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2023年10月28日 (土)

コース別雇用

 先週のLSの講義では,『ケースブック労働法(第8版)』(弘文堂)の第17講「雇用差別」を扱いました。そのなかで収録されている判例の一つに兼松事件・東京高裁2008131日判決があります。均等法制定前に採用された女性労働者が,均等法制定後も賃金差別などが残っていたということで,その賠償を求めた事件でした。裁判所は,労基法4条違反を認め,不法行為の成立を認めましたが,損害額の算定は困難ということで,民事訴訟法248条に基づき,1カ月10万円という損害額を認めました。それなりにアクチュアル(actual)な意義をもつ判決であろうということでケースブックに選択されています(私の『最新重要判例200労働法』(弘文堂)でも掲載しています)。ただ当初の男女別コース制は,いまの時代からは考えられないような男女の異別取扱いであり,しかも均等法制定まではそれが公序良俗に反しないと判断されていることもあり,とても古い時代の事件だなという印象もあります。判決が出たのは,それほど古い話ではないのですが,内容が古いのです。現代の雇用差別の事件となると,ハラスメント関連の判例に重点をおいて授業をしたほうがよいかもしれませんね(もちろん,ハラスメント関連の判例も扱いましたが)。
  とはいえ,男女のコース別は歴史的な話であり,現実にまったくないかというと,実質レベルでみると,そうは言い切れません。むしろ男女別の雇用管理というものを完全になくすことは,とても難しいようにも思えます。最近でも,巴機械サービス事件(このBlogでも,以前に地裁判決のほうをとりあげた記憶があります)に出てくるような,実際上は,総合職は男性で,一般職は女性というような取扱いがなされている場合は少なくないような気がします。この事件では,女性は説明を受けてわかったうえで一般職に就いているとされ,コース別雇用が均等法5条違反とはされませんでしたが,その後のコース転換の運用が不十分であるとして,均等法63号違反とされました(東京高判202239日。1審と同じ)。兼松事件でも,コース転換の運用に問題があるとされました。
  兼松事件の場合は,入り口の男女別については,均等法前という時代背景もあって適法とされ,巴機械サービスのような平成に入って以降のものについては説明がきちんとされているから適法とされていますが,どちらも女性への総合職への転換のチャンスの与え方に問題があり,そうなると男女差別となるということです。制度の運用がきちんとされているかが,裁判所にチェックされるということです。
  もっとも,競争にさらされている民間企業では女性差別などをしていると,評判が下がりますし,それだけでなく,企業の業績を真剣に向上させたければ女性労働力を粗末に扱うなどできるわけがありません。いつも言うように,DX時代は女性のほうが相対的に力を発揮しやすい可能性があります。そうなると男女差別が残るのは,昭和の時代から活躍している企業で, ESG投資などを気にしなくても(当面は)やっていけるような企業でしょう(大企業とはかぎりません)。しかし,そういう新しい時代に適応しきれていない企業が,いつまでも日本の中心に居続けられていては,日本の未来は暗いでしょう。

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