竜王戦第3局
竜王戦第3局は,藤井聡太竜王(八冠)が挑戦者の伊藤匠七段に勝ち3連勝となり,防衛に王手となりました。伊藤七段は4連敗だけは避けたいところでしょうが,藤井竜王は八冠に到達したからといって,まったく緩むことはなく,ますます強くなりそうな感があります。
この対局について,私たちはAIの評価値があるので形勢判断ができますが,もしそれがなければ,伊藤七段の飛車が成りこんで,藤井玉に詰めろをかけているところなどをみると,勝敗は紙一重のところにあり,藤井竜王も危なかったのではないかという気もするのですが,藤井竜王からすれば自玉は詰まず,相手玉を先に詰ますことができることをしっかり読み切っているのでしょう。
ところでネット情報で,先日の王座戦第4局の藤井竜王・名人の大逆転(八冠を達成した対局)がなぜ起きたのかというのを解説しているものにふれました(FNNプライムオンライン「『6億手読む棋士』藤井八冠誕生の裏に将棋AI凌駕する“魔の一手”AI開発者杉村氏が驚嘆する勝率1%からの逆転劇」)。永瀬拓矢王座(当時)が絶対優勢のなか,なぜ大悪手を指したのかです。私もその対局場面をLiveで観ていましたが,AIの候補手になく,解説者もふれていなかった,5五銀を藤井竜王・名人が指したとき,私は形づくりで,もう負けました宣言をしたと受けとっていました。AI的には最善手ではなく,それどころか,逆転の可能性がそれほど高い手でもなかったのです。しかし,相手は人間です。AIの判断は,相手も最善手を指すことが前提なのであり,したがって,AIからすると4番目や5番目に善い手であっても,相手がそれに対する最善の応手をみつけることが難しいような手であれば,相手が間違える可能性があるので,決して評価値ほどの差はないということです。ここが人間の対局にAIの評価値をあてはめることの難しさであり,逆に藤井竜王・名人のすごいところなのです。相手は人間であるの,人間にとって間違えやすい手(AIからすると勝ちやすいかもしれない手)を指せばよいのです。藤井竜王・名人は,そういう手を指して相手にいわば宿題を投げ続けるのであり,そうすると,いくら強い人間であっても,そのうち一回くらいは間違えるので,そのときにその隙をついて逆転してしまうというところが藤井将棋にはあるのです。
これが人間どうしの戦いの面白いところなのでしょう。そして,実に高度だけれど,(AIとは違う)人間くさい勝負手を指せるというところが藤井竜王・名人の強さだとわかりました。AIと人間の共生という私自身にとっても重要な課題について,将棋から学ぶことはいろいろあるように思えます。