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2023年11月 4日 (土)

年休取得6割

 11月3日の日本経済新聞で,「有休取得,初の6割超  昨年,義務化が追い風」という記事が出ていました。見出しがわかりにくいですが,令和5年就労条件総合調査(令和4年の調査)で初めて6割を超えて62.1%となり,その原因は2018年の法改正(2019年施行)で5日までの年休の義務化が影響したということです。
 年休の義務化とは,本人が年休の時季指定したり,労使協定による計画年休で定められた日数が,5日に満たない場合には,5日までは使用者が時季指定して付与しなければならないというものです(労働基準法397項および8項)。つまり企業は,労働者が年休取得を希望しなくても,5日は必ず付与しなければならないのです。これにより,時季指定は基本的には労働者が行うものであるという原則は大きく修正されました(計画年休制度でも,労働者の時季指定権は奪われますが,労働者の過半数代表が同意をして年休日を特定するので,実質はともかく労働者側の関与が残っていました)。
 ただ,これは,日本の年休法制がそもそもおかしかったのです。年休の取得率が低いのは,労働者に一方的に時季指定をして取得しろとする仕組みにあるのであり(もちろん根本の原因は時季指定をしにくい状況があることともいえるのですが),年休というのは,本来,労使が話し合って時季・時期を特定するか,使用者が労働者の意向をふまえたうえで指定するというのでよいのです。時事通信社事件・最高裁判決でも認めているように,労働者がまともに長期継続型の「正しい」方法で年休を取得しようとすると,企業は困ってしまうということです(同判決については,拙著『最新重要判例200労働法(第7版)』(弘文堂)の第112事件を参照)。
 こういうことを言うと,折角の労働者の権利を放棄するのかという反論もありそうですが,現実には年休はようやく6割程度であることをふまえると,使用者の義務として100%を目指したほうがよいのです。現行法の5日までというのは中途半端であり,だから取得率も6割までしか向上しないように思います。私は年休を完全取得させるのは使用者の義務であることをベースに制度を構築すべきであるという立場です。詳細は,拙著『労働時間制度改革』(2015年,中央経済社)200頁以下をみてもらいたいですが,そこで書いたポイントは,労働者の年休は,計画年休でも労働者の時季指定でも完全消化されない場合には,使用者(雇用主)がすべて指定できるとすること,年休の翌年度への繰越は認めないこと,10日間は継続取得とすること,全労働日の8割以上の出勤という要件は削除することです。なお,ホワイトカラー・エグゼンプションが適用されるべきような自立型の労働者については,計画年休導入前(労働基準法の1987年改正前)のように,すべての日数を労働者の時季指定により特定するという方法でよいと考えています(同書207頁)。こういう人は取得したければ取得するということでよく,また時季も労働者が選べるようにしたほうがよいのです。逆にいうと,現行法の当初の規定は,ホワイトカラー・エグゼンプションの対象となるべきような人に適したものであったのです。
 もし労働時間制度について本気で改革したいと考えている政策担当者がいれば,ぜひ拙著を読んでもらえればと思います。8年前の本ですが,まだ新たな視点は得られるのではないかと思います。

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