本日のLSの講義
今日のLSの講義では,まず団体交渉のところで,山形大学事件と朝日放送事件の最高裁判決を扱いました。山形大学事件については,私独自の理解もあるのですが,まずは判決文の内容を素直に読んで確認してもらい,それについての通説的な理解を示したうえで,私のそれに対する批判を述べました。学生には,私の批判の部分については聞き流すだけでよいと伝えています。LSの授業では,私の授業であるといっても,私の意見を本番の試験で書いて不合格となっては困りますので,最高裁の判決文をしっかりふまえたうえで,あとは自分で考えて立場を決めてほしいと言っています。
山形大学事件・最高裁判決の行政裁量論は,労働委員会の事件としては妥当なのです(懲戒免職の場合の退職手当不支給処分の適法性を肯定した宮城県教育委員会事件・最高裁判決のように,行政の裁量論に疑問の余地がある場合もあります)が,その前提にある誠実交渉義務の理解については,この最高裁判決とカール・ツァイス事件・東京地裁判決との関係をどう理解するかが難問です。個人的には,カール・ツァイス事件・東京地裁判決の誠実交渉義務論のままでよく,「合意達成の可能性の模索」こそが誠実交渉義務にとっての不可欠の中核的な要素であると考えています。最高裁は,合意成立の見込みがなくても誠実交渉義務があるという立場と読めますが,その立場だとしても,それは特殊な事例での判断と位置づけるべきでしょう(もともと事例判決ですが,その射程を限定すべきということです)。
朝日放送事件では,使用者性の判断が先決事項であるという私の理解を強く押し出した授業をしました。学説によっては,義務的団交事項性の判断を先行させ,その事項について現実的・具体的な支配・決定力のある主体を使用者として認めるという見解もありますが,それは論理が逆転しているというのが私の理解です。こちらは自説のほうが分があると思い,少し丁寧に説明しましたが,この論点についても,学生には,最高裁判決の示した使用者性の判断基準と,それの事案へのあてはめを丁寧におさえておくようにして,学説に振り回されないようにという指示をしておきました。
もう一つは都南自動車教習所事件・最高裁判決です。要式性を欠く労使間の合意に規範的効力があるかは,それ自体はそれほど面白い論点ではありませんが,書面性を欠く労使間の合意を,組合員が援用して賃金請求などができるかというところは,時間を割いて議論をしました。代理や第三者のためにする契約や労使慣行論など,いろいろな理論構成がありえます。そのうえで最後に,労使間では書面性がないような約束事は,事実認定として,拘束力のある合意として成立したとは認められないだろう(集団的労使間においては,要式性を欠く合意というものは考えにくいということ),というちょっとしたオチもつけておきました。
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