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2023年11月30日 (木)

裁量労働制の同意の撤回について

 私たち大学教員にも適用されている専門業務型裁量労働制は,新たに労働者の同意を得ることなどが,労使協定に定める事項として追加されたのです(追記:施行は2024年4月ですが,それまでに対応が必要)が,その同意は撤回も可能とされています。でも,もしほんとうに撤回すればどうなるのでしょうかね。就業規則の規定の仕方によりますが,専門業務型裁量労働制の適用が例外的な位置づけであれば,本来の労働時間制度にもどるのだと思います。ただ,企業によっては,ある部門において,全従業員を専門業務型裁量労働制の適用を前提に採用していて,もし制度の適用を望まないなら採用しなかったであろうということもあります。同意をしなかった労働者に対して不利益取扱いをしないことも労使協定で定めるべき事項なのですが,では実際に上記のようなケースで,一人だけ同意を撤回したら,どういうことになるのでしょうか。
 ところで,専門業務型裁量労働制においても,労使協定の締結がされているだけでは対象労働者に当然に適用されるわけではなく,個人の同意や就業規則の合理的な規定が必要と解すべきものでした(追記:労基法上は同意が不要であっても,労働契約上は労働条件の変更なので必要ということです)。その意味で,法律で同意要件を課す(厳密にいうと,労使協定の締結事項に追加すること)のは,就業規則の合理的な規定ではいけないという点に意味があるといえました。人事労働法の観点からは,もともと就業規則の合理的な規定ではだめで,適用対象となる労働者からの納得同意(単なる同意では不十分)を得ることが必要となります(同書では企画業務型裁量労働制について,拙著『人事労働法』(2021年,弘文堂)179頁)。ただ,いったん納得同意をした場合の撤回に対して制約を課すことは認められるべきだと思っています。労基則では,労使協定について同意の撤回の手続を定めるべきとしていますが,就業規則で,その手続をかなり厳格な内容とすることは許されるのではないかと思っています(撤回についての制限については,拙稿「キーワードからみた労働法 第185回 裁量労働制」ビジネスガイド202212月号82頁を参照)。
 裁量労働制などにおける本人同意の要件は,それが労働者に不利益な効果をもつという点で例外的であり,一種のデロゲーションを定めたといえるので,撤回権を認めてバランスをとるという発想もありえるのですが,私は本人の同意(納得同意)をしっかりチェックするのが本筋ではないかと思っています。撤回権は労働者の権利であると言い出すと,十分に保護しなければならないという議論になりがちですが,それでよいでしょうか。それに,いったん撤回したけれど,やっぱり同意をすると労働者が言い出したとき,企業はそれを拒否できるのでしょうか(裁量労働制は,必ずしも労働者に不利とは限らないので,こうした同意を申し出る人が出てきてもおかしくないのですが,それは法の想定外のことでしょう)。
 一般論として労働者にとって不利益となる同意の撤回という法制度はあってよい気がしますが,労働時間規制(裁量労働制や高プロなど)において,こういうものを導入すると,いろいろ混乱が生じる気がします。実務上は,なにか問題は起きていないのでしょうかね。

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