公開しないことが許されています。大学教員からすると,ありえないことです。大学の研究者はあやしいことをするから,きちんと管理するけれど,政治家は立派な人がやるので,信頼してもらって結構ということなのかもしれませんが,誰もそんな信頼などしていないですよね。結局は,政治家は特権階級なのです。でも,パーティ券を買ってくれる人にへいこらし,選挙区の地元には献身的なサービスをしてまで,議員バッチを手にしたいと考えている人に,国家のために仕事をするという志を期待することなどできるでしょうか。ほんとうに特権を与えるのにふさわしいでしょうか。
 政治家が,そんなにお金が必要なら,月100万円くらい,給与以外に自由に使ってもよいですが,せめて使途は公開してね,と言いたいところです。維新は公開していますが,それがアピールポイントになるようでは困るのです。

2023年12月 1日 (金)

COP28

 121日になり,テレビ体操の背景も変わり,いよいよ冬という感じになってきました。今年は暖冬ということのようですが,光熱費の値上げもあり,できるだけ暖房をつかわないようにしようと思っています。ユニクロのヒートテックにはお世話になりそうです。
 ところで,1昨日に気候温暖化(地球温暖化と書いたほうがよいようなので,そう書きます)のことを書きましたが,ちょうどCOP28UAEで始まりした。世界各国から首脳が集まるそうで,日本からも岸田首相が行くそうです。しかし,素朴な疑問として,世界から多くの人を集めると,その輸送は飛行機であり,大量の二酸化炭素が排出されるわけです。なぜリモート会議でやらないのでしょうか。この種の会議は対面型でやるのがよいということかもしれませんが,本気で地球の温暖化のことを考えるならば,飛行機を使わないで会議を開くということこそ強いメッセージになるでしょう。
 なぜ産油国のUAEで開くのかというのも気になります。あえて産油国で開催して,脱石油を打ち出すといことであれば意味があるでしょうが,そういうことでもなさそうです。
 政治がイニシアティブをとり国際的に協調しなければ,地球温暖化に取り組めないというのは,そのとおりなのですが,日頃から地球温暖化について目立った発現をしているようには思えない岸田首相が行く必要があるのかという疑問もあります(そもそも国内でやることいっぱいあるはずでしょう。Biden大統領も行かないそうです)。本来なら,環境大臣がいるのだから,その参加で十分ではないかと思いますが,岸田流の「適材適所」による人事ですから,非専門大臣には任せられないということでしょうか。そういえば,COP25では,当時の環境大臣である小泉進次郎氏が目立っていた気がします(彼は,いまはライドシェア解禁で頑張っているようですね)。
 地球温暖化はそのしわ寄せがとくに途上国に行っているという意味で南北問題でありますし,欧州の自動車のEV戦略の迷走などをみていると,国際政治やビジネスとしての意味合いも強いです。いろいろな利害がからまっているのでしょうが,各国の政治家がわざわざ飛行機をつかって対面で集まるというのですから,せめて,地球の未来を考えたときに,なにを協力してやれるのかを真剣に議論して何らかの成果を残してほしいですね。

« 2023年11月 | トップページ | 2024年1月 »